モスティマさんといっしょ!!!   作:にゃんこぱん

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A year:十一月

「私は高校時代から聖堂に所属していました」

「……」

「エクシアがああ見えてとても信仰深いのはご存知でしょう。私はあの子に誇れる自分であるために、必死で努力して、高校生の時にラテラーノ聖堂の法王親衛隊に入隊しました。自分で言うのもなんですけど、正直私は天才でしたからね。あなたの感覚ではわかりづらいでしょうが、これってものすごく凄いことです」

「お前、何を言っている?」

「そして高校を卒業して、ラテラーノ国立大学法学部へ進学するよう指令が下されました。これが私の初の任務でした。とあるツノ付きのサンクタを監視するように。そして、必要であれば処理するように、と」

「ノエル。それ以上は何も言うな。もういい」

「そして、その任務は今でも続いています」

 

 

 

A year:十一月

 

 

 

 

国際トランスポーター資格の試験があった。

 

そりゃ流石に、俺だって努力はした。主に筆記試験に関してだが。スラム街程度の学力からここまでのし上がっていったんだ、まあまあキツかったぜ。

 

一応国際トランスポーターは一定の武力が求められる。俺は試験官をボコしてパスした。

 

最後は面接だった。

 

なんならここが一番鬼門だと思っていた。だってサルカズだぜ? いくら法王親衛隊に所属しているとはいえ、サルカズだぜ?

 

緊張を抑えてドアをノック。柄じゃないが、面接対策ってのは散々やった。マジで柄じゃないが、くだらないプライドで落ちるのだけは勘弁だった。

 

「失礼します──え?」

「やあ、いらっしゃい。座りなよ、アルク」

「……モスティマ。お前……なんで試験官なんてやってんだよ」

「人手が足りないのさ。それに、君の面接ってものをやってみたかったしね。言っておくけど、いくら君だからって手心は加えないよ?」

「お手柔らかに頼むぜ」

 

俺はパイプ椅子に座った。いくらか安心したのは事実だ。

 

「じゃあ面接を始めようか。まず最初の質問をしよう。君はなぜ、トランスポーターになりたいんだい?」

「そういや話したことはなかったな……。昔、トランスポーターの真似事をしたことがあった。一つ依頼を受けてな、ある人物に小物を渡すってだけの、簡単な依頼だった。受け取ったヤツから、どうしてトランスポーターの真似事なんてしてるんだって言われてな。そん時、意外と俺に合ってるんじゃないかって思った。それがきっかけだ」

「ふうん。そっか。じゃあ次の質問に行こうか。君はトランスポーターになって、何がしたいんだい?」

「実はな、いろいろな場所を見て回りたいと思ってる」

「それも初めて聞いたね」

「ああ。最近になって思うようになった。俺のいた世界はウルサスのちっぽけな片隅に過ぎないんだって、ここにきてようやく分かった。だから知りたいと思う。もっと、この世界に何があるのか、誰がいるのか」

「そうかい。あの子も連れて行くつもりかい?」

「フロストリーフのことか? まあそうだな、少なくともあいつがガキじゃなくなるまでは、面倒くらい見るつもりだ」

「本当に、まるで保護者だ。意外と似合っているかもしれないよ?」

「余計なお世話だ、全く……」

 

誰が保護者だ……と、言い返せない自分がいる。

 

「そうだ。私もね、トランスポーターになることにしたよ」

「……そうか。この前の収穫祭の時から分かっちゃいたが……お前、選んだんだな」

「まあね」

「エクシアには伝えたのか?」

「うーん、ちょっと機会がなくてね。きっとあの子は寂しがるだろうから、ちょっと言いづらいんだ」

「はは、お前も大変だな」

「全くだよ。私ともあろうものが、ちょっと憂鬱なんだ」

 

面接からほぼ雑談へと変わっていって数十分。ようやくモスティマが合否を判断した。

 

「ああ、面接は合格だよ。まあ、もともと落とす気なんてなかったけどね。これで君も正式にトランスポーターさ。おめでとう」

「……長かったな。約一年か」

「そうだね。長いようで、とても短かった気がするよ。歓迎しよう、アルク。これで君も私と同じさ」

「ああ、そうだな」

 

カードを受け取った。

 

資格証だ、ラテラーノの信用度からして、世界各国で通用するだろう。この一枚のカードのためにどれだけ苦労したか……。ノエルとモスティマに感謝だな。

 

「次は銃器協定かい?」

「ああ。ま、ちゃちゃっと取ってくるよ」

 

銃器協定の検定会場は、なんなら馴染み深い場所だ。法王親衛隊訓練所。俺が毎朝射撃訓練しているところ。

 

