モスティマさんといっしょ!!!   作:にゃんこぱん

24 / 30
Day 3 / It"s as easy as pie !

「モスティマ様」

「おやおや、イグゼキュター。どうしたんだい?」

「お疲れのところ申し訳ありません。明日の作戦に、協力を要請します」

「まあいいけど、今の私だとあんまり役に立てないかもよ? アルクとの戦いで、ちょっとエネルギーを使いすぎちゃってさ」

「問題ありません。遠距離からの狙撃を一発、最大火力で放っていただければ、それで十分ですので」

「……結構無茶言うよね、執行人も大変だ」

「可能ですか」

「まあ、やるけどね。仕方ない、ラテラーノ本国との契約だ。まあ、アルクたちなら死ぬことはないだろうし」

「ありがとうございます。詳しい作戦を──」

 

 

 

Day 3 / It’s as easy as pie !

 

 

 

 

昨日の疲れが取れてくれない……。

 

俺は安いホテルで夜を明かした。正直体調は万全とは程多い。最悪である。だがまあ、エクシアさえ何とかなってんのならどうにでもなるだろ。あいつはなんかそういうところがある。天才だしな。

 

決闘は正午、龍門の廃棄区画。新調したバイクでエクシアを迎えに行く。

 

「よぉ」

「あ、アルク! おはよー、出来たよ!」

「見た目はあんま変わってねえな……」

「安心して、自分でも怖いくらいの仕上がりだから。もう行くの?」

「すぐ時間になる。行くか、新調したバイクの走りを見せてやるぜ」

「お、いいね。行こ行こ!」

 

やっぱ新車は違う。自分の金じゃないってサイコーだ。

 

「……なあエクシア、ひっつきすぎじゃないか?」

「いやー、やっぱ安全性重視ってことで」

 

明らかに前乗った時より二人乗りでの距離が近い。いや、俺だって男だ。嬉しくない訳がないが……。嫌な予感が、する。

 

離れろと言うとさらに体をくっつけてくるエクシアをよそに、順調に廃棄区画へたどり着く。老朽化で、次の都市移動の時にはここに残されていく予定らしい。だがまだ道は繋がっている。

 

もはや誰も訪れようとしない区画を、ある程度警戒しながら進んでいく。

 

警戒していたお陰だ。俺はとっさに高速で走るバイクからエクシアごと転がり落ちた。一秒後、バイクが爆発した。狙撃されたのだ、とすぐに分かった。

 

「……もう! 邪魔してくれるなぁ──」

「いいから走れ、また撃たれるぞ!」

 

ボロボロになったビルから狙撃銃を構えているイグゼキュターが見えた。あいつなんでも出来んのかよ。

 

「オーケー場所確認。潰しに行くぞ、もう決闘は始まってるってことらしいな」

「はーい、りょうかーい! 蜂の巣にしてあげる!」

「……いや、殺すなよ? やばいことになるからな?」

「分かってるって。でも、向こうはそのつもりじゃなさそうだよ?」

「馬鹿みてえに実弾使いやがって、また廃車だ、三日持たねえってどういうことだ。新車だぞ、何百万したと思ってんだ」

「近衛局のお金でしょ?」

「……この依頼の後でも、近衛局が俺のバイク買ってくれるんなら、何も問題はねえんだがな」

 

それが一番の問題だった。また金がなくなる。報酬を差し引けばもう何も残らねえ……。いっつもこんな感じだった。

 

「それよりもう一人の女はどこだ、あいつもいるかもしれんし……警戒だけしとくぞ」

 

崩れたビルの瓦礫に身を隠して狙撃をしのぐ。ビルの近くまで近寄れない。

 

「うーん、この距離じゃ当たんないかな」

「作戦のアイデアはあるか?」

「なんとかして、あたしの射程圏内に敵を入れて。そうすれば、後はあたしが全部やるから」

「了解した。じゃあそうだな……俺が囮役をやる。まあ、後は状況次第だな。機転は効く方か?」

「ペンギン急便社則その一は、どんな時でも臨機応変に、だよ!」

「ならいい。俺が突っ込む、援護を」

 

手榴弾のピンを抜く。瓦礫から顔を出してイグゼキュターを確認する。まだ銃構えてやがる──うわ撃ってきた。あぶね。俺は手榴弾を窓までぶん投げた。

 

