モスティマさんといっしょ!!!   作:にゃんこぱん

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モスティマさん編。
公式からの設定が明かされなさすぎてほぼオリジナル。早く設定資料集とか出せYostar






ラテラーノには一年いた。

これは、モスティマがトランスポーターになるまでの話。


モスティマさんとのいろいろ!!!
A year:一月──上


トランスポーターとしての活動ははっきり言って散々だった。まず依頼がもらえない。

というのも、信用や実績がない。ついでに伝手もない。ないない尽くしだった。

 

フロストリーフと出会ったのはその時だ。

 

営業を掛けまくった末全て門前払いに終わった俺は、道に倒れている死体を目にした。

 

ウルサスのスラムでの出来事の後だったから、俺は少し感傷的になっていて、その死体の前にしゃがんで手を合わせる程度のことはした。

 

すると死体が呻いた。俺は流石に怖かった。

 

……ご飯……。

 

──え……おい、なんだって!? おい、お前生きてんのか!?

 

……腹が、減った……。

 

それが、フロストリーフというガキとの出会い。

 

きっと神様は、俺たちを引き合わせたのだと、ずっと後になってわかった。それにこれから向かう場所──ラテラーノは神様信仰が盛んだ。そういう運命に、縁があるのだと思った。

 

 

 

 

A year:一月

 

 

 

 

 

積み上がった皿を前に、少女はふう、と一息ついた。

 

いや……ふう、じゃねえんだよなぁ。

 

「助かった。礼を言う」

「礼を言われんのはいいが……。まさか生きてたとはな、はらぺこで行き倒れたヤツなんか初めて見たわ」

「そうだな、まさか私も空腹で倒れるとは思わなかった」

 

──そりゃそうだろ。

 

貧相なガキだった。ボサボサの髪に、汚れた服。

やけに声が透き通っているのが印象的だった。

 

「まあ……いいけどよ。人助けだと思えば」

「──人助け?」

「ああ。いいことすると、自分に返ってくるらしい。本当かどうかは分からねえけど」

 

先生がそう言っていたことを思い出した。ちょうどこういうことだろう。

 

「そうか、だがすまない。私には返せるものなど何もない」

「別に期待しちゃいないさ」

 

そもそも何もなかったから倒れてたんだろうに。

 

「ま、何かの縁ってヤツかね──俺はアルク。お前の名前は?」

「私は……フロストリーフと、名乗っている」

「フロストリーフね……。親は」

「いない。死んだ……と思う。知らない」

「そうか。ちなみに、お前の仕事か何か、あるか?」

「私は……傭兵をやっている」

「傭兵〜? お前みたいなガキがか?」

「子ども扱いするな。私は強い」

 

明らかに貧相な子供がそう豪語している。俺は流石に笑った。

 

──だが、倒れていても決して手放そうとしなかった槍斧は、ずいぶん使い込まれていた。

 

「ほぉ……。お前、いく当てはあるのか?」

「ない。実は、この辺りにもう傭兵の需要がないんだ。戦争が終わったから。だから、お金がなくなって倒れていた」

「そうか……。じゃあ提案があるんだが──お前、俺と来るか?」

「……お前と?」

「ああ。俺はトランスポーターなんだが、相棒を探してる。戦えそうなヤツをな」

「──仕事が、あるのか?」

 

仕事があるということは、報酬が発生し、金が手に入る。金が手に入れば、飯が食える。食いつきは当然だった。俺はきっぱりと言い放った。

 

「ない」

 

沈黙が重苦しく辺りを包んだ。騒がしくて安い料理屋だが、俺たちの周りだけやけに静かな気がした。無論、気のせいだ。

 

「──ないのか」

「ない。実は駆け出しでな。さっぱり依頼がもらえねえ」

「それは──ダメじゃないか?」

「ああ。……ダメなんだわ」

 

頭を抱えたかった。だがこんなガキの前でそんな姿は見せられない。いや、そもそも情けないが……。このガキ──フロストリーフの分を払うのでも精一杯だ。

 

「そこで、俺は新天地へと行こうと思う」

「新天地だと?」

「ああ。──ラテラーノさ。ここはダメだ、流通がよろしくねえ。だからギリギリ燃料の足りるラテラーノへ行く。そうすりゃ全部上手くいくって寸法よ」

 

冷静に考えて、理屈が何一つなかった。

 

なんでそれで上手くいくと思っているんだ?

