男たちと話す話 1
……頭痛い。
あたまが、いたい。
──二日酔いだよ! クソが!
気分が悪い、ゲロ出そう、水飲みたい……。
ここ……俺の部屋か? ……。昨日、どうなったんだっけ。覚えてねえ……。えーっと、カタパルトがイエガー持ち出してきたあたりからの記憶がない……。
隣を見た。
下着姿のエクシアが寝ていた。俺は逃走した。
男たちと話す話
「よぉ、昨日は酷かったな」
「……ノイルホーン。おはよう」
「おはようさん。気分はどうだ?」
「最悪だ……」
ロドス食堂のテーブルに座って胃に優しいお粥的なものをちびちびと。染み渡る……。昨日の宴会があったから、食堂の人が気を遣ってくれた。本当にありがたい。
「どの辺から記憶がなくなったよ?」
「ショットで飲み始めた辺りからだ……。あの後、どうなったんだ……?」
「いや、あれは……俺の口からはとても言えたもんじゃねえよ。とにかくヤバかったぜ。俺は途中で命の危機を感じたから逃げた。だから詳しいことは分からねえ」
「命の危機……? なんで……?」
倦怠感、気を抜くとすぐにでも吐きそうだ。
ノイルホーンは揶揄うように笑った。
「やれやれ、色男も大変だな。心からそう思うぜ」
「……待て、本当に何があった。別になんか問題が起きるようなメンバーじゃなかったはず──」
「あー、その辺りからもう記憶ないのか。あのな、お前が楽しくなって頭の悪い飲み方し始めたあたりでフロストリーフのヤツが来てな」
「……!? な、……なんで……」
「あれはヤバかったな。なんつーか……酒に溺れた男の末路を見た」
「そんなにか……?」
「ああ。女って怖えな、改めてそう思ったぜ。冗談抜きでな」
頭を抱えた。
大規模作戦の成功を祝して、部隊のメンバーで飲んだ。そこまでは、まともだった。……。部隊のメンバーにエクシアもフロストリーフもいなかった。
「……他の連中、ミッドナイト辺りは……どっかいねえか。昨日の顛末、最後まで覚えてるヤツ、誰か……」
「ミッドナイトは途中でオーキッドにどっか連れてかれていたからな。そうだな……スポットは俺より長くいたはずだぜ」
「あのもふもふ野郎か……。もふもふしたいな……」
「まだ酔っ払ってんのか? あんまり撫ですぎるとダマになっちまうって言ってたぜ?」
「ああ……、お──噂をすればってヤツだな。スポット!」
朝食用のトレーを持って歩いている毛玉を発見した。
もふもふ野郎は面倒そうに歩いてきた。
「なんだ、朝っぱらから。俺に何か用か?」
「まあ座ってくれよ。昨日のことで聞きたいことがあるんだが──」
「昨日? ああ、ありゃ酷かったな。天下のトランスポーター様が運ばれてちゃ世話ない」
「……いや、マジで何があった」
「俺の口からは、恐れ多くて話せない。他を当たってくれ──と、いつもなら言うところだが。俺に女の怖さを教えてくれた礼に一つ教えておくとしよう」
「……なんだ、やめてくれよ。怖い話は得意じゃねえんだ」
「アルク、あんたが今日を無事に生きていたいんなら、天使に遭遇するな。……ま、無茶な話だろうがな。正直、俺も途中で逃げた口だ、全部はわからない」
「あああ終わった……。終わったわ俺……」
ノイルホーンとスポットは優しかった。
「まあ、頑張れよ……。俺たちはお前の味方さ」
「同情はしないが、応援はする。せいぜい、死なないように立ち回ってくれ。今日一日を乗り越えれば、まあなんとかなるだろ」
「終わった……。なんかよくわからんが終わった……。なあ、相談なんだが、朝起きたら隣で天使が寝てた時ってどうすりゃいいと思う?」
「贅沢な悩みだ。ま、──諦めた方が早いんじゃないか?」
「俺も同感だな。モテすぎてもヤバいんだな、一つ教えてもらったぜ」
「あああ……。部屋に戻れねえ、匿ってくれないか……?」
「死んでもごめんだ、俺はまだ死にたくはない。特に、痴情のもつれなんかには巻き込まれたくないんでね」
「ノイルホーン、頼むよぉ……」
「悪い、俺もちょっと無理だわ。鬼にも怖いもんはある」
そういうことだった。
行く宛がなかった。
俺は朝の日差しが照らすロドスの甲板で景色を眺めていた。
終わったと思った。
「おや、アルクさん。こんなところで何をしているんですか?」
「……スチュワード。よぉ」
「はい、おはようございます」
柵に肘を突きながら朝から黄昏ていた。スチュワード……ヴァルポの青年。年は俺よりいくら下だが、ロドスへの加入は俺より早い。
「……」
「大体、何を考えているかは予想が付きます」
「マジ?」
「ええ、昨日のことがありましたから。どうするんですか?」
「俺は……昨日のことを覚えてない……」
