モスティマさんは出ません。タイトル詐欺の私を許してくれ
ラップランドとは長い付き合いだ──いや、付き合いなんてものでもないか。
当時俺は荒れていた……というより、自暴自棄になっていた面があって、傭兵の真似事なんぞをやっていた。剣術の腕には自信があったし、事実俺はそれなりに強い個人として名前は広がっていた。
広がっていたっつっても狭い地域のローカルネットワークでの話で、そう自慢できたもんじゃなかったが、当時はそれでも気を良くしたもんだ。
だが同時に路傍のゴミのような生活だったことも確かだ。剣の腕で日銭を稼いではその夜の内にはそいつを全て酒に換えては路地に寝っ転がって干からびるように死ねるのを待っていた。
実際死にたかったように思うし、そうじゃなかったようにも思う。覚えてないってことは、そんなことは実際大した問題ではなかったのだろう。
ラップランドはその時から今に至るまで、ほとんど変わっていない。昔からあんなんだったし、そのずっと昔からあんな感じだったんだろう。俺もあいつの過去は知らない。地雷が埋まってるって分かってるのに、その上を歩こうとは思わないだろ?
ラップランドは殺し屋をしていた。金と気分で、誰だって殺して見せる凄腕の狂犬。飼い主のいない捨て犬だったが、間違いなくあいつは強かった。誰が相手でも、何の問題もなかった。
俺はある日、一つの依頼を受けた。護衛の依頼だ。
──。
あいつはどうだったのだろうか。
実際のとこ、どうだったんだろうか? 今となっては、それを知る術はない。ラップランドの本心など、誰が分かるものなのだろうか。
あの時、ラップランドは救われたんだろうか?
誰一人としてその答えは知らない。もちろん、俺も知らない。
ラップランドとの出会い、あるいはアルク・ブルズの復讐──上
六年前、ウルサス帝国のスラム。快晴、正午。
バイクをいじくり回していた。
すると、いつの間にかラップランドが背後に立っていた。俺はビビって慌てて振り向くと、ラップランドは笑った。
「アハハ、いい表情をするじゃないか。いいね、思わず殺しちゃいたくなる、いい顔だ」
「……お前な、趣味悪いな。声ぐらいかけられねえのかよ」
スパナを置いてため息を吐いた。今に始まったことじゃないが、心臓に悪い。
「んで、何の用だ」
「お忘れかい? 君から誘ったんだろう? ボクにバイクの乗り方を教えてくれる約束じゃないか」
「ああ……。そうだったな、悪い。少し待ってろ、すぐメンテナンスを終わらせる」
言葉通り、俺はパーツの清掃を終えて嵌め込んだ。ボルトを締めれば完成、メンテナンスが完了する。もっとも、ここまでやる必要がないが、俺はこうやってバイクをいじるのが好きだった。
「オーケーだ。お前のはそっちのヤツな、これ鍵」
「あれ、こっちじゃないのかい? てっきりボクのためにメンテナンスをしてくれているのかと──」
「安心しろ、そっちもやってある。東方重工のいいヤツだ」
「へえ──ま、よく分からないけど……行こうか」
俺がバイクにハマったのは、そう難しい理由があるわけでもない。昔バイクってものを一目見て、惚れ込んだだけ。
スラムに住もうとも、これだけは譲れない……おそらく生涯の趣味だろう。まあこれのおかげで生活は苦しい通り越して破綻してるが……。別に構わない。コイツさえあれば飯食わなくたって生きていける自信がある。
ラップランドがバイクに興味を持ったのは、珍しいことだったと思う。翌日にはどっからかバイクを調達してきて俺に放り投げたのだ。おかげで整備に徹夜した。
これはラップランドとの取引でもあった。
俺はラップランドにバイクのいろはを教え、ラップランドは俺の剣術の相手をする。
「ああ、そうだ。クラッチを引いてギアを入れてアクセルを蒸す。そんでちょっとずつクラッチを戻せ」
「……ややこしいな。もっと楽なのはないのかい?」
「すぐ慣れる」
動かすだけならば、大した技術はいらない。免許の有無なんかラップランドは気にしないだろう。そもそも俺も免許なんざ持っちゃいない。どうせスラムの住人だ。
半日もあれば、すぐにラップランドはバイクを習得した。無論ヘルメットなんかつけてない。まるで安全面を気にしない格好だが、ラップランドが事故るところなんか想像もつかない。
