≪アークソフィア≫にて、デジモンの説明を終えたキリトたち。一悶着あったものの、プレイヤーは現状が変わらないなら、怒っても仕方ない。そんな事をしている暇があったら攻略を進めよう。
いい空気が流れはじめ、76層にいるモンスターの調査と並行して、生息するデジモンを調べていった。調査の結果、割合は7割が成熟期、2割が成長期、のこり1割が完全体。究極体の目撃情報は無し。となる。
さて、1割を誇る完全体のデジモンたちは、76層に生息しているだけあって攻略組と互角、それ以上の力を有していた。
ただ、幸いなことにデジモンの見た目とSAOに登場するモンスターのデザインは一目で見分けがつくくらいはっきりしている。攻略組は新しいデジモンを発見してもいきなり戦わずに、アルファモンから情報を仕入れてから戦闘することを心がけていた。
おかげで、デジモンによる死者数は今のところ無し。さらに攻略組の中でのデジモンと仲良くなるプレイヤーがちらほら現れ始める。デジモンをパーティに向かい入れると、思った以上に活躍し、戦力が大幅にアップ。説明を受けた時は怒っていたプレイヤーたちも、デジモンの力に魅力を感じていた。
そんな訳で、SAO攻略組の間で、デジモンに対する悪い偏見は消えたと言ってもいいだろう。
アルファモンと同行していたキリトと、血盟騎士団の団長となったアスナはデジモンの対応と攻略情報の整理などに時間を割かれ、碌にフィールド探索が出来ない状態が続いていた。
しかし、時間が経つにつれ、76層の攻略情報が整い、味方デジモンが増えたとことからデジモンに関する情報源が増えた。さらにユイがアスナの仕事をある程度行えるため、アスナにも余裕ができた。もとシステムAIの名は伊達ではない。
こうして、キリトとアスナはフィールド探索を行えるほどの時間を手に入れ、久しぶりに76層の草原をアルファモンと一緒に走り回っている。
「いやー、久しぶりの外だね」
日の光に照らされてアスナがグーンと背伸びをした。それから、ふうとため息をつく。
「私も君たちもデスクワークの毎日だったからな、こうして外に出られることがこんなにも気持ちのいいことなんて初めて知ったよ」
つられてアルファモンも背伸びをする。ガチガチと金属のぶつかり合う音が鳴って、とても気持ちよさそうには見えないが、本人はご機嫌だった。
「ほんと、おかげで眠くなってきた」
こちらは欠伸をするキリト。レベルアップを兼ねたフィールド散策なのだが、緊張感に欠ける。
そんな二人と一体の目的地は森だった。デスクワークに終われていた時に、他のプレイヤーが草原一帯とボスの居るダンジョンに続く道までは発見している。このままダンジョンを突っ切って、ボスに挑戦するのも可能だ。しかし、SAOには町のクエストやフィールド散策でボスに関する情報が開示されることがある。そして、76層の中でまだ手付かずの場所が森だった。キリトたちは森を散策して、ボスの情報を手に入れるために森へと向かっていた。
道中の敵を難なく突破した二人と一体は、草原の近くにあった森へとたどり着く。今まで歩いてきた草原よりも陽の光が差し込まない分、薄暗い。木と木が重なり合ってアーチを作っている。森だというのに洞窟のような印象を受けた。
「なんか、歓迎しているみたいだな」
「昼間なのに真っ暗じゃない? ここ」
不気味な森を前に、楽しそうだと不敵な笑みを浮かべるキリト。彼とは対照的にオカルトやオバケに耐性の無いアスナは若干怯えていた。
「中世ヨーロッパにおいて、森は自分の村と他の村、他の文化との境目にあった。森を抜ければ異質な人が住むと言われ、森にはオオカミなどが生息し、人間を襲う。さらに村を追われた人間が避難した場所も森で、彼らは盗賊を名乗って旅人を襲ったという。
よって、森は当時の人間とって恐怖の対象となった。物語などで森の中に魔女や怪物がいるのもこれが始まりとされている。案外、この森にもモンスターの他に魔女や狼男などの妖怪が住んでいても……どうした、アスナ」
アルファモンのウンチクに対して、アスナはジト目で睨みつけて耳を塞いでいた。
「アルファモン、分かっててやっているでしょ」
「私はただ、森という場所に対しての知識をだな……」