「もう一人の女に警戒してろ。じゃあな」

「さぁーって、久しぶりの修羅場だ。腕が鳴るね!」

 

すぐさまビルの入り口に突っ込む。階段を登っていくとイグゼキュターが待ち構えていた。狙撃銃からショットガンに獲物を変えている。これが厄介だ……。

 

「よぉ、悪いがこの間合いなら俺の方が強えぞ」

「では、試してみましょうか」

 

イグゼキューターがショットガンを構える前に、ハンドガンで応戦する。この間合いは、ハンドガンの方が早い。すぐさま何発も撃つ。命中するが──イグゼキュターは顔色一つ変えない。効いてないのか? ゴム弾とは言え、平気にしてられるもんじゃねえんだけど。

 

撃たれたままショットガンを構えている。やべ、逃げ場ない。すぐ階段を降りようとしたが間に合わず、散弾を足に喰らう。クソ痛え。

 

手榴弾のピンを抜いて投げる。イグゼキュターはすぐさま俺のいる場所に駆けてくる。対応が冷静すぎる……。木刀を構えた。正直殺しはしないなんて言ってる場合じゃない。下手うつと普通にこっちが死ぬ。

 

「悪いが資金はこっちで回収させてもらうぜ、悪いけどなぁ!」

「──そうは行きません。あれはラテラーノ公民の財産です。それを回収するのが、我々の職務ですから」

「まあそうだよな……ッ!」

 

イグゼキュターは近接格闘の心得まであるらしい。俺みたいなチンピラ崩れの”殴る蹴る”じゃなくて”格闘術”だ。そこにショットガンまで加わっている。ショットガンの長い銃身を棒に見立てた変則の棒術に、油断すれば散弾だ。

 

頭部への突きにも似た蹴りをギリギリで躱す。バックステップ。木刀を構え斬りかかる。

 

「だが俺はラテラーノには行かねえ、悪いな!」

「もとより方便です。本気で連行するつもりはありませんでした。もちろん、自首したいのなら構いませんが」

「資金回収だけが目的か?」

「私の任務は、生者と死者の依頼を果たすこと。それだけです」

「──なるほどな。まあいろいろあるみたいだが……」

 

ごり押す。どうせ俺には大した格闘技術はねえし、そういうものは肌に合ってない。力任せにぶった切るのが、一番俺に合っている。防御ごと貫くほどの一撃を。

 

「おらァッ!」

「対象の脅威度を更新、想定以上の強度です。しかし、何も関係ありません」

「お前、相方のあの女はどうした?」

「彼女は──もちろん、この場所にいます」

 

エクシアが階段を登ってきて、イグゼキュターの背後を取った。射程圏内、終わらせる──。

 

Barrage(終わりだよ)!」

「いいえ、そうは行かない」

 

──突如として現れたもう一人の執行人が、エクシアを吹き飛ばした。窓から入ってきたらしい。頭がおかしい、ここ地上5階くらいあるんだが。──いや、ロープを使ったのか? ターザンでもするようにロープで窓を突き破ってきたってことか?

 

俺はとんでもない勢いで蹴り飛ばされたエクシアを受け止め、執行人二人組に目をやった。

 

「準備完了。さようなら、死んじゃっても恨まないことね」

「待て、どういう──」

 

イグゼキュターと女はロープを窓から投げてビルから脱出した。俺は警鐘を鳴らす本能に従いエクシアを抱えて地上五階から紐無しバンジーを決行。

 

窓を飛び出した半秒後、背後のビルが倒壊していくのを感じてゾッとした。

 

あのままあの場所にいたら死んでたな。間違いない、コンクリートの海に溺れて絶対死んでた。冗談じゃねえ、一瞬でお陀仏じゃねえか。

 

地面が迫ってくる。高さ五階っていうのは、れっきとした武器だ。普通に死ねる高さ。だが両手にはエクシア、こいつだけは死んでも守り切らねえと──。

 

覚悟を決めて両足着地。骨が折れて意識が飛び掛けるが、ギリギリのところで堪えた。複雑骨折で済めばいいが、下手すりゃ一生歩けねえなこれ。

エクシアを地面に放って俺は尻餅をついた。

 

