モスティマさんといっしょ!!!   作:にゃんこぱん

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ラップランドとの出会い、あるいはアルク・ブルズの復讐──下

アメリアはいつ襲われてもおかしく無い状況だ。

 

アメリアの作るアクセサリーってのは、人死にを出してまでほしい利益を生むらしい。

 

何だってそんなことになる? どうして平穏に暮らせない?

 

俺たちが何か悪いことでもしたってのか?

 

……答えは知ってる。俺も子供じゃない。とっくにそんなことは分かっている。

 

ここがウルサス帝国で、俺たちが感染者だからだ。それだけだ。特に俺はサルカズだから、なお酷えもんだった。でも……アメリアほどじゃなかった。

 

スラムからは何を奪っても、スラムの誰を殺しても、誰も文句を言えない。弱者だからだ。

 

弱いから奪われる。殺される。平穏に生きられもしない。

 

俺はバイクいじって、先生とかと暮らせていりゃそれでよかった。

もうそれは叶わないが。

 

アメリアと暮らすにあたって、必然的に俺と、ラップランドと、アメリアは同じ家で暮らすことになった。ラップランドと暮らすって正気か? とは思いはしたが、頼んだのは俺だ。ラップランドは快諾した。……まあ、こいつは男女のあれこれなど気にしなさそうだな。

 

「アルク、買ってきたよ」

「おう、サンキュ。じゃ、作るか」

 

ラップランドに食材を買ってきてもらった。その金がラップランドから出ているというのが、後々デカい借りになりそうで怖かったが、背に腹は変えられなかった。

 

久々にまともな飯を食った気分になった。

 

数ヶ月の食事はひどいものだったから。

 

「なかなかやるじゃないか、アルク。君が料理を作れるなんてね」

「先生から教わった」

 

アメリアはもぐもぐと食べている。

救出当初に比べれば、いくらか表情がマシになった。

 

生活のほとんどは暇といえば暇だったが、穏やかな時間ではあったと思う。ラップランドは小説を読んだりしていたし、俺はアメリアと遊んだりしていた。

 

そして夜。これがまた鬼門で、ベッドは一つしかない。

 

「じゃあ、一緒に寝てしまえばいいじゃないか。ボクは構わないよ?」

「……マジ?」

「えー、せまいー」

「………………。アメリア、悪い……。我慢してくれ……」

 

ここ以外に寝れる場所がない。アメリアを挟む形で、俺たちは寝た。

 

物音がして目を覚ます。

 

窓からの月明かりに照らされて、ラップランドが歩いてきていた──血塗れで。

 

「……おいおい、なんだぁ?」

 

流石にアメリアを起こさない様に小声だが……俺はビビった。

 

「外に薄汚い気配がしたからさ、ちょっとお掃除してきたんだ。どうだいアルク、ボクもやるものだろう?」

「……おう。そうだな」

 

それしか言えなかった。

 

この時ラップランドは褒めて欲しかったのだと気がついたのは、ずっと未来の話だ。なのでラップランドがちょっと不満げだったのにも気がつかなかった。

 

アメリアの隣に血塗れのラップランドを寝かせる訳にいかなかったため、最終的に俺の服を貸すことになった。朝起きたアメリアは服装が変わっているラップランドを見て不思議そうな顔をしていた。

 

「うーん……なるほど。これがアルクの匂いなんだね。覚えたよ」

「いや犬かよ……。犬だったわ……」

「誰が犬だって? ボクはループスなんだけどね」

 

似た様なもんだろ、とは口が裂けても言えなかった。

 

朝食中、アメリアは話し出した。一晩寝て落ち着いたのか、顔色はいくらかマシになっていた。

 

「ペンダントの作り方は、お父さんに教わったの。お父さんは私よりずっと上手で、私もお父さんみたいになりたいって思ってた。でも、事故でお父さんもお母さんも死んじゃった……」

 

初めて聞く話だった。俺はアメリアになんて言えばいいかわからずに黙っていた。

 

「私は感染者で、お父さんたちがそれを隠してた。でも、お父さんたちが死んじゃったから、私が感染者だってこと、バレちゃって、スラムに逃げてきた。でもスラムでどうやって生きていけば分からなくて、襲われちゃった」

「──それは襲われたって仕方ないさ。なんせ、見るからに高級そうな首飾りをかけてるんだからね」

 

ラップランドが口を挟んだ。

 

……? 何でこいつがそんなこと知ってんだ?