スチュワードは天を仰いだ。
「やってますね」
「……スポットもノイルホーンも教えてくれない。だんだん怖くなってきてな。なあ、教えてくれよ……俺は、どうしたら……」
「泥酔したアルクさんにフロストリーフさんがベロチューしてました」
「ああ……終わった……」
「それをモスティマさんが偶然目にしてしまって……ああ、もうこれ以上は僕の口からは言えません」
「なんでだよ……。居なかっただろその二人さあ、大体行動予備隊の大人組ぐらいしか居なかっただろ……」
「酔っ払ってテンションが上がったアルクさんがカタパルトさんと悪ノリして呼んだんですよ」
「カタパルトの野郎許さねえ……うう、気持ち悪りぃ……」
「水、飲みますか?」
「ああ、お前は優しいな、スチュワード……」
ペットボトルを傾けた。優しい味がした。
「理想の女のタイプって、どういうのだと思うよ」
「昨日散々その話で盛り上がってたじゃないですか。忘れたんですか……って、忘れてましたね」
「うるせえ。で、結論は」
「まあ、好みによりますよねってことで」
「そりゃあそうだろうよ……。俺はまともな女がいいな……」
「僕は守ってあげたくなる系の女の子がいいですね」
「お、そりゃいいな。一理ある……。ロドスの女はどいつもこいつも強すぎる」
「それには同意します。ポプカルちゃんとか……あの歳で自分より重たいもの持ち上げますからね」
「ああ……」
朝焼けに照らされる荒野は眩しかった。きっと夢でも見てたんだろう。
「実際、どうする気なんですか?」
「……。いや、なんつーか……。死にたくない」
「いやそっちじゃなくて。アルクさん、やたらモテますからね」
「はは、代わるか?」
「絶対に嫌です」
「だろ? あれはな、違うんだよ。なんつーか……。愛とか恋とか、好きとか嫌いとかじゃねえんだよ。もっと恐ろしい何かなんだ」
「僕は最初、フロストリーフさんの話を聞いた時、アルクさんのことをゴミだと思いましたよ」
「最初お前からの当たり強かったもんなぁ」
「五年もほったらかせばそうなりますよ。フロストリーフさんに関してはほぼ自業自得なんじゃないですか?」
「あいつまだガキだぜ? そりゃ、ちょっとは大人になったかもしれねえけどよ」
「まあ確かに、学生をやっていてもおかしくはない歳ですけど。もう十分自立していますし、子供扱いばかりするべきではないと思いますよ」
「五年間のギャップがまだ消えてねえんだよ……。まだ俺の中ではガキだ」
「まあいいでしょう。次の話行きます?」
「そうだな」
最悪な体調だが、天気はいいし、風の質もいい。清々しい一日になりそうだ。死ぬかもしれないが。
「モスティマさんって、ぶっちゃけどんな関係なんですか?」
「……腐れ縁だ。お前、あいつはどういうヤツだと思う?」
「正直、不気味でした。戦闘能力もそうですが、どこか人間味がなくて……。ですがアルクさんといるところを見て、印象がガラッと変わりましたね。なんか、ちゃんとした人間なんだなって思いましたよ」
「だろうな……。正直長い付き合いだし、色々……それはもう色々あったから、状況によっては流されるかもしれん。それが怖い」
「どうしてですか? 羨ましいくらいですよ、あんな綺麗な人にすごい好かれてるなんて。男だったら嬉しいに決まってるじゃないですか」
「俺と代わってみるか? じゃあ」
「絶対に嫌です」
俺たちは拳と拳をぶつけ合った。ゴツン、いえーい。
「なんつーかな……。俺もあいつのことは嫌いじゃねえんだが、あいつと一度関係を持っちまうと何かが終わる気がすんだよな、うまく言えねえけど」
「結婚は人生の墓場ってヤツじゃないですか?」
「ああ、それだそれ。そんな感じだ」
「誰しもそうじゃないですか。アルクさんの覚悟が決まってないだけですよ」
「覚悟……決めなきゃダメか?」
「男なら、決めなきゃいけない時があります。今がそうかまでは、正直責任が持てませんので言いませんけど」
「……どう思う」
「下手な行動を取ると死ぬんじゃないですか?」
「お前もそう思うか。俺も同じ意見だ。……実は今日、死ぬかもしれねえ」
「はい、僕もそう思います。真面目な話、指が動くうちに遺書を書くことをおすすめします」
「はぁ──……。終わった。もう終わった。死にたくねえなあ……」
「では、僕はこの辺りで」
「おいおいやめろよ、俺が心細いだろ? もうちょっと話そうぜ」
「僕は今日も仕事がありますから。それじゃ、生きてまた会いましょう」
「スチュワードぉ……」
スチュワードは去っていった。
俺は甲板のベンチに項垂れた。
……これからどうする?