「いったた……。もう、一体なんなの……って、アルク! 足、足がすごいことになってるよ! やばいってっ」

「見たくねえ。それより無事か?」

「あたしは大丈夫、でもそれよりアルク、そのままじゃ──」

「勝負はまだ終わってねえ。あいつらはまだいる──」

 

土煙が晴れて、辺りには瓦礫の山が生成された。姿を現した。

 

「……驚きました。殺す気だったのですが」

「爆弾か? 予め仕掛けといたってのか」

「いいえ、あんたもよく知っている人物よ。あの堕天使、こんな力まで持ってたのね」

「……モスティマか、やってくれるぜ」

 

昨日の戦闘は引き分けに終わった。と言っても、俺はボロボロで、あいつは疲れただけ、っていう差があったが。

 

どっかからアーツを打ってきたんだろう。今は姿を見せてないが──あいつの最大火力は爆撃でもしたんじゃねえかってレベルだ。戦術兵器だよマジで。敵に回すとこんなに厄介だとは、なかなか分からねえもんだが。

 

驚くエクシアを他所にイグゼキュターがまたショットガンを構えた。

 

「すでに勝負は決しました。無用に命を奪うつもりはありませんが、投降するつもりがないのならば──」

「おいおいおい。何勘違いしてる? 確かに俺はもうダメだが──まだ、エクシアは無事だぜ?」

「二対一です。それでも尚、我々に勝てる、との判断を下したのであれば、愚かと言わざるを得ないでしょう。実際、昨日の時点で勝つことは出来ませんでした」

「試してみろよ。なあ、エクシア」

「──……。もう、振り回されっぱなしだよ。最初っから……」

 

エクシアが銃を展開した。右手に一丁、左手に一丁、腰に三丁括り付けて背中に守護銃。

 

「あたしを舐めない方がいいよ。──嵐のように、蹂躙してやる……」

「なるほど。では気が済むまで相手をしましょう」

「……だから執行人の任務なんて面倒だったのに。でも任務だし……」

 

俺を除く全員が銃を構えた。

 

俺はいつぞやのように、一発の弾丸を宙に放り投げた。

 

──キーン、と。音が響いて、それで始まった。

 

一秒ほど経つと、勝負は終わっていた。一人の勝者がニカっと笑った。

 

「……It’s as easy as pie(アップルパイを焼くより簡単だね)!」

「流石だ、エクシア」

 

ぶっ倒れた執行人たちの様子は分からないが、死んではないだろう。ゴム弾だ。最初からこっちはゴム弾というハンデを抱えていた。とんだ不平等ゲームだったが……勝ったのは俺たちだ。

 

「……任務完了、遺言は履行されました」

 

ゴム弾とはいえ、掃射を浴びて無事ではいられないらしい。イグゼキュターはぶっ倒れたままそう言った。

 

なんだと? 遺言……?

 

「……あんたね、倒されといてそれ言うってかなり間抜けなんだけど」

「事実です。どちらにせよ、ノエル様の遺言が履行されたことに変わりはありません」

「え──? ノエルって……ノエル姉のこと!? 遺言ってどういうこと!?」

「知りたいのであれば、こちらの音声ファイルをお聞きください。三年前に録音されたものです」

 

イグゼキュターは懐から端末を取り出した。

ノイズ混じりに音声が流れ始める。

 

……久しぶりに聞く声だった。

 

 

 

『執行人。これから遺言を残します。そうですね……。この遺言の実行は、今から三年ほど経ってからにしてもらいましょうか。細かい時期はお任せします』

「あなたは健常に見えますが。遺言は自殺に限っては無効になります。ご注意を」

『自殺なんてしませんよ。なんというか……これは保険です。詳しいことは話せませんが、明日、おそらく私は殺されるでしょう。だから今日、残しておくことにしました』

「了解しました。また、この会話は録音させていただいております。それでは遺言をどうぞ、ノエル様」

『私にはエクシアという妹がいます。あなたがたに、私が死んだ後、妹がちゃんとやっていけているかどうかの確認をお願いします』

「分かりました、受理します。できれば、その手段を具体的に明示いただけますか。その方が、遺言の精度が向上しますので」

『ふむ……。こうしましょう。エクシアが十分に自分の身を守れる、もしくは継続的に守ってくれる人間がいるかの試験をしてください。具体的には──あなたがた執行人と戦い、打ち勝つ事ができれば、その先でも十分やっていけるでしょう。そんな感じでお願いできます?』

