モスティマさんといっしょ!!!   作:にゃんこぱん

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雪山事変──2

モスティマの依頼人は、只者じゃなかった。

 

「確かに受け取った。ご苦労だったな」

 

この雪国、イェラグにおいてもっとも実質的な権力を持つ、このカランド貿易のCEO。相対するとわかる、滲み出る威厳と風格。なんか真銀斬とか放ちそうなオーラを纏っている。

 

シルバーアッシュ家当主、シルバーアッシュ。

 

「それじゃ、依頼は完了だね。またのご利用をお待ちしておりまーす」

 

シルバーアッシュは受け取った郵便物を確認し──微かに眉を潜めた。すぐに中身を確認するところまで俺は見て、すぐに踵を返した。

 

モスティマの依頼は終わりだ──と思っていたのだが。

 

「ああ、少し待て。話がある」

「依頼なら歓迎さ。是非とも我がペンギン急便をご贔屓に」

「いや、貴様ではない。そちらの……”葬儀屋”だな?」

 

急に水を向けられて俺は困惑した。

 

「葬儀屋ってのがどいつかは知らねえが、アルクは俺だ」

 

とりあえずそう答えた。

 

シルバーアッシュは豪華そうな椅子に肘をかけて、ふむ、と考える仕草をした。

 

「先ほど情報が入った。イェラグ市街地で葬儀屋とマフィアの抗争があったと」

「そりゃ大きな誤解だ。抗争じゃねえ、ただ一方的に襲われただけだ」

「ほう? まあいい、話は単純だ。”葬儀屋”、一つ依頼がしたい。貴様が襲われたというそのマフィア……こちらでもその情報はまだ不明確でな、そのマフィアに関しての調査、および壊滅をしてもらいたい」

 

暖炉がパチパチ、と音を立てて燃えた。

少し考えて、分かったことが一つ。また面倒なことになってきたな。

 

「報酬に関しての話がしたい。ぶっちゃけどんくらい出せる?」

「このくらいだ」

 

シルバーアッシュが紙に書いて見せたその額を見て、俺は断るのが惜しくなってきた。命と天秤にかけて釣り合う額だ。俺はぶっちゃけ断りたかったが、これは断れない。……金欠気味な俺にとっては、十分なチャンスだ。

 

「……質問は一つだ」

「差し支えないものであれば、答えよう」

「その依頼だが……それは俺、トランスポーターのアルクへの依頼か? それとも”葬儀屋”アルクへの依頼か? どっちだ?」

「ふむ……。私が依頼したいのは、”葬儀屋”だ」

「ほぉ、そうかそうか。ところでシルバーアッシュさんよ、葬儀屋ってのは実は二人で一人なんだわ」

「どういうことだ?」

 

俺は隣にいるモスティマを指差してにやりと笑った。

 

「葬儀屋の戦闘担当は主にこっち、その他色々面倒なの担当は俺。だからまあ、こいつが依頼に絡んできても構わねえか?」

「構わん、依頼さえこなせるのなら好きにしろ。ただし、報酬は変わらない」

「構わねえよ。その依頼、受けるぜ。モスティマ、構わねえな?」

「二人で一人、かぁ……。ふふ、悪くない響きだ。私は構わないよ」

 

そこじゃねえよ、とツッコみたかった。シルバーアッシュの手前控えたが……。

 

「できるだけ迅速な依頼の遂行を頼む。報告はある程度状況が掴めてからで構わん」

「了解。モスティマ」

「はいはい、行こうか」

 

 

 

 

 

 

「なあ、ところでモスティマさん」

「なんだい?」

「報酬の話なんですけれども……」

「ああ、その話か。君の希望は?」

「それなんですけれども、実は僕、少々金欠でしてぇ……」

「なるべくたくさん欲しいと」

「そぉなんですよ……」

 

俺は急に弱腰になった。

 

つまりこういうことだ。

“葬儀屋”として依頼を受ける以上、モスティマもそれに関わることになる。そうなれば当然モスティマにも報酬が発生して然るべきだ。だが報酬の量は限られている。

 

これはつまり、それぞれの報酬の取り分の話なのだ。

 

ここで問題になるのは、戦闘に関してのモスティマの負担がデカいというか、ほぼモスティマさんに任せることになるであろうということ。

 

となれば、その分モスティマの取り分も増えて当然だということ。

 

