SAO~インフィニティ・ドリーム~   作:破壊光線

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アルファモン

 アルファモンと名乗る人物は已然としてキリトとアスナに剣を突き付けられた状態だが、のほほんとした様子で話始めた。

 

「二人がいい雰囲気だったのは何となくわかった。このまま見てても良かったんだが、生憎、私は男女の恋愛観とは無縁でね。このままだと長くなりそうだっから声をかけてしまった。申し訳ない」

「そのことはもういいですから」

 

 アルファモンから敵意のようなものが一切感じられないので、キリトとアスナは剣を下ろした。アスナが髪をいじりながら言った。恥ずかしさを隠すために、微笑んでいる。

 アルファモンは、うむ。と相槌を打つ。

 

「この世界はVRMMO、つまり、ゲームの世界で完全仮想空間。君たちの身体はこの世界とは別の場所、つまり現実世界に存在しているわけだ。

 さらに、この世界の肉体、君たちのアバターはプログラムであり、数字の塊でもある。どれだけ強くなっても偽りのものに過ぎない。傷ついた肉体はポリゴンが破壊されただけで、溢れる涙もプログラムによって制御されている」

 

 アルファモンは得意げに嬉しそうに語っているが、キリトとアスナにとっては今一つ容量を得ない。怪しい姿に、胡散臭い言葉が相まってキリトが痺れを切らした。

 

「つまり何が言いたい」

「おっと、失礼。話が脱線してしまった。これに関しては実際に見た方が早いだろう」

 

 アルファモンは軽く謝ると、付いて来い。と黒い手で手招きをした。キリトとアスナは一度顔を見合わせたが、ここでやることも無い。茅場晶彦を倒したものの、今に至るまで変化が無いことからこれ以上ここで過ごしても無意味だろう。

 いずれにせよ76層へ行くのであればと提案に乗る。三人は他のプレイヤーが向かっていった、76層の扉をくぐった。

 

 75層のボス部屋を抜けて、76層へとたどり着くと、そこは緑が一面に広がっていた。キリトとアスナが立っている地点から目視で街が見える。幸いなことに街へと続く道の途中にはモンスターの姿は見当たらなかった。

 

「ふむ、素晴らしい景色だ。データを組み合わせてこれほどの世界を創るとは、見事なものだ」

「この景色に関しては同意するが、さっきの話の続きはどうした」

「私も、お話の続きを聞きたいです」 

 

 景色を見渡して感心するアルファモンに対し、キリトとアスナが先程の答えを求める。

 

「そうだったな。今の君たちもこの自然も、君たちを倒そうと襲い掛かるモンスターも、全て偽物、茅場晶彦によって作られたものだ。偽物の刺激を受けて、どうしてここまで喜んだり、怒ったりするのかが不思議になってね。聞いてみたんだ」 

 

 すべてがデータで創られた世界に対して、なぜここまで感情が豊かなのか。

 デスゲームとなったとはいえ、SAOがゲームである以上はクリアされる宿命にある。したがって、ゲームをクリアしてログアウトするのは必然だったはず。決まった結果が訪れたにもかかわらず、何故喜ぶのか。

 

 それがアルファモンの出した問いだった。

 

 キリトは質問を受けて、今までの行いを思い返す。黒幕の茅場晶彦と戦ったときには怒りを感じ、倒した時には安堵した。アスナと一緒に喜んだし、ゲームをクリアしたにもかかわらず、ログアウトしないと分かると不安になった。あれだけの短時間で様々な感情を抱いたわけだ。

 知的好奇心を満たすために目をキラキラさせて二人を見つめるアルファモン。この問いに答えたのはアスナだった。

 

「それは、私たちがこのSAOっていう世界で生きているからです。生きているから、色々感じるんだと思います。たとえ、この世界が偽物であっても、感じ取ったものは本物です。それだけは言えます」

 

 きっぱりと言い切った彼女を見つめて、アルファモンは驚くと、大きくうなずいた。

 

「非常に興味深い、実にいい答えだ」

 