「分かりました。では、私が引き受けましょう。執行人の中でも、特に私は戦闘に秀でています」

『あのイグゼキュターなら間違いはないでしょう。信用します。ああ、場合によってはもう一人でも二人でも、別の執行人を連れてきて構いません。なんであれ、あの子と、あの子の周りにそれを打ち破れるだけの力があれば、それでいいです』

 

……そうか、そういうことだったってことか。

 

「了解しました、そのように。では、あなたの妹、エクシア様がそれを達成できなかった場合、どうなさいますか」

『ラテラーノに連れ戻して、法王親衛隊にでもぶち込んでおいてください。怠け癖のあるあの子にはいい薬です』

「全てそのように致します。しかし……失礼ですが、エクシア様が何者であろうと、私に勝てるとは思いません。差し出がましいようですが、ラテラーノに連れ戻したいのであれば、最初からそのように致しますが」

『あの子は私の自慢の妹です。イグゼキュター、あなたの実力は私も知っています。その上で、あの子は強い。そしてきっと、今よりもずっと強くなっている』

「なぜそのように思うのか、お聞きしてもよろしいですか」

『私があの子の姉で、あの子が私の妹だからです』

 

相変わらずのシスコンで何よりだった。……いや、もう死んでるが。

 

「なるほど、理解しました。遺言は以上でよろしいですか」

『ええ。そうだ、これ録音されてるんでしたよね。いつかエクシアが聞くかもしれないし──エクシア。あなたの人生に神の御加護があらんことを祈っています。楽しく、幸せに生きて下さい。……こんなところですか。それでは執行人、後のことは任せましたよ』

「お任せ下さい。生者と死者の依頼を果たすのが、私の役目ですから」

 

 

「一つ誤解のないようにお伝えしておきますが、資金の回収は全くの別件でした。エクシア様がそこに関わってきたのは、我々にとっても誤算だったのです。結果的には、遺言の履行に都合はよかったのですが」

「……なるほどな」

 

エクシアはちょっと放心している。姉からの言葉を噛み締めているようにも見えた。そういうことなのだろう。

 

「モスティマはこのこと知ってんのか?」

「この遺言を聞いたから執行人補佐になってるの。一時的に、だけど。全く……一度に二つの案件を進めるこっちの身にもなってほしいわ」

「大変だな。……ところでよ、その流れ出た八億についての話をしようぜ」

「ラテラーノとしては、これに龍門のかかわる余地は無い。以上よ、そのために特記条約まで送ってやったってのに……」

 

廃棄区画に一台の車が近ついてきて停まった。出てきたのは、近衛局のあいつだ。俺に依頼をしたヤツ。

 

足の関節が増えた俺を見て、近衛局の男は礼をした。

 

「お疲れ様でした。ここからは私の出番です、依頼は完了としますのでご安心を」

「治療費も出してくんね?」

「契約対象外です。当初の三倍も報酬を支払ってる上、昨日大量の請求書が近衛局に送られてきました。正直アレについての説明も求めたいのですが……。まあ、今はこっちを片付けましょう」

「クソが……あー、クソだー、また金がすっからかんだ……」

 

近衛局の男と瓦礫に持たれて座っているボロボロの執行人は、少々対照的だった。

 

「さて、あなた方執行人は龍門市街、および住民への被害を出しました。その上、我々の代理人に強い危害を与えましたね」

「特記条約を読んでないの? そもそも、あんたらが勝手に出張ってきたからこんな面倒な事態になってるっていうのに」

「あんなふざけた条約を一時的とはいえ承認したのは、我々龍門がラテラーノと今争うのは避けたかったからです。──だがそれは、あなた方ラテラーノに対しての寛容さを意味するのではない。龍門には龍門のルールがある。資金は我々が回収します。その上で国際法に則り、被害者の元へ返すとしましょう」

「それは私たち執行者の仕事だって言ってるでしょうが。これはラテラーノの問題よ、龍門にはなんの関係もない。だから最初に忠告しておいた。それを無視したのはあなた方よ」

