今晩も、双児の月は仲睦まじく夜の帳に浮かび、惑星Ziの大地を淡く照らし続けていた。月明かりは神の恵み、万人平等に与えられるもの。そう、例えそこに這いずり回るのがどうしようもない小悪党だったとしても……。
断崖にそびえ立つ、分厚いコンクリートの城壁。
その上空、闇の彼方から躍り出た虫らしきものが数匹。橙色したそれらは微かな羽音を立てつつ、城壁の向こう側へと降り立っていった。
橙色の虫達は、いずれも胸が銀色の立方体のような形状であり、各面から頭部や羽・足・胴体が伸びているのがわかる。遠目には、地球の昆虫「蜂」によく似ていると言える。……だが大きさは比べ物にならない。背中には目の錯覚を起こしそうな位に黒づくめの者達が、一名ずつまたがっている。ならばこの蜂は、明らかに人の二倍以上はあるだろう。
この惑星Ziにおいては金属生命体ゾイドなる生物群が跳梁跋扈している。小山ほども大きく運動性能に優れたものが多いため、Zi人は昔からゾイドを捕らえて使役し続けてきた。需要に対して供給は慢性的永続的に不足し続けたため、遂には人工的に作り出す者まで現れた。この橙色の蜂は人工的に作り上げられたゾイド「ブロックス」の一種で、俗に「ブリッツホーネット」と呼ばれている。
さて橙色の蜂達が降下した城壁の向こう側。そこにはやはりコンクリート造りの薄汚れた建造物が何棟か建っている。見ればどの棟もガラス窓が所々破れており、玄関前には鉄屑が散乱している。どうやらバリケードの類だったらしいが、いつ頃か不明だが破壊されたようだ。そして地面も、もとは舗装されていたようだが至るところに弾痕や抉られたアスファルトが散乱している。
止む羽音。棟と棟との間に伸びた歩道に、蜂達が次々に降り立つ。かくして騎乗する黒づくめの者達が颯爽と飛び降りた。
ところで降り立った者達を、他の人間が見れば数秒も経ずして異様な光景に気付くことだろう。……黒づくめという異様な服装に対してではない。いずれも手足がやけに長く、両膝が人間とは正反対の真後ろに曲がった、まるで獣のような形状をしている。そして、彼らに体格の違いが全く確認できない。……耳を澄ませば、何となくその正体が窺い知れた。ひと気の感じられない一帯だからこそ察知できる、微かなモーター音。彼らはゾイドとは違う。単なる機械の、人形だ。
彼ら機械人形は見る人が見れば世紀の発明だろう。彼らは惑星Ziの人間ではない只の工業製品であるにも関わらず、ブロックスとは言え金属生命体ゾイドを自在に操縦し、その上特殊部隊まがいの潜入作戦も今からこなそうとしている。立派な、兵士の代わりだ。……しかし殆どのZi人は「人とゾイドに対する侮辱的行為だ」と非難の声を上げるに違いない。人とゾイドが直に触れ合い気持ちを通わせることを至上とする彼らにとって、人の代わりを果たそうとする機械人形など唾棄すべき存在なのだ。だから未だ、こういう存在は国家規模の組織は愚か村や町レベルの自治体ですら導入されていない。
そのような世間の評価など彼らにはどうでも良いことであった。黒づくめの機械人形達は目的地らしき棟の左端まで小走りに駆けていく。獣のような足での走行は人とは異質の軽快な雰囲気がある。
かくして玄関前に集結した黒づくめ達。棟の表札には公用ヘリック語で以下のように記されていた。
「ゾイドアカデミー第5128研究所A棟」
この玄関前も鉄屑が散乱している。自動ドアだったろうガラスの扉も完全に叩き割られていた。既に何者かがこの建物に乗り込んだ後なのだろう。それも一人や二人ではない、かなり大規模な集団によるものだ。……黒づくめの機械人形達もさして動揺する素振りを見せていない。