 

「うん……。でも、おねえちゃんが助けてくれたの」

「──マジ? ラップランドが?」

 

反射的にラップランドを見つめるが、ラップランドはちょっと気まずそうに顔を逸らすばかりだ。

 

「ただの気まぐれさ。機嫌が悪かったからね」

「お前……。マジか、珍しいこともするもんだな」

「まあ、もしかしたらアメリアはあのまま放っておかれた方がマシだったかもね」

「でも、私嬉しかったよ」

 

アメリアはポケットから一つのペンダントを出した。

 

「そのペンダントが……?」

「これはお父さんの形見なの。スラムに来る時も、首からかけてた。私がペンダントを作る時、いっつもこれぐらい上手にできる様にって思って」

 

精密でセンスのあるペンダントだった。確かに高級品だ。俺でも分かる。

 

「おねえちゃんにこれ、あげる」

「いらないよ。自分で持っていた方がいいんじゃないかい?」

「ラップランド、お前ほんとな……」

「少なくとも、生きてる間はアメリア、君が持っていなよ。もし君が殺されたりしたらもらってあげるさ。──まあ、ボクがついている限り、そんなことはあり得ないんだけどねえ。アハハ!」

 

死亡フラグが立った。

 

マジかこいつ、と思いながらアメリアの方を見ると、アメリアも楽しそうに笑っていた。いやまじかその感覚はちょっとわかんねえわとか思いつつ。

 

「おねえちゃんは、やさしいね」

「────」

 

ラップランドは言葉を奪われたかのように、一瞬きょとんとした。何を言われたかが理解できていないかの様に。すぐに表情を直して笑った。いつも通りを装う様に。

 

「ボクがかい? アハハハハ! これだから子供は嫌いなんだ。目に見えるものだけで物事を判断して、それを疑おうともしないんだからね。はっきり言わせてもらうけど、アメリアはバカだねえ」

「照れてんのか?」

「殺すよ、アルク」

「……マジになんなよ。冗談だっての」

 

本気の殺気を受けつつ、俺はラップランドが柄にもなく照れているのだと理解した。子供は純粋だ。もしかしたらアメリアの言うとおり、ラップランドというループスは本来は優しいのかもしれない。

 

ただ、垣間見える狂気だけは、なんともし難いが……。

 

アメリアが食事を食べ終えた時だった。

 

外で爆発音が響き渡り、俺とラップランドが臨戦態勢に入る。すぐに武器を取り、ドアを開けた。

 

向かい側の家が破壊された跡があって、その隣の家もすぐ崩れ去った。爆風に顔を守った。

 

──おいおい、まさかここら一帯全部更地にする気かよ。

 

「ラップランド!」

「はいはい、すぐに片付けてくるよ──」

 

飛び出したラップランドを見送り、俺は周囲の警戒をする。

 

「アメリア、絶対に外に出るんじゃねえぞ! 分かったな!」

「う、うん……。分かった、おにいちゃん。気をつけて」

「ああ!」

 

ドアを閉めて周囲を警戒した。

 

同じ様に、スラムの住人たちが爆風を聞いて顔を出していた。

 

それ以外に怪しい人は見当たらない。

 

誰だ? どこにいる。何が狙いだ。

 

一際大きい爆音が響いた。一つ向こうだ。ラップランドの向かった方向……。

 

俺はすぐにそちらに走り出した。

 

路地を曲がると、大量の車が乱暴に停められていて、ラップランドが囲まれていた。

 

「おい!」

「──アルク? ダメだ、来るな! 戻るんだ!」

「手遅れだよバカ供が!」

 

スラムの路地を埋め尽くすほどの車が増援で来た。それが壁になって、退路が塞がれた。

 

車から武器を持った男たちがゾロゾロ出てくる。

 