 アルファモンの中で、アスナの回答は腑に落ちだが、このやり取りを疑問に思った人物がいた。キリトだ。

 アルファモンの見た目が怪しいのはもちろん、妙に達観している。同じデスゲームに囚われたプレイヤーとは思えない。HPが0になればナーヴギアに脳を焼かれてしまうにも関わらず、戦闘を偽物の刺激と言ったり、涙をプログラムで制御されていると言ったにもかかわらず、景色を見て感動したりしている。

 疑問はいつの間にか、言葉に現われた。 

 

「アルファモンは、プレイヤーじゃないな」

「ああ。私はデジタルモンスター、略してデジモンさ」

 

 デジモンという聞きなれない単語に、二人がおどろいて目を丸くする。

 SAOにおいて、モンスターは数多く登場する。一部にはプレイヤーと友好的に接して、仲間になる個体も存在する。この場合は≪使い魔≫という。しかし、≪使い魔≫になるのはごく一部で、モンスターの多くはプレイヤーの敵として戦うことになる。

 アルファモンは自らをデジタルモンスターと名乗った。種族はともあれ、モンスターであることに変わりはない。にもかかわらず、キリトとアスナに襲い掛かるどころか、≪使い魔≫になる素振りも見えない。完全にイレギュラーだ。

 

「ええっ! アルファモンはモンスターなの? ど、どうしようキリト君」

「相手がモンスターだとしても、敵意が無いならNPCかもしれない。もしくは、76層から始まるイベントとか。ここは様子を見よう」

 

 フレンドリーに話していた相手がモンスターだと知って、アスナは剣を抜きつつも動揺してしまっている。そんな相方を守るようにキリトは前に出た。

 キリトはさっきアスナにNPCの可能性を示したが、NPCだとしても、ここまでメタ的な発言は行わないだろう。元からMMOに詳しくないアスナはもちろん、キリト自身もアルファモンという存在に困惑していた。

 当の本人は今まで通りと言った感じで敵意もなく。

 

「私は君たちに興味が沸いた。もしよければしばらくの間、同行させて欲しい」

 

 アルファモンがパーティに入った。モンスターだというのに、プレイヤーと同じ待遇になる。イレギュラーが過ぎる。キリトは内心溜息をつきながらも、新しい仲間を迎え入れた。

 

 緑の草原の中、76層の街へと歩く三人の会話は絶えなかった。

 アスナはレイピアを鞘に収めながら、新しい仲間に声をかける。

 

「アルファモンさん」

「呼び捨てで構わない。気軽に呼んでくれ」

「アルファモン、でじたるもんすたぁって何ですか?」

「その説明がまだだったな」

 

 アルファモンは景色を楽しみながら、話し始めた。

 

「デジタルモンスター、略してデジモン。私を含め、デジモンはデジタルワールドという、この世界とは別の世界で暮らしている。

 そこは、この世界と同じようにデータで構成されている。いくらこの世界が完全仮想現実だったとはいえ、デジタルワールドとSAOは交わるはずのない世界だった」

「だった。過去形ってことは交わったのか?」

 

 アルファモンの話からキリトが推測する。彼の推理が正しいことを肯定するようにアルファモンが頷いた。 

 

「その通り。茅場晶彦を含め、この世界の何人かはデジタルワールドの存在を知っていたようだが、二つの世界は不干渉だった。

 しかし、最近、そうだな、一年ほど前くらいに二つの世界が交わってしまった。一部、私のようなデジモンと、茅場晶彦はそれを知って、我々デジモンがこのゲームと関わらないように食い止めていたが……」

「……その茅場をオレが倒してしまったから」

 

 原因が自分にあるとキリトは頭を抱えるが、アルファモンはすぐに否定する。

 

「安心して欲しい。別に君の責任ではない。それを言ったら、デジモンの侵入を防ぎきれなかった私にも責任がある。茅場晶彦が死亡と同時に、この世界は消えるはずだった。

 しかし、現にこうして存在している。おそらくは、この世界を維持するシステムが我々デジモンを対処しようとしているのだろう」

「つまり、デジモンを対処したら俺たちは開放されるのか?」

「え、どうして? だって、デジモンと私たちプレイヤーは違うから、私たちだけログアウトして、その後SAOを消去すればいいんじゃないの?」

 