さて黒づくめ達は顔を覆うゴーグルまで真っ黒だ。暗視能力に優れているのだろうか、ライトを照らしもしない。彼らは駆け足で上下に伸びた建物の階段にまでたどり着くと、勢い良く駆け下りていく。……何百段と駆け下りるまでに沢山の踊り場と扉を見かけたが、それらは全て無視した。
やがて階段の終着点・この建物の最下層にたどり着いたところで、黒づくめ達はようやく立ち止まった。
彼らの真正面を塞ぐ鋼鉄製の扉は、ドアノブの部分が後から増設したと思われる幾つもの電気錠で覆われており、厳重に閉ざされている。
すると黒づくめの最後尾から現れた者が、奇妙な箱を差し出した。……人の頭二つ程度は収まりそうな鋼鉄製のアタッシュケース。特筆すべきはこのケースもまた真っ黒な表面をしているということだ。軽く光を当てた程度では照り返しもしない。
そして最後尾がおもむろにケースを開いてみれば、この内部もやはり真っ黒。……黒、黒、黒。何もかも黒づくめ。だがそれは彼ら機械人形達の主人が入念に計画した証だろう。
アタッシュケースが上下に大きく開かれる。すると他の黒づくめが懐から何やら取り出した。……ライターだ。鋼鉄製の頑丈な作り。予めテープが貼り付けられており、火を灯すと剥離紙が剥がされ、ケースの内側に貼り付けた。
途端に、何十発もの銃声が鳴り響く。
ドアノブを覆う幾つもの電気錠がたちまち吹っ飛んだ。
黒づくめ達は一斉に扉を蹴破り、拳銃を部屋の内部に向ける。またある者は、ケースを両手で抱える一体の左右・後方に集結し5、6名ほどでスクラムを組むように立ちはだかる。
扉の向こうもまた、真っ暗闇だ。辺りを包み込む静寂。
だがそれも数秒で途絶えた。
不意に、風切る音。
暗闇の彼方から突如解き放たれたそれは、赤い閃光。抱えられたアタッシュケースのど真ん中に飛び込んだ。……スクラムは正解だった。赤い閃光の強烈な突進力は、ケースを構えた一体を吹き飛ばすように、まとめて押し倒した。だがそこに両脇で拳銃を構えていた他の黒づくめ達が覆いかぶさり、ケースはたちまち閉じられ、密封されたのである。
橙色の蜂達は早々に、この打ち捨てられた施設の塀を次々に飛び越えていた。双児の月明かりは窃盗を成功させた彼らにも平等に降り注いでいる。
編隊を組む蜂達。最後尾の蜂には、操縦席にまたがる機械人形の腹の部分に例のアタッシュケースがマウントされている。
やがて見えてきたのは小高い丘。どうやら先程の塀の内側が見える位には高い。そしてそこには、彼らと同じ形状の蜂が一体、うずくまって待機していた。
その一体だけは、パイロットである黒づくめがまたがる座席のすぐ後ろに、一名が余裕を持って腰掛けられる座席が取り付けられている。……座席の主らしきものは、この蜂の傍らでA3ほどはある板状の端末を両手で抱えて仁王立ちしていた。小太り、背の低い男性。着込んだベージュのトレンチコートだけはやけに清潔かつ高級感があるが、やや薄い頭髪も相まって覇気や才気の類は一切感じられない。凡庸な、だが大金だけは持っているだろう中年の男性。
男が手にした板状の端末は、先程まで彼の滞在する丘の有り様を表示していた。……機械人形から送られる映像らしい。どうやらこの端末で機械人形を操っていたようだ。だが映像は、男が端末を操作することで消滅した。
蜂達はこのコートの男からやや離れたところでゆっくりと着陸。続々と黒づくめの機械人形が降り立ち、男の前でひざまずいた。
アタッシュケースを持った一体がうやうやしくそれを差し出す。
「でかした」