「昨日はナメた真似してくれやがったなあ、サルカズ人のクソ野郎と殺人狂がよお」

「ウルサス人は肝が小せえな。こんな大勢で囲まないと安心できねえのか?」

「頭の回んねえ野郎だ……。お前らは囮に引っ掛かったんだよ。今頃ガキは車ん中だ。残念だったな。馬鹿ばっかりで助かるぜ!」

 

──釣り出されたと、漸く気がついた。

 

頭に血が上りすぎると、逆に冷えていくことをこの時初めて知った。

 

「……なんであの子を狙う。そんなにアメリアが大事なのか?」

「あいつはウルサスでも有名な職人一家の娘なんだよ。だが感染者だって分かってからの足取りが追えなくてなあ……。あんな小せえガキだが、箔も箔つき、血統書つきの、金の卵を生む鶏なんだよ!」

「────そうかそうか。分かったよ……。よーく分かった。ラップランド!」

「そうだね、ボクも同じ気持ちさ。なんだか、久しぶりに機嫌が悪くなってきちゃったなあ──もう、みんな殺される準備はいいのかな?」

「ほざきやがれ! てめえら、ぶっ殺せ!」

 

数にして五十を越している男たちに囲まれて、俺は人生で何度目かもわからない後悔をした。

 

また、アメリアを守れない。

 

この怒り、お前たちが収めてくれんのかな。

 

なあ。

 

「ぶっ殺してやるよ──」

 

それからの記憶はほとんどない。

 

殺して、殺して、刺されて、貫かれて、殺して、殺して、殺して、殺して。

 

砕いて、壊して、潰して、刺して、切って、砕いて、殺して、殺した。

 

痛快だった。

 

復讐の味はあまりに甘すぎた。きっと俺は笑っていた。

 

殺すたびに、先生が死んでから空っぽだった胸の奥が満たされていった。奴らの命と悲鳴が俺を満たした。

 

ラップランドの気持ちが、少し分かった気がした。こういう気分だったんだな。そりゃ、気も狂うか。

 

気がつけば、立っているのは俺とラップランドだけだった。

 

倒れている中で、まだ生きている奴がいた。俺はそいつの目の前に立って、そいつの表情を見て大笑いした。

 

「く、くく……、はは、はは……、ハハハ、ハハハハハハッ! ハハハハハハハハッ! ハハハ、ハハハハハ! アハハハハハハッ!」

 

男は得体の知れない悪魔でも見る様な、そんな顔をしていた。俺はその顔がなぜだか可笑しくて仕方なくて、もっと笑った。

 

「アハハハハハハッ! アハハハハハハハハハッ! ハハハ、ハハハハハハ! なんて顔をしてんだよ、ハハハ、アハハハハッ!」

 

気が済むまで笑ったら、気分が良かった。きっと、ラップランドにそっくりな笑い方をしていた。

 

「ハハハ、おい……。どんな気分だ……?」

「クソったれ……! 化け物どもが、サルカズの悪魔野郎が! てめえらはイカれてる!」

「アハハハ、楽しかったねえアルク。やっとボクと同じところまで来てくれたんだね。アハハ、化け物だって」

 

ラップランドは本当に嬉しそうに言った。同族を見つけたかの様な、安心した様な顔だった。

 

「地獄に落ちろ、サルカズ人が!」

「ハハハハハ……。じゃあ、先に地獄で待ってろよ。気が向いたら、会いに行ってやるからよ。じゃあな」

「死ね──」

 

トマトでも潰す様に、俺は男の顔を踏み潰した。

 

家に戻ると、アメリアはいなかった。男の言葉通り連れ去られたのだろう。

 

「ラップランド、アメリアのところに行こう」

「ああ、そうだったね。場所がわかるのかい?」

「ああ……。依頼の時、通された。多分そこだ」

「遠いんじゃないかい?」

「俺のガレージにバイクが入ってる。二人乗りでいいだろ」

「そうなのかい? じゃあ、行こうか」

 

久しぶりにエンジンの音を聞いた。俺はこの音が好きだった。……今は、これが好きなのかどうか、いまいち自覚が持てない。あまり、感じなくなった。

 

二人乗りの、後ろに乗っていたラップランドが背後から俺を抱きしめて狂気的に笑った。

 

