タイトルはpixivで読んだコミックから拝借しました。
そいつは、私の全てだった。
もう五年ほど、前の話だ。
「──こんなところか。全く、無茶ばかりしおって。毎度毎度、妾の苦労もわかってほしいものだな」
「すまない。だが仕方なかった」
「お主な、いつもいつも凍傷や傷を倍にして帰ってこなければ、謝罪も受け入れようというもの──フロストリーフよ。一体どうしたというのだ。最近のお主はどうも調子がおかしいぞ」
「敵が想定以上に強かった。だから、必要な分だけ働いた。それだけだ」
「それだけ? それだけだと? それで済めば妾のような医者は要らぬ。全く……何があったかは知らないが、もう少し仲間を頼ってだな……」
ワルファリンはこめかみを押さえながら説教した。
フロストリーフはそれをいつものように無表情で聞いていた。自分を思っての言葉だ、蔑ろにはできない。感謝もしている。
「チームワークにも慣れてきたはずだろう。根掘り葉掘り聞く気はないが、これ以上傷を増やすと危険だ。対策を講じなければならなくなるぞ」
「……久しぶりに、夢を見た」
「夢だと? なんの夢だ」
「昔の夢だ。五年ほど前──ある男と一緒に過ごしていた頃の夢を、久しぶりに見た」
「その話か。確か名前は──なんだったか、忘れてしまったな……。当時からお主はその男のことをよく話していたのを覚えているが、最近は話さなくなって、妾も忘れていた」
「そうだな。もうロドスに来て四、五年も経つ。いい加減、いつまでも昔の話を引きずるわけにはいかない。それに、ここでの暮らしも悪くは、ない」
「そういうのは、もっとそれらしい顔で言うものだ。お主に言って効果があるかはわからんが、もっと楽しそうにしろ。……だがまあ、当初に比べればだいぶマシになったがな」
ここへ来た当時、ワルファリンは塞ぎ込んでいたフロストリーフをよく覚えている。それから根気強く鉱石病の治療やメンタルケアを行い、フロストリーフはその本来の能力を生かして任務に当たるようになり、今では立派なロドスの一員として活動している。
「しかし……相変わらず孤立気味だな、お主は。人が嫌いなのか?」
「そうじゃない……と、思う。私はただ、人混みにいるのが苦手なんだ。それに、話すこともあまり得意じゃない」
「ふむ……。こればかりは性格だから仕方ないと言えば仕方あるまい。医師が口を出す場面ではなかったな。治療はこれで終わりだ、しばらく安静にしていろ」
「感謝する、ワルファリン」
「ああ。ではな」
フロストリーフは椅子から立ち上がって、医務室を去った。
自室に戻ると、机の上のヘッドホンを被り、端子を繋ぐ。
お気に入りのプレイリストの一番上をタップ。すると、音楽が流れ出した。ピアノの音が特徴的な、冷たく透き通る曲だ。フロストリーフはこれが好きだった。
まるで冬の川のような、冷たく透き通った水の如く。
冷たく凍りついて、どこへも行けない。本当にそっくりだ。
ドアがノックされた。
「入るわよ、フロストリーフ」
「……入ってきてから、入るわよ、というのはおかしくないか」
「いいじゃない、細かいことは。それより傷の調子はどう?」
「心配されるほどじゃない。今すぐ別の任務に行けと言われれば、すぐにでも出撃しよう」
「もう!」
金髪のサルカズ、メテオリーテだ。
フロストリーフとメテオリーテはよく組むことが多かった。相性がいいと言えるだろう。それに、サルカズは懐かしい感じがした。それも理由の一つだ。
「数日間は安静にしていなさい。任務もないわ」
「そうか。じゃあ何か用か?」
「ディナーでも一緒にどうかなって思って。実は私もやることがなくて暇なの、一緒にどう?」
「悪くないが、その後一杯付き合え。それが条件だ」
「あなたね、まだ子供でしょう? 本当、どうしてその歳でそんなにお酒が好きなのかしら……」
フロストリーフはある男のことを思い出した。
思えば、ことあるごとに飲みに行っていた。
「お酒はダメ」
「そうか……」
「仕方ないわね、ディナーは私が奢るわ。それでどう?」
「それなら行こう。どこだ?」
「そうね、どうしましょうか……ああ、評判のいい龍門の料理店があるんだったわ。そこに行ってみない? 近衛局隊長さんのおすすめよ」
「それなら不安はない。行こう」
ロドスからバイクを走らせて龍門へ。二人乗りだ。意外にも、運転はフロストリーフが行っていた。これも、一つの名残だ。
「──そうね、これにしましょう。決まったわ、あなたは?」
「私は……そうだな、麻婆にしよう。辛いものが食べたい気分だ」
「あら、食べられるの?」
「馬鹿にするな、これでも辛いものは……嫌いじゃない」
「そうなの? 龍門の味付けはかなり強いわ、初めてならおすすめは出来ないけど……」
「構わない」
注文を済ませて、水を一口含んだ。
辛いものは──嫌いだったが。いつまでも嫌いなままだと、また笑われる様な気がして、フロストリーフはつい、見栄を貼った。
結局運ばれてきた麻婆豆腐は辛すぎて、フロストリーフには食べれたものではなかった。
「ほら、だから言ったじゃない。私のと交換してあげるわ。天津飯なら食べられるでしょう?」
「う……済まない……」
メテオリーテは平気な顔をしてクソ辛麻婆豆腐を食べた。
「うん……やっぱり美味しい。確かに、あなたには少し辛いかもしれないわね」
「もう少しだった……」
「何が?」
「……何でもない」
天津飯は美味しかった。メテオリーテは、こうなることを分かっていたのだろうか?