しかし俺はさっきのマフィアの襲撃で武器やらが全部おじゃんになったせいで、新しく武器を購入したりなんなりしなければならないから、金がないということ。

はっきり言うと、戦闘で役に立たないということはこの依頼に関しては役立たずもいいとこだ。ということは、報酬もそれ相応になって当然。

 

そしてこうして弱腰になる、という訳だ。情けねえぜ。

 

「いいよ、全部君がもらうといい」

「……は? いやいや、そりゃ、お前な……」

「私はお金にはあまり困らない質なんだ。でも一つ条件がある」

「お、おう」

「この依頼が終わったら、一つ私のお願いを聞いて欲しいんだ」

「そ、そんなもんでいいのか……? いやいいぜ、それこそなんだって聞いてやるよ、約束だ」

 

急に都合が良くなって俺は浮かれた。いやマジか、思わぬ幸運に感謝。

だからこそ口が滑った……。いや、モスティマは掴みどころのない性格だが、そこまでめちゃくちゃなことをいう事はないだろうという楽観も当然、あった。

 

「”なんでも聞く”。確かに聞いたよ? その、後になっても取り消せないからね。いいのかい?」

「構わねえよ! いや、つかそれはこっちのセリフだ! お前こそいいんだな!? 後になってやっぱ無しは効かねえぞ!」

 

モスティマは俺の様子に苦笑いを浮かべた。

 

「しないよ、そんな事。なんだったら電子署名でもしておくかい?」

「いやいい。お前はよくわからんやつだが、約束を破る事はしないと信じてるからな」

「そう? ふふ……そうなんだ。ふふ……」

「そうと決まりゃ、調査開始だ。さて、どっから始める?」

「そうだね……」

 

イェラグの市街地を歩いて見ているが、この先の展望がちょっと見えないのは確かだった。

雪国らしい、木と石の街だ。今日の天気は悪くない、街道の雪に太陽が反射して眩しい。

 

そこで、モスティマの端末が鳴った。すぐに応答する。

 

「はいはい、こちらペンギン急便所属トランスポーターモスティマだよ。お仕事の依頼かい? ああ、君だったか。依頼は無事完了したよ。ご心配なく。……ふうん、へぇ……? ……それには及ばないさ。君のお兄さんから、さっきちょうど依頼されたばかりさ。……へえ! それはちょうどよかった。アルク、君に電話さ」

 

モスティマが端末をこちらに手渡す。俺は訝しがりながらそれを受け取った。

 

「フリーのトランスポーター、アルクだ。ご用件は」

『あのさ、君……お兄ちゃんから依頼受けたんだって?』

「……お兄ちゃん?」

『あ! いけないいけない……。私はクリフハート。えーっと、シルバーアッシュの妹だって言えばわかりやすいかな?』

「妹……? で、俺に何か用か?」

 

あのシルバーアッシュにも妹──家族がいる。当たり前のことだが、少々不思議な感覚だ。

 

『実は、お兄ちゃんから受けた依頼の内容が知りたいの』

「知りたいの……って、悪いが依頼主に断らずべらべら喋るわけにはいかない。例え妹でもな。本人の了解があれば構わねえが」

『それはダメなんだ。お兄ちゃんに知られるわけにはいかないの。お願い』

「つってもな……」

 

チラッとモスティマを見る。目が合った。

 

「彼女は信頼できると思うよ? シルバーアッシュの妹である事は確実だから」

 

ちょっと悩んで、答えた。

 

「まあいいが……それを知ってどうする気だ? その内容によっちゃあ教えてやらんでもない」

『言えない』

「言えないってお前、クリフハートっつったか? あのなぁ──」

『言えないの。お兄ちゃんに、それを知られるわけにはいかない。本当なら、私が知られないようにしていることも、知られたくない』

 

複雑な回答を前に、俺は少しだけ考えて……。

 

「……まあいいぜ。家庭環境はいろいろだしな。ただし、なんかこの件に関して役に立ちそうな情報なりなんなりをくれ。取引だ」

『それなら、多分力になれると思う』

「オーケー。俺が受けた依頼はイェラグのあるマフィアに関しての調査と壊滅だ」

『やっぱり……。あのさ、そのマフィアってもしかしてシチリア人じゃない?』

「ほぉ……。確かに一定数混じってたな。何か知ってんのか?」

『彼らのアジト、多分分かるよ。イェラグ西区の──』

 

