続きです。
「お兄ちゃん、ご飯だよ」
「小町、今年受験だろ。俺が作るからいいぞ」
「いいのいいの。丁度いい息抜きになるから」
「そうか?」
「小町が好きでやってる事だから、お兄ちゃんは気にしないで」
食卓に並んだ料理は八幡だけ特別製である。
蒸し鶏と豆腐ステーキに、オクラ納豆、コンソメスープと、筋肉を鍛えるのにこれ以上ないボディービルダーメニューだ。
8月9日、小町は高校最後の夏休み。
塾の夏季講習に通っていたが、今日から1週間塾も盆休みに入った。
「それじゃ、頂きます」
「頂きます」
2人だけの昼食が始まる。
「えーっと、お兄ちゃん、昨日はちゃんと告白した?」
「ああ」
「で、どっち?」
「……雪ノ下だ」
「やっぱりか~、でもあと一年違ったら結衣さんもあったかな~」
「なんで?」
「うん?女の勘?」
小町は首を傾げながらそう答える。
中学まで小柄だった小町は高校に入り身長が伸び、今では雪乃よりも身長が高い。
女子にしてはかなり遅い成長期だったようだ。
今では髪を伸ばした影響もあるかもしれないが、落ち着いた雰囲気の美女に成長していた。
因みに八幡は家ではTシャツ短パン姿で、ゴツイ二の腕と太ももを晒している。
「で、雪乃さんの反応は?」
「ああ、嬉しそうにはしてくれたんだが……」
「ん?なに?何か引っかかる事でもあるの?」
「聞き間違いかもしれんが、大胸筋が私の物とかなんとか…まさかな」
八幡は雪乃が筋肉フェチであることにまだ気が付いていなかった。
それを聞いた小町は、
「なぬ?」
一瞬目つきが鋭くなる。
「小町?」
「なんでもないなんでもない、あははははっ」
小町はごまかすように笑うが、心中では……、
(ふーん、そうなんだ。雪乃さんがね。ふーん)
雪乃に対して警戒心を高めていた。
「それで由衣さんの方は大丈夫なの?」
「由比ヶ浜は、今まで通り友達でと言ってくれてだな。まあ、そのだ。ホッとしてる」
「由衣さん、本当にお兄ちゃんの事が好きだったから、家族以外で最初にお兄ちゃんの事をちゃんと理解してくれたのは由衣さんだったし。だからこそ由衣さんはつらいのを我慢してそう言ってくれたんだよ。そこに甘えちゃだめだよお兄ちゃん」
「……わかった」
小町は由衣と雪乃のどちらが八幡の恋人となったとしても異存はなかったが、本音で言うと、雪ノ下家が背後にある雪乃よりも由衣との付き合う方が楽だろうなとは思っていた。
一旦、昼食中の八幡の告白の話題を終える。
八幡が自宅筋肉トレーニングを終えた後は、小町が八幡の筋肉にマッサージを施し、クールダウンさせていた。
ここ一年の比企谷家の日常風景である。
「そういえば、いろは先輩が最近やたらお兄ちゃんの近状を聞いてきたんだけど、何かあった?」
小町はマットの上でうつ伏せに寝転がる八幡の腰にまたがり、首の付け根の僧帽筋から腰に近い広背筋までをテンポよくほぐしながら、八幡にこんな話題をふる。
小町にとって一色いろははもっとも親しい先輩と言っていいだろう。
何せ、生徒会執行部で1年半も一緒に活動していたのだ。
いろはは結局1年の10月から3年の9月まで2期生徒会長を務め、総武高校の顔となっていたのだ。
その生徒会執行部のメンバーとして小町は入学時から一色を支えていたのだ。
現在も小町は生徒会書記として活動し、現生徒会長よりも生徒や教職員達から認知され、生徒会執行部の裏番とも呼ばれていた。
「……一色か」
八幡は昨日の総武高校での告白時に、いろはと静が乱入してきたことを思い出し、憂鬱そうな声を上げる。
「やっぱなんかあったんだ。小町が相談に乗るよ?」
「あ、……いや」
八幡は小町に話していいものかと、躊躇する。
八幡自身もいろはや静の乱入騒ぎについて、消化しきれていなかったためだ。
「話してみ」
「うーん、……あ、そうだな。なんていうか。雪ノ下と由比ヶ浜との話し合いの場に、一色と平塚先生が現れてな、なんか告白された」
「はぁ?なにそれ?え?いろは先輩だけじゃなくて、しずちゃんも?え?どういうこと?え?」
小町は明らかに混乱していた。
当然だろう。
告白の場への乱入騒ぎだけでも、かなりの衝撃的な話だろうが、一色だけでなく、八幡や小町の恩師までが、乱入の上、告白までしたのだ。
普通に考えれば絶対にあり得ない状況だろう。
因みに、小町は静の事をしずちゃんと呼んでいる。
生徒達の実質のまとめ役である小町と生徒指導担当の静は何かと絡むことが多く、こんな気安く呼ぶ間柄になっていたのだ。