「いいね、なかなか悪くないじゃないか! 礼を言うよアルク、これはいい!」
「わかってくれて何よりだラップランド。ところでこの後先生の稽古あるんだが、どうだ?」
「いいね、今は気分がいいから付き合ってあげるよ。まあ、どうせボクには勝てないんだろうけどね! アハハ!」
大体その通り。俺は何一つとして言い返せないが……それはラップランドの戦闘スキルが卓越しているからであって、俺が弱いわけではない……はず。
そう、ラップランドは強すぎる。
スラムの開けた場所。ゴミの散らかる汚い場所だったが、今ではすっかり稽古場になった。
一歩踏み込む。
二刀流の弱みは、一本一本の軽さだ。片手ずつの力は、両手で握るのに比べれば弱い。
「──せあッ!」
「アハハ、悪くないけど……」
二刀流の強みは、二本あることだ。それを使いこなせるのなら、の話ではあるが。
「後隙がお粗末だね」
脇に一本。そして喉に突きつけられた木剣の剣先。俺は負けた。
「……。クソ、冗談みたいな強さだな、相変わらずで何よりだ」
「惜しかったねえ、もう少しでボクに勝てたかもしれないよ?」
「冗談はやめてくれ。だが……ようやくお前に二本とも使わせられる様になったぞ」
「まあ、その辺りの進歩は認めてあげてもいいかもね」
それを見ていた先生が口を出した。
「アルク、ラップランドの二刀流に気を取られすぎだ。もっとラップランドの動きを見なさい」
「っつっても先生、それ同じことじゃないですか?」
「枝葉に目を向けるのではなく、幹そのものを見ろと言っているんだ。全体をね」
「へえ、さっすが先生。いいこというじゃないか。先生も一戦どうだい? ボクは歓迎さ」
「いいや、私はよしておこう。これで負けたら私の面目が立たない」
先生は、シワが目立ち始める年齢で、ここスラムでは子供たちを保護して育てている。その人柄と豊富な知識から、先生と呼ばれて慕われている。俺もその一人だ。
「おにいちゃん、おねえちゃん! 稽古終わった?」
「アメリア。来てたのか」
アメリアはひまわりの様な印象を受ける少女だ。まだ小さく、本来なら初等教育を受けている年齢。だがここはスラム。
ラップランドがそっと距離を取った。
「ラップランド……。相手してやれよ」
「ボクは子供が嫌いだ」
「つっても、向こうはそうじゃないみたいだけどな」
おねえちゃん、と駆け寄ってくるアメリアを、ラップランドは俺を盾にして凌いだ。あのさあ……。
ラップランドは子供に弱い。意外な事実。
「あのね、新しいの出来たの! 見てよ!」
アメリアは一つの首飾りを取り出した。紐の部分は安っぽい糸だが、そのアクセサリーは結構な出来だった。
センスと緻密さを感じる、とてもアメリアの様な少女が作り出したとは思えない出来だ。こんなのは都市に行ってもなかなか出会えないだろう。これで紐をまともなものに換えれば、それこそ高級店で出しても遜色がなくなる。
「コイツはいい出来だな。さすがアメリア」
「えへへ、でしょー!? 先生も見てみて!」
「はいはい、どれどれ……。うん、素晴らしい出来だよアメリア。すごいね」
「おねえちゃんもー!」
「うぐ、ボクもかい……。仕方ない、アルク。取って」
「何で俺?」
「近づきたくないんだ……」
「おねえちゃん、アメリアのこと嫌いなの?」
「嫌いっていうか、苦手っていうか……」
あのラップランドが押されている。狂犬の珍しい様子に俺は吹き出した。
ラップランドに殺意を込めた目で睨まれるが、アメリアの対応に一杯一杯の様で、すぐに視線は切れた。
「あのねえ、ボクに近づきすぎない方が身のためだよ? アメリア、君のためを思って言ってるんだけど」
「いいじゃん! 見てよ!」
「……分かったよ。はいはい、見ればいいんだろう。──まあ、確かにアクセサリーの質は認めるけどね」
アメリアは手先が器用で、そういうものを良く作る。小学生にして機材やら何やらを使いこなして、遊びでよく作っては子供たちにプレゼントしたりしている。
スラムで露天を開くと、そのアクセサリーはよく売れる。
「アメリア、程々にしておきなさい。ラップランドが困っている」
「うん、分かった! それじゃあね! 次のやつ作るから!」
アメリアは嵐の様に去っていった。
あれが見せたいだけだったのだろうか?