「嬉しいなあ……。仲間でもできた気分さ。ねえアルク、気がついていたかい? さっきの君、ボクと同じ顔してたよ? アハハハハ……、嬉しいなあ。ねえアルク……」

 

俺は黙っていた。……多分、笑っていた。復讐の蜜に溺れて、それでいいと思ってしまった。心地よかった。

 

ラップランドの言う通りだった。

 

「やっと同じになってくれたんだね。本当に、歓迎するよ。アハハ……」

「くく……。はは、ハハハ」

 

とっくに狂気に飲まれていたのかもしれない。

 

あるいは、先生を失った日からそうだったのかも。

 

俺はラップランドと同じ、狂気に飲まれた化け物だ。

 

それでいいと思った。

 

──ただ、この顔をアメリアが見たら、悲しい顔をするだろうな、と。それだけは分かった。ラップランドがアメリアを苦手な気持ちも、それはよく理解できた。

 

アメリアを悲しませることだけは、残念だった。本当に、残念だった。

 

 

アルクが狂気に堕ちる数十分ほど前の出来事。

 

ジュアリー・カンパニーの対立組織に情報が入った。

 

──ジュアリー・カンパニーの武力構成員がほとんど出払っていて、本部にはボスと少数の護衛しか残されていない可能性が高いと。

 

はっきり言って、急速に力を強めつつあったジュアリー・カンパニーは目障りだった。その金で強力な武装を揃えつつあったし、このままではいずれ潰されてしまう。だが対抗策のラップランドは行方知れず。

 

手詰まりだった。そこに、その情報が入った。

 

対立組織のボスは、決定を下した。

 

この隙に、ジュアリー・カンパニーに攻め入りボスを討ち取る。

 

行動は迅速だった。すぐさま何十台の車が朝のウルサスを掛けて行った。指令は以下の通り。

 

ジュアリー・カンパニー本社にいる人間を、皆殺しにせよと。

 

そして、アメリアがジュアリー・カンパニーに連れ去られたことを、対立組織の人間は誰一人として理解していなかった。

 

 

ウルサスの市街地、ジュアリー・カンパニーは表向きは様々な派遣業務や卸業をやっているが、その裏では傭兵やら武力提供やら、最近ではペンダントの卸業をしていた。アメリアのことだ。

 

本社──何階建てかのビルからは煙が上がっていた。

 

なぜだ? 俺は疑問に思ったが、直接確かめたほうが早いと判断し、すぐさま内部へ突入する。

 

警備や構成員が殺されていた。

 

階段を駆ける。嫌な予感が脳裏を過ぎる。

 

最上階、一番奥の部屋。おそらくはボスの部屋。

 

ソファーに、アメリアが倒れていた。血に沈んでいた。

 

その奥に、ボスが頭を撃ち抜かれているのも見たが、どうでもいいことだった。

 

「アメリア、アメリア! おい、アメリア!」

「これは……。どういうことだい──?」

 

ラップランドは少し呆然としてその光景を見ていた。それにかまっていられる余裕など、俺にはなかった。

 

「……、お、にいちゃん……?」

 

まだ息がある……。

 

「アメリア!? 何があった! 大丈夫なのか!?」

「……来てくれて、ありがと。あのね、聞いてほしいことがあるの……」

「クソ、救急箱か、何か、何かないのかよッ!」

「おねえちゃん……。ありがとね。私、おねえちゃんに助けてもらった時、嬉しかったよ……」

「──アルク。バイクを借りるよ」

 

ラップランドはアメリアの言葉を聞いて、打たれた様に踵を返した。

 

「ラップランド!? どこへ──」

「いうまでもないさ。──ああ、ちゃんと、全員殺してくるから。安心して眠りなよ。アメリア、おやすみ」

「ラップランド──!」

 

すぐに姿が消える。

 

「……せっかちだなあ、おねえちゃん。……あのね、おにいちゃん、お願いがあるの……」

「なんでも言えよ、今ならなんだってしてやるから!」

「もう、人を傷つけたりするの、やめてほしいな……。おにいちゃんは、本当は優しいから……」

「──ッ! ……分かった。もう剣は捨てる、傷つけないことはできないかも知れないが、人を殺すことは、もうしない……!」

「……こんな時ぐらい、ちゃんとしてよ……あはは。それと、もう一つだけ……」

 