そう呼ぶたびに、静からは注意を受けていたが、小町はやめるつもりがないため、静の方が半場諦めている状況だ。
「俺にもよくわからん。平塚先生は漫画系のマッチョ好きで2か月前に一度、筋肉がバレてちょっと暴走してな。一色は3か月前にバイト先でバレたんだが、あいついつものように俺の事をディスってただけなんだけどな。筋肉が忘れられないとかなんとかで、なんでこうなったか、さっぱりだ」
それを聞いた小町は
「なぬ?」
またしても、眼つきが鋭くなる。
「小町?」
「あははははっ、なんでもないなんでもない。……お兄ちゃんは気が付いてなかったかもしれないけど、いろは先輩は高校時代の時からお兄ちゃんの事が気になって仕方がなかった感じだった」
「何言ってんだ小町?気になるって、俺は彼奴にディスられた記憶しかないんだが」
「お兄ちゃんは相変わらずそういうのに鈍感だね~、雪乃さんと由衣さんがぴったりお兄ちゃんにくっついてたから、いろは先輩はあきらめてただけで、お兄ちゃんの事が好きだったんだよ」
「はぁ?あいつ、葉山が好きだったんじゃないのかよ!?小町の勘違いじゃないのか?」
「うーん。葉山先輩を狙ってるのは表向きかな、小町が入学した時には、いろは先輩はお兄ちゃんの事が好きなんだってわかったし、本人は全力で否定してたけど、小町の目はごまかせません」
「そんな素振りなんてまったくなかったぞ?」
「たぶんだけど、いろは先輩はお兄ちゃんの事を好きになったらダメなんだとブレーキをかけていたんだと思うよ」
「そ、そうか。昔の事は今はいい。なんか一色の奴、俺の筋肉じゃなきゃ愛せないとか、筋肉フェチにした責任を取れとか、訳が分からんことを言って迫って来るんだが」
それを聞いた小町は、
「なぬ?」
またしても、目を鋭くなる。
「どうなってるんだ?俺の知らない内に巷ではマッチョが流行ってるのか?」
八幡は頭を抱えたい気分だった。
「ふっ、ふっ、ふーーっ」
小町はぎらついた眼をしながらニヤリとし、含み笑いのようなものが漏れる。
「ん?小町?どうした?」
「なんでもない。なんでもない。次、足のマッサージね」
小町は明るい声でそう言いながら八幡の腰から下りて、大腿四頭筋をほぐしだす。
八幡はうつ伏せのままのため、小町の表情は見えないが、小町の目は鋭くぎらついたままだ。
小町は八幡をマッサージしながらある思いが渦巻いていた。
(しずちゃんにいろは先輩、この筋肉達は私が丹精込めて育てた筋肉なの。それを横取りしようと?)
確かに小町の食事とマッサージなどの献身的なサポートによって、八幡の筋肉はここまでの仕上りに育ったと言っても過言ではない。
(雪乃さん……いくらお兄ちゃんの恋人になったからと言って、小町が育てた筋肉達を勝手に好きにしていいとでも?この筋肉に触れる資格があるのは小町だけ)
小町は徐々に育っていく八幡の筋肉をまるで子供が育っていくかのような目で見ていたのだ。
ある意味、時間をかけてレベルMAXまで育てたポケモンを、横から搔っ攫われるような感覚に似ているのかもしれない。
「ふっふっふっーーっ」
(小町が筋肉達を守らなくは……)
小町は八幡の大腿四頭筋をマッサージしながら、ある決意をし、凶悪な笑みを浮かべていた。
ブラコンではなくて、マッスルコンプレックス?な小町ちゃんでした。
次の展開はどれが良いでしょうか?
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八幡、雪ノ下家に行く
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川崎沙希は突然に
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鶴見留美は〇〇デレ
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比企谷小町の心情は
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結衣の思い
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材木座、戸塚の今
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葉山隼人は悩ましい