「……。やめましょう、不毛だ」

「そうね、本当に無駄だわ」

 

国家の手先たちは揃って似たようなため息を吐いた。

 

「……ラテラーノへ、貸し一つとします。それでどうです?」

「ダメ。経済特区の枠にラテラーノへの優先権をつけて。それぐらいしないと本国の頭でっかちを納得させられない」

「銃の流通規制を緩和してください。もっと龍門へ優先して流してもらえませんか?」

「……分かったわ。その代わり、八億は全額私たち執行人が回収する。もう手出しはしないでね」

「では、このことを表沙汰にせぬよう。書類は後ほどお送りいたします。……はあ、お互い大変ですね」

「全くね……。ほら、いくよイグゼキュター。いつまで休んでるつもり」

「ダメージが想定以上でした。……なるほど、確かにノエル様の言う通りでした」

 

二名は立ち上がった。信じられねえ、立てるってのかよ。ゴム弾とはいえ、痛くないわけがないが。

 

「それでは。アルク様、エクシア様。機会があれば、またお会いしましょう」

「二度と会いたくねえ……。じゃあな執行人ども」

 

執行人たちはどこぞへと去っていた。

 

近衛局の人が端末で連絡を取ってから、俺の方を向いた。

 

「治療費の三割程度は負担しましょう。手続きもこちらでやっておきます。しかし、あの執行人相手によく生き残りましたね」

「生き残ったんじゃねえ、”勝った”んだ。……だがまあ、なるべく敵に回したくねえな。もうゴメンだ。執行人も、あんたら近衛局も」

「これほどの大事は龍門でもそうそうあるものではありませんよ、私だって予想外でした。……ところで、そちらの方は大丈夫なんですか? 放心していますが」

「……ああ、うん。あたしは大丈夫。行こう、救急車は?」

「すぐ来ます。……それにしてもひどい怪我ですね、一体何があったんです?」

「そこらへんの瓦礫、数分前までビルだったっつったら信じるか?」

「それはそれは──」

 

本当、よく生きてられるものだと思った。

 

 

 

 

 

 

パーティー会場が俺の病室になり、速攻で部屋から下手人が叩き出された。ペンギン野郎とエクシアのことだ。わずか数分程度のパーティーだった。おそらくあいつら、もう国立病院は出禁だろう……。

 

「やあアルク、ひどい怪我だねぇ。アハハ、君ともあろう者が一体どうしたと言うんだい?」

「ラップランドか。どうしてここが分かったんだ?」

「ボクは君のことならなんでも知ってるのさ。ほら、フルーツでも食べるかい?」

「ありがてえ。妙なところでお前は常識的だな」

「ボクは普段からこうだよ? 君が勝手にボクを狂人扱いしてるだけじゃないか」

「ははは、ジョークまで上手とはな。こいつはまいった」

「アハハハハッ、今のはボクが悪かったかなぁ! でも残念だ、これじゃ君と戦えない」

「治っても勘弁だっつーの。そもそもお前んのとこの依頼主どうなったの?」

「さあ、みんな死んじゃったんじゃないかな。今更どうでもいいけどね」

 

詰まらなさそうにラップランドは言った。それから急に楽しそうに笑った。

 

「ああそうだ、アルク。ボクのお願いを聞いてくれよ」

「……仕方ねえ。そういう約束だったしな」

 

ラップランドは懐から首輪を取り出した。犬とかに付ける、黒い首輪──にしては、少しサイズがデカいが。

 

ラップランドはその首輪を俺に付けた。

 

「……なんの皮肉だ、この俺が首輪つけられるなんてな。どういうつもりだ?」

「ボクとお揃いさ。ほら、ボクも付けてる」

「いよいよもって謎だ……俺はループスでもペッローでもないんだが」

「そうだねえ、まあ退院するまではそれ、ずっと付けてなよ。これがボクの”お願い”さ」

「分かったよ……」

 

ラップランドは俺の喉元を人差し指で撫でて、満足そうに笑った。

 

「これで、君の飼い主はボクだ。そしてボクの飼い主は君だ、アルク。ちゃんと──誰が見ても分かるように。外しちゃダメだよ?」

「趣味悪いな……」

「アッハハハハ! それじゃあね、アルク。お大事に」

 

