SAO~インフィニティ・ドリーム~   作:破壊光線

8 / 16
リリスモン

 昼食をとって宿を後にすると、一度エギルに謝って、ユイをお留守番させる。それから二人と二体は76層のどこかにいるリリスモンの手がかりを探していた。この前の森にたどり着いた時、森の中から悲鳴が聞こえてきた。

 

「キリト君!」

「行こう、アスナ」

 

 緊急事態だと判断し、森の中を突き進む。森の中はこの前と違って、アルファモンが感動したようなきれいなグラフィックは、無残にも青いポリゴンがむき出しになっていた。

 

「……デジモンか」

「インフェルモンが食べた。と考えてよさそうだな」

 

 オメガモンが推測する。仮想世界、データで出来ている世界だからこそ、データを食べるインフェルモンにとってSAOは絶好の餌場だ。

 

「アスナさん、この近くにインフェルモンがいます」

「……わ、分かったわ」

 

 警戒するアスナたちに木が倒れてきた。青々と茂った葉は食い荒らされており、ポリゴンがむき出しになっている。そして、木を倒したと思われる犯人が現れた。

 赤と白の繭のような身体。そこからコードがからまってできたような手足が伸びている。表情の読み取れない顔は機械のように動き、アスナを捕らえていた。そして、口を開きバルカン砲を出現させる。

 

「インフェルモンだ」

 

 一連の動きから敵意を感じ取ったオメガモンは、腕からグレイソードを出して切り込んだ。いくらインフェルモンが遠距離攻撃を扱えようと、完全体と究極体。力の差は歴然。攻撃をかわして紅白の胴体をぶった切る。さらに、キリト、アルファモンと続き、インフェルモンを倒した。

 その他のモブを倒したときと同じ処理が入り、オメガモン達の勝利を祝うファンファーレが鳴った。だというのに、キリト達の表情は暗い。

 

「いきなり攻撃してくるとは……」

「インフェルモンと出会えば戦闘は避けられない。完全体とはいえ、危険な相手だな」

 

 遭遇したら戦闘必須のデジモンに、オメガモン達は頭を抱えた。

 

「……どうだった? キリト君。ボスの情報は手に入った?」

「うーん、経験値やお金はゲットしたが、ボスの情報は未解禁のままだ」

 

 キリトはメッセージウインドウと睨めっこしている。もし、このインフェルモンが76層のボスの情報を持っていたら、すぐにでもボス戦に挑もうと考えていたからだ。

 76層はリリスモンという七大魔王がいる。どこにいるのかは分からないし、目的も不明だ。しかし、情報もなく遭遇すればパーティ全滅する可能性がある。そんな相手と戦闘するより、76層のボスを倒して77層を新しい拠点にすれば安全だ。

 76層に出現するモンスターは、77層に出現しない。もし、リリスモンが76層にしか生息していないモンスターを基にしていたら77層に侵入できないだろう。77層でリリスモンの情報を収集、準備をしてから魔王討伐したところで遅くはないだろう。

 

「なんだこれ、≪インフェルモンの大盾≫」

 

 ドロップ品に見慣れないアイテムがある。装備してみると、キリト一人を隠すことができる大盾だった。色は赤と白、ひょうたんのような見た目の盾にインフェルモンらしき絵が描かれている。

 数値、効果ともにその辺の大盾と何の大差も無い。使えなくないことも無いが、代用はいくらでもある。デザインさえ気に入らなければ使う必要もないだろう。正直に言えば弱い。そんな性能だった。

 

 しかし、現在キリトは大盾というジャンルの装備品を持っていない。今までは装備する必要が無かったため、手に入れたものの全てを売っていた。しかし、デジモンが出現したからには戦法が変化するかもしれない。よって、持っていたら何かしらの役には立つだろうと、捨てることなくアイテムストレージの隅っこにしまうことにした。

 キリトが続けてマップウインドウを開いたら、敵のマーカーをしめす赤い点に囲まれている。

 

「アスナ、みんな。囲まれた」

 

 木々に隠れて敵の姿は見えないが、≪索敵≫スキルを使ったのか、アスナが知らせる。

 

「敵は……全部インフェルモンみたい」

 

 オメガモン、アルファモンともに武器を出し、緊張した空気が漂っている。葉のざわめきすら聞き取れるほど耳をすますと、再び悲鳴が聞こえてきた。

 

「アスナさん! キリトさん、ここは我々に任せて君たちはプレイヤーを探してください!」

 

 オメガモンが叫ぶと同時に、≪ガルルキャノン≫を放つ。森の中心部が凍てつき、氷の結晶が出来上がる。インフェルモンの包囲網に穴が開いた。インフェルモン達も、オメガモンを真っ先に倒さないとマズいと判断したようだ。彼らの眼中にキリトとアスナはいない。切り抜けるなら今がチャンスだ。キリトとアスナはお互い顔を見合わせる。