「それで、フロストリーフ。あなた最近力が入りすぎているわ」
「それが本題か」
「そうよ。やっと落ち着いたと思ったのに、また危なっかしくなって……見てられないわ。あなたがどれだけ強くても、あなたはまだ子供なのよ?」
「子供扱いするな。私は──」
お前はまだガキなんだからよ、と聞こえた気がして。
幻聴だ。けど、また思い出した。
もうずっと前の話なのに、フロストリーフは忘れられない。同じサルカズだからだろうか? あの男がメテオリーテに重なった。
「どうしたの?」
「……いや。なんでもない」
「前話していた、サルカズの男の人の話?」
「いや……、ああ。そうだ。なぜだか、久しぶりに思い出した。しばらく忘れていた様にも思うし、ずっと覚えていた様にも思う」
「詳しく聞いたことはなかったわね。サルカズのトランスポーターか。珍しいわね」
「ああ。今はどこで、何をしているのかさっぱりわからない。生きてるのか死んでるのかも、わからない」
「それはまた……。強かったの?」
「ああ。当時の私より強かったし……努力をしていた。もし生きていれば、それなりの強さを得ているはずだ。だが、銃弾を一発頭に喰らえば死ぬと……そう言っていたな」
「そうね……。ねえフロストリーフ。せっかくだから、この後飲みに行きましょうか」
「お酒はダメ、ではなかったのか?」
「いいじゃない、せっかくだからあなたの話を聞きたいわ。近くにいいバーを知っているの。行きましょう」
フロストリーフはメテオリーテについて行き、街に出た。
龍門の高層ビルは高く、夜の光は空をも照らさんとしている。圧巻の風景、また……それを当然と思う人々も。
それは普通のことかもしれないが、それが普通ではない人々もいる。フロストリーフはそれを知っている。昔のことを思い出した。
あの時、クルビアの路地で倒れて見えた景色を、まだ覚えている。
覚えている。その後自分を助けてくれた、妙な男のことも。
メテオリーテはバーのドアを開き、慣れた足取りでテーブルについた。
「そうね……テキーラサンライズを」
「ジントニックを……いや。ウィスキー、ロックで頼む」
ウェイターが去っていった。サルカズに対する差別的な態度が見られない。いい店だ。
「ウィスキー? 好きなの?」
「ああ。……あいつと飲む時、いつも飲んでいた」
「へえ──。あなたとその人、一体どんな関係だったのかしら」
「難しいな。私にとってあいつは──相棒だった。少なくとも、そうあろうとしていた」
「相棒? あなたが?」
「意外か。まあそうだろうな……。私はあいつにべったりだった。ことあるごとに付き纏ったりして、構ってくれないと拗ねたりもした」
「本当、信じられないわ。想像もつかないし──」
グラスが運ばれてくる。
穏やかな音楽と、ちょうどいい暗さの照明。グラスの液体が光を反射してテーブルを染め上げた。
「でも、興味深いわ。今日はじっくり聴かせてもらおうかしら」
「昔話は得意じゃないが、奢ってもらった礼だ。ああ、せっかくならここも奢ってくれると助かる」
「最初からそのつもりよ。それじゃ、乾杯」
「乾杯」
『乾杯!』
──また、重なった。
サルカズだからだろう。あの男と一緒に飲んでいた居酒屋で、いつもこうやって──。
「あの男にとって私は、きっと手のかかる子供だった。行き倒れていた私をあいつが拾ったのが、出会いだった。その後一緒にラテラーノで、一年間暮らした。それが、あいつといた時間だ」
「ラテラーノで? その人、サルカズだったんでしょう? どうしてまた……」
「そうだな、本当にどうかしていた。だが……悪くは、なかった」
「変な人ね」
「ああ。変なやつだった。……正直、話すことがありすぎて、何を話せばいいのかわからない。何を聞きたい」
「そうね……それじゃあ、一番気になるところから聞こうかしらね。なぜ、あなたはその人と別れてロドスに来たの?」
「私だって、別れたくて別れた訳じゃなかったさ。あいつはラテラーノでトランスポーターの資格を得て、ようやく相棒として仕事ができると思っていた。だが、あいつは突然私をロドスに送ったんだ。モスティマという女を知っているか」
「ええ、あの……堕天使のことね。知っているわ、何度か一緒に出撃したけれど……彼女が?」
「私をロドスへ連れて行ったのはモスティマだ。あいつが、モスティマに依頼をしたんだ。私をロドスまで送り届けろって」
まだ覚えている。
あの顔を、あの言葉を。
きっと忘れられない。恨みさえした。
──とても、辛かった。
