書くのが難しいこと以外は、とてもいいと思います。
長い長い因縁は、きっとどちらかが死ぬまで続く。
因縁というものはそういうものだ。
月明かりに影を落として
右に一体、左後ろに二人──。
ハンドガンを撃ちまくる。手足の先を狙う。殺さないように。
向かってくるなら上等だ、ハンドガンの柄で殴り、そのままぶん投げる。体術だ。
次のフロアへ。
「居たぞ! 殺せッ!」
「穏やかじゃねえな。悪いが大人しくしてくれねえか? 命までは取らねえよ」
「何をぬけぬけと! 貴様の仲間が我が同胞を殺し回っているのが見えないのかッ!」
「そりゃ……悪かったな。だが俺は殺すつもりなんてねえよ、大人しく投降してくれりゃ、少なくともここで死ぬことはねえ。本当だって」
「信じられるかッ! それに、こう考えはしないのか? 貴様はここで死ぬのだ、とな!」
「信じてもらえなくて残念だ。お前らじゃ、俺には勝てねえってのに」
マシンガンをぶっ放す。先手必勝だ。
マシンガンは手加減が難しい。つい殺しそうになるが、そこは頑張ってカバーする。
殺したくないのは、本当だった。
倒れたリーダー格の男の脳天に銃口を突きつける。
「……おのれ、おのれ……ッ!」
「悪いな、依頼なんだわ。……あれ、俺トランスポーターだよな。なんでこんなことやってんだろうな。まあいいか、大人しくしてりゃ俺はお前を殺さねえよ」
「クソ……殺せ、もう十分だろうッ!」
「悪いな。運がなかったってことだよ」
依頼主へ連絡する。カタがついた、と。
程なく、護送車が来て全員を連れて行くだろう。生きた奴も死んだ奴も。
背後に人が立っていた。
「殺しちゃいなよアルク。別に、構わないだろう?」
「生死不問だ。だったら、生きてた方がいいだろ」
「死んだって構わないさ。そんなヤツ、この世にはいくらだっているんだからね」
「ラップランド」
「本当、キミは不合理だねえ。ボクの目からしてみても、ちぐはぐだ。だって彼ら、どうせ殺されちゃうよ?」
言う通りだ。
──命の価値は、場所とそいつの立場によって異なる。
男たちの命の価値は、ひどく低い。もしも男たちが死んで誰か困る人間や、悲しむ人間が多かったのなら、話は違ったのかもしれないが。
「おのれ、おのれ……」
「キミたち、ずいぶん暴れてたんだってねえ。アハハ、殺してるのに殺されないなんて、そんな都合のいい話はないだろう?」
ラップランドが嘲笑った。地べたにくたばるアリでも見るように、見下した。
いや。こいつは人を見下しはしない。そんな簡単な言葉で表せるような、普通のヤツじゃない。
「……だからだよ。殺してりゃ、いつか殺される。ラップランド、お前も例外じゃない」
「ボクが誰かに殺されるって? アハハ……面白い冗談だ。誰もボクを殺すことは出来ないのさ。だって、みんなボクに殺されたんだからね」
「今まではそうだったんだろう。誰だってそうだ、今生きてるってことは……誰かに殺されちゃいねえってことだ。だがそれは、これから先誰かに殺されないってことじゃねえ」
「ああ、そうかい? じゃあさ──」
ラップランドは俺の首に剣を突きつけて笑った。
「試してみるかい? ボクが死ぬかどうか……」
「お前は生きてる限り、いずれ死ぬ。お前が鉱石病を治そうとしない限り、もっと早死にする。……ロドスに加入したんじゃなかったのかよ」
「キミがロドスに行くのなら、ボクもついていってあげてもいいよ? でも……ダメさ、満たされないんだ。あの場所じゃ」
「ち……」
「大体キミだって鉱石病を治そうとしないだろう?」
「鉱石病は不治の病だ。俺はそれよりも、トランスポーターであろうとしている。別に構いやしねえよ」
「だったらキミとボクは一緒さ。なあ……そうだろう? ボクはまだ覚えてるよ、あの時のキミの顔をね──アハハッ」
踵を返す。
これ以上付き合ってられない。仕事は十分こなした。帰ろう。
「ああ、置いていかないでくれよアルク。寂しいじゃないか」
「お前な……。ちっとも変わらねえな」
「変わらないさ。キミだって変わらないよ。変われない」
