というわけで、もう一人はこの方
1カ月半前の6月も下旬に差し掛かろうとしていた時期。
八幡は8月8日の雪乃と結衣との恋人問題を決着の地を、八幡達奉仕部3人の始まりの地である総武高校奉仕部部室で行うべきだと考えていた。
わざわざこんな事を考える八幡はああ見えて意外とロマンチストな所があるのだ。
まあ、視点を変えれば拗らせているともいう。
ただ、これには大きな問題があった。
卒業生とは言え、総武高校の一室を私的理由で借りる事など、なかなか許可が下りないだろう。
しかも、既に奉仕部と言う部活は廃部となっており、OBの部活動応援などの理由もつけられない。
ただ、幸いにも8月8日は夏休み真っ最中で授業は無いため、可能性はゼロではない。
とりあえず、元奉仕部顧問の平塚静教諭に頼み込むしかないのだが……。
八幡は平塚静に電話を掛けることにする。
「先生ご無沙汰してます」
「おう、比企谷か、元気か?」
「まあ、それなりに。先生はどうですか?」
「私か……そ、それなりにな」
静は開口一番は元気そうだったのだが、らしくなく暗い感じだ。
八幡は静の元気の無さに気にはなっていたが、目的を達成すべく話を続ける。
「先生、お願いがあるんですが、夏休みに部室を借りたくて、その同窓会を行いたくて……」
「そうか、相変わらず君たちは仲がいいようだな。だが昨今の物騒な事件が増えた関係でセキュリティが厳しくなってな。なかなか許可が下りにくいのが現状だ」
「そこを何とかなりませんか?」
「かなえてやりたいが……、ん?比企谷、君はもうすぐ20歳だったな」
「そうですが」
「なるほど……うーむ。うむうむ……比企谷だったら」
静は何か考え事をし始めた。
「先生?」
「おっと、すまん。比企谷、一つ提案だ。部室の貸し出しの件は何とかしてみよう。その代わりに私の願いも聞いてくれないだろうか?」
「先生の願いですか?」
「ああ、ギブ&テイクと言う奴だ」
「そういうことなら」
「いいんだな!?よし!!」
「………なんですか?俺が出来ない様な無茶難題は勘弁してください」
「なーに、簡単な事だよ」
こうして八幡は静の願いを聞く事になった。
時は少々流れ6月下旬に……。
シックな黒のドレスを着こなす静の横には、蝶ネクタイを締めたスーツ姿の八幡。
ここはとある結婚式場である。
もちろん静と八幡の結婚式ではない。
静の要求(願い)が結婚ということではない。
流石に八幡もその願いはかなえる事は厳しいだろう。
では、静の願いとは……。
「比企谷、今日一日だけでいい、すまんが恋人のふりをしてくれ」
「はぁ、引き受けたからにはやりますが、俺に務まりますかね」
「大丈夫だ」
「いや、平塚先生の恋人に見えないんじゃないかなって、年齢的にも」
「……女性に対して年の事をいうもんじゃない。それに今日一日は静と呼んでくれ」
「ぐべっ、何も叩かなくてもいいじゃないですか。平……静さん」
「うむ、まあいい」
そう、静の八幡への願いとは、この結婚式で静のエスコート役、要するに恋人役をやって欲しいという物だった。
実は静はかなり精神的にまいっていた。
6月に入り、静かは教え子の結婚式に3回、友人の結婚式に2回、従妹の結婚式1回と。
そして、今回は大学時代のサークルの後輩の結婚式だった。
披露宴から参加し、大学の友人枠で席に着くが……。
「……平、静さん。大学のサークルの他の人は来てないんすか?」
「ふん、他の連中は全員結婚済みだ。性格が悪い彼奴の事だ。結婚した連中は呼んでいないのだろう。または独り身である私にこの結婚式を見せつけ優越感にでも浸りたかったというところか」
「……まじで性格悪いっすね。そんな人の結婚式に来る必要なんてなかったんじゃないっすか?」
「まあ、それでも同じサークル仲間で後輩だ。当時はそこそこ仲も良かったからな。先輩として最後の務めだと思えば何ともない」
「……いや、なんか怒ってません?」
「いいや!全然!全然!悔しくなんてないんだからね!」
「………」
静は目を見開きっぱなしの上で、口元が引きつっていた。
相当腹に据えかねているようだ。
披露宴が始まり、新郎新婦、親類や友人枠などの挨拶が行われ、ウエディングケーキカット
キャンドルサービスを兼ねて新郎新婦が各テーブルに挨拶をしに来る。
「あっ、静先輩!来て頂いてありがとう。……あれれ?本当に居たんだ彼氏、てっきり妄想かと、それとも代行業者の方かな」
「ははははっ、なーにを言っているんだ。私とて恋人の一人や二人、わけないさ。そちらこそおめでとう」
「静先輩……次は先輩の番ですね。気長に待ってます」
新婦は笑顔でキャンドルサービスを終え次のテーブルに向かう。
一方静は顔を引きつらせていた。
どうやら、新婦は静かが彼氏を連れて来た事自体を疑っているようだ。
「静さん……まじで、もう帰っていいんじゃないすか」
「なんのこれしき、私はなんともない。これでも彼奴の先輩なんだ」
「何ともないって顔じゃないっすよ」
「ふはははっ、はっ、ははっ……はぁ、彼氏が欲しい」
「はぁ」
2人して溜息吐く。
それぞれ意味は異なるが……。
「まあ、先生……静さんは美人だし、普通にしてればモテそうなのに……雑な私生活と男勝りな性格がちょっとネックなだけで」
「なにかね。もうすぐ彼女が出来る人間の余裕かね」
「いいえ、男共は見る目がないなと」
「な、なにを言ってるんだ君は!私を褒めても何も出ないぞ!」
「それか、先生が男の理想が高いのが問題とか?」
「そんな事ないぞ」
「じゃあ、どんな男の人がタイプなんですか?」
「ふむ、スクライドのカズマも良いが、しいて理想を言えば北斗の拳のケンシロウかラオウか、強くて女性を守ってくれる人がいい。姿恰好だけでいうと、バキの勇次郎や花山薫でもいい。あの肉体に包み込まれたい!」
「………」
静の理想があまりにも突拍子もない物で、思わず八幡は沈黙してしまう。
そんな奴、この世にいないだろうと。
静はシンデレラ症候群どころか、アニメやマンガの熱血マッチョ症候群に罹患していた。
そんな中、八幡の頭の中で唯一該当しそうな人物として、自分の肉体を育ててくれた街雄を思い起こす。
そうなると、八幡自身も静の理想の人物に近い存在になる事を、八幡は気が付いていなかった。
結婚式は無事終わるのだろうかw
いや~、無理だろうな~w