「はいはーい、次の方〜、ってアルクじゃん。何してるの?」

「エクシア……。お前、なんで試験官してんだ……ってさっきもこれやったな……」

「アルバイトだよ?」

「アルバイトかよ……」

「ノエル姉のコネで取ってもらったんだー! 安心して、審査に手心なんて加えないから!」

「お手柔らかに、な」

銃器協定は実技と書類審査だけ。書類審査はノエルがゴリ押してくれた。

 

残るは実技。

 

構えて、打つ。それだけだ。

 

「へえー! 人間、成長するものだね! 凄いじゃんアルク、あの下手くそがここまで上手になるなんて!」

「一言余計だな。ま、こんなもんだろ。まだお前の方が上手い」

「まあね!」

「けっ……。で、どうだ。合格か」

「もちろん合格だよ! おめでとうアルク」

「お前とノエルのおかげだよ。いろいろ助かった」

「え? ああ、ふーん……アルクってお礼言える人なんだったんだね」

「お前失礼だな……。まあもう少しで俺もここを去るし、区切りくらいはつけるさ」

「え? そうなの?」

「ああ。ラテラーノ銃型武器使用協定(こいつ)と国際トランスポーター資格を取れば、晴れて俺も一人前のトランスポーターだ。一箇所に留まる意味はなくなる。お前ともおさらばって訳だ」

「へえ、じゃあもうラテラーノを出てっちゃうの?」

「いいや……今年中は、まだここにいるつもりだ」

「どうして? もうここに用事はないんでしょ?」

「ま……一つ、依頼があるからな。それが終わるまでは、な」

 

そう。

 

一年ほど前ノエルにぶつけられた無理難題は、いつの間にか俺の中で依頼になっていた。一年間の契約だ。

今月を入れて二ヶ月。それが、残された期間。

 

と言っても、モスティマはもう十分変化したように思える。

 

だからあとは、結末を見届けるまでは、せめて──。

 

「ま、とにかくこれで合格ってことでいいか?」

「そうだね。パスカードの作成までちょっと待ってて。すぐ終わるから」

 

そして俺はカードを受け取った。

 

ようやく、ラテラーノに来た目的が果たせた。充実感があるな。これまでマジで長かった。

 

あとは、ノエルがどうするつもりなのか。それを見届けないと──。

 

「そっか、アルク出てっちゃうんだね。ちょっと寂しいかも」

「くく、そうか。まあ安心しろよ、別にノエルやモスティマがいなくなるわけじゃねえ」

「……? そんなの当たり前でしょ?」

 

ああ。当たり前のはずだ。

 

俺はなんて白々しいことを嘯いているのか。

 

だがそんなことこいつに言えはしない。モスティマはトランスポーターになると決めた。そしてノエルは──。

 

「まあ、俺は行くぞ。じゃあなエクシア」

「うん、またね! あ、今度パーティーしようよ、みんなでさ!」

「そうだな、悪くない。いつかやろうな」

 

その約束はおそらく果たされることはないと分かっていた。

 

分かっていが……。

 

だが、もし出来るなら、やりたいと思ったことは確かだ。

 

 

 

 

 

「そうだ。モスティマ、一応こいつを渡しとく」

「これは?」

「メルアドだ。トランスポーターになるんだろ? とあるペンギンが会社を興すらしくてな」

「ペンギン……まさか、ペンギン急便のことかい?」

「なんだそれ?」

「エンペラーが運送会社を立ち上げたって、界隈では有名だよ? あのエンペラーが、一体何のためにってさ」

「あのペンギンそんな有名なのかよ……」

「ということは、この連絡先は?」

「ペンギン──エンペラーだ。面白そうなヤツがいたら連絡しろって言われててな。お前とか、案外相性いいかもしれねえって思った。だからやる。いらなかったら捨てろ」

「私のために? ……ふうん、悪くないね。もらっておくよ、ありがとう」

「……ああ。ま、お前には貸しが山ほどあるしな」

 

コーヒーを一口含む。

 

昼間から暇とは、いい身分になったものだ。

 

「まだそんなこと覚えてたんだ。正直、私は忘れていたよ? 言わなくてもいいのに」

「俺は覚えてんだよ……。貸し借りってのは気持ちの問題だ、辻褄を合わせないとすっきりしない。そういうもんだろ」

「そういうものか。そういえば、君は今何をしているの?」

「お前と昼間っからこうやって話してる時点で察しろ。正直やることがなくて暇なんだよ。今までは資格に向けていろいろやってたからやることがあったが、それも全部終わっちまった。だからまあ、これから資金作りでもするかって感じなんだが……」

「そうなのかい? ああ、実は傭兵代わりに君を雇いたいってところがいくつかあってね」

「俺はトランスポーターだろうが。なんだって俺の情報が流れてる」

「この前の収穫祭、大した武装も無しに、一人で原理主義者の集団を制圧したって情報が何処かから漏れ出したみたいでね」

「あのな……あんな連中素人ばっかりだっただろ。そこまで誇れる話じゃない……が、仕事なら歓迎だ」

「へえ。なら紹介しておくよ──」

 

俺は仕事をゲットした!

