SAO~インフィニティ・ドリーム~   作:破壊光線

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 さて、このssもテーマとなる部分に突入しました。
 少々短いですが、お楽しみいただけると幸いです。


リアルとゲーム

 オメガモンがエギルの店の天井に穴を空けてしまい、それが新規開店したばかりとのこともあって、いたたまれなくなったキリト達。逃げるようにお会計をすませると、涙目の店主と目を合わせることも無く店を後にした。

 外に出ると日が沈みはじめ、AIとはいえユイを連れて夜のフィールドを探索するのも気が引ける。かといって、エギルの店に戻って寝るのは問題外。結局、今晩だけは新しく別の宿に泊まるとになった。

 

 宿を探しながらオメガモンに≪アークソフィア≫を案内する。その途中で他のプレイヤーたちにリリスモンの情報を聞いて回った。いくら≪アークソフィア≫が広いといえど、デジモン二体と人間三人を泊められる大きさの部屋はなかなか見つからず、時間帯も加わって宿探しは難航していた。

 そうこうしているうちに、ユイが眠ってしまった。キリトがスゥスゥと寝息を立てるユイをおんぶして、アスナがユイの頭を撫でながら歩く。その後ろにデジモン二体が付いていった。

 

「なあ、アルファモン」

「どうしたオメガモン」

 

 仲睦まじいキリト達を見て、オメガモンがアルファモンに話しかけた。

 

「あの三人はどういう関係なんだ?」

「夫婦だ」

「夫婦!?」

 

 ガチャリと白い鎧が音を立てた。

 

「ま、待ってくれ。あんなに若いのに結婚しているのか? ハッ! ユイは……二人の子供」

 

 実はオメガモン、キリト達と話し合いはしたものの、リリスモンやコーヒーに気をとられてユイの事をよく知らない。

 

「うむ、どうやらそうらしい。私の情報とユイ君の見た目から判断すると八歳くらいだろう」

「……つ、つまりキリトとアスナは8年、9年前から知り合ってユイを」

「そういうことになるな」

 

 冷静に前を向いて歩くアルファモンと、対照的に動揺を隠せずアタフタしているオメガモン。次第にキリト達と距離は開いていた。

 

「な、ならアスナは何歳になるんだ?」

「うむ、見た目からして……15歳だろう」

「15!? 待ってくれ。そしたらユイはアスナが7歳のときに……」

「そうなるな。……いや、彼らにとって、この世界はゲームだ。アスナが見た目よりも歳をとっている可能性がある。2018年のデータによると人間の平均年齢は29歳らしい」

「アルファモン、そしたらアスナの年齢は30後半というわけか」

「オメガモン。これからは呼び捨てではなく、アスナ“さん”とお呼びしよう」

「キリトはどうなんだ? 同い年か? 年下か? もしかしたら半世紀生きている可能性もあるのか。これからはキリトにも“さん”付けしなくてはいけなくなったか」

 

 オメガモンは腕組みをしながら街を歩いていく。対してアルファモンの表情は緩んでいた。デジモン達の雑談にオチが付くと、アスナたちが大きな建物の前で止まった。

 

「オメガモン、アルファモン。今晩はこの宿で寝るよ」

「はい、かしこまりました。アスナさん」

「えっ……えぇ、いきなりどうしたの」

 

 突然かしこまったオメガモンに、アスナは困惑する。アルファモンは……となりで噴き出していた。

 

 

 

 エギルの店と違って、大理石でつくられた内部。天井には豪華なシャンデリアが吊るされており、床にはレッドカーペットが敷かれている。RPGゲームで登場する城のような宿だった。NPCもかっちりとしたフォーマルな格好だった。SAOプレイヤーのデータを基にしたためか、オメガモン達はNPC達にスルーされた。

 キリト達は執事のような姿のNPCに案内され、借りた二部屋に通された。オメガモンが立っても天井に頭が付かないほどの大きな部屋だ。豪華な装飾が施された椅子や、分厚いクッション。高そうなテーブルが備え付けられた部屋だった。

 