 

「ありがとう、オメガモン」

 

 二体のデジモンに対し、お礼を言うと走りだした。

 

 

 

 

 

 ウインドウを開いて、森の中を駆け回る。味方のアイコンとマップを頼りに進んでいくと、一人の男性プレイヤーがへたり込んでいた。二人は周囲を確認することなく駆け寄ると、反射的にHPを回復するクリスタルを使った。

 プレイヤーは落ち着きを取り戻したのか、キリト達にお礼を言う。彼が話しによると、女性のプレイヤーだと思って話しかけたら、デジモンで、戦いを挑んだらとんでもなく強かった。仲間たちを逃がすことには成功したが、何度も死にかけたと。

 そして、男性はキリトの後ろを指さして再び恐怖に支配される。

 

「あ、アイツだ。俺たちのパーティを一瞬にして壊滅させやがった。ソードスキルを使っても、金色の腕で鷲掴みにしてきやがる!」

 

 草を踏む音が聞こえ、何者かが近づいて来ることが分かる。キリトとアスナが恐る恐る振り向くと、ポリゴンと化したオブジェクトがならび、その中央を一人の女性が歩いていた。静まり返った世界に妖艶な女性の声が響く。

 

「わらわのインフェルモンを倒したのはうぬらかえ?」

 

 仮面や甲冑など付けずに、大人びた美貌の女性。年齢不詳の女は紫色の着物を着崩し、大胆に胸元と肩を露出させていた。着物の間からのぞかせている細い足は黒いタイツが放つ怪しい光によって扇情的に輝いている。右手は黄金の爪を装備し、頭にも金色の髪飾りを付けており、裕福な令嬢を思い起こさせた。わらわという一人称、着物と髪飾りを見る限り花魁をイメージしたプレイヤーだと思えるかもしれない。

 

 しかし、決定的に違う点がある。背中に悪魔の羽が生えていた。ワンポイントアイテムのはずの羽からは異様な空気が漂ってくる。今まで戦ってきたその辺の雑魚ではない。かつて、キリトとアスナが戦った74層のボス、グリームアイズと同じ、いや、それ以上の雰囲気。圧倒的強者が放つプレッシャーのようなものだった。

 歩いているだけなのに、その場の空気を支配する。ただならぬ雰囲気から、キリト達は察する。彼女こそオメガモンの探していた……。

 

「七大魔王、リリスモン」

「ほう、人間。わらわの名を知っておるとは、光栄じゃ」

 

 リリスモンが怪しく笑う。上品さと同時に背筋の凍るような冷たい笑みだった。息を飲むキリト達、トラウマを植え付けられた男性プレイヤーは一目散に逃げてしまう。

 リリスモンはさっきまで戦っていたというのに、興味の微塵もないようで、男性プレイヤーを見逃した。青いポリゴンが埋め尽くされた世界を見渡して、キリトが怒鳴った。

 

「どうしてSAOにこんな事をする」

「吠えるな人間。わらわは一度この世界を破壊し、デジモンたちが住みやすい世界につくり替える。第二のデジタルワールドをつくろうと思うのじゃ。良き案ではないか?」

 

 カッカッカと笑う魔王に対し、アスナが言った。

 

「何が、良き案。よ。」

 

 リリスモンは興味が失せたのか、急に不機嫌になると胸元から光るものを取り出して、ポリゴンとなった木に埋め込んだ。すると、さっきまで青かった木が光りを放つと、次の瞬間に自動販売機へと変わっていた。

 

「どうじゃ、少しはデジタルワールドっぽくなったじゃろ」

「すげえ」

 

 原理はアルファモンと同じ、SAOのデータを基にMODとして別のデータを乗せただけだし、キリト達にとってデジタルワールドがどんな場所かは分からない。だが、現実世界の自動販売機をあっという間に出現させた技術に、キリトは感心してしまった。

 

「そこの小僧は分かっておるようじゃな。この世界は憎たらしいほど綺麗じゃが、美しくない。生えている木も花も、生息しているモンスターも、貴様ら人間も。……そして、わらわを含むデジモンも」

 

 どこか悲しそうにリリスモンはうつむくと、黄金の爪をいじりながら話し始めた。

 

「わらわとて、この世界に来たばかりの時は感心したのもじゃ。人間の技術でこれほどまでにリアルな世界を創り上げた。とな。しかし、それもすぐに嘘だと知っての、見た目はどれほど立派でも、中身がない。