アメリアは緩慢な動きで首元につけたペンダントを握った。

 

「これ、おねえちゃんに渡してほしい。それと、ありがとうって、伝えてほしい」

「──。分かった。俺に任せろ……」

「こういうの、依頼っていうんだよね……。受けてくれる……?」

「お願いでいいよ……。依頼なんか、ロクなもんじゃねえよ……」

「じゃあお願い……。私の依頼、受けて……」

 

アメリアの両眼が集点を失い始める。死ぬ予兆だ。

 

「……任せろ。その依頼、承った」

「ありがと……。さよなら」

「おやすみ、アメリア……」

 

アメリアは眠りについた。

 

依頼なんて全部クソだ。そういう形式をとる人間は、大抵後ろ暗いことを抱えてんだ。俺の受けてきた依頼は、全部そうだ。

 

クソだ。クソだ、クソだ。全部クソくらえ。クソったれだ。

 

……クソだ。

 

こんな依頼、受けたくなんてなかった。生きていて欲しかった。

 

二度と”依頼”なんて受けねえ。俺はもう、そういうのはやらねえ。

 

アメリアを抱えて、外へ。

 

これが、結果か。この狂気が生み出したものか。俺が殺したも同然か。

 

……墓を作ろうと思った。

 

アメリアと、子供たちと、先生の墓を、作らなければならないと。

 

そう思った。

 

 

 

 

 

墓は、スラムから少し外れた荒野に作ることにした。

 

静かで、見晴らしのいい場所だ。スラムの喧騒じゃやかましいと思ったから、ここに作ることにした。

 

何より、一本の木が生えているのが良かった。いい墓標になると思った。

 

アメリアを木の下に供えて、土をかけていく。本当なら火葬が良かった。ウルサスの文化は火葬だ、アメリアの両親は火葬されたのだろうから、同じ様にしてやりたかったが……。

 

そんな金や設備はなかったから、妥協した。

 

考え方によっちゃあ悪くない。この木はきっとアメリアを吸い取って育つだろうから、この木にアメリアが住んでると思えなくもない。

 

バイクの音が近づいてきた。

 

すぐ後ろに停車した。振り向くと、また血だらけのバイクと、返り血で汚れたラップランドがいた。

 

「それは?」

「墓だ。……いい墓標だろ?」

「まあ、センスは悪くないけど……名前は書かなくていいのかい?」

「ああ、そうだな……」

 

少し考えた。

 

俺はアメリアが埋まっている場所の一歩手前に、背負っていた剣を突き刺した。

 

「これで、名前の代わりにしよう。先生への弔いも含めてってことで」

「──その剣、置いていくの?」

 

ラップランドが複雑な表情で聞いてきた。寂しそうにも見える。

 

俺は答えた。

 

「ああ。…………。俺は剣をやめる」

「──え? どうして……?」

「アメリアに頼まれた。もう人を傷つけるのはやめてほしいって」

「な、──なんで!? それで、それで君は捨てるのか!? 君はそれでいいのかいッ!?」

 

ラップランドが形相を変えた……。なんだ? アメリアが死んだ時でさえ、こんなに取り乱してなかっただろ?

 

アメリアと言えば、一つ頼まれごとをしていたんだった。ポケットからアクセサリーを取り出す。

 

「ほら、これ。約束のもんだ」

「……いらないよ」

「お前が言ったんだ。アメリアが死んだら、受け取ってやるってな。あと伝言だ──ありがとうってさ。確かに伝えた」

「──」

 

ラップランドは黙って受け取った。それをそのまま突き刺した剣の柄に掛けた。

 

「……ま、受け取ったもんをどうするかはそいつ次第だな」

「アルク、どうしちゃったんだ……。君はボクと同じになったはずだろう? どうしてトランスポーターの真似事なんてしているんだ」

「──トランスポーターの真似事……。ああ、トランスポーターか……」

 

お目にかかったことはないが、そうか。俺が受けた依頼は、そういうものか。

 

「やめろ、やめてくれよアルク! ボクと一緒に行こうじゃないか! 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ! ボクを置いて行かないでくれよ、お願いだッ!」