 キリトとアスナははじめにベッドカーテンのついた巨大なベッドにユイを寝かせる。スゥスゥ寝息を立てるユイに手触りのよい毛布を被せた。

 オメガモンもアルファモンも隣の部屋にいる。ユイは夢の中。アスナたちの他に泊っているプレイヤーはいないみたいだ。完全に二人っきり。

 

 アスナは装備を解除して、ゆったりとしたワンピースに着替えた。キリトも冒険で使うアーマーを脱いで、リラックスできる、文字通りの服に着替える。

 それから二人はユイを起こさないように、ランタンを灯りを消してロウソクを灯す。小さな炎が放つ優しい、橙色の光りに照らされてアスナがキリトの手に触れた。

 

「ねえ、キリト君」

「どうしたアスナ」

 

 アスナはすがるようにキリトの手を握りしめると、ポツポツと言葉を漏らしていく。

 

「私ね、団長を……茅場晶彦を倒した後、帰れるって思ってた。帰って、現実世界でキリト君と会うんだって思ってた。でも、今もまだSAOの中にいる。それどころかデジモンっていう敵だか味方だか分からないモンスターも現れた。下位層には行けなくなっちゃうし……」

「大丈夫だよ。クラインやエギル、攻略組の皆だっている。オメガモンやアルファモンはデジモンの中でも最強なんだ。そんな奴らに囲まれて、攻略できないはずはないさ。SAOのラスボスに閃光と二刀流の強さを見せて付けてやろうぜ」

 

 おどけて笑うキリトを見て、幾分か安心したのか表情が砕けている。何かが引っかかったのか、アスナの表情はまた暗くなった。

 

「うん。……でもね、一つ気になったことがあって。アルファモンたちが言ってたんだ。私とキリト君は何歳なのかって。オメガモンなんかユイちゃんが居るから私の年齢は30歳後半だって、笑っちゃうよね。

 でも、でもね。SAOの攻略がはじまって2年が経った。それって、私たち学生からすればものすごく長い年月だと思うの。幼稚園を卒業した子が小学2年生になって、中学2年生は高校生になっている。高校生は大学生に。大学4年生だった人は社会人だよ。私だってSAOにいなかったら大学受験に必死だもん。

 今、こうしてキリト君と話している私はSAOを始めた2年前の私。たぶん、病院のベッドの上で眠っていると思うけど、身体にも何かしらの変化があると思う。髪の長さとかね。もし、黒騎士のアルファモンが金髪の女性になったみたいに、私のアバターと現実の私が比べ物にならないほど変化していたら……それでもキリト君は私を好きでいてくれる?」

 

 アスナはすがるようにキリトを見つめた。パートナーからは呆れかえるほどに簡単な返事が来た。

 

「もちろんだよ。血盟騎士団の副団長としてのアスナも、閃光のアスナも、俺を支えてくれるアスナも、オバケが苦手なアスナも大好きだ」

「……も、もう。そんなに真面目な顔して言わないでよ。はずかしい」

 

 アスナは恥ずかしい言葉に赤面する。キリトも思い返して恥ずかしくなったのか、顔をそらしてしまった。

 

「今日は寝る!」

 

 耐え切れなくなったアスナが毛布をかぶった。話し相手がいなくなったキリトも横になる。ロウソクの明かりも消えて、部屋が真っ暗になる。しかし、≪索敵≫スキルを鍛えた二人は暗闇でも問題なく見えた。だからこそ、お互いの顔が分からないように、背を向けて寝ている。

 しかし、二人の間に挟まれたユイが、幸せそうに寝ていることからも、キリトとアスナの仲の良さは誰が見ても分かるだろう。

 寝ると宣言したものの、目はさえているのか、アスナの声が暗闇に響く。

 

「ねえ、現実ではどうなってると思う?」

「さあな、意外と騒がれてなかったりして」

「……ショックだなぁ」

「ホント。デスゲームだけでも満腹なのに、デジモンまでやってきた。ステーキ食べて一息ついたと思ったら、ハンバーグのお代わりが出てきた気分だ」

「ふふ、でも食いしん坊のキリト君ならペロッと食べれちゃうかも」

「んー、美味しかったらいけなくもない」

 