 

やったね、正直フロストリーフの「こいつ仕事ねえのか」みたいな視線が痛かったぜ。だって法王親衛隊の方は任務の時しか用ないもんね。ほぼ独立みたいなことになってるし、俺もいつまでも訓練ばっかりじゃつまらないし。

 

俺は仕事先と簡単な条件を交渉し、その日を終えた。

 

で、また夜が来る。今日も今日とて、いつもの居酒屋だ。

 

「じゃ、乾杯」

「乾杯。やれやれ、今日も疲れたな」

「くく。ちゃんと生徒やってるようで何よりだ」

「アルク……。学校というものは、結構大変なんだ。いろいろやっていいこととダメなことがあるらしい。それを理解するまで、苦労した」

「そうか。何よりだよ、最近はお前の発作も落ち着いてきてるしな」

「……ふん、アルクはいつも私の心配ばかりだ。最近は無職のくせに」

「実は今日仕事をゲットしてきた。年末までは続けられるぜ」

「そうなのか? なんの仕事だ」

「傭兵」

「……やはり自称トランスポーターか」

「ちげえよ! トランスポーターの仕事は、年が明けたら始めるって決めてんだよ」

 

フロストリーフは安っぽいカクテルグラスを傾けた。こいつはガキのくせに度数の強いものを好む。生意気だぜ。

 

「それで傭兵? 私の役割なんだがな、それは」

「ま、俺も一時期は傭兵崩れみたいなことやってたし。安心しろ、お前にはちゃんと働いてもらう時が来るって」

「ならいいんだがな。そもそも一年ほど過ごしてきて、私たちが相棒らしく戦ったことって少なくないか。いつぞやの収穫祭の時も、アルクはあの女といろいろやっていたらしいじゃないか。私を除け者にしてな」

「……まさか俺もあんな時に襲われるなんて思っちゃいなかったんだって。……その目をやめろ、ほんとだって。なあ?」

「どうだかな。まあいいさ、どうせアルクの相棒は私だ」

「そうだよ。俺の相棒はお前だ、頼りにしてるって」

「ふふ。そうだ、もっと私を頼れ」

 

ガキは笑うことが増えた。俺も笑った。

 

「なあ、ここでの暮らしはどうだった?」

「どうした急に」

「いいや、もう一年近くラテラーノにいるだろ? 思えば変な話だと思ってな」

「まあ、そうだな……。私も、お前に拾われてからまさかこんなことになるなんて、想像もしていなかった。治安隊に連れて行かれたと思ったら、まさか治安隊そのものになるなんて想像できるか。顔には出していなかったが、訓練はそれなりにキツかったぞ、私も」

「お前ずっと平気そうな顔してたもんな」

「ああ。だが……悪くなかったな。三食きちんと食べられたし、寝床も悪くなかった。それに今では、”普通”の生活を送ることができている。……時々、不安になる。私がこんなに幸せでいいんだろうかって」

「いいんだよ。子供時代くらいは、幸せでいていい。それが普通ってヤツだ。何せ、大人はそう簡単に幸せになれねえからな」

「すぐそうやって子供扱いする。アルクはいつもそうだ」

「ああ。だって俺は子供じゃねえし。だが……お前と過ごした日々ってのも悪くなかったな」

「昔の話みたいに言うな。まだまだこれからが本番だろう」

「そうだな」

 

この日々が永遠に続けばいいと思っている。

 

だが永遠なんてない。

 

……ノエルは、一体どういうつもりなのか。鍵と錠は一体どうなった。モスティマの立場はどう変化していく?