「違う、そんなことはねえ……。変わらないなんてことは出来ねえ。誰一人、”このまま”を続けることは出来ねえ」
「アルク。本当にそう思うかい?」
「真理だ。お前もいずれ分かる」
山奥の建物から出て、止めてあったバイクに跨る。ラップランドは当然のように後ろに乗った。
「……お前な、どうやってここまで来た? 結構な山奥だろうが、俺は一人で来たつもりだったんだがな」
「いいじゃないか、乗せていってくれよ。あの日みたいにさ……」
結局俺は、ラップランドを乗せて街まで帰ることになった。
ラテラーノを出てから、俺はトランスポーターとして生活していた。悪くなかった……が、どうしてか荒事やらに巻き込まれがちだった。それが続くと、何やら荒事専門のトランスポーターとしての名前が広がっていった。いやそれ傭兵だから。トランスポーターじゃねえから──と言いたかったが、仕事があるのはありがたかったし、わかりやすい依頼は肌に合っていた。悲しいことにな。
たまに、ラップランドと再会した。
今回の依頼も、その一つだった。
「……ついてくんなよ」
「ボクも同じ方向に用があるのさ」
「ああそう……」
歩く。取っておいた宿へ帰って行くが……ラップランドがついてくる。
「……俺の部屋の前まで来たぞ」
「ああ、ボクに構わなくていいよ」
ドアを開けて入った。ラップランドも入った。俺は頭を抱えた。
「……なんだ? いつの間にお前は、俺と同じ部屋を予約しておいたんだ?」
「たった今さ」
「…………。寝る。夜になるまでは起こすな」
俺は思考を放棄してベッドへ倒れた。どの道、こいつに勝てる気はしなかった。
寝ようとした俺の体に纏わりついてくる体重が、一人分。
「ラップランド、俺は寝るんだが」
「いいよ? ボクに構わなくていいって言ったじゃないか」
「気になって寝れねえ。離れろ。出来れば部屋を出てってくれ」
「冷たいねえアルク。いいじゃないか、それとも──」
ラップランドは耳元でささやいた。
「何か、都合の悪いことでもあるのかい?」
「やめろ、俺は疲れてる……」
ラップランドの体の感触が伝わってくる。
ちゃんとした”女”の感触。冷たく、蠱惑的に……まるで誘惑でもしているような。
「俺はお前にゃ腐っても手なんて出さねえし……そもそもお前、そんなキャラだったか」
「アハハ、ボクにだってそういう時があるのさ。ねえアルク……構わないよ?」
「寝る。おやすみ」
俺は寝た。馬鹿らしくなった。
「おやすみ。いい夢を」
それだけ聞こえた。
目を覚ますと、窓から差し込む光がなくなっていた。夜になっていたらしい。
横にラップランドが寝ていた。マジかよこいつまで寝てんのかよ。寝る時くらい武器は外せよ……。
……腹減ったな、どっか食いに行くか。
ラップランドを起こすかどうか、迷った。うーん……疲れるんだよな、やたらと絡んでくるし……。だがまあ、いいか。
「起きろ」
「ん……? ああ……おはようアルク。と言っても、夜みたいだけどね」
「飯を食いに行く。お前も来るか?」
「もちろんさ、キミと一緒ならどこへでも」
「お前さあ……」
宿を出た。受付の視線がどうにも居心地悪かった。なんだ、恋人だとでも思われてんのか?
街はそこそこ賑わっていた。俺は適当な店を選んで入って、適当な料理を注文した。ラップランドも一緒だ。こいつがまともに飯を食ってるとこなんか想像もつかないが……。
「お前さ、まだ殺し屋なんてやってんの?」
「まあ、解釈は任せるよ。何にだってなれるって言ったのは、キミだろう?」
「そうだったな。ずいぶん前のこと、よく覚えてやがる」
前に会ったのは半年くらい前だったか。ウルサスのスラムで別れた時は、多分もう二度と会わないだろうなとか思ってたが、どうにも運命らしい。
そう、どうにも運命というか……因縁だろう。
「鉱石病はどこまで進んでる」
「ああ、知りたいのかい? ほら」
ラップランドは服を捲った。鉱石が露出している。
「……お前さ、マジで治療しろよ。早死にするぞ」
「キミはさ、ボクの心配をしているのかい?」