 アスナが疑問符をうかべる。デジモンはモンスターでプレイヤーではない。だからプレイヤーだけログアウトすることは可能だと考えた。

 正しそうな考えを否定する人物がいた。アルファモンだ。

 

「デジタルモンスターと名前の通り、私たちは自分の周りにあるデータを吸収して成長する。何らかの拍子でプレイヤーのデータを収集しているとしたら、プレイヤーと一緒にそのデジモンも現実世界にログアウトする可能性だって無くはない」

「デジモンって、現実世界にも現れるんですか?」

 

 アスナはデジモンがデータだけに留まらないと知って、驚愕する。

 

「ああ、厄介なことにね。デジモンが現実世界に現れてしまうケースは過去にいくつかある。

 例えば、2000年問題と言って、コンピュータが西暦2000年を認識できなかった事件だ。人間たちはコンピュータ側に問題があると言っていたが、実態は我々デジモンが現実世界に現れて引き起こしたバグによるものだ」

「でも、その後アルファモンみたいな人物を見たって証言は無いですよ」

「言ったはずだ、我々デジモンは周囲のデータを吸収すると。それに、デジモンは私だけではない。ドラゴン、動物、霊、機会、植物、人型。その見た目は多種多様だ。

 本題に戻るが、2000年問題で化現したデジモン達はネットの都市伝説を吸収してその姿を変えて行った」

 

 都市伝説という言葉にアスナがビクっと反応した。

 しかし、アルファモンはアスナの様子を気にすることなく話している。

 

「有名なネッシーや雪男は我々デジモンだし、最近だと八尺様やテケテケといった人を殺すような怪異や怨霊、俗に言うオバケも当てはまる」

「いやぁぁああ! それ以上はムリ、無理です。話さないでください」

「UMAをデジカメで撮影しても信憑性がない理由や、怪異のネットを中心に広まった点など、興味深い内容がまだあるのに……」

 

 アルファモンはオカルトが好きなようで、話を止められて若干不機嫌だった。

 しかし、アスナは顔面蒼白で涙を浮かべている。こちらはアルファモンと対照的にオカルトに全く耐性がないらしい。

 

「アルファモン、アスナはオバケがまるでダメなんだ。勘弁してください」

「仕方ない、乙女を虐めてまで話をしたいとは思わないさ。諦めるよ」

 

 キリトもアルファモンの話に興味があったのか、残念そうに会話を止めた。ため息を着く真っ黒コンビの手をアスナが握る。

 

「キリト君、アルファモン。絶対にデジモンを現実世界に出しちゃダメだよ。何としてでもSAOの中で終わらせよう」

 

 その後もオカルトを避け、デジモンについて話しながら歩いていくと、空を見上げたいたキリトが立ち止まった。 

 

「みんな、気をつけろ! 何かがこっちに向かってくる」 

 

 キーンとジェット機が突っ込んでくるような音ともに、灰色の物体が急接近してくる。

 ソイツはキリトたちに突っ込んできた。三人とも初撃を回避すると、襲撃者を目で追った。

 黄色い首と足、尻尾を持つモンスター。身体は金属でおおわれていて、球体になっていた。そこから金属製の翼が生え、両腕と頭部も金属でコーティングされていた。

 SAOにもモンスターが登場するが、その多くはリザードマンやドラゴンなど生身の身体を持つものが多い。今回の襲撃者のように全身をサイボーグ化されていることなどほとんど無い。従って、今回の敵は。

 

「噂をすればなんとやら、私たちに敵意を向いたデジモンだ。名前は……ラプタードラモン」

 

 アルファモンがぼやく。

 味方のデジモンは目で敵の動きを追っている。キリトたちに情報を与えるように話し始めた。

 

「成熟期のサイボーグ型デジモン、獲物を捕えるために改造されている。運動能力や素早さは見ての通りだ」

 

 高速で飛びまわる相手を前に、キリトたちの武器である剣は届かない。かといって、降りてきたところを攻撃できるような相手ではない。

 だと言うのに、キリトは前に出た。

 

「何をする気だ」

 