「……子供って忙しいな」
「……だから苦手だ」
先生はアメリアを優しい目つきで見送ると、俺に向き直って言い放った。
「まあ、とりあえずアルクは素振りだね。千回」
「うっそだろ……」
「やれやれ、アルクみたいな凡人は大変だねぇ。見ててあげるから、頑張りなよ」
俺は千回素振りして腕が死亡した。
こんなんじゃラップランドにはいつまで経っても勝てねえな、とか思いつつ。
*
ラップランドは数ヶ月前に、このウルサスのスラムに流れ着いてきた変人だ。
今は近くで、傭兵みたいなことをやっているらしいが……詳しくは知らない。たまに先生のところに遊びにきては、俺をボコして去って行ったりする。
素性は知れない。時々底のない狂気の片鱗を見せたり、ちょっと危ういループスであることは理解した。
──俺はこの生活が嫌いじゃなかった。
将来のことなんか何一つ分からないが、今がそれなりに楽しかったから、このスラムの底辺でも人生ってものが嫌いじゃなかった。
ある日のこと。
バイクを気に入ったラップランドと俺は、適当な郊外を走り回っていた。クソみたいなスピードで命知らずなレースをしたり、相当遊びまわっていた。すでにラップランドは運転技術を極めていて、かなり白熱した。
俺はそのままスラムへ帰り、自宅のガレージにバイクを止めると先生のところへ遊びに行った。
先生は死んでいた。
脳天に矢が突き刺さっていて、一撃で死んだことが分かった。
先生の家は荒らされていた。俺は必死になって他の子供達を探した。子供たちはすぐに見付かった。死体で見つかった。みんな死んでいた。
アメリアの死体だけが見つけられなかった。
呆然とする俺に、スラムの顔見知りが話しかけてきた。
「黒服の訳わからねえ男たちが、みんな殺していきやがったんだ……。ここにいたやつら全員だ……! 俺のダチも何人か殺されちまった、俺は、俺はそれを隠れて見てたんだ! 出てきゃ殺されるって、分かってたから……! クソ!」
「何でだ……。何で……?」
口から溢れる。思考回路がバグって、うまく働かない。オイルの切れた機械みたいに、脳みそが軋む。
「……俺たちスラムの人間が、感染者だからか?」
「あいつら、ずっと叫んでた……。アクセサリー作ってるガキは誰だって、先生はそれを答えなかったから、打たれて、殺されたんだ……! なあ、アルク……」
「アメリアか……?」
「そうだ、アメリアだ! 先生が大人しくアメリア差し出してりゃ、こんなことにはならなかったんだよ! クソ、クソクソ!」
「──黙れよ、クソ野郎が!」
俺は衝動的にそいつに殴りかかった。
先生を侮辱した。だが本当は、そんな高尚な理由じゃなかった。
「先生はそんなことしねえ! クソ野郎が、先生を侮辱しやがって!」
馬乗りになって何発も顔を殴る。サルカズの怪力で、そいつはすぐに血塗れになった。
気が済むまで殴った。
そいつはボコボコの顔で笑った。
「侮辱だって……? 何だよ、先生はもう死んでんだぞ……? そんなの、意味ねえじゃんか……」
そうだ、分かってる。
「何で……何でだ! 何でだよ! クソが、クソが! 誰だ、誰だ! ぶっ殺してやる……ぶっ殺してやる! ぜってえ探し出して全員殺してやる!」
「誰を殺すって? ねえアルク、これは一体どういうことだい?」
反射的に振り向くと、険しい顔をしたラップランドがいた。
「……誰かが、殺したんだ。アメリアを探していたらしい。先生は、アメリアを守って……」
「子供たちは」
「みんな死んだ……。でもアメリアの死体だけ、見当たらねえんだ……」
「じゃあ、そいつらが連れ去っていったんだね」
ラップランドはそう言って歩き出した。
「おい、どこ行くんだよ……」
「もうこの場所には用はないからね。先生がいないんじゃ、ここにいる意味もないし……。じゃあね」
「おいラップランドッ!」
「──何だいアルク。何か言いたいことがあるのなら言ってみればいいじゃないか」
ラップランドの、嘲笑する様な笑みと、冷え切った目を見て、俺は勢いを削がれた。
「……俺は、復讐する。絶対に探し出して、全員殺してやる」
ラップランドは笑った。
「アハハ、君もそうなるのか。面白いねえ、人って。ま、せいぜい頑張りなよ。ボクはそういうの興味ないから」
「……お前、どこに行くんだ」
「さあ、どこだろうね。でも君とはもう会わないだろうさ。さよなら、アルク。死んじゃわない様に気をつけなよ──」
そう言い残して、ラップランドは消えた。
しばらくして、バイクの音が遠くへ消えていくのを聞いた。
・アルク
主人公。バイクが趣味、剣術の腕はそこそこ。
サルカズの感染者。ウルサスのスラムに暮らしている。
・ラップランド
過去編のヒロイン(?)。
アークナイツ本編では戦闘技術;卓越。だけどこれはアークナイツ本編の5、6年前を想定しているので、そこまででもないはず。めっちゃ強い。
・先生
オリキャラ。人格者。死んだ。結構ラップランドには高評価だった模様。
・アメリア
オリキャラ。スラムの少女。
ペンダント作りが趣味で、かなりの腕前。小学生ながら様々な加工設備を使いこなす。さらわれた。
・ボコボコに殴られたスラムの人
今回の被害者。ボコボコに殴られた。