「心配っつーか……昔のよしみだよ。お前がどういうヤツか、ほんの少し知ってるから……まあ、多少は関心くらい持ってる。そのくらいだ」
「キミが知りたいと願うなら、ボクはキミに全てを見せてあげるよ」
「いらねえ。知りたくねえ。人の不幸話なんて、好き好んで聞きたくねえ。この世には知らなくていいこともあるし、知らない方がいいこともある」
「それは残念だ。きっとキミは分かってくれると思ったのになあ」
「どうだかな」
料理が運ばれてきた。俺は肉を頬張った。うま。
ラップランドってのは妙なところで、妙な礼儀正しさを持っている。意外なことに、食べ方の作法を心得ているような、綺麗な食べ方をした。俺は驚いた。
「結局さ、お前はどこ目指してんだ?」
「さあ、もうボクには何一つ残されてなんかいないんだよ。ただ……この狂った世界で、ボクは目一杯楽しむだけさ」
「そうか」
俺はビールを煽った。
「お前、酒は……飲めないんだったな。悪い」
「飲めないとは言ってくれるじゃないか。ただ好き好まないだけさ」
「弱いだけだろ」
「試してみるかい?」
こいつ……やたら挑発に弱い。
俺は面白くなって、ラップランドを煽った。
「乾杯もできないんじゃ楽しくねえなあラップランド。飲めよ」
「ふうん……。いいさ、ボクを失望させてくれるなよアルク」
数十分後、ラップランドはぶっつぶれた。
馬鹿だなこいつ、自分が酒に弱いって分かってねえのか? 俺はラップランドの弱点を見つけて面白かった。
「アルクぅ……もっと一緒にいてよぉ……」
「ははは、誰だお前。お前普段からそんぐらい素直なら可愛いのにな」
「キミのせいだ……。もっと構えよ……」
「おいキャラ。キャラ崩壊してるって、まずいって」
ふにゃふにゃになったラップランドは、力のこもってない腕でジョッキを傾けた。お前やばいって、それ以上はまずいって。俺はお前がゲロ吐くところなんて見たくないぞ。
「大体そんなら俺と来ればよかったんだよ。あの時もさあ、お前意地張ってんのかわかんねえけど”ボクは行けない、変われない”とかってさあ、やってみなきゃ分かんねえだろぉ?」
「だって、だってアルクが……ボクをおいて行こうとするから……」
「違うって。ガキか、そういうのもうお腹いっぱいなんだけど」
「じゃあちゃんと言ってくれ……。キミがボクの居場所になってやるって、言ってくれよ……」
「やめろやめろ。俺これ以上お前のイメージ崩したくないんだけど。大体さあ、お前は俺に夢見すぎなんだって、違うからね? 俺そんなんじゃないからね?」
「じゃあなんだよぉ……ボクはキミにとって一体なんなんだよぉ……」
「うーん。う〜〜〜ん……。……腐れ縁?」
ラップランドはテーブルに突っ伏しながら呻いた。耳の先まで真っ赤だ。白い髪に映えてすごいことになってる。
「この際だから言うけどな? お前普段からやばいんだって。もっとまともになってくれりゃ、俺としても付き合いやすいんだけどさぁ……」
「無責任だよアルク……。これがボクなんだ……それとも」
ラップランドは酔っ払いながら俺を睨んだ。
「キミがボクの飼い主にでもなってくれるって言うのかい?」
「え〜〜……。やだなあぁ〜……」
「なんでだよ!」
「だってさぁ〜、手ぇ噛まれそうじゃん……俺だって怖いものはあるんだってぇ〜」
なんなら俺も酔っ払っていた。
「ひどいよぉ……アルクもそうやってボクを置いて行くつもりなんだ……」
「違うって、違うって。ほら元気出せよ、いつものテンション高めなラップランドさんはどこ行ったんだよ」
「うぅ、アルクぅ……」
そんな調子で、俺たちは足取りも覚束ないまま店を出て二軒目に突入。それからの記憶はない。
気がついたら部屋で寝ていた。
……ひどい散らかりようだ。なんだこれ。
つか二日酔いで頭が痛い……。ラップランドは……?
横でまだ寝ていた……。
……服がはだけてる。何も起きてないよな……。幸せそうな顔で寝ている。
「……起きろ」
起きない。
「起きろって……」
ラップランドは目を開けた。苦しそうに呻いて、俺をベッドに引っ張り込んだ。こいつまだ酔ってんのか?
