男子一年会わざれば刮目して見よ   作:ローファイト

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夏の思い出(上)

「比企谷君、こうして直接会うのは久しぶりね」

白色のブラウスに淡い水色地の花柄ワンピースを着、少々大人びた夏コーディに身を包んだ雪ノ下雪乃は、つばの広い麦わら帽子を脱ぎながら、八幡に挨拶をする。

 

「……ああ、そうだな」

八幡はその姿に、つい見惚れてしまっていたが、冷静に努めようとする。

 

「ヒッキーっ!ひさしぶり!」

ベージュ色に近いショートスリーブニットにショートパンツ姿の夏らしいラフな格好の、由比ヶ浜結衣が八幡へ駆け寄る。

その服装により、結衣の豊満な胸が強調され、上下に揺れる。

 

「ん?……由比ヶ浜だよな」

八幡は胸に注視することなく、彼女の顔を見つめていた。

 

「誰に見えたし、もう。でもじっと見られるのはちょっと恥ずかしいかも」

結衣は俯き加減にモジモジとそう言う。

八幡が注視し驚いたのは、結衣の髪型が大幅に変わっていたからだ。

以前はピンクっぽい髪色に脱色しお団子頭だったが、今は脱色をやめ、元々の髪質だった少々茶色がかった黒髪をミディアムボブで髪をまとめていた。

 

「す、すまん」

 

「似合うかな」

結衣は八幡の耳元でそっと訪ねる。

 

「い、いいんじゃないか」

八幡はそんな結衣の姿に内心焦っていた。

結衣をギャルっぽいイメージで見ていた八幡だったが、今の結衣は柔らかな印象を与えるほんわかとした美女に見える。

しかも、そのもじもじとした初々しい仕草がまた、男心をくすぐる。

 

一方の八幡は相変わらずの青ジャージの上下姿だった。

 

 

雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣は、千葉駅前で凡そ一年ぶりに比企谷八幡と直接再会を果たす。

そう、今から戸部が夏休み前に計画していた海水浴に向かうのだ。

 

 

集合場所の千葉駅から葉山隼人が運転するワンボックスカーで勝浦の某海水浴場へ向かう。

メンバーは運転手の葉山隼人に戸部翔、比企谷八幡の男性陣、女性陣は三浦優美子に海老名姫菜、由比ヶ浜結衣に雪ノ下雪乃の計7人。

葉山・三浦グループに、八幡と雪乃が加わった形だ。

座席は運転席に葉山、助手席に戸部、2列目に三浦優美子と姫菜、3列目に結衣、八幡、雪乃の順。

高校時代、何だかんだと、この組み合わせで行動を共にすることが数度あった。

 

一時間半程度のドライブで目的地の海水浴場へ到着。

早速、海の家経由で、男連中は場所取りのために砂浜にパラソルを立てに行く。

まだ、午前10時にもなっていなかったが、そこそこの人で賑わっていた。

 

葉山はオシャレなサーフパンツ、戸部は黒のブーメランパンツにパーカーとサングラス。

八幡は何故かいつもの青の上下ジャージだった。

「比企谷、君は泳がないのかい?」

葉山は八幡の姿を見て、当然の質問をする。

 

「隼人く~ん、八幡には海より深いわけがあってジャージなのよ。察してあげて」

「まっ、単純に泳げないだけだ。それに虚弱体質でな。日焼けは勘弁してほしい」

葉山の質問に戸部は申し訳なさそうに手を合わせ、八幡はしれっとこんな嘘を言う。

実は八幡は戸部にジャージを脱がない様に言い含められていた。

ここで、あの肉体をさらすのはある意味、暴威といっていいだろう。

八幡も八幡で、特に異存は無く、ビーチで本を読む気満々だった。

ただ、海に遊びに来た意味が全く無いだろう。

 

 

「そうか、せっかくの海なのに残念だな」

「気にしないでくれ、俺は荷物番がてら、本でも読んでおく」

 

 

そこに女性陣が現れる。

三浦優美子は胸元に大きなリングをあしらった、金髪に映える野性味あふれる黒のセクシービキニ。

本人の整ったプロポーションと相まって、かなりセクシーである。

 

海老名姫菜は純白のフリル付きワンピース。

かわいらしさを全面にアピール。

今日は眼鏡を着用しているため、雰囲気は内気なお嬢様風である。

 

由比ヶ浜結衣は白のフリルビキニに、カーキ色のパンツ。

布地が多いビキニではあるが、バストが大きな由比ヶ浜が着用すると胸元が大きく開き放たれ、とてもセクシーである。

 

雪ノ下雪乃はアイボリーのクラッシックなビキニスタイル。バストが強調されにくいビキニではある。

ただ、透き通るような色白の肌とスレンダーな肢体に良く映える。

 