クリフハートから得られた情報は確かに有益だった。

 

「情報、感謝する。まあ、お前が何者で、何をやろうとしてるかは聞かないでおくよ。何かあれば連絡をくれ。取引なら歓迎だ」

『ありがとう。あのさ、ひとつ聞きたいんだけど──。もし身近な人が遠くに行こうとしてたら、どうするのがいいと思う?』

「なんだってそんなことを聞く?」

『言いたくなければ別にいいよ。参考までに聞きたいだけだから』

「ほぉ。まあいい……。ずいぶん抽象的な質問だ、それこそ考えうる選択肢は広いが……もし大切な人であるなら、俺なら見送ってやる。そのぐらいだろ」

『そっか……。ありがと、じゃ』

 

通話は切れた。

なんだったのかはよく分からないが……。

 

「それで、何か分かったの?」

「ああ。連中の手がかりが手に入った。行こう」

「最後になんか面白いこと言ってたね。大切な人なら、見送るのかい?」

「さあな。俺にはそんな経験はないから、所詮想像だが……。そいつが決めたんなら、後は黙って見送るだけじゃねえのか?」

「ふうん……。じゃあ私がどこか遠い場所に行くって決めたら、見送ってくれるんだね」

「ああ? そもそもお前は毎回遠い場所に行ってんじゃねえか」

「そう言わずにさ、答えてみせてよ」

「……さあな。お前を見送るのは、正直想像がつかん。俺たちはトランスポーターだからな。見送られる事はあっても、見送る事は少ないだろ」

「それもそうか。だったら、私と君の歩く道は果たして重なるのか。重ならないのか。どちらなんだろうね」

「なんだ、今日はやけに突っかかるな……。まあ少なくとも、今は重なってる。明日がどうかは知らねえ。昨日の敵は今日の友──。不思議なもんだ。なあモスティマよ、俺たちは昔かなり嫌い合ってたことを覚えてるか?」

 

昔の話を持ち出すと、モスティマは珍しく──そう、実際にとても珍しく顔をしかめるのだ。本当にレアな表情、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

「感情は嫌いではないけど、必要のないものだよ。だからそんな事実はないよ」

「はは、誰だお前。変わるもんだな、人間って。いや──天使って」

「あまりいじめないで欲しいな。本当に、その話だけは、私は苦手だよ。自分でも驚くくらいに……」

 

俺たちは初対面の時からなぜだか嫌い合っていた。モスティマを知る人間は、モスティマが人を嫌いになるなんて信じられないと口を揃えていうが、俺にはそれこそ信じられなかった。

 

同時に、俺もこれほどまでに人が嫌いになることがあるとは知らなかった。不思議なことに、俺は一目見ただけでモスティマが嫌いになった。一目惚れの反対のようなものだ。

 

ただ縁は続き、紆余曲折を経て今ではモスティマは無事脳みそのネジが飛んだ。

 

「まあ、とにかく行こうぜ。場所はさっきクリフハートから聞いた」

「強襲をかけるんだね。今の私は少しだけ強いからね、任せて欲しいな」

「おいアーツを抑えろ。やめろ、なんか急に風強くなって来たんだが、え、おいモスティマ、やめろ抑えろ抑えろ! やばいって、悪かった、俺が悪かったよ! もうこの話題は出さねえ! やめ──!」

 

 

 

 

 

 

アジトに着いた後、俺はとりあえず隠密っぽいことをして下っ端をさらう事に成功。

機嫌のよろしくないモスティマの前に放り出すと、蛇に睨まれたカエルのようにびびり散らして大体のことを喋ってくれた。

 

いや、下っ端とはいえマフィアが怯えるくらい機嫌が悪いモスティマがやばい。俺さっきからずっと怖い。いつ殺されるかと戦々恐々としている。

 

「──で、てめえらの最終的な目的はなんだ?」

「は、話さねえ……。これだけは話しちゃならねえんだよ! シチリア人を舐めるんじゃねえ!」

 

ゴォ、と無風なはずの、俺たち以外誰もいない倉庫に強い風が吹いた。まるで嵐の前のような、不気味な風だった。

 

モスティマはニコニコとした表情のまま不機嫌そうにアーツユニットを振るった。こわい。

 

手足を縛られて動けない下っ端の頭の、わずか2、3センチ離れた地面が砕けた。こわい。

 