それだけ言い残してラップランドは去っていった。一体なんだったんだ、マジで。

 

首の首輪を撫でる。ひんやり冷たかった。

 

しばらくするとモスティマが来た。

 

「や、アルク。調子は……あんまりよく無さそうだね」

「お前のおかげだよ、モスティマ」

「アルクに手加減はしないって。それに、アルクは死なないって信頼もしてたからね」

「嫌な信頼だ。俺が死んでたらどうすんだ」

「私も後を追うよ?」

「やめろやめろ、ホラーの気分じゃない。……お前、ノエルの遺言知ってたのか」

「やっと納得がいったんだ。ノエルがエクシアに何も残さないはずがないってずっと思ってたからね」

「まあそうだな。あいつらしいっつーか、愛は厳しさ、みたいなのを地で行くよな、ノエルは」

「そうだね──」

「お前、このあとはどうすんだ?」

「決まってるよ。ノエルの墓参りさ。久しぶりに、ラテラーノに帰ろうと思うよ」

「そりゃいい。俺の分も祈っといてくれよ。俺はラテラーノ出禁だからな」

「分かった、やっておくよ」

 

モスティマもフルーツを持ってきていた。ラップランドの置いて行ったフルーツ盛りの隣に並べる。食い切れねえ。

 

「エクシアも墓参りに連れて行ってやったらどうだ?」

「うーん……えー、今度でいい?」

「お前な、ほんとな……。俺も人のこと言えねえけどな、言えねえけど……。大体なんで会ってやらねえ。いや、俺が言えたことじゃねえけどな?」

「うん、君が言えたことじゃないよね。まあ、君がフロストリーフに会おうとしないのと同じ理由さ」

「クソが、なんも言えねえ……」

 

論破なんて生やさしいものではなかった。だがやられっぱなしで終わるわけにもいかない。

 

俺は一つ、いいアイデアを思いついた。

 

「そうだ、悪いんだが、一つ頼まれてくれねえか?」

「いいよ。なんだい?」

「実は猛烈にハンバーガーが喰いてえんだ。病院のメシが薄味すぎて、ちょっと気が狂いそうになる。悪いんだが、お使いをしてくれ」

「構わないけど……そんなに食べたいの?」

「ああ。こっからだと歩いて十分のとこにマグロナルドあったはずだ、そこのビッグマックを頼みたい」

「いいよ。ちょっと待っててね、行ってくるから」

「悪いな」

「ううん、気にしないで。──ところで、その首輪は一体どうしたのかな?」

 

やばい。

 

「んー? あー、これ? いやこれはあれだよ? アレ──俺もファッションに目覚めただけだ、気にすんな」

「あんまり人の趣味嗜好に口を出すつもりはないんだけど……随分趣味の悪い首輪だ。一体誰が選んだのかな」

 

何か、徹底して無機質な、表面だけ繕ったような、天使みたいな笑みを浮かべて──。

 

怖、やばい。絶対に下手を打つな。いやなんで俺がこんなに焦らなくちゃならないんだ。

 

「それ、取ったほうがいいよ」

「んー、ん……。あー、うん。考えておく」

「そう」

 

モスティマは俺の喉を指でなぞった。震えが止まらない。

 

冷たい瞳で俺を貫いた。

 

「──忘れないでね、アルク」

「な、何をだよ……?」

「……いや、なんでもないよ。ごめんね、すぐ買ってくるよ」

「ああ、悪い……」

「戻ってきたら、"それ"について……ちゃんと聞かせてもらおうかな?」

「ひっ……」

 

病室のドアが閉まった。足音が遠ざかっていく。

 

「……。あ、もしもしエクシアか? アルクだ。今すぐ病院に一番近いマックに行け、十分以内に辿り着け。……ああ? モスティマに会いたくないのか? ……だろ? じゃあすぐに向かえ、……ああ。信号も全部無視しろ。モスティマに会いたいんならな。……ああ。じゃあな」

 

世界の平和は、このようにして保たれるのであった。

 

めでたしめでたし。はは。

 

 

 

 

数ヶ月経って、俺はようやく退院することができた。

 

自分の足で歩けるって素晴らしい。これからリハビリだが、ちゃんと治って良かった……。

 

杖を使いながらちょっとずつ歩き始める。向こうから人が近づいてきた。エクシアだ。

 

