アスナの助けたデジモンはオメガモンと名乗った。白い甲冑、白に裏地が赤のマント、10頭身ほどありそうなロボットのような見た目。手に装備してある武器が異様な点を除けばアルファモンの対になるようなデジモンだった。オメガモンは翡翠色の瞳で二人と一体を見渡した。
人間二人はロイヤルナイツという単語はピンとこないようだが、デジモンのアルファモンは驚きで目を見開いていた。
「初めまして、オメガモン。私はアルファモン、君と同じデジモンだ。訳あって、キリトとアスナと一緒に行動している」
「……アルファモン?」
アルファモンが自己紹介をすませると、オメガモンは何かが引っかかったのか首を傾げた。腕を組んで考えている彼をよそにアルファモンが置いてけぼりの二人に解説する。
「ロイヤルナイツのオメガモン。ウォーグレイモンとメタルガルルモンという二体の究極体デジモンが合体して誕生した、究極体デジモンの中でも最強クラスのデジモンだ」
アルファモンの解説を受けておぼろげながらも強さを実感したのか、キリトとアスナは仲良く驚いた。そして、それと同時に疑問が生まれる。
「オメガモンって言ったな。俺はキリト。このゲーム、SAOのプレイヤーだ。質問なんだが、デジモンの中でも最強と呼ばれたオメガモンがどうしてクレーターの中で気を失っていたんだ?」
キリトの疑問にオメガモンは考え事を止めて話始めた。
「そうだ。その事について説明しなければ。本来,この場所はこのゲームで重要なモンスターがいたんだ。どうやらここにいるモンスターの中で一番強いモンスターの仲間だという情報が入って、どうやらそれがおかしな挙動をすると聞いて駆けつけたんだ」
「キリト君、一番強いモンスターって中ボスの事じゃ」
「かもな」
キリトとアスナが探していたモンスターだ。おそらく76層のボスの攻略情報をもっている個体だろう。
「そのモンスターにデジモンが合体してしまった。生まれたデジモンが街へと飛び立とうとしていたから、この場に押さえつけていたんだ」
「……負けてしまった。と」
「うむ、正確には戦闘中に味方らしきデジモンが急に乱入してきて不意打ちを食らった。私はSAOのプレイヤーデータを基にしているとはいえ、強さにはそこそこの自信があったんだが……相手の方が一枚上手だったな」
オメガモンに大ケガを負わせたデジモンの存在を知って、動揺が生まれる。危機感を持ちながらキリトが訊ねた。
「それで、そのデジモンは今どこにいる」
「すまない、見失ってしまった。……この階層のどこかにいると思う」
「オメガモン、名前は分かるか?」
「一体はインフェルモン。森にいたモンスターが変化したデジモンだ。そして、もう一体、私を不意打ちしたデジモンだが……」
アルファモンの言葉にオメガモンがうなずいた。
別の敵と戦闘中だったとはいえ、オメガモンを出し抜くデジモン。そして、そのデジモンが今もなおこの76層に存在するという事実。そのデジモンの名をオメガモンが言った。
「リリスモン。我々ロイヤルナイツが正義の味方だとしたら、その反対に位置するデジモン。七大魔王の一人だ」
従来のボスに加えて、七大魔王の登場にSAOの攻略はさらに難航するかもしれない。
大魔王という響きから、キリト達は新たな犠牲者が出ないことをひたすら祈るのだった。
リリスモンという強敵が現れたが、これから忙しくなりそうだが、この森でやることはなくなった。キリトたちは一度≪アークソフィア≫へと帰還し、他の攻略組との情報共有、情報整理を始める。
ひとまず、リリスモンという強敵が出現したことを流すと、キリト達はとある店の前にいた。この店の店主はキリトと同じ攻略組のプレイヤーで、キリトの数少ない知り合いでもある。
彼の名前はエギル。筋肉隆々、スキンヘッドのプレイヤーだ。76層に来る前からエギルは質屋を経営していたが、下層に降りれなくなってから新しくオープンしたのがこのお店。今回は質屋の他にカフェとしても営業するらしい。そしてエギルはバグによって下の階層に戻れなくなったキリトとアスナに二階の個室を与えてくれた人物でもある。
彼が新規開店したカフェは壁は白い石でできており、木製のテーブルやイスが並べられたお洒落なカフェ。このカフェの雰囲気に似合いそうもない人物がいるとしたら店主になる。
エギルはオメガモンの大きさに驚いていたが、事情を話すと快く店内に入れてくれた。案内された席はイスが二つ、三人掛けのソファーが一つと5人用の席だ。キリトとアスナはソファーに腰掛け、お留守番をしていたユイが二人の間に収まる。アルファモンは例の金髪美女の姿になり、イスに座って足を組んでいた。オメガモンだが、空いたイスに座ろうとしたところ、重さに耐えかねてイスを破壊。
