静の後輩の披露宴はつつがなく進み、新郎新婦の友人や会社関係者によるスピーチや余興が始まる。
まずは新郎の友人達による余興からだったのだが、新郎と同じく何故か皆ガタイが良くむさ苦しい連中だ。
その連中がスーツをその場で脱ぎ出しラガーマンの恰好になり、何やらラクビーあるあるを始めた。
「ぐぬっ、そういえば、彼奴も漢の趣味が同じだったな。だがあの程度の男などケンシロウの足元にも及ばないではないか」
静は新郎とその余興のラガーマン共を見て、そんな事言うが、目はうらめしようにしていた。
「………それはいいとして、静さん。もしかして、静さんも余興をやらされるとか?」
「うむ、そうだ。私は大学時代の話を少々するだけだがな」
「まじで後輩花嫁と仲良かったんすか?」
「そうだ。性格は異なるが境遇がよく似ていたのでな、自然と会話が馴染んでいたのだ。だが、彼奴も私と一緒で恋人がなかなかできなくてな、それもあって、今じゃこんな感じだ」
「……いや、ただ単に後輩の花嫁さんの性格が悪かったから今迄彼氏ができなかったんじゃ?」
「……すまんな、比企谷。こんな事に付き合わせてしまって、私もどうかしていた。見栄貼って彼氏などと……」
「いいんじゃないっすか?たまには見栄位はっても」
「……君は優しいな。だから雪ノ下も由比ヶ浜も……私も君がケンシロウのようにガタイが良かったら惚れていたよ」
「……そこっすか」
静は男勝りとは言え、美女でありスタイルも抜群だ。
高校や大学でも男共は静に声を掛けていただろう。
ただ、男性の理想が高すぎて、静のお眼鏡に叶う男性に出会わなかったに過ぎない。
しかし、静のこの扱いには流石に八幡も見て見ぬふりは出来ない。
如何にかならないかと思案するが、いい案が考えつかない。
それならば、せめて恋人役を全うしようと思う八幡だったのだが……。
司会進行役の女性スタッフに呼ばれ、余興が静の番が回って来る。
八幡はせめて静のスピーチの間、寄り添っていようと、静の後について行く。
新郎新婦席の斜め前でスポットライトに当てられスピーチを始める静。
当たり障りのないトークを進める。
「大学時代はまだまだ子供っぽい所が有りましたが、どうでしょう。今の淑女然とした彼女の姿は誰が見ても立派な女性です。最良の男性ともめぐり逢い。そしてよい家庭を築く事でしょう」
静のスピーチの最良と言う言葉に思わず反応する八幡だが、冷や汗を垂らしながら本能を抑えようとグッと我慢する。
静がスピーチを進めている間、新婦が、静の後方スポットライトの影に控えている八幡に小声で声を掛ける。
「ねえ、君若いけど、もしかして静先輩の生徒だったり?無理矢理連れてこられたのかな?」
「いえ、そんな事は無いです」
八幡はきっぱりと否定して見せる。
「静先輩ってああ見えて男の人知らないから、君のストーカーとかになっちゃうかもだから危ないよ。お姉さんからの忠告、本当に危ない目に遭っちゃうから、きっぱり断った方がいいよ」
新婦は尚も八幡に声を掛け余計なお世話な忠告をする。
だが……
「危ない? アブナイ? アブ…アブ…」
八幡はサイという言葉を必死に我慢していのだが、新婦が連呼する『危ない』というキーワードに反応してしまう。
「君?どうしたの?」
新婦はそんな八幡の様子に訝し気に声を掛ける。
そして……
「アブアブアブアブ!アブッ!!……アブミナルッ!!アーーーンドッ!!サイッ!!!!!」
両手を後頭部後ろで組み、腹筋と下半身を突き出し、ポージングを決めると同時に、肉体が膨らみ、スーツがバリっという大きな破砕音と共に粉々に飛び散り、まるで紙吹雪のように舞い、飛び散った服の後には、巨大な鋼の肉体とシックスパックな腹筋と丸太のような大腿四頭筋が浮かび上がり、五廻り程に膨れ上がった肉体は脈を打つ。
勿論八幡は笑顔だ。
何故だかそんな八幡にスポットライトが照らされる。
しかも、あろうことか蝶ネクタイとブーメランパンツ一丁の極大ゴリマッチョ姿というシュールな姿を式場でさらしてしまったのだ。
会場は静まり返り、全員八幡に注目する。
間近で見ていた新婦は、驚愕なあまり椅子からズレ落ち、床にへたり込む。
スピーチを行っていた静は掛け声に振り返り、その八幡の姿に固まってしまっていた。
そんな中八幡は、右手首を左手で掴み斜め横にポージングを変え……。
「アブミナル・アンド・サイからの~~~!!はい!!サイドッ!!チェストーーーー!!」
マッスルしりとりを始めてしまった。
すると会場からは一気に声が上がり、女性陣からは黄色い声が上がり、男性陣からは感嘆の声が上がる。
どうやら会場のゲストは余興と勘違いしているようだ。
固まっていた式場スタッフの一部がようやく目を覚まし、予定の無いこの状況にオロオロしだす。
これが事故なのか、余興の一端なのか判断しかねていた。
他のスタッフはまだ、この衝撃が覚めなかったり、司会進行役の女性スタッフなどは八幡のこの姿に見ほれ、黄色い歓声をあげていたりと。
そのうちに、新郎と新郎友人ラクビー部連中が八幡の周りに押し寄せ、声援を浴びせていた。
「腹筋板チョコーーー!!」
「仕上がってるよーーー!!」
「大胸筋が、歩いてる!!」
式場は大盛り上がりだ。
腰砕けとなっていた新婦がオロオロしてるスタッフに、八幡を追い出すように怒声を浴びせ、しばらくすると、警備スタッフやらが式場に現れる。
固まっていた静は、ここでようやく意識を取り戻し、迫る警備スタッフに気が付く。
「比企谷!引き上げるぞ!」
静は八幡を引っ張ろうとするがビクともしない。
「へ?やばっ!?」
そんな静の行動と掛け声に、八幡もようやく警備スタッフに気が付き、静を抱き上げ、お姫様抱っこ状態で式場から逃げ出す。
そして、そのまま式場を飛び出し、近くの公園まで逃げ込み、木陰に隠れる八幡。
八幡の胸に抱かれたままの静は、
「……凄い、これが真の漢(おとこ)なのか」
抱きかかえられたまま、顔を赤らめうっとりした顔で、八幡の肉体を指でなぞっていた。
「あっ、すみません」
八幡は慌てて静を降ろす。
「えっ、別にそのままでも……」
静は名残惜しそうにし、そのまま何故か八幡の腕に縋りつく。
「あの、披露宴台無しにしてしまってすみません」
「いいんだ。比企谷……、彼奴にもいい思い出になっただろう。私の最後の手向けだ」
「はぁ、まあ、なんていうか」
「そんなことよりも!比企谷!結婚してくれ!!」
「はぁーーー!?」