 同じ電脳空間でも、伝説にある子供たちは勇ましかった。勇気と共に強敵に挑み、友情を武器に抗い、愛情を叫んで奮起し、知恵を持って戦い征す……そして、美徳の中心に信頼があった。決して見えぬ、じゃが、確かにあった本物を持って戦った。別の世界の出来事を映像通して見たとはいえ、その1秒1秒に美しいと心が震えたものじゃ。

 なのに、この世界ときたらレベル、スキル、オブジェクト、モンスター、プレイヤー、あまつさえ涙まで。その全てにおいて、数値化され架空のモノときた。偽りのみがはびこるこの世界、悪夢のようで幻惑のような空間に、嫌気が刺したんじゃよ」

 

 黄金の爪で何かを掴むように手を動かすと、いったん口を閉じた。今度はキリトが口を開いた。

 

「だからといって、見た目だけ変えてもリリスモンの思い通りにはならないと思うけど」

「分かっておる。言ったはずじゃ、この世界をぶっ壊すと。デジタルワールドと同じくして、この世界にも≪カーディナル≫というデカいプログラムがあるそうな。

 それをインフェルモンたちの力でコントロールし、新世界を創ろうと思うての。今まであったレベルやスキルを破壊し、新たに世界を構築する。さすれば、少しは美しくなるじゃろて」

 

 世界を破壊すると宣言し、実際に成し遂げてしまいそうなデジモン。茅場晶彦という絶対的な管理者が居なくなったアインクラッド城など陥落するだろう。ゲームデータを破壊されてしまえば、どうなるのか。最悪の結末を予想しながら、アスナが問う。

 

「もし、もし、SAOが新しい世界に生まれ変わるとしたら、私たちはどうなるんですか?」

「知らん。ま、うぬらを構成するデータを破壊するんじゃ。無事ではいられないかのう」

 

 リリスモンもSAOのデータを元にしている。つまり、アスナ同様、リリスモンも無事では済まない可能性も存在する。だというのに、リリスモンは退屈そうにつぶやく。うつむいたままのデジモンは花火の散り際のような美しさがあった。だが、次には口を横に結び、口角を釣り上げ、終わりを語り嗜虐的に笑う。

 キリトとアスナはデータとは思えないリリスモンに対し、臆することなく宣言する。

 

「そんなことさない。私たちはこの世界で生きています。それに、この感情は本物です」

「俺たちが過ごした世界を壊させる訳にはいかない」

 

 キリトとアスナが剣を抜いた。二人で一本ずつ、二本の武器の切先はリリスモンに向けられた。武器を抜かれ、戦意を感じ取りながらもリリスモンは戦闘態勢をとらなかった。それどころか二人の言葉にリリスモンは目を丸くして驚くと、腹を抱えて笑いだす。

 

「カッカッカッカ、何を言い出すかと思えば。この世界で生きている。感情が本物。と、傑作じゃ。良かろう、この勝負しかと受け取った。桜が散るときも、花火が消えるときも、美しい光景とは一瞬。

 この偽りの世界で本物の美しさがあるというのなら、かの光景がわらわの凍えた心を熱くしたのなら、負けを認め、破壊活動をすぐに止めると約束する」

 

 リリスモンは一人納得すると目を閉じると、艶やかな唇が動きた。

 

「時に小僧と娘、名は何と申す」

「キリト」

「アスナ」

「うむ、しかと覚えた。キリトとアスナじゃな。退屈な世界かと思えば、面白くなりそうじゃ」

 

 リリスモンは満足そうに頷くと、キリトとアスナを見つめて不敵に笑う。

 

「安心せい。いずれ、わらわとうぬらは戦う。これは絶対じゃ、その時に見せてもらうとするかの」

―――貴様らが生きたという証をな―――

 

 二人の背筋が凍えつく。七大魔王にふさわしい、悪魔のような笑みだった。

 リリスモンは宣戦布告を終えると、翼を広げて飛び立った。彼女を追うようにあちこちからインフェルモンと思わしき物体が集まっていく。

 その様子を見上げるキリト達。二人のステータスなら跳躍すれば攻撃が届くだろう。しかし、リリスモンはインフェルモン軍団を支配下に置いているといった。オメガモン達と連携がとれない今、戦うべき相手ではない。

 

「キリト、アスナ、無事だったか」

「アルファモン、オメガモン!」

「リリスモンは……逃げてしまったか」

 

 アルファモンたちが合流した。その時にはすでにリリスモンたちは豆粒のように小さくなって、空の向こうに飛び立っていた。空を飛ぶ大魔王を視線でおいながら、姿が見えなくなると≪アークソフィア≫へと帰る。

 ≪アークソフィア≫へ戻ると、話題はリリスモンで持ち切りだった。




 みなさま、お分かりいただけましたか?
 リリスモンの考え方とキリト、アスナの考え方は違います。これが面白いと感じていただけたら、嬉しいです。シリアス、入ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。