アルファモンが人間の姿になったらと勧めたところ。
「それも考えたが、オメガモンとしてこの世界を見てみたい。だから人間の姿にはなりたくない」
とのこと。仕方ないので、隣のテーブルを持ってきてそこへ座ってもらう。背中を丸め、膝を抱える。それでも天井に頭をぶつけそうだ。こうして、イスが一つ破壊されてしまったものの、無事会議が始まる。……エギルは泣いていた。
注文していたコーヒーが二人と二体の前に出され、ユイがジュースのストローを咥えたとき、アルファモンが口火を切った。
「さて、オメガモン。リリスモンとインフェルモンについて彼らに教えてあげてほしい。この世界に関しては私たちよりも詳しいが、デジモンの知識は0に等しいからね」
「インフェルモンは完全体だがデータを食べて成長、進化する性質がある。だから放っておくのは危険なデジモンだ」
「いつ聞いても厄介なデジモンだな。さらに、完全体とはいえ、元にしたデータが中ボスなら強敵になっている可能性も否定できない」
アルファモンは腕を組んで唸っている。見た目がクールな印象の金髪美女だけあって、その姿は絵になる。アスナが彼女? のシャツを引っ張った。
「それでアルファモン、インフェルモンはどんな攻撃をするの?」
「赤と白のピーナッツのような身体から手足が生えているデジモン。口から銃口みたいなのを出しての砲撃。また、手足を亀のように引っ込めて防御形態をとり、そこから突進攻撃。遠距離攻撃があるとはいえ、相手側から近づいてくれる分、君たちにとって戦いやすいだろう」
インフェルモン自体は完全体、オメガモンやアルファモンと1ランク下のデジモンだ。しかし、データを食べて成長する特徴がある以上、SAOのデータを食らって究極体へと進化する可能性だって否定できない。インフェルモンでいるうちはアスナにとって戦いやすい相手であっても、究極体になったら天敵になってしまう危険性がある。
「問題はリリスモンだ。アイツの攻撃方法は完全に遠距離。懐に潜り込めれば勝機はあるが……」
オメガモンも懸念している。
ラプタードラモン、インフェルモン、アルファモン。この三体の攻撃方法は遠距離の他に接近戦もできる。しかし、リリスモンは完全に遠距離特化。RPGで言うところの魔法使いや魔術師に当てはまる。その分、防御力は低いが、近づくことが最も難しい相手と言える。
「マズいな。俺もそうだが、SAOのプレイヤーはみんな魔法攻撃になれていない。下手に喧嘩を売ったら、それこそ死人が出るぞ」
人間の歴史は戦いの歴史と言われるが、最初は剣が発展し、弓、銃と遠距離武器が開発されている。一般的に考えて、遠距離武器が強い。リリスモンと戦うということはマシンガンを持った相手に剣で突っ込んでいくようなものだ。そして、極めつけが。
「リリスモンの必殺技に≪ファントムペイン≫というものがある。これももちろん遠距離攻撃なんだが……防御力貫通、攻撃だ」
「鎧が意味をなさないって事ね」
オメガモンの情報にアスナが険しい表情を浮かべる。それもそのはず、防御力貫通とは相手の防御力を無視してダメージを与えるというもの。ロイヤルナイツと呼ばれるオメガモンの装甲ですら意味をなさない。もし、SAOプレイヤーが食らったとしたら耐えて一発。二発目をもらったら確実にゲームオーバーだ。
「だったら、アルファモンとオメガモンがリリスモンと戦って、俺たちプレイヤーがインフェルモンを倒す。っていうのはどうだろう」
キリトの言う通り、ここには二体のデジモンがいる。キリト達とリリスモンの相性が悪いなら、オメガモン達に任せるという方法だってある。そもそも敵の弱点や戦法に対して有利な装備や作戦を立てて戦ってこその攻略だ。
「そうしてくれると助かる。しかし、これは私たちデジモンの問題だ。君たちを巻き込んでしまっていいのか?」
「もちろんだよ、オメガモン。これから私たちはパーティだよ。パーティメンバーが苦戦していて困っていたら助けるのは基本だもん」
「ああ、それにインフェルモンが76層のボスの情報をもっていなら、どのみち俺たちが倒す必要があるからな。俺からしても都合がいい」
難色を示すオメガモンの武器をアスナが握りしめた。それと同時にオメガモンに『パーティを組みますか?』とウインドウが表示される。
「ありがとう」
オメガモンは『YES』を選んだ。
「ところで、オメガモンってどうしてこのSAOに来たの?」
「イグドラシルから命令を受けたんだ」
新しい単語にキリトたちが首を傾げていると、アルファモンが口を挟んだ。