コートの男は満足げに頷くと抱えた端末をその場に置き、代わりに両手でアタッシュケースを受け取った。……途端に、彼の表情が緩む。まじまじとアタッシュケースを見つめていた彼は不敵な笑みを浮かべながらつぶやいた。
「如何に『蠱毒』と化したゾイドコアも、飢えには勝てぬか。ライターの炎ごときに釣られるとはのう」
読者の皆様もファンタジックな物語を多少でもご覧になっていれば、一度は聞いたことがあるのではないか。……百種の虫を同じ容器で飼育し、共食いさせる。最後まで生き残った一匹こそが超常の猛毒をその身に宿す、或いは強力な呪詛に用いられるなどと言われる。この秘技が蠱毒だ。
どうやら男が配下の機械人形に捕らえさせた赤い閃光を放つ物体は、蠱毒の例えに相応な劣悪環境で育てられたゾイドコアの一種に違いない。共食いの果てに最後まで生き残ったが、餌を与えられることもなくずっと放置されたままだったから、ライターの炎ごとき僅かなエネルギーにも飛び付いてしまったのだ。
ところが男がよこしまな感慨に浸っている時、奇妙な出来事が起きた。
不意を突くノイズ。男も、他の機械人形も音の方角を睨む。
先程、傍らに置いた板状の端末だ。
男は拾い上げてじっと見つめる。
簡素なデスクトップ画面を映し出していた端末は、急に暗転した。そして表示されたのは、公用ヘリック語の短文だ。
『開けてくれ』
男は素っ頓狂な声を上げた。
彼は見た目にも凡庸だが、このようによこしまな行動に打って出られる位の知恵は十分にある。しかし彼が直感で導き出した結論はその知恵をもってしても容易には頷き難い代物だ。
「まさか、ゾイドコアか?」
『そうだ』
すかさず端末が文字を映し出す。
「馬鹿な……!」
そう、つぶやくのが精一杯だ。音も光も完全に閉ざす、限りなく暗黒の素材で作られているだけに驚きが隠せない。
「何が条件だ?」
『開けてくれたら、貴様に仕えよう』
その文字を見て、男は刮目した。
男は逡巡した挙げ句、やがて板状の端末をその場に置いた。複雑を極めるケースのダイヤルキーを弄ると、ケースを両腕で持ち上げ、できるだけ遠くへと放り投げた。とは言っても高々5m程度だが、それでも距離を稼ぐだけマシだ。
向こうでケースが地面に叩きつけられた音がする。その間にも男は自らが登場する蜂の座席に手を掛けた。いざとなったら飛び乗って、逃げる。逃げる必要がなかったとしても、この時点で十分過ぎるほど薄気味悪い。
すると向こうで、落雷でも降り注いだのかという位の眩い閃光がほとばしった。たまらず男は両腕で遮る。
強烈な熱量が、辺りに大量の白煙を漂わせる。
その向こうで、男声の高笑い。
コートの男はむせ返りつつもゆっくりと、遮る両腕の上から様子をうかがう。
白煙の中から姿を表したのは、全身が金属の光沢で包まれた男の姿だ。金や銀といった在り来たりの色ではない。赤にも青にも黄にも緑にも、光の加減で目まぐるしく変化する、文字通り七色の光沢。言うなれば、虹色の魔人。
『助ケテクレテ感謝スルゾ。約束通リ、貴様ニ仕エテヤル。……何ガ、望ミダ?』
一歩一歩、歩み寄りながら語りかけてくる。
震え上がるコートの男。
「本当か? 本当か! 本当なんだな!?」
『本当ダトモ。俺モ[ゾイド]ノ端クレダ』
おや、と男は我に返った。……完全にヒトの形状をしたゾイドなど、彼は知らない(それどころかZi人の中でそんな代物に出会ったことのある者がいるだろうか)。一見して傲慢不遜な虹色の魔人は、しかしながら自らをゾイドと言い切った。
「ならば聞け! 儂は……儂は! 地上最強のゾイドが欲しい!