人の体よりは数段頑丈なはずのコンクリートが粉々になっているのを、マフィアはしっかりと見てしまい、口を閉ざした。顔が青ざめている。こわい。

 

もし”それ”が自分に当たっていたら。脳みそまで撒き散らして粉々に砕ける想像をしたら。お前はいつでも殺せるというメッセージを、この上なく直接的に伝える事になった。

 

「命は助けてやるよ。まあ、事が済むまでここでしばらく大人しくしていてもらうけどな……」

「し、知らないッ! 知らないんだよ! 俺みたいな下っ端には知らされていないんだ、本当だ!」

 

コンクリートに開く穴がもう2つほど増えた。

 

「知らねえって言ってるだろ!? 本当だ、俺たちはただ、イェラグが不安定な時期を狙ってイェラグに進出しようとしているだけなんだよ! 最終的な目的なんてないんだって!」

「……潮時だな。モスティマさん、行きましょう」

「どうして敬語なのかな? 私たちは対等なんだから、相応の態度で構わないよ」

「怒ってます?」

「どうして私が怒らなければならないんだい?」

「いえ、その……。先ほど、俺がからかいすぎた……」

 

穴が五つに増えた。俺の真横でコンクリートが砕けた。不思議なこともあるものだ。俺は震え上がった。

 

「ひっ」

「どうしたの? 行くんじゃないのかい?」

「……怒ってます?」

「どうして同じことを何度も聞く必要があるのかな。私にとって怒りや悲しみは、嫌いじゃないけど不要なものさ。何度も言っているだろう?」

 

俺はそっと歩き出した。そろり、そろーり、眠れる獅子の前を、起こさないように歩くように。

 

モスティマさんは俺の一歩後ろを歩いてくる。まるでいつでも俺の首を取れるように。

 

俺は少し足を早くした。危険地域から足早に立ち去るように。

 

モスティマさんはぴったり着いてくる。きっと表情はニコニコしてると思う。顔は少なくとも、ニコニコしている。中身がどうかは、分からないが。

 

俺は全速力で駆け出した。まるで爆撃されている場所から命辛々逃げ出すように。

モスティマさんは自動追跡ドローンのような精密さで俺にぴったり着いてくる。

 

……。

 

…………。

 

………………。

 

追いつかれたら死ぬ。

 

追いつかれるな。逃げ延びろ。

 

生きろ。そのために逃げろ。

 

生死をかけた鬼ごっこ、ここに開催。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、実際のところ俺は恐怖やら焦りやらと同様に、驚いている。

 

モスティマは本人が常日頃から言っているように感情を表に出さないタイプだ。いや、表に出さないと言うよりは、そもそも感情に反応しないというか……。

 

よってモスティマが怒るというのはかなり珍しいことであり、それこそ天変地異の前触れではないかと疑うレベルの出来事である。そもそもモスティマの本気が天変地異なのであながち間違ってないところが恐ろしいところである。っていうかさっきから本能が死の気配に反応しまくっている。

 

逃亡劇は序盤中盤を乗り越えてついに終盤に達しようとしていた。人気のない倉庫地帯を抜けて舞台は再びイェラグ市街地へ。雪国の暗い夜を俺は必死に駆け抜けていた。もちろん脚力強化のアーツを発動して。

 

モスティマはどういう訳か凄まじいスピードで追いついてくる。ずっとニコニコしていてとても怖い。

 

いずれは追いつかれると判断して、俺は路地を曲がった。なんとかして撒こうとしたのだ。だがそれがいけなかった。

 

「行き止まり……ッ!?」

 

俺としたことが、ルートの選択を誤った! トランスポーターにあるまじき失態、このミスは命に直結する。

 

振り向いた。

 

「おや、もう鬼ごっこはおしまいなのかい? もう少し遊んでも、私としては構わなかったんだけどね」

 

鬼がいた。鬼ごっこ、ではなくマジモンの鬼だ。ツノも生えてるし。

 

「スゥ──────。モスティマ、話をしようぜ? なあ、きっと誤解があると思うからさ」

「誤解? へえ、確かに、そうかもしれないね」

「ああそうだろ? やっぱりお前は話の分かるやつだよ」

「でも、そうじゃないかもしれないね」

 

モスティマは杖状のアーツユニットを構えた。返答次第では俺の命が飛ぶ。俺は両手を上げて降参のサインを作りつつ、慎重に言葉を選んで話し始めた。

 