「水着のファッションショーっしょ、これ?みんなセクシー過ぎるんじゃない?」

戸部は女性陣の姿に口笛を吹き、大げさに驚いて見せる。

 

「皆良く似合ってる」

葉山は相変わらずの爽やかスマイルで皆を褒める。

 

「………」

八幡はぼうっと女性陣の姿を眺めている。

口には出さないが、見惚れていたのだ。

 

雪乃と結衣は八幡の前まで少々恥ずかしそうに歩む。

「ど、どうかしら?」

「どう?似合ってる?」

 

「………そのだ。に、似合ってると思うぞ」

八幡はビニールシートに座りながら二人を見上げるが、直視できずに視線を恥ずかし気に下にそらす。

 

「あらそう……」

「ふふ、ヒッキーが褒めてくれた」

八幡の答えに二人ともまんざらでもなさそうだ。

 

「それであなたは何故ジャージなのかしら?」

「そうだよヒッキー、せっかく海に来たんだから泳ごうよ」

二人はもっともな質問を不満そうに八幡にする。

 

「海よりも深いわけが……いや、泳げないだけだ。それに日光が……」

八幡はしどろもどろに言い訳を口にする。

 

「そう、あなた泳げなかったのね。でも私が教えてあげるわ」

「あたしも、そんなに得意じゃないけど」

二人は八幡に手を差し伸べる。

 

「医者に泳ぐのを止められてだな……」

そんな嘘を吐く八幡は至って健康体だ。

普段から健康に、筋肉に十分なケアを行っている。

 

「え?比企谷君大丈夫なの?」

「ヒッキー……病気なの?」

二人に本気で心配される八幡。

 

「た、大したことは無い」

嘘を信じ心配してくれる二人に、いたたまれない気分になる八幡。

 

 

そんな三人の姿を横目で見ていた姫菜は、別に隠す必要性はないのになと、どうせすぐにバレるのにと、心の中で呟いていた。

 

 

 

皆は海へと遊びに行き、八幡は一人パラソルの下で荷物番だ。

八幡は本を読みながらも、ちらちらと雪乃と結衣を目で追っていた。

二週間後の8月8日八幡の誕生日に何方か一人を恋人に選ばないといけないのだ。

八幡の心の中では未だに結論を出せていない。

いや、答えは出ているのだが一方を悲しませる事になる。

それが、八幡が結論を出せないでいた理由だった。

 

 

しばらくして雪乃が海から上がり、バスタオルを肩に羽織り、八幡の横に座る。

「皆、元気ね」

「雪ノ下、相変わらず体力がないのな」

「これでも、ましにはなったわ」

体力が無い雪乃はスタミナ切れで海から一足先に上がったのだ。

 

「比企谷くん、私に隠し事をしてないかしら?」

「唐突だな」

「ジャージよ。あなた、去年まではジャージなんて着た事なんてなかったじゃない」

「………」

「私達に見せられないような傷跡が残るような怪我をしていたとか、かしら?」

「それは無い」

「あなたが言う病気という理由は引っかかるわ、この猛暑の中ジャージなんて……」

「前にジムに通ってる事は、話さなかったか?」

「それは去年の夏の終わり頃に聞いたわ。まさか今も通ってるのかしら?」

「ああ、一応な。それでジャージが楽で今もな……」

「それだけではないでしょう?」

「……まあ、そうだな」

八幡は雪乃に追及され、ジムで鍛え過ぎた肉体について話そうと覚悟を決めるが、どう説明したものか、なかなか言葉が見つからない。

 

そんな時、結衣や他の皆もパラソルに戻って来た。

 

「次何しようか?」

「あーし、スイカ割りってやってみたいんだけど」

「あたしも久しぶりにやってみたい」

「私も興味あるなぁ」

次の遊びに三浦優美子がスイカ割りをチョイスし、結衣と姫菜もそれに同意する。

 

「流石にスイカは持ってきてねーべ」

「じゃあ戸部、買ってきて」

「優美子ぉ、それ酷くない?」

戸部と優美子がそんな会話そしているなか……

 

「俺が買ってこようか?駐車場近くの国道沿いにスイカを売ってる看板を見かけた。ここからそんなに遠くはない場所だ」

八幡が自らスイカを買いに行く事を提案する。

 

「いいのか?」

「ああ、どうせ暇だしな」

「じゃあ、頼めるか比企谷」

そんな八幡に葉山は気を使いながら、スイカの買い出しを頼んだ。

 

「そんじゃ、ちょっくら行ってくる」

「あたしもいっしょに行くよ」

「私も行くわ」

八幡が買い出しにと立ち上がると、結衣と雪ノ下もついて来ようとする。

 

「スイカぐらい一人でいい、せっかくの海だ。楽しんどけ」

「スイカって結構重いよ。それにあたしはヒッキーと一緒に行きたいの」

「先程の話はまだ終わってないわ」

八幡は断るが、結衣も雪乃もついて行く気満々だ。

 