 

だが……このままでは俺もそこのガキよろしく行き倒れるのは目に見えていた。

 

ガキは目をパチクリして、理由もないだろうに確かに、と頷いた。

 

何が確かに、だ。何も確かじゃねえよ──と、昔の俺たちに言ってやりたかったが、このときは崖っぷちだったのは確かだ。未来に過剰な希望を抱いても、仕方ないと言えば仕方ない。

 

「せっかくだしよ、お前も連れて行ってやろうかって話だ。戦えるんだろ? 何かの役に立つかもしれない」

「……。行こう。私も連れて行ってくれ、アルク」

「いいだろう。よろしくな、自称傭兵のガキんちょさん」

「よろしく、自称トランスポーター」

 

俺たちは笑い合った。どうにも可笑しくて仕方なかった。この時、自称しかいない二人組の、大体一年に渡る大いなる旅が始まったのだ。

 

「じゃあ乾杯だ! ほら、グラスだ、持て」

「水じゃないか。こんなので乾杯なんてできるか、酒がいい」

「買う金がねえよ、大体奢ってもらう分際で生意気言うんじゃねえ。そもそもお前、まだガキだろうが」

「私だって酒ぐらい飲める! けど仕方ないか……。じゃあ、私たちの未来に」

「ああ、俺たちの未来に」

 

乾杯。

 

 

ラテラーノに到着したはいいが、住む場所がなかった。バイクの長時間の二人乗りは、少々疲れた。

 

その日の昼飯に、ギリギリ残っていた金を全て使い果たし、俺たちは店を出た。

 

バイクの見張りにフロストリーフを残し、俺は片っ端からトランスポーターの営業を掛けたが、資格証やら身分証やらを要求された。だが俺はそんなもんもっちゃいない、スラム出身だ。

 

当然門前払いされた。

何度も何度も、心が折れるまで返された。きっとサルカズだったのもよくなかったのだろう。ラテラーノには天使と呼ばれるサンクタ族がいる。俺はサルカズ、悪魔の種族だ。

 

天使と悪魔だぜ? 上手くいくはずがない。なんだってこんなとこに来ちまったんだか……。だがもうガソリンはない。ガソリンを買う金もない。

 

後には引けなかった。だが身分証も資格証もなかった。なんだ資格証って、トランスポーターに資格がいるってのかよ。

 

その日は路上で寝た。フロストリーフがなんと残飯をかっさらってきていたお陰で、俺は空腹のまま寝ずに済んだが、季節は一月。クソ寒い中、俺たちはダンボールに包まって、身を寄せ合って寝た。

 

路上生活が始まった。

 

俺は営業、営業。だが日ごとに汚くなる俺の格好に、詐欺師だと間違われて通報されかけることも少なくなかった。

 

フロストリーフはなりふり構わず残飯を回収するようになった。過去の経験でそういうのには慣れていると言っていた。まあガキで傭兵だ、事情があるのだろう。実際ありがたかったしな。

 

路上生活が一週間になろうという頃、俺たちは治安隊に連れて行かれた。

 

怪しいサルカズのトランスポーターを名乗る男が最近出没しているのだという。俺だわそれ。

 

「だから、本当にトランスポーターなんだって! 怪しいとこなんか何もねえだろ!? ほら、どこが怪しいってんだよ!」

「身分証も持っていない、資格もない、それにその格好……薄汚い。怪しいところしかありません。市民の迷惑ですよ。今後も同じ行動が続くようでしたら、法的な措置を取ります」

「じゃあ働かせろよ! 大体どこも雇ってくれねえからこうなってんだろうが!」

「あなた、サルカズがラテラーノに来る意味をご存知ですか? 一応ここは神を崇め、悪魔を敵視する国なのですが」

 

バイトができるなら、したい。それは本当だった。だがもちろん全て門前払いだ。話を聞いてもらえもしない。

 

「そもそも一緒にいたあの少女、何者ですか? さらって来たのではないでしょうね」

「ああ!? そんなこと俺がする訳ねえだろうが! あいつは傭兵で、俺の相棒だ!」

「……本人も同じことを言っていましたね。まさか、本当だとは……」

「働かせるか、俺の活動を認めるか! 二つに一つだ!」

「いいえ、そもそもあなた、不法入国者ですよね。国境で手続きを取りました?」

「そんなもん知らねえ!」

「あなたね、もう逮捕していいですよね。それここだと犯罪ですからね」

 

検問室のドアが開いた。

 

──サンクタ族ってのは天使の輪っかが頭についてるらしい。そいつも、その一人だった。

 

「ノエル、早くしたらどうだい? 仕事が山積みだよ」

「モスティマ、今は取り調べ中です、勝手に入ってこないで」

 

青い髪をした女だった。天使の輪っかに、──黒いツノ。俺のような、サルカズの特徴だ。

 

こいつはなんだ? サンクタ族ってのはツノまで生えてんのか?