「実はな、俺は別にお前をからかおうとか、そういう気持ちはなかったんだよ。ちょっと、ほんのちょっと思い出話がしたかっただけ。それはわかってくれるか?」

 

返答の代わりに、モスティマは一歩前へ歩いた。

 

「そうか、分かってくれるか。いや、怒らせるつもりはなかった。というか、怒るなんて思ってなかったんだ。そこは俺の理解が浅かったよな、悪い。俺が無神経だった。すまん」

 

スタスタとモスティマは歩き寄ってくる。距離がすぐに縮まっていく。

こんなに寒いのに、冷や汗が止まらない。

 

「なあ悪かった。俺が悪かった。詫びはいくらでもする、だからその物騒なモンを下ろしてくれないか? まだ死にたくねえ。なんせ死んじまったら……そうだ、お前との約束も果たせなくなっちまうからな。そうだろ?」

 

モスティマはやっと口を開いた。にこにこしている。怖い。

 

「──私でも驚いているんだけどね。その話は、本当に苦手らしいんだ」

 

俺の眼前に杖の先端を突きつけながら、モスティマはにこにこと話す。

 

「なんていうか、私は自分の何を知られようと構わないし、大した感慨も抱かないと自分でも思っていたんだけど……君の口から、あの頃の話が出てくると、なぜだか」

 

堕天使は端麗な笑顔をようやく崩した。視線を泳がせて、顔を赤らめた。またレアな表情してる……。

 

「とても恥ずかしくて、敵わない……」

 

俺は張り詰めた雰囲気が急速に萎んでいくのを感じた。ちょっと呆気に取られる。

 

「次からは、気をつけて欲しいな。今回は、もう許すよ。私も、これ以上こんな感情が続くと、調子が狂ってしまうからね」

「お、おう……」

「でも、一つ条件がある」

 

モスティマはようやくアーツユニットを仕舞ってくれた。

 

「……その、手を……」

「手を……?」

 

両手は以前ハンズアップ。白旗がわりの両手はいくあてもないまま間抜けに空を向いたまま。

 

「手を、握って欲しい」

「…………………………。………………………………」

「嫌かな」

「あ、ああ……いや、別に、いい……。構わねえ……けど……」

 

沈黙が辺りを包んだ。

 

俺は恐る恐るモスティマの両手に、自分の手を重ねて、出来る限り優しく握った。柔らかい。あとあったかい。

 

モスティマはしばらく握ったままの両手を眺めて、ぽつりと呟いた。

 

「私にしては珍しく、ちょっと嫌になるよ……。さっきまでは恥ずかしさと怒りで我を忘れていたのに」

 

雪国の静寂さの中で、モスティマの言葉はよく響いた。

 

「君にこうして触れているだけで、どうしようもないくらい嬉しくて、暖かくて仕方がないんだから」

 

俺は正直言葉が出て来ずに、呆気にとられたまま動けない。なんだこいつ、無敵か。

 

ダメだ、俺はどうやったってモスティマには勝てない。

 

不意に天使の口が動いた。

 

「帰ろうか?」

「か、帰るって……どこに」

 

俺のとってたホテルはマフィアの襲撃でダメになっちまった。損害請求が怖くて行けない。あとでシルバーアッシュさんにどうにかしてもらおう──など、見当違いのことを考えていた。

 

「私の取ってるホテルだけど……何か不都合があるのかい?」

「おん……おぉん……」

 

俺は奇妙な鳴き声を上げた。どっちにしろ、俺に選択肢は無かった。

 




・シルバーアッシュ
イェラグ三族議会が一族、シルバーアッシュ家の当主にして、カランド貿易のCEO。しかもイェラグ伝統の剣術に精通している。つおい。昇進2で獲得するスキル真銀斬はバランス崩壊級(Wiki調べ)。実際大体これで勝てる。シャキンシャキンシャキン

・葬儀屋
なんやかんやあってそう呼ばれるようになった。不吉の前ぶれらしい。

・クリフハート
本名エンシア・シルバーアッシュ。離れ離れになってしまったシルバーアッシュ三兄妹が、昔のように仲良くできることを願っている。

・モスティマさん
黒歴史がある。適度に恥ずかしい過去があるとかわいい……かわいくない? 解釈違いとか言うな
キャラ崩壊タグの一因。モスティマさんをキャラ崩壊させた私を許してくれルシフェル……
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