 

「なあアルク。私は今幸せだよ」

「そうか。それは……よかったよ。よかった」

 

それでもこの一時は、この時間だけは。

 

全て失くしてしまうのなら、せめて覚えていよう。こいつの幸せそうな顔を覚えていよう。永遠などないのなら、せめてそれだけは。

 

 

 

 

「出なさい」

「……なんだ、もう判決が下ったのかい? それにしては早すぎるけど」

「出ろ、と言っています」

「はいはい、分かりましたよ」

 

エリエルは冷え切った声に肩を竦めた。そして独房を出る。

 

「付いてきなさい。ああ、最初に警告しておきますが、妙な気は起こさぬよう。あなたの命は、私が握っていると言っていい」

「僕にそんな気力があると思うかい? ……いいさ、どこへでも連れて行けばいい」

 

看守──では、なかった。その人物は看守ではない。もっと上の──。

 

「エリエル、と言いましたか。あなた、以前にアーツユニットの設計者をやっていたらしいですね」

「……調べたのか。さすが法王親衛隊、仕事が早い」

「そして研究者としても悪くない、と」

「親衛隊さん、僕に何かをさせるつもりかい」

 

ノエルはセキュリティーカードをかざしてドアを開けた。

 

「……鍵と錠? どうしてここに、これは聖堂にあったはず」

「過程などどうでもいいのです。あなたの仕事は、これをアーツユニットに組み込むこと。以上です」

「な……おい待ってくれ、判決は、僕の処遇はどうなる。それにアーツユニットだって? まさか兵器転用しようってのかい」

「質問は受け付けていません。必要なものがあればこちらの用紙に」

「……なるほどね。罪人で堕天使なら、都合よく使えるってわけだ。特に、表沙汰にしたくないような案件を進めるのに都合がいい」

 

ノエルは黙っていた。

 

「──腐ってる。何が治法国家だ、何が信仰心だ。ラテラーノの法ってのは、君たち軍部の一存で簡単にねじ曲がるのか。よくそれで堕天しないものだね。法王親衛隊が聞いて呆れるよ、何がエリートだ」

「何を言っていただいても構いません」

「ふん。よりによって僕が、貴様ら腐り切った親衛隊なんかに手を貸すとでも思っているのか。それなら自殺でもしたほうがマシだ」

「ふむ。ではこういうのはどうでしょうか」

 

ノエルが取り出したのは、一枚の写真だった。一人の女性が写っている。

 

「エルマ……!? どうして──、まさか僕を脅しているのか」

「月並みなセリフですがね。彼女、元妻なんでしょう? 離婚したとはいえ、彼女がまだ愛しくありませんか?」

「貴様らは……どこまで腐れば気が済むんだ……。親衛隊殿には、よほど強い正義があると見える」

 

サンクタ族が堕天する原因は、正確には自らの罪悪感に類似したストレスだ。それがないということは──この行為に、何も思うところがないということ。

 

「あなたにも悪い話ではありません。これは”彼女”への贈り物です」

「”彼女”……? まさか、モスティマさんのことか」

「ええ。彼女にふさわしいものを」

「……なぜ」

「彼女は無事、鍵と錠に適正を示しました、あなたの考察通りに。ですがそれでは足りなかった。鍵と錠は呼応するだけで、他に一切の反応を示さなかったのです。故に、幾らかの加工を加え、出力装置を作成する必要が出てきました」

「なんだって……。そうか、その状態は、表現するならばエンジンと外装のみの車と同じだ。動力があっても、それを伝えるためのギアなり歯車なりがなければ車は動かない……。それを作れて、なおかつ都合よく動かせる人材が僕ってわけか」

「その通り。物わかりのいい人は嫌いではありません」

「まだ、疑問が解消されていない。どうして彼女にそんなものを与えようとする。貴様らは何を企んでいる。……まさか、彼女を戦争の道具にでも利用しようとしているのか」

「そこまで答える理由はありません」

「じゃあ僕はここで舌でも噛み切って自殺でもするとしよう。……もう、疲れた」

「では、あなたの元妻も後を追わせることにしましょう」

「────。貴様は、貴様らは……どうしようもないほど、腐っている。下らない権力闘争に明け暮れて、この国を見ようとしない。今の世界のうねりを認識しない……。貴様らのようなクズどもが、いずれラテラーノを滅ぼすんだ」

「なんとでも、ご自由に」

「……クソ」

 

ノエルは諦めた様子のエリエルを見て微笑んだ。まるで天使のように。

 

全ては、ノエル自身の望みのために。

 

 




・ノエル
正体表したね

・エリエル
今回の被害者
過去にエンジニアだった。バツイチ
別れた妻のことはまだ大切に思っている

・エクシア
明らかに不憫枠
数年後にアップルパイしてる
お前がアップルパイになるんだよ!

・フロストリーフ
かわいすぎる。かわいすぎか?
自称傭兵のガキ。コーデ早くしろ

・モスティマさん
かわいい。ノエルの親友
トランスポーターになることを決めたらしい。
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