「わーったよ」

 

結衣と雪乃は薄手のパーカーを羽織い、八幡と並び砂浜から国道へ向かう。

 

 

しかし、国道の歩道に差し掛かった頃……。

「超かわいい子めっけ!!」

「二人とも超かわいいんだけど!!」

「ねえねえ、君たち俺達とボートで遊ばない?」

3人組の日焼けした見るからにチャラ男共が八幡を余所に、雪乃と結衣をナンパしだしたのだ。

 

「お断りするわ」

雪乃はツンとした表情ではっきりと断る。

「あの、友達もいるから……」

結衣は八幡のジャージの袖を掴みながら、びくびくとしながらも断ろうとする。

 

「何?こんな奴がいいの?」

「ぷっ、見るからに根暗そうじゃん!」

「俺達の方と一緒に居たほうが絶対楽しいって、ね?」

彼女たちの断りも気にせずに、さらにナンパを続けるチャラ男共。

 

「あー、連れが嫌がってるんでやめてくれませんかね」

八幡は結衣と雪乃の前に出て、チャラ男共3人と対峙する。

 

「ああっ!?もやし野郎はお呼びじゃないんだよ!!」

「俺達は彼女達と話してるんだ!!」

「海でジャージって何それ?ダサいにも程があるじゃん。彼女達さ、こんなダサい奴ほっといて、一緒に遊ぼうぜ、絶対楽しいって」

 

「ダサい?……サイ……サイ」

八幡はチャラ男の一人から発せられたダサいと言う言葉に反応し、俯き加減にブツブツと何か呟いていた。

どうやらこのチャラ男、八幡の押してはいけない言葉のスイッチを押してしまったようだ。

 

「な、なんだこいつ?」

 

そして……

「はい!!サイドッチェストォーーーッ!!」

八幡は雄たけびを上げながら、右手で左手首を掴み横向きにポージングを取ると同時に、上下のジャージは爆発したかのように破砕し吹き飛ぶ。中からは途轍もなく肥大した筋肉の塊のような肉体が飛び出すように現れる。

筋肉の塊と化した八幡の肉体は、見る物を圧倒させる。

 

「な………なななななっ!!」

「はっ……はひっ!?」

「ほほほっほへ!?」

その衝撃と筋肉のプレッシャーに押しつぶされ、腰砕けとなり座り込むチャラ男共の顔は驚愕の色に染まっていた。

 

「ダブルバイセップスッ!フロントーーーーっ!!」

八幡は正面を向き、腕を折り曲げたまま上にあげ、膨れ上がった上腕二頭筋(力こぶ)を最大限にアピール。

 

肥大した大胸筋や上腕二頭筋がぴくぴくと脈打つその姿に、チャラ男共は恐怖を覚え、這う這うの体で走り去っていった。

「す、すみませんでしたーーーーっ!!」

「おおおお、お助けーーーーーーっ!!」

「ひぇーーーーっ!!ごめんさーーいっ!!」

 

 

「し、しまった。ついやってしまった」

八幡は逃げ去るチャラ男共の恐怖の叫びを聞いて我に返る。

ポージングを決めている最中の八幡は、肉体の開放と共に理性も吹き飛び、ただただ筋肉の喜びに酔いしれ、己の肉体美をさらけ出そうとする獣と化するのだ。

 

「………比企谷くん……あなた」

「ヒッキー?……なの?」

雪乃と結衣の2人は、突然の八幡の変貌に驚き、茫然と見上げていた。

驚いても仕方がないだろう、今の八幡は、極大ゴリマッチョボディに八幡の顔を張り付けたようなコラ写真のような姿なのだ。

その違和感は、初めてこの姿の八幡を見る二人にとって、言いようもない恐怖を覚えるだろう。

 

「い、いや、これはだな」

八幡は数倍に膨れ上がったゴリマッチョボディのまま、言い訳を必死に考えるが、思いつかない。

そもそも何のための言い訳なのかも分からないが。

 

「ヒッキー?……これって本物?…本物だ。堅いけど温かい温もりが……」

結衣は不思議そうに八幡の六つに割れた腹筋をペタペタと触る。

 

「見る物を圧倒する大胸筋、そして山の様な僧帽筋……す、素晴らしいわ」

雪乃は何故か目を輝かせ、八幡の肉体美を、少々上ずった口調で褒めたたえていた。

雪ノ下雪乃19歳、実は彼女は筋肉フェチの毛があったのだ。

レベル的には初級段階ではあるが。

 

二人に言える事は、八幡のゴリマッチョボディに対して拒否感を示していない、それどころか心なしか顔を赤らめているようにも見える。

 

「はぁ?」

八幡は思っていたのと異なる反応を示す二人に戸惑っていた。

 




マッチョボディを晒してしまった八幡………。
次はどうなる事やら、(下)に続く。

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