はじまり
とある大広間、大理石の柱が等間隔に円を描いている。その広さの割りに家具や石像などオブジェクトのようなものは何一つとしてない。それもそものはず、ここはゲームのボス部屋だ。戦闘が行われる部屋だからこそ、障害物となる家具やオブジェクトが存在しないのだ。
肝心のボスだが、この大広間を見渡しても姿がない。すでに撃破されたのだろう。
さて、役目を終えた部屋の中心で向かい合う少年と男性。少年は黒いコートに黒のパンツ。左右に一本ずつ剣を握っている。対して男性は深紅の鎧に身を包み、身の丈ほどの大きな盾と、剣を装備していた。
二人の周囲には倒れて動けなくなった人々がいる。少年が男性に対し、いくつかの質問を投げかけると、男性は隠していた罪を告白するように言った。
「その通り、私は茅場晶彦。この世界、VRMMORPGゲームを作った開発者、そしてログアウト機能を消して、君たちをこの世界に閉じ込めた犯罪者でもある」
VRMMORPG≪ソードアート・オンライン≫。そのゲームは≪ナーヴギア≫のソフトととして2020年に発売された。≪ナーヴギア≫は脳に直接信号を送ることでプレイヤーの五感すべてにアクセスできる新世代のゲームハードだ。この≪ナーヴギア≫によって、完全なる仮想空間が現実となり、多くのゲーマーが魅了された。
ナーヴギアのキラータイトルとして期待されていたSAOは初回ロットがわずか1万本ということもあり、即時完売。つまり、一万人がこのソードアート・オンラインというゲームに閉じ込められたことになる。
これほどまでの罪を犯しているにもかかわらず、茅場は少年に向かって続ける。
「私たちの周りにいるプレイヤーには管理者権限で動けなくなってもらった。」
茅場は少年に対して真剣な表情で向かい合った。
「私は本来、100層でラスボスとして君たちと戦い、君たちが勝利したら全プレイヤーを開放するつもりだったが……。
正体を見破ったことに敬意を表して、君と一対一でデュエルをする。そして、デュエルに勝てば、全てのプレイヤーを解放しよう。どうだい、キリト君」
キリトと呼ばれた二刀流の少年は、茅場を睨みながらも頷いた。
「分かった。……確認だが、管理者権限を使って、HPが減らないチートは使わないよな」
「もちろんだ。HPが無くなれば私も死ぬ。君たちと同じ条件で戦うと約束しよう」
HPが無くなれば死ぬ。これがこのソードアート・オンライン最大の問題だった。
外部からの強制的なゲーム停止の試み、ゲーム中にHPが0になったとき、ナーヴギアから強力なマイクロウェーブが脳を焼き、プレイヤーの生命活動を停止させる。 ログアウトできないことなど些細であると言わんばかりの仕様だ。
「頼むキリト! このゲームを終わらせてくれ」
「動けない俺たちに変わって、茅場をぶっ飛ばしてくれ」
倒れたプレイヤーたちからキリトに声援が飛んだ。
デスゲームの攻略は攻略組と呼ばれる戦闘経験に長けたプレイヤーたちに行われていた。ゲーム開始時にいた1万人のプレイヤーは6千人までに数を減らし、第75層までを攻略していた。
このソードアート・オンラインをクリアするためには100層までたどり着き、そこのボスを倒さなければならない。もし、ここで茅場を倒すことができれば、残りの24層分を飛ばすことができる。
「ヒースクリフ……茅場」
キリトが睨みつけた男性、ヒースクリフ。もといい茅場晶彦はゲームの開発者だけではなく、最強クラスのプレイヤーギルド、血盟騎士団のギルドマスターでもある。同じ条件でデュエルしたところで苦戦を強いられるだろう。
「行くぞ!」
「来い、キリト君」
それでもキリトは6千人の命を背負って、茅場晶彦に立ち向かった。
一進一退の攻防が続く。攻撃主体のキリトと防御主体のヒースクリフの戦闘は長期戦に及んだ。誰もが世紀の一戦を静かに見守り、キリトを応援した。キリトも彼らの応援に応えるように、ヒースクリフを追い詰めていった。
だからこそ、誰も気づかなかったのかもしれない。
完全なる仮想空間と言われたSAOにノイズが走っていた事実に。茅場晶彦という人物が裏で密かに行っていた事に。