「それは……どうして? 一年も一緒に過ごして、突然そんなことをしたの?」
「あいつの気をかわらせる何かがあったんだ。五年前のクリスマス、ラテラーノで起こった事件──クリスマスの悪夢。知っているか」
「概要程度なら聞いたことがあるわ。確か……ラテラーノの聖堂が崩壊して、その時ラテラーノにいた全員が、その時恐ろしい獣の叫びの様な声を聞いたって」
「私とあいつは、その事件に関わっていた。私は途中で離脱したが、あの事件はあいつが起こした。その中で起こった何かが、あいつを変えた。……もう、それが何なのか、私には想像することしかできない。あいつは言ったよ──ちゃんと鉱石病を治して、生きろって。ふふ、笑える……あいつだって鉱石病だったというのに」
「そう。でも気持ちは、少しわかるかもしれないわ。きっとその人は、あなたのことが大事だったのでしょうね」
「ああ……痛いほど分かっていた。まるで親か何かにでもなったみたいに、いろいろ世話を焼いて、助けて……最後に、ロドスへ送ってさよならだ。もう一度会えたなら、相棒として仕事をしようって、それだけ言い残して」
「そう……。ロドスに来た直後のあなたは、酷いものだったって聞いているわ」
「ああ。私は、あいつに捨てられたって思っていた。もう邪魔になったから、厄介払いでもしたんだって思ってた。だがそんなはずはなかった、きっとあいつは──」
「そうね。あなたに知って欲しかったんでしょうね。あなたはちょっと危なっかしい面があるけど、音楽とおしゃれが好きな、女の子になった。それは、きっとその人が望んでいたことよ」
フロストリーフはグラスを傾けた。喉を焼くこの感覚が、フロストリーフは嫌いではなかった。結局、あの男はそれが苦手なままだったが。いつもビール、ビールだった。酒の味がわからない男だったと思う。
「私はな、あいつに返しきれないほどの恩があるんだ……。命を救われ、生活を与えられ、最後には幸せを押し付けられた。私は……満たされていた。それは確かだった。今の様に、音楽や服が好きな訳でもなかったが、私は幸せだったんだ」
「そう……」
「だから、私はあの日々がずっと続けばいいと思っていた。だが……そんなものはないんだって、あいつ自身がいつも言っていた通り……あいつを失った私は、脆かった」
「今でもその人に会いたいと思っているの?」
「わからない……。あいつに出会って、私が何を思うのか、想像ができない……」
「そういう時は、その人にしてあげたいことを考えてみるのよ。恨んでいるのだったら、文句を言ったり……それこそ、ちょっと痛い目を見せてあげるのもいいかもしれないわね。でもそうじゃないのなら……」
「私は……」
あの男の、乱暴な笑顔を思い浮かべた。胸の奥が締め付けられる様な、寂しさを感じた。
「もう一度、あいつに会いたい……」
それが本音だった。
「あいつにあって、今の私を見せてやりたいんだ……きっと、あいつが望んでいたのは、そういうことだと思う。だから、私は……あいつを救ってやりたい。いつも苦しんでいたあいつを助けてやりたい……今でも、そう思っている。叶わないことだが、な」
「そう。それを聞けてよかったわ。あなたって、そういう一面があるのね──いえ、それがあなたの本来の表情なのかもしれないわ」
メテオリーテは、ようやく聞きたかった本音を聞けて安堵していた。
それから、フロストリーフとメテオリーテはしばらく話をしていた。
「今日はもう、龍門に泊まっていきましょう。ホテルを予約してあるわ」
「いいのか?」
「だってお酒飲んじゃったじゃない。飲酒運転はダメよ」
「そうか。久しぶりにスッキリした気分だ、今日はよく眠れそうだ」
会える訳でもないのに──久しぶりに、あの男に出会った気分だ。思い出の中の、幸せだった記憶にもう一度出会えた。
その日の眠りは、ずいぶんすっきりとしていた。
翌朝。ロドスへとバイクを走らせて二人は帰って行った。
駐車場にバイクを停め、居住フロアに上がって行く。
「今日の任務は?」
「あなた、自分が怪我人だってこと忘れてない? ないわよ、ゆっくりしなさい」
「それにしてはやけにあっさり外出許可が出たな」
「それは──そうよ。だって一応、あなたの本音を確認するためだもの」
「? どういう意味だ──」
フロア通路の、エレベーターの扉が開いて中から人が出てくる。
「……なんてタイミングかしら。神懸ってるわね」
メテオリーテがそう呟いた。
「ロドスってのは広いな……一体どうなってんだ」
「存分に迷うといいよ、君には新鮮な感覚だろうからね」
声が聞こえた。