 あの時食った≪ラグー・ラビット≫は美味かったな。

 キリトは以前アスナと食べた料理を思い出していた。アスナは呑気な旦那を可愛いと思いつつ目を瞑り、現実世界の事を考える。もし、ヒースクリフこと茅場晶彦を倒して、現実世界に帰れたらどうなっていたかと。

 

 アスナとSAOの出会いは偶然によるものだった。大学に進学するため、勉強に勤しんでいた。全てはアスナの親を喜ばせるために。そんな中、アスナの兄が買ってきたのがソードアート・オンライン。兄は急な予定が入って、サービス初日にログインできなかった。ほんの出来心からアスナがSAOにログインした結果、デスゲームとなってしまったが。

 

 もし、アスナがSAOから戻ってきたら親は何て言うだろうか。6千人のプレイヤーを救った英雄だと褒めてくれるだろうか。それとも、大学入試について説教されるだろうか。色んなことを考える。だが、少なくともSAOについて、良い印象は持ってないだろう。ならば、SAOで出会ったキリトの事は何て思うだろうか。

 

「……っ!」

 

 アスナが目を開く。明かりも消えて、現実なら何も見えない。しかし、≪索敵≫スキルが発動しているため、オブジェクトの輪郭がくっきりと見える。寝返りをうったらキリトやユイの表情も見えるだろう。

 

 一度別れても母だと慕ってくれたユイ。どれだけ変わっても、好きでいてくれると言ったキリト。アスナもどんなキリトやユイでも愛する自信があった。それはゲームの中でもリアルでも変わらないと言い張れる。しかし、現実世界に戻った時、周りの人間がどう思うかなど考えていなかった。

 

 

 寝よう。

 

 アスナは現実から逃げるように目を閉じる。SAOはゲームの世界なだけあって、揺り籠としてアスナを優しく包み込んだ。データでできた肉体に居心地の良さを感じつつ、夢の世界へと落ちていく。そこにはアスナを非難する人や、アスナを閉じ込めるようなものは一切ない。”ステキナセカイ”だった。

 

 

 

 アスナはいつの間にか眠ってしまい、元から寝つきのいいキリトはぐっすりと眠った。朝になって、ユイが起こしても二人は起きず、アルファモンたちを呼んでユイが戻ってきたら、キリトとアスナが抱き合って爆睡中。

 結局、抱き合いつつも爆睡した二人は昼になってようやく起きだし、まどろんでいるところに、アルファモンの一言。

 

「ゆうべはお楽しみだったようだね」

 

 爆弾発言と同時に飛び起きた。ささやき声だというのに、二人が知っているどんな目覚まし時計よりも効果があった。

 ユイとデジモンを追い出して、いつもの装備に着替えたキリト。アスナは彼の横顔を呆然と眺めていた。

 

 茅場晶彦というラスボスを倒したキリトに対して、アスナ自身はどれほどの功績を上げただろうか。最愛の人が死闘に身を投じる中、自分はマヒ毒に侵されてただ傍観していただけだ。

 SAOの英雄は自分ではなくキリト。はたして、アスナはキリトの隣に立つのにふさわしい人物なのだろうか。

 

「なあアスナ、どうした。なんか、心ここにあらずって感じだけど」

「……あ、ううん。何でもないよ、何でも」

「大丈夫か? 早く着替えて、攻略に行こうぜ。天気がいいし、外に出たらきっと気持ちいよ」

 

 キリトは背伸びをすると、廊下を歩いていく。いつもと変わらない光景。だというのに、アスナの脳裏に一抹の不安がよぎる。

 

「……キリト君」

 

 すきま風のように漏れたアスナの声は、キリトに届かず消えていく。バン、鉄で作られた扉が閉められる。キリトが居なくなった部屋で、一人残されたアスナ。その先に続くはずだった不安は、誰にも伝わることなく、アスナの心に飲み込まれていった。




 次回、七大魔王が登場します。
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