 一見、無策で挑もうとするキリトを見て、アルファモンが一喝する。しかし、キリトは2本の剣を構えていた。

 彼の後ろ姿を見て、アスナもレイピアを抜く。彼女の後ろ姿は、さっきまでオバケで怯えていた人物とは思えないほど凛々しかった。

 

「キリト君を……信じてください」

「分かった……《スピードブレイクフィールド》」

 

 アスナの強い眼差しをうけて、アルファモンが黙る。それでも心配なのか、相手に素早さダウンのデバフをかけた。

 速度が落ちたとはいえ、ラプタードラモンは相手が回避しないことを良い気に、嘲笑って突っ込んでくる。

 翼から青色の炎を吹き出し、口を開ける。鋭利な牙がズラリと並んでいた。あれに噛まれたら、攻略組のキリトとはいえ、無事ではないだろう。

 

「今だ!」

 

 ラプタードラモンと接触する寸前、キリトの剣が光った。さらに、ガキーンと金属と金属がぶつかり合う音が聞こえると、あろうことかラプタードラモンが弾き飛ばされていた。

 

「パリィ成功、アスナ!」

「まかせてキリト君」

 

 キリトの背中からアスナが飛び出した。そのまま彼女はラプタードラモン目掛けて跳躍する。体勢を崩して動けないデジモンの前で、アスナのレイピアが光を放つ。

 

「スイッチ!」

 

 キリトとアスナが同時に叫ぶと同時に、アスナの剣が目にも止まらぬ速さで連撃を放つ。

 怒涛の反撃にラプタードラモンは耐えきれず、ポリゴンとなって飛び散った。

 

「ナイス、アスナ」

「もう、また無茶して……でも良かった。勝てて」

 

 デジモンとの初戦闘に勝利して喜ぶ二人。アルファモンは一人だけ、ラプタードラモンが居た場所を見つめていた。

 それに気づいたアスナはアルファモンへと駆け寄った。

 

「そっか、オレ達にとっては敵だったが、アルファモンにとっては同族だったか。申し訳ない」

「その、ごめんなさい。襲われたとはいえ、倒してしまって」

 

 二人から謝罪を受け、アルファモンは驚くとすぐに微笑んだ。

 

「ふふ、面白いことを言うな。命を狙われたにもかかわらず、襲った相手に謝るなんて。確かに、同族がこうして消えるのを見て、いい気分ではない。

 だが、襲ってきた相手が悪い。君たちは必死に生きようとしただけで、何も悪いことなどしてないじゃないか。

 むしろ、高速で飛びまわる相手をあのような手段で倒してしまうとは……感心したよ」

 

 アルファモンはその黒い甲冑に覆われた手で二人の頭を撫でる。硬くて痛いながらも、どこか優しい感触にキリトとアスナは包まれた。

 

「さて、ラプタードラモンがここで出てきたということは、このSAOにデジモン達が出現したことになる。今後はこのような戦いが続くだろう」

 

 アルファモンは二人の頭から手を離した。

 デジモンはアルファモンのようにプレイヤーの味方になる者もいるが、今回のラプタードラモンのように敵として戦うことの方が多いだろう。SAOというゲームバランスを超えたデジモンは強力な相手になるだろう。

 

「そうだな、ログアウトは出来なさそうだし。今までのモンスターに加えて、今後はデジモンという敵まで現れた。攻略は難航するだろうな」

「うん、今まで以上に気を引き締めていかないとね。キリト君、無茶したらダメだからね」

 

 キリトとアスナもさらなるボスやデジモンを想像して気を引きしめる。

 

「そうと決まれば、情報収集だ。茅場晶彦が倒されて、変化が起きているかもしれない」

「うん、団長が居なくなった分、私も頑張らなくちゃ」

「今回の戦いで君たちにさらに興味が湧いた。今後も一緒に行動させて欲しい。もちろん、デジモンについて私の知っている限りの情報を教えよう」

「よろしくな、アルファモン」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ」

 

 二人の人間と一体のデジモンが握手を交わした。三人は拠点となる76層の街へと歩き出す。キリトたちよりも先に進んだプレイヤーで溢れているだろう。

 今までの仲間、攻略組。新しい味方、アルファモン。変化しつつあるSAOで、キリト達の新しい攻略が始まろうとしていた。

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