お前が何でも叶えると言うなら、証明してみせろ。お前が……地上最強のゾイドであることを!」
『ワカッタ。マズハ身体ヲ用意シヨウ』
虹色の魔人はそう告げるとくるり、背中を向けた。すっと両腕を夜空に掲げる。
途端に、丘の向こう一帯に立ち上がる光の柱。その周囲をつむじ風、放電が包み込む。……そして、地鳴り。
コートの男は慌てて地面にへばりついた。これは地震の前触れか。
一分も絶たぬ間に輝きは消失した。……辺りには白煙が漂い、クレーターとも見紛う大穴が地面に空いていた。
そして大穴の中央に、電気の蛇をまといながら現れたるもの。
巨大なる頭部を備えた、全身銀色の巨体。……だがこの異様な姿形は如何ばかりか。四本脚だが本来首がある筈の部分には、更に人の上半身のようなパーツが積み上げられている。一言で語り尽くすなら半人半馬の合成獣(キメラ)。だがその各部位は、いずれも太古より惑星Ziに悪名を轟かせた残虐の巨竜達のそれによく似ている。
即ち上半身の部位は暴君竜ゴジュラス。ただし両腕は人のように長い。
下半身は雷鳴竜ウルトラザウルス。長い尻尾を備え、脇腹や胸前には要塞の如き無数の大砲が備えられている。
下半身の背部に屹立するのは幻剣竜ゴルドスの背びれ。
そして上半身の背部には大飛竜サラマンダーが持つ網目状の翼。
この四種の巨大なるゾイドが組み合わさった化け物を、コートの男も若い頃に学び舎で教わっている。……その名も、ケンタウロス。いや、ケンタウロスなる太古の竜は既存のゾイドのパーツを組み合わせて生み出されたいわゆる「改造ゾイド」。人工の存在だ。
(だがこちらは野に放たれて生み出された、文字通り野生のゾイドだ。野生のケンタウロス。言うなれば……)
コートの男は絞り出すような声でつぶやいた。
「ケンタウロス・ワイルド……!」
再び正対した虹色の魔人は豪快かつ不敵に笑った。
『成程、ソレガコノ身体ノ名前カ。良イ名前ジャアナイカ。
トコロデ、最強ノ証ヲ示スカラニハ、倒スベキ相手ガイルノダロウ?』
そう言われてはっと我に返ったコートの男。彼は慌てて板状の端末を拾い上げると、魔人の前に両手で掲げた。
「……そうだ、お前の言う通りだ!
この星には人を後ろから殴って『我こそは地上最強』と騙るような紛い物で溢れ返っておる。
しかぁし! そのような奴らとは一線を画する正真正銘の実力者も確かに存在する。
ヘリック共和国上層部は不定期に、特A級の危険人物七名を認定しておる。……彼らはいずれもこの惑星Ziの頂点に迫る実力者だが……それだけではない。その誰もが、ひとたび決起すれば沢山の戦士がこの者に続くだろう。その時、惑星Ziは再び戦乱の世に逆戻りしてしまうに違いあるまい。
即ち! 実力・カリスマともに圧倒的なこの七名を以て『導火線の七騎』と上層部は名付けた!
この選りすぐりの七騎は上層部の都合で絶えず更新されている。最新の七騎は、こいつらだ」
端末は遂に、とある人物と子飼いのゾイドを映し出した。……半袖の軍服を着る初老の男性。険しい顔に幾つもの刀傷が目印だ。彼の背後には四本の足で立つ萌木色した竜の姿。無数の背びれが刃物特有の鈍い光沢をたたえ、油の黒と血の赤で染まっている。
「まずは第一騎。
ヘリック共和国軍にあって南方大陸を血の雨を降らせつつ平定した男。人読んで吸血将軍ラヴァナー。相棒はステゴゼーゲ『グリムリーパー』だ」
次に映し出されたのは精悍な、しかしながらもう少しで中年の域に差し掛かろうかという男。パイロットスーツが筋肉によって膨れ上がっている。彼の背後には赤い角竜の姿が見える。
「続いて第二騎。
こやつはゾイドバトルのグランドマスターだ。六大陸全ての大会を制した不世出の実力者、その名はアロン。相棒はレッドホーン『カーマイン』」
徐々に早口になるコートの男。虹色の魔人も黙って端末を見つめている。