「まあまあ、二人とも」
オバケやオカルトが苦手なアスナと、オバケやオカルトが大好きなアルファモン。アルファモンがドヤ顔で知識を披露すると、アスナが不機嫌になって耳を塞ぐ。この二人をキリトがなだめる。恒例行事と化しつつある光景だ。
キリトとしてはアルファモンの知識に興味があって最後まで話を聞きたいところだが、嫁の涙には勝てないのが常だ。
そんな二人と一体のコンビネーションだが。
「キリト君、スイッチ」
「了解! アルファモンはザコを頼む」
「分かった。≪デジタライズ・オブ・ソウル≫」
モンスターの群れを相手に圧倒していた。敵は女王バチのようなボスと働きハチのザコから成る10体ほどの群れである。本来、三人パーティでは数の多さから苦戦するモンスターの群れなのだが、相手が悪すぎた。ボスをキリトとアスナが相手をし、アルファモンが全体攻撃でザコを牽制する。
女王バチはキリトとアスナの連携プレーの前にポリゴンへと変わり、リーダーを失った子分は動揺して動きが鈍くなる。
「敵のボスが倒れたぞ! アスナ、アルファモン」
「これなら余裕ね」
「最後の仕上げだ」
残るザコを確固撃破で倒していく。剣が振り下ろされるたびに敵の数はみるみるうちに減っていき、10体というキリトのパーティの三倍いたハチモンスターはあっという間に全滅した。
「遠距離の全体攻撃って強いな。もっと早くに出会えたなら攻略も楽だったんじゃないか」
「ほんとかなぁ? キリト君はデジモンがいてもソロで戦ってたんじゃないの?」
ははは、否定できない。
心当たりがあるのか、苦笑いするキリト。もう、とアスナは腰に手を当てて頬を膨らませていた。
「君たちは最初から一緒じゃなかったのか」
二人のやり取りを見て、アルファモンが声を漏らした。
「君たちのスイッチというテクニックはいつ見ても感心する。あれほどの連携は一朝一夕じゃあ身につかないだろう」
SAO初心者のアルファモンは知らないが、敵と二対一の状況になったとしても、斬撃が飛び合うSAOの中では互いの攻撃が邪魔になってしまう。そこで、プレイヤーはスイッチというテクニックを生み出した。
プレイヤー同士が交代しながらソードスキルを使う連携プレーだ。基本的に一人が大技で敵の体制を崩した隙をついて交代し、もう一人が続けてソードスキルを叩きこむ。さらに、SAOのモンスターは突然攻撃パターンを変更されると対応が鈍くなるという弱点がある。
「ああ、実はこうして一緒にいられるようになったのは最近なんだ75層のボス攻略前くらい。だから、アルファモンと出会うほんの少し前くらいかな」
「聞いてよ、アルファモン。キリト君はソロになると連絡の一つよこさないんだよ。こっちは心配しているのに」
「俺だって、レベル上げとかで」
「じゃあ、あの連携は誰でもできるのか?」
「確かに難しいが、スイッチできないと戦えないようなものだからな。攻略組はもちろん、中堅プレイヤーでもできると思うぞ……でも、なんだろう。アスナとのスイッチが一番しっくりくるかな」
「もう、キリト君、恥ずかしいこと言わないでよ」
アスナの顔が真っ赤になる。
「ふむ、私と君たちがスイッチする時はもう少し先かもな」
アルファモンはどこか寂しそうに、でも楽しそうに言った。
中世ヨーロッパの人にとっては脅威だった森も、デジモンと二人の剣士にとっては散歩するのと変わらないくらい安全な道へと変わっていた。
キリトのパーティは雑談しつつ、木に生えている果物をかじり、モンスターを蹴散らしながら進んでいく。だいぶ歩いたようで、森一帯のマッピングが終わり、目的であったボス情報は無さそうだと諦めかけていた時だった。最後の空白の場所を目指して進んでいると、突如爆発が起こった。
「今の何!?」
爆音と煙を見てアスナが叫んだ。キリトはとっさにウインドウを出してマップを開き、目視で捉えた巨大なキノコ雲とマップの構造を見比べて爆心地を特定する。
「この先、目的地のところからだ」
「あの爆発、ただ事ではない。もしかしたらデジモンが暴れている可能性がある」