聞き間違えない。
「ここどこだ────、……おいモスティマ、これは一体どういうことだ?」
「まあ、ために貯めたツケを払えってことだろうね。きっといい薬さ。エクシアに私の情報流したの、私はまだ根に持っているんだ」
「悪いことはするもんじゃねえな。因果応報ってヤツか。なあ、そうだろ?」
「────アルク!」
駆け出して、飛び込んだ。
「ぐえふっ。……見違えたな。お前、フロストリーフ……だよな?」
「お前こそ、お前こそっ! 五年間もほったらかして、どこへ行っていた! 五年も待たせるヤツがいるかっ!」
「悪かったよ、いろいろあるんだ……」
「あ、一ついいことを教えてあげるとね。そこの男は私が命令しなかったら一生ロドスにくるつもりはなかったと思うよ」
「アルク! お前っ!」
抱きついて離さない。この両手を手放したりしない。
もうどこへも置いて行かせない。
「ふざけるな、ふざけるな! 私がどんな思いで過ごしていたと思うんだ、おいっ!」
「悪かったって。悪かったって、なあ? ……でもまあ、そんな格好してるとこを見ると、ロドスに送ったのは間違いじゃなかったみたいだな。似合ってるよ」
感情が込み上げて、追いついてこない。
「お前は……! すぐそうやって、適当なことばかり言ってっ! 許さない、許さないからな、アルク──罰として、お前は今後一生私の相棒だ!」
「はいはい、分かったよ……。約束だもんな、分かってるよ。相棒だ」
「私は? 私は相棒じゃないの?」
「モスティマさんさあ……。頼むぜ、今いいとこなんだけど……」
「アルクはいつも私を放ってその女のところへ行く! いいかげんお前には教えてやらないといけなかったんだ、お前の相棒は私だってっ!」
「分かった、分かったよ、十分分かったって……」
「分かってない! だから……ちゃんと分らせてやる! お前がちゃんと私を見て、相棒だって認めさせてやるから……っ。覚悟しておけアルク、今後五年間はお前の側を離れないからなッ!」
抱きしめる。
アルクは苦笑いしながらフロストリーフの頭を撫でていた。
「五年は長くね?」
「五年は長いね」
「長くないっ! これっぽっちも長くなんてない、短いくらいだっ!」
「やれやれ……。頑張りなよアルク。君の撒いた種さ」
「分かってるよ」
そう。これからはずっと──。
「……そんな顔が出来るのね、フロストリーフ」
メテオリーテはまだ子供と呼べる少女を優しく見守った。
フロストリーフの長い長い冬が終わりを告げ、太陽が上り──。
雪は水へ変わり、川を作り、生命が動き出して。
やがて、春を告げる。
「飲みに行くぞアルク! 潰れるまで離さないからな!」
「いやー朝っぱらから酒はちょっと……俺このあといろいろ忙しいんだけど」
「ダメだ! 全部後回しだ! 私を優先しろ、相棒だろう!」
「……分かったよ。分かった。やれやれ、ちょっと見ないうちに変わっちまいやがって……ガキの成長は早えな」
春の日差しが、フロストリーフを照らした。
冬は、もう過ぎ去っていた。
・ロドスの皆さん
難しいですた
難しいね、書くのが難しかったよね
・メテオリーテさん
ここはどこ? っていうお姉さん。絶対ポンコツだゾ
・フロストリーフ
一丁前に成長したガキ。
クソかわいい。すこ
・アルク
やっとこいつロドスに来ましたよ
反省しろ
・モスティマさん
アルクにロドスに行けって命令した人。雪山事変の後だと思われ
・ストックとネタ
ストック分が終了しました。あとネタも尽きました。なんかネタください(読者にネタをせびる作者の鑑)
「サルカズのトランスポーター、アルクだ。契約により、これよりロドスの力になる。安心しろ、トランスポーターは依頼に対して忠実さ。遠慮なく使え」
今後の展開に関しての希望
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エクシアの話やれ
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フロストリーフの話書けゴミ作者が
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ラップランド出せナメクジ野郎が
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モスティマさん書け
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修羅場書けこの*龍門スラング*が