続いて凡そきな臭い戦いの世界には似つかわしくない金髪の美少女の姿が映し出された。だが彼女もパイロットスーツを着用、何より見開いた琥珀色の眼の迫力は突出している。彼の背後には白銀の鎧をまとった獅子の姿が確認できる。
「第三騎。
ゾイドバトルの名門ラナイツに生まれ、若干15才にして中央大陸の全大会を制覇した天才美少女、ギネビア。相棒は英雄王『アーサー』の名を冠するライガータイプ」
ここで男は一旦、自らの唇をなめた。喋り続けて喉が渇いたのだ。
「そして第四騎」
映像は男性らしき人物のシルエットを映し出した。背後のゾイドだけははっきりと表示されている。……全身赤く、頭部の大きい巨大な竜。巨体の各所には金色の球体が埋め込まれている。
「第四騎は上層部のトップシークレットだそうな。だからパイロットの姿は隠されたままだ。
共和国が秘匿する特殊部隊『水の軍団』暗殺ゾイド部隊の実力者だという。東方大陸において要人をことごとく始末し、平定に尽力した男。その名はケンイテン、相棒はキメラゴジュラス『亢竜』」
続いて表示されたものは……公用ヘリック語で「トップシークレット」と上書きされたシルエットの画像が二枚。
「第五騎、第六騎は何もかもひた隠しにされておる。……儂が『導火線の七騎』を知った20年以上昔から、ずっとこの状態だ。ただしどちらも北方大陸のどこかに潜んでいることだけはわかっておる」
忌々しげに男はつぶやき、最後の画像を端末上に表示させた。
何の変哲もない、Tシャツ姿の少年だ。しかしその額は何らかの印がまばゆく輝いている。そして彼の背後に控えているのは深紅の竜。その異形は形容し難い。背中には長い鶏冠が六本、桜の花びらのような翼が二本生えている。
「最後に、第七騎。
この坊やは古代ゾイド人が持つ『刻印』の力に目覚めたそうだ。その力でゾイドバトルの世界に参戦し、既に幾つかの大会を制した。裏ではゾイドアカデミーの過激派を始末し、水の軍団も暗殺を諦めた超のつく危険人物。その名はギルガメス、相棒は魔装竜ジェノブレイカー。……おっと、此奴には魔女と渾名される古代ゾイド人の女がバックアップをしているから、そちらも要注意だ」
全て紹介したところで、コートの男は息も絶え絶えだ。
微動だにせぬままじっと耳を傾けていた虹色の魔人。
『ワカッタ。全テ始末シテヤル。
トコロデ、貴様ノ名ハ?』
ここに至って不意を突くように当たり前過ぎる質問が飛び込んだものだから、男は呆気にとられてしまった。
「儂は……儂の名はマノニア」
頷く魔人。
『我ガ名ハ[ビスマ]。[マノニア]、貴様ノ願イハキット叶エテヤル。シバシノ日数ヲ待テ』
そう答えるや虹色の魔人ビスマは両腕を左右一杯に広げる。金属質の肉体がまばゆく輝き、細かく分解していく。
砂金のように分解したビスマの肉体。光の流れは背後に控えて微動だにせぬ半人半馬の合成獣の方へ、流れるように飛んでいく。
たちまちこの銀色の巨体の頭部に光の流れが集結。それを迎え入れるように頭部の橙色したキャノピーが開く。
頭部コクピット内に構築されていく魔人の肉体。光の粒はそれだけでは収まらず、アメーバが隙間に忍び込むようにコクピットの下方に沈み消えていく。
いや、マノニアと名乗った男の側から見ていたら、首から胸、銅、そして手足と光の粒が入り込むことで、巨体の各所にも精気が宿りつつあるように伺える。勿論、目指すは腹部にある筈のゾイドコア収納部分に違いない。
血流のように光の粒が全身を駆け巡ったところで、銀色の巨体の全身に埋め込まれた突起が唸りを上げて回転を始めた。翼を目一杯広げ、夜空に向かって数回、吠える。
銀色の巨体が夜空を見上げるや否や、二本の右足で軽くステップを踏むように地を蹴った。怒涛の、跳躍。
双児の月を目指すように両翼を羽ばたかせ、悠然と飛行を開始した銀色の巨体。その様子をマノニアはじっと見つめるよりほかなかった。