剣技や体術を主として戦うSAOのモンスターよりも、ミサイルやビームを放つことができるデジモンの仕業と感がるのが妥当だ。煙の大きさから推測して、爆発の威力はかなりのものだと考えられる。完全体、あるいは究極体クラスの。
アスナの血の気が引いた。
「もし、プレイヤーとデジモンが戦っていたら」
数いるデジモンの中でも最強といわれる究極体。その強さはSAO攻略組のパーティと互角以上に戦える。さらに、アルファモンの元には究極体のデジモンが出現したという情報はない。いくらSAO最強クラスの攻略組とはいえ、究極体のデジモンを初見で倒すのは難しいだろう。
「キリト君、アルファモン。早く!」
「ああ」
「分かった」
アスナを先頭に、黒の剣士と黒騎士デジモンを連れて森の奥へと進んでいく。空では黒煙が手招きをするように渦巻いている。
爆心地に近づくにつれ、爆風の影響で森の木々が折れていた。重要な地点ではそれなりの数のモンスターが生息してるのがセオリーだが、爆発に巻き込まれたのか、姿は一切見えない。その光景から爆発の威力が伺える。
「誰かいるかー!」
「血盟騎士団のアスナです! 助けに来ました」
「いたら返事をしてくれ」
万が一を考えて、キリトたちは叫びながら進んでいった。しばらくして、二人と一体の前に巨大なクレーターが姿を現した。おそらく、ここが爆発の中心だろう。
相手がデジモンであろうが、プレイヤーであろうが、モンスターであろうが、誰かと戦闘にならなければ攻撃はしないし、爆発も生まれない。キリトはクレーターの近くに、クレーターを作った本人とその被害者がいると推理する。そして、実際にクレーターの中心に倒れている人影を見た。裏付けるようにマップにはクレーターの中心にプレイヤーを示すマークがある。
煙の中、目を凝らしてみてみると、白いマントと白い甲冑、両手には黄色と青の見たことの無い形の武器が装備してあった。そして、大きさがアルファモンに匹敵するほど大きい。おそらくプレイヤーのデータを基にしたデジモンだろう。
彼が被害者だった場合はともかく、クレーターを作った本人ならキリトを敵だと判断し、敵対する可能性もある。その強さは爆発が物語っている。アルファモン、アスナという強力な仲間はいるが、相手がデジモンであることがほぼ確定。さらに究極体の可能性がある以上、戦闘は避けたい。
ソロで培った危険信号が赤へと変わり、安全に捜索するすべきだと結論を出した。だが、キリトの赤信号を無視して突っ走った人物がいる。
「アスナ待て! ソイツは敵かもしれないんだぞ」
「でも、だからって傷ついている人を見捨てられないよ。たとえデジモンでも」
ソロで戦っていたキリトに対し、アスナはギルドのサブリーダーとして戦っていた。ゆえに、誰かがピンチだったら助けるのが普通になっている。たとえそれが敵対する可能性があるデジモンであったとしても。
「キリト、賽は投げられた。あとは吉と出るか凶と出るか。戦いの準備はしておけ」
「ああ。その時は頼むぞ、アルファモン」
万が一を考えてキリトとアルファモンが戦闘態勢に入る。煙が晴れるとアスナがデジモンを起こそうと奮闘するが、装備重さから動かせないと判断したようで、回復効果のある結晶を取り出した。淡い緑色の光りが白いデジモンを照らし、傷を癒していく。
ダメージ回復のエフェクトと共に、白いデジモンが目を開いた。
「……美しい」
アスナに抱きかかえられる形で目を覚ますデジモン。寝ぼけているのか、不意に出た言葉にアスナが赤面する。そして、完全に覚醒したようで。
「すまない、助けてもらったのに変なことを言ってしまった」
一体のデジモンから二つの声がハモって聞こえてくる。だが、人格は一つで敵意は無さそうだ。白いデジモンは立ち上がると、アスナに対して深くお辞儀をする。
「この辺りでデジモンが暴れていて、それを抑えたのはいいが、後ろから不意打ちを食らってこのざまだ。改めてお礼を言おう、ありがとう」
「無事で良かったです。私はアスナ、ところであなたのお名前は?」
無事だと分かって安堵し、微笑む少女。敵意が無いことをキリトとアルファモンも確認し、駆け寄ってくる。二人と一体を前に、甲冑姿にマントを羽織った白騎士のデジモンが名乗る。
「私はオメガモン。デジタルワールドの平和を守るロイヤルナイツの一人だ」