「よぉ、帰ってきてたのか」

「うん、昨日ね」

「久々のラテラーノはどうだったよ」

「うーん、あんまり変わってなかったかなぁ。でも古い友達と久しぶりに会えたりして、結構良かったなー。モスティマも一緒だったし」

「そりゃ良かった。モスティマはもう行っちまったのか?」

「うん、ラテラーノで別れてきちゃった。今度はどこに行くって言ってたかな──」

「ま、あいつらしいか」

 

のんびりリハビリする俺に並んでエクシアが歩く。

 

「アルクも、治ったらどっか行っちゃうんだよね」

「俺たちはトランスポーターだ。てかマジで金がやべえ、底を尽きる」

「ならペンギン急便に来ればいいのに。結構給料いいよ?」

「それはダメだ、俺のポリシーに反する。だがまあ、もう少しリハビリはかかりそうだがな」

「うん──ならまあ、いっか」

「しかしエクシア、お前なんか変わったか?」

「ん? どうして?」

「いや──なんか、一瞬ノエルに見間違えてな。いや、本当になんとなくなんだが」

「ううん、どうかな。でも、やっとあたし、前を向いて歩いて行けそう。なんか、気分がいいんだ」

「そうか。なら良かった──」

 

ノエルが報われた。あの不器用な天使が、やっと報われたのかもしれない。

 

「ねえ、ところでさ──その首輪いいかげん外したらどう? 似合ってないよ」

「いや、俺も似合ってねえのは重々承知なんだが……。ダメなんだよ、仕方ねえんだ、ほっとけ」

「えー、そんなに首輪がいいならあたしが選んであげるって。今度買いに行こうよ」

「いや首輪が好きな訳じゃねえからな。マジで、うん──」

「ホントかな。なーんか嫌なんだよね、それ見てると……うん。やっぱりやだな。外そう、それ」

「……バレるからダメだ。絶対バレるんだよ。あいつはそういうの、めちゃくちゃ鼻が効くんだよ」

「……あいつって誰。もしかして、あの時の頭おかしそうな女のこと?」

「頭おかしいとか言ってやるな。アレで色々抱えて生きてんだよ……」

「アルク! 外すっていったら外してよ、もう!」

「やめろ、マジでやばいんだって、面倒くさいの極みを体現したような女なんだって──」

 

だがまあ、良かったのかもしれない。

 

いや、いい話だぜ。俺もずっと気がかりだった。胸のつっかえが一つなくなった気分だ。

 

「あーもう! じっとして! 嫌ならペンギン急便に入って!」

「二択が極端すぎる! なんだそれ! やめろ、離せ、離せ──っ」

 

そんなこんな。今日も平和だ。

 

バカか、俺の人生が平和だったことなんて一回もねーっつーの。

 

まあともかく、次の目的地を描こう。

 

この世界のどこかにある、俺の辿り着く場所を探して────。

 




・イグゼキューター
HPがクソ高い。狙撃……? ってレベルで高い。あと強い。あと顔もいい。声もいい。

・近衛局の人
このあとめちゃくちゃ仕事した。あからさまな有能キャラは苦労しがち

・実演販売員
苦労人。実装はよ、はよ
サンクタじゃないのに公証人役場なんでこの人も色々ありそうですよね。ラテラーノ自体が謎すぎワロス

・モスティマさん
移動固定砲台モスティマさん。チートやチート!

・ノエル
久々の登場。エクシアのお姉ちゃん。遺言を残していた
故人。

・エクシア
ア ッ プ ル パ イ !
特化素材がんばれ♡ がんばれ♡
さらっとペンギン急便に戻っている。

・ラップランド
マーキング(ボソッ
ヤンデレというよりはこれが正常。まともなデレ方を知らない

・マグロナルド
はたらく魔王さま面白いよね……。


エクシア編終わりました。完結、おしまい平定!(世界平和)
このあとロドス編の短いやつ書きます。多分やります。嘘じゃないです
ほんとぉ?(自己疑問)
ほんとです(自問自答)

今度という今度は完結です。本当に完結です。でもロドス編は書きます。ほんとですゆるちて

あと読んでくれてありがとうございます。本当に感謝。感想は励みになります。なので評価と感想ください
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。