「イグドラシルというのは、デジタルワールドの運営や維持、管理を行っている神みたいなもの。この世界で例えるなら、カーディナルと同じ。と言えばわかりやすいか」
「命令は、SAOという電脳空間にデジモン達が侵入しつつある。その中心に暗黒デジモンがいる。ヤツを倒してSAOの世界とデジタルワールドに平和をもたらせ。というものだった」
「暗黒デジモンって、リリスモンだよな」
「七大魔王の一角だ。可能性はある」
アルファモンやオメガモンが追って来た暗黒デジモンがリリスモンだとしたら話し早い。元凶となるリリスモンを倒すことで、SAOにデジモンが侵入しなくなるかもしれない。
デジモンとの生活に慣れてきたところだが、今後リリスモンやオメガモンより強いデジモンが現れないとは限らない。そうなれば、攻略以外で犠牲者が出てしまう。その分ボス攻略も難航するだろう。
「そしたら……オメガモンやアルファモンとはお別れだよね」
「短い間だったけど、私は君たちと会えて良かったよ」
「私もだ。アスナに会えていなければ、リリスモンに倒されていたかもしれない」
「デジモンたちが去ったら、またお家に帰れるんでしょうか?」
ユイが首を傾げた。
アルファモンやオメガモンと別れることは戦力ダウンだが、下の階層に戻れることや今後の強いデジモンが現れる可能性を考えても、デジモンを元の世界に戻した方がいいだろう。
「ところで、アルファモン。さっきから何やってるんだ?」
「これかい? コーヒーというものにミルクを入れると美味しくなるって聞いてね」
アルファモンの周りには、ミルクとガムシロのカップが2ダースほど散乱していた。これを1つのコーヒーに注ぎ込んだらしい。
「うむ……美味しい。が、イマイチパンチが足りないな。なんというか、普通の域を脱していない」
アルファモン(人間態)はテーブルの上にある、黒い液体が入ったビンに細くて綺麗な指を伸ばした。
ソースのような醤油のようなソレを掴むと、なんの躊躇いもなくコーヒーカップにぶち込んだ。コーヒーカップからギリギリ溢れないところで止めると、ゆっくりとかき混ぜてそのままカップを口につける。
ゲテモノが誕生した。キリトとアスナが確信する。小学生の遠足や給食の時に、お茶、牛乳、水、スポーツドリンクなど液体をとりあえずミックスさせたような暗黒物質。
明らかにマズいであろうそれを、アルファモンはクピっと一口飲んで、目を見開いた。
「美味しい。そうだ、私はこの独特の味を楽しみたかった。コーヒーとミルク、ガムシロ、そして、謎の黒い液体。これらを感覚で混ぜた時にしか出来ないブレンド。この一期一会とも言える味に万感の想いを込めて、乾杯」
嬉しそうにカップを傾ける。人間二人はアルファモンの味覚がバグったと引いていたが、オメガモンだけは違った。
「アルファモン、私も頂きたい」
「ふむ、量に限りがあるから飲み干したかったが……同じデジモンのよしみだ。一口だけだぞ」
「ありがとう」
オメガモンはカップを受け取ると、ウォーグレイモンを模した腕で器用に取手を挟み、そのまま飲み始めた。
「オメガモン止めて! 怪我が回復したばかりのあなたが飲んでいいものじゃない」
アスナが止めに入る。しかし、遅かった。ダークマターの影響か、オメガモンの目が消えた。やはり、毒だったのだろうか。アスナが顔を伏せた時、白い騎士が叫んだ。
「素晴らしい! このような飲み物は初めてだ。コーヒーの苦味、ガムシロの甘さ、謎の液体の謎の辛さ。そして、それらを優しく包み込むマイルドなミルク。
……偶然ではない。これは神が作り出した至高の一杯だ。ああ、二度と飲めないのが嘆かわしいほどに。ありがとう、アルファモン」
「こちらこそ、この味を分かり合える同士がいて光栄に思う」
オメガモンが感極まって立ち上がったその時だった。ドゴッ!
「あ」
「やってしまったな」
天井に頭をぶつけ、甲冑の角が突き刺さっている。最強クラスのデジモンはしばらくモゾモゾ動いていたが、悟ったのか。
「すまない、アスナ、キリト。抜けなくなってしまった」
「……待ってろ、引っ張ってやるから」
キリトとアスナがオメガモンの腕を引っ張って、角が抜ける。天井には穴が開き、二階の床も貫通している。……エギルが泣いた。
「さて、お会計済ませて、街へ行くか」
「そうだね、ユイちゃんも一緒にピクニックだね」
「わーい、みんなでお出かけです」
ピクニックに出かけるには日は傾いている。だが、この際関係ないだろう。店主の視線を感じてキリト達は逃げ出した。
さて、アルファモンのコーヒーだが、後日キリトが気になって試したところ、自室で一日寝込む羽目になったということを付けて加えておく。
ストック少なくなったんで、投稿のスペースさげます。