背後を振り返ると、自販機で飲み物を買っているアンセルが見えた。俺はアンセルを手招きした。来た、優しい。
「どうしたんですか、アルクさん。ひどい顔色ですけど」
「実はさっきから寂しいんだ。誰かに近くにいてほしい。頼むアンセル」
「……一体何があったんですか。私で良ければ、話を聞きます」
「天使か。いや実はな、今日を生きて終われるか分からないんだ。いつ殺されるか不安で仕方ない」
「いや、本当に何が?」
「昨日、酒が飲める連中と集まって宴会をしてたんだ。で、記憶なくなるまで飲んで、起きたら隣にエクシアが寝てた」
「……同情の余地がありません。それでは私はこれで」
「待って! 待ってくれ! 違う、俺のせいじゃない──!」
「全く……。いい大人が、何をしているんですか。もう責任取っちゃえばいいのに」
「アンセルぅ……。いや待て、やらかしたかは確定してない、本当に寝てただけの可能性があるんだって!」
「その状況になってる時点でおしまいです。それに、医師見習いとして言わせてもらいますが、アルコールの過剰摂取は危険です。控えた方がいいですよ」
「昨日の俺に言ってくれ……」
項垂れる俺と、缶コーヒーを飲むアンセル。やれやれ、とかぶりを振る姿は、とても男には見えないが。
「あのさ、同じ男として聞くんだが──ハーレムってどう思う?」
「……朝からひどい話題ですね。それ、私に聞くんですか?」
「男だろ? ……いや、正直最初聞いた時は耳を疑ったがな」
「やれやれ……。まあ、興味も憧れもありますよ。私もこんなナリですが男ですので」
「おお、流石だ」
「まあ可愛いもの好きの女性は多いですから、私も結構そういう状況になることも多いです。でも──仕事が忙しいですし、きっと私は行動予備隊A4を優先するでしょうから、すべて断っているのですが」
「……天使か聖人か神か何かか?」
「比較対象が大きすぎます。ですが、時折、本当に時々そういうものを憧れる時も、ないとは言い切れません。私のイメージでは、アルクさんはそれに近いです」
「そうか……。一つアドバイスだが、仲良くなる女は選んだ方がいいぜ。些細な日常の中で、ふとした拍子に”俺今日、死ぬかもしれない”なんて思いたくなけりゃな」
「覚えておきましょう。ですが、そんな状況になるのは、きっとアルクさんだけでしょうけど」
「ああ。……ところで、お前好みのタイプとかあんの?」
「私ですか……」
アンセルは意外にもノリノリだ。面白いとこあんな。
「私はまあ、強い女性が好み……ですね。私自身、あまり体が強くないので。まあこれはあまり性別を問わない好みではあるのですが」
「メランサとかか?」
「まあ、彼女は──」
「ああ悪い、あいつはあんまり強そうに見えねえか」
「……アルクさんは知りませんでしたね。メランサは──人の形をした何かです」
「……。物騒だな」
「いえ、私も表現の度が過ぎました。メランサは確かに病弱気味……ということですし、メディカルチェックを通してもそれは事実だということが分かります。ですが……戦場の彼女は、強すぎる。今の彼女の仇名は剣聖です」
「……。この話、やめるか?」
「そうですね……」
畏敬の念すら覚えているらしい。……警戒は、しておこう。
「まあ、何事もほどほどにしておくのが一番です。医師は人間関係にまでは口を出しませんが、気をつけた方がいいですよ」
「手遅れだ。……なあアンセル、お前俺の彼女ってことで通せねえか?」
「まだ酔っ払ってるんですか。私、まだ死にたくないんですけど」
「だよな、悪い。……ちょっと弱ってるみたいだ。忘れてくれ」
「いえ……」
微妙な空気が流れた。アンセルが立ち上がる。
「私はこれから仕事なので、この辺りで。安心してください。即死でもない限りはロドスが誇る医療技術で助けられますから」
「……。頼む」
「ええ。では」
アンセルは去っていった。
……。
死にたくねえな──。
・ノイルホーン
頼れるアニキ。もっとアークナイツ本編でも登場して欲しいでござ
・スポット
もふもふした皮肉屋。かわいい(?)
声がいい。明らかにそげふ
・スチュワード
星三だからと舐めてはならない。意外と使い勝手がいい。
・アンセル
だ
が
男
だ
一人称が「私」なんだよなお前な。コーデ可愛すぎか
・メランサ
星三の形をした何か
明らかに強すぎる。新米ドクターは育てて、どうぞ