キリトの切っ先がヒースクリフ、もといい茅場晶彦の胸を貫いた。彼のHPが0になる。プレイヤーたちの勝利だ。管理者権限が解かれ、自由になるプレイヤーたち。湧き上がる歓声は誰もがキリトを称え、これで現実世界に帰れると喜んだ。
キリトに抱き着く少女、アスナもその一人だった。
「もう、無茶して。すっごく心配したんだよ……でも、これで帰れるんだね」
彼女はヒースクリフが率いた血盟騎士団の副リーダーでもあり、キリトとよくタッグを組むプレイヤーでもある。キリトもアスナの手を握り、心配ないことを告げ、後は帰還を待つばかりだ。
「な、なあ……いつになったらログアウトできるんだ?」
攻略組の誰かが言った。ゲームの創造主でもあり、ラスボスの茅場晶彦を倒した。本人も自分を倒せばゲームクリアとすると言った。にもかかわらず、ゲームはクリアされないし、ログアウトも戻らない。
現れたのは、76層へと続く大きな扉だけ。茅場を倒した影響は、もっとも残酷な形で現れた。
「どうして? 茅場を倒したのに」
「分かんねーよ。いつまで続くんだ? このゲーム」
ひしひしと絶望に包まれていく、プレイヤー。頭を抱えてうずくまる者も現れる中、誰かが言った。
「もしかしたら、あの扉は76層に続くんじゃなくて、現実世界に戻れる扉なんじゃないか?」
「そうだ、そうに違いない!」
わずかな希望にかけて走り出すプレイヤーたち。キリトも後に続きたいところだが、茅場と戦った疲れからか、その場に座る。
「ごめんアスナ、さすがに疲れた。早く帰りたいけどちょっと休ませてくれ、膝が震えて歩けそうにない」
「キリト君、大丈夫? 私も一緒にいるから、元気になったら歩き出そう」
「ありがとう。本当に世話になりっぱなしだな」
キリトとアスナは二人で走っていくプレイヤーの後ろ姿を見送った。二人とも、本当にログアウトできたかを確かめるために、フレンドを開く。これでフレンドに登録してある攻略組にメッセージが送れなければ、ログアウトできたことになるはずだ。
アスナとキリトはフレンドリストと走っていくプレイヤーの両方を交互に見るが、二人のフレンドリストからメッセージが送れなくなるプレイヤーは現れない。そうしているうちに、75層のボス部屋にいるのは二人だけになってしまった。
「キリト君、これ、どういうこと」
「分からない。茅場は悪い奴だったけど、嘘をつく人間じゃない……これは本当に不具合か?」
怖いよとアスナはキリトに寄りかかる。キリトもアスナを抱きしめた。
「大丈夫、たとえこの世界がどうなろうとも、オレはアスナを守るから」
「キリト君……」
メロメロになったアスナと、彼女を見つめるキリト。二人は目を閉じて、唇を重ね合わせようと引き寄せあったその時、背後から声がかかった。
「すまない、一つ聞きたいことがあって呼び止めてしまった」
ムードをぶち壊されて、恥ずかしさが込み上げてくる。
それにしても不思議だ。ボス部屋には二人を残して誰もいないはず。不審に思ったキリトとアスナが振り向くと、全身を黒い甲冑に身を包んだ人物が立っている。中世ヨーロッパを舞台にしたSAOには似合わない装備。背中には白いマントと金属製の突起物までついており、その人物の身長がキリトの2倍以上あると言っても過言ではないほど大きかった。
大きさや特徴から甲冑というよりは、ロボットアニメに出てくるロボットと言った方が分かりやすい。プレイヤーというよりはゴーレムですと名乗った方が納得いく。そんな相手を前にキリトとアスナは反射的に剣を構えた。
しかし、剣の切っ先を向けられた本人は焦る様子もなく。
「こんな格好だ、君たちが警戒するのも分からなくはない。怪しい者であると認めるが、決して悪者ではない。安心してくれ」
「……それで、何のようだ」
照れながらも警戒心マックスなキリトに対し、怪しいソイツはどこか凛々しくも中性的な声で名乗った。
そういえば自己紹介がまだだった、私はアルファモン。と。
プロットは切りのいいところまで出来ております。
今後、続けて欲しいかは感想ください。