「やめろって……」
「いいじゃないか……せっかくの、いい朝だ……」
俺は倦怠感に逆らえずまた横になった。
「ところでさ、昨日のことなんだけど」
「……俺は、何一つとして覚えてない」
「キミさ、ボクのこと救ってくれるって言ったよね」
「俺は、何も覚えていない」
「言ったよね」
「……覚えてない」
「アハハハハハ……。殺すよアルク」
「やめろ急にマジになるな」
ラップランドが絡み付いてきた。俺は振り払う気分になれず、そのままにしていた。
ちょっと静かになった。
「あのな……。救いってのは、それを求めるヤツの中にしか存在しねえんだ。俺がお前を救えるのなら、それは間違いでな。正しくは、お前が勝手に救われる、だ。それしかない」
「どうしたのさ、そんな宗教臭いこと言い出して」
「そりゃあ……そうだな。ラテラーノに一年もいれば、多少は移るだろ」
「ふぅん……」
ラップランドは俺の首筋を撫でた。爪を頸動脈に当てて呟く。
「ボクはね……キミと殺しあいたいんだ」
「えっ……怖い……」
「きっと楽しいだろうなぁ。殺されるんなら、キミがいい」
「えっ……嫌だ……。縁起でもないな……。俺は一応、お前には長生きしてほしいと思ってるけどなぁ」
「アハハ、嬉しいねえ……」
俺はため息を吐いて体を起こした。
「どこへ行くの?」
「次の依頼を探す。またお別れだ。またな」
「そうだね、”また”ね」
また会う。
……因縁って厄介だなぁ。俺は二日酔いの頭で思った。
*
数年後。ロドスにて、俺はまたラップランドに会った。
……モスティマさんと一緒に。
「やあアルク。また会ったねえ」
「……お前、ロドスに」
「そうさ、テキサスがいるって聞いてね。まさかキミも来てるなんて……アハハ、また一緒に戦えるねえ、アルク」
因縁。
だが、ラップランドがロドスに来たことは普通に嬉しかった。ちょっとでも長生きできるのなら、その方がいいだろうし。
「……ねえ。ところでアルク……その女は誰なんだい……?」
……。
あれ?
……なんかやばいかも。
「私はモスティマ。君は……そうか、君がラップランドか。アルクから聞いているよ」
「へえ? なんて?」
「そうだね……知り合いの狂犬だって言ってたかな」
「ふぅん。それで、キミはアルクの”何”なんだい?」
「私? 私は……うーん、一言で表すのは難しいな……。運命で結ばれた人、とでも表現しようか。そうだろう? アルク」
……。
やばい。
何か、極めて何かがやばい。
「……ノーコメントで」
「へえ。モスティマ、と言ったね。最初に伝えておくと、アルクはボクのものだよ」
「違うよ? 違うからね? 全然そんなことないからね?」
「そうなのかい? でも──それは間違いさ。アルクは私の命令を今後一生聞かなきゃいけないんだ」
「……一生は長いだろ、一生は。あんな命令アリかよ……」
「へえ、そうなんだ。でもそんなこと、ボクには何一つ関係ない。──アルク、そうだろう?」
「やめて。やめて、俺に話を振らないで。お願い」
「アルク。命令だけど──”俺はモスティマさんのものです”と言ってくれる?」
「やめて。チェンソーマンのマキマさんみたいなこと言わないで」
「命令、忘れちゃったのかい? トランスポーターは依頼に対して忠実なら、その後の報酬に関しても誠実であるべきさ」
「”俺は、モスティマさんのものです”」
俺は死にそうになりながら呟いた。
ラップランドが狂気的な笑い声をあげた。
「アハハハ、キミが首輪をつけられてるなんてねえ! ……安心しなよ、”それ”──ボクが断ち切ってあげるからさ!」
「うーん……。君じゃ私には勝てないんじゃないかなぁ」
「やめて、モスティマさんやめて。煽らないで。おねがい」
「試してみるかい!? いいよ──待ってなよアルク。すぐ終わらせるから」
俺は逃走した。
その後のことは、誰も知らない。
被害額の請求書のことも、当然知らない。知らないったら知らない。
「キミはボクの飼い主なんだからさ、ちゃんとリードを握ってなよ? じゃないと──何をするかわからないんだからねぇ! アハハハハッ!」
「私とアルクは何かの運命の元にあるからね。まあ──生きるってそういうことさ。分かってるだろう?」
俺は死んだ。
──逃げようと、そう思った。俺は逃げた。
「無駄さ! キミはボクからは逃げられないよぉ! 因縁があるんだからねぇ! アハハハハッ!」
「逃げたって、また私と出会うのになぁ。運命というのは、そういうことさ」
魔王からは逃げられない。そういうことだった。
・ラップランド
酒に弱い……弱くない?
急にコミカルになるなお前な
こいつのこと捨て犬って表現するの我ながらすこ(自画自賛)
・モスティマさん
煽りのセミプロ。キャラが強すぎる。
かわいい
・アルク
主人公。無事死亡
・チェンソーマンのマキマさん
チェンソーマン面白すぎィ!
早川家がね……もうね、うん……。
今後の展開に関しての希望
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エクシアの話やれ
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フロストリーフの話書けゴミ作者が
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ラップランド出せナメクジ野郎が
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モスティマさん書け
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修羅場書けこの*龍門スラング*が