 

ラップランドが俺の手をつかんだ。

 

ラップランドは駄々をこねて、泣きそうになった子供のような表情をしていた。

 

「トランスポーター……悪くねえ。ラップランド、俺はトランスポーターになる」

「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ! 行かないで、行かないで! ボクと居ろよ! そんなんじゃ満たされないだろ、そんなんじゃ……。ボクは……。ボクは、また一人ぼっちじゃないか……」

 

それはラップランドの本質なのかも知れなかった。俺は一度ラップランドと同じところまで堕ちて、少しラップランドを理解した。

 

「寂しいんだな。お前のこと理解してくれるヤツが、誰もいないから」

「どうして……。どうしてキミも、テキサスも! 置いていくなよ、ここに居てよ!」

「だったら一緒に来いよ。一緒にトランスポーターしようぜ」

「無理だ……。ボクには、できない……、行けない……」

 

ラップランドという、まだ少女のような年齢のループスは、ずっと孤独だ。

 

「お前はどこにも行けないんだな」

「アルク、お願いだ……。お願いだよ……。ボクと居てくれ、なんだってするよ……。キミの言うことなら、なんだってやってあげるからさ、ボクと居てくれ……。一人ぼっちは、寂しいよ……」

 

ラップランドは他人が羨ましいんだ。そして妬ましい。だから、殺すんだ。殺せる。

 

「なあラップランド。お前も感染者だったか?」

「そうさ……。キミと同じ、感染者だ……。お願い、ボクが死ぬまで、側にいて……。苦しいよ……」

「お前はさ、自分はどこにも行けないと思っているかも知れないけどさ。そんなことはねえんだ。お前は何者にもだってなれる。お前はどこにだって行ける。お前は自由だ。俺が保証する」

「嫌だ、嫌だ、嫌だ……。行かないで、行かないで……」

 

すがりつくラップランドを抱きしめて諭した。

 

「いずれ、お前の魂を解放してくれる奴が現れる。それは俺かも知れないし、別の、全く知らない誰かかも知れない。そん時まで生きろよ」

「アルク……。もう会えなくなったら、嫌だ……」

「生きてりゃまた会えるさ。ああそうだ、龍門に行ってみたらどうだ? あの近くに、感染者の治療組織が出来たらしい。確か名前は……ロドス、だったっけか? そこに行ってみたらどうだ」

「生きているのが、苦しいよ……。ボクは、ずっとそうだ……。ボクのことを理解してくれるのは、アルクとテキサスだけなんだ……。でも、どっちもボクを置いていく……」

 

さっきからテキサスという人物名が出てきている。どんなイカれ野郎だろうか?

 

「生きろよラップランド。生きてまた会おう。ああ、また会ったらどっか飲みに行こうぜ。きっと楽しい」

 

ラップランドをやんわりと引き剥がした。

 

「なんで、キミだけ先に行くんだよ……。ずるいよ……」

 

バイクに跨る。燃料は十分。

 

持ち物は全て無くした。まっさらだ。

 

「生きろよ! またな!」

「……またね。また、また会おう……アルク」

 

エンジンが音を蒸した。そうだった……俺はこの音が好きだ。体に響く音が好きだ。

 

どこか知らない場所へ、俺は走り出した。

 

ラップランドは見えなくなるまで、俺を見送っていた。

 

……なんだかんだ、俺とラップランドの歩く道はまた重なったり、重ならなかったりする。

 

その後、モスティマという天使に会うのは、ここから大体半月ほど後の話だ。

 

 




・アルク
1話で闇落ちして更生した。忙しいなお前な

・ラップランド
おそらく彼女の狂気の源はそのあたりにあるのではないかと考察した結果、こんな感じに落ち着いた。
過去に家族を亡くし、一族から追い出されている。感染者。
テキサスへの執着も同じような理由でないかと推測。
一人ぼっちは……寂しいもんな……(まどマギ並の感想)

・アメリア
フラグを回収した

・今回の被害者
アルクとラップランド以外の全員

・モスティマさん
マジで出番がなかった。おそらくこの頃はラテラーノの部隊かなんかに所属している?

・ハハハ
ゲシュタルト崩壊した。
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