 

いやしかし、俺を取り調べてるこいつには輪っかだけだ、ツノなんて生えてねえ。

 

こいつ、何だ? という疑問はあった……が。

 

俺はそいつが一目で嫌いになった。なぜだかわからないが、とにかく直感的に感じたのだ。

 

──あ、こいつ嫌いだわ。

 

「そちらは……」

「ああ、今朝通報のあったサルカズです。っていうか何勝手に入って来てるのですか」

「……ふぅん。サルカズなんだろう? 国外に放り出してしまえばいいんじゃないかい?」

 

俺はそのツノの生えた天使を睨んだ。

 

天使は俺を嘲笑した。カチンと来た。

 

「お前も、見た感じサルカズっぽいけどな。人のこと言えねえんじゃね? おい天使さん、そいつも怪しいぜ。放り出しちまえよ」

「本当に……。これだからサルカズは。いいですか、何も知らない他人とはいえ、そのことは軽々しく口にしていいものでは──」

「へえ? 言うじゃないか。自称トランスポーターなんだって? 似合っているよ、『自称』さん」

「てめえ……俺はトランスポーターだ! 自称じゃねえ!」

「だがそれを証明するものは何もないんだろう? 夢でも見ているのかい?」

「お高く止まってんじゃねえぞ天使サマが、引き摺り下ろしてやろうか」

「私は君のことなんて何も知らないけど、ただ一つだけ言えるのは──君には生涯かかっても無理、ってことだけかな」

 

取調官が慌てて口を挟んだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれますか? ……モスティマ、あなたそんなキャラでした?」

「いいや? でもそこの男見ているとなぜだか腹が立ってきてね、自分でも不思議なんだけど」

「──モスティマが腹を立てる? 嘘、明日は天災でも来るのですかね……」

 

取調官は少し考え込んだ。

 

その隙に口撃する。

 

「おい天使サマ。じゃあそのツノは一体なんだってんだ?」

「君が知る必要はないことさ。ま、君は言っても分かりそうにないけれどね」

「なんだとこのアマ……。ぶっ飛ばすぞ」

「もう一度言わないとわからないのかな。君には生涯かかっても出来っこないって」

「──オーケーストップ。そこまでです。あなたの処遇を決定しましょう。名前は?」

「アルクだ」

「アルク、ですね。わかりました。あなた、仕事がないのでしょう?」

「……そうだよ。ねえからこんなことになってんだ」

 

ラテラーノに来てから散々だ。何も変わらねえ。まだウルサスのスラムに戻った方がマシかもしれない。

 

「あなた、ウチに来ませんか?」

「「────はあ!?」」

 

ツノつき女と声が重なった。

 

「へえ──モスティマが大声を出すとは。それに息もぴったりです。これはますます適任ですね」

「ノエル! 正気かい!? その意味がわからない君ではないだろう!?」

「おいおいおい……。どういうことだ……?」

「いいではないですか、私たち護衛隊は常に厳しく、また寛容であるべきです。そういえば、実働部、ちょっと人足りないじゃないですか。この人と、連れてた子供、雇ってしまいましょう」

「マジか!? 雇ってくれるのか!?」

「ええ、三食と家、それからまともな服くらいなら用意してあげます。でもまあ、それ以外は期待しないで欲しいですが。どうでしょう?」

「もちろん歓迎だ、いやこっちからお願いしたい! もう何でもいいから職が欲しかったところだ! 路上生活は勘弁だしな!」

「ノエル、本気かのかい……?」

「ええ、本気です。それにモスティマ、あなたにも、いい影響が出ると思います。あなた、ちっとも外の世界に興味を示しませんから、ちょうどいい薬になるかもしれませんし」

 

俺はガッツポーズで叫んだ。

 

これで路上生活とはおさらばだ! やったぜ! やはり俺の計画に狂いはなかった! いえーい!

 

「うるさい、少し黙りなさい」

「はい」

 

 

 

 

俺とフロストリーフはラテラーノ治安隊の物置にブチ込まれた。

 

「話がちげーじゃねえかよ! 家用意してくれるって言ってたじゃねえか!」

「ここが家ですが」

 

俺を取り調べていた天使──ノエルとか呼ばれてたか?──はこともなさげに言い放った。

 

「アルク、いいじゃないか。壁も天井もある、暖を取れる」

「ぐ、そりゃ……用意されるだけ、ありがたいが……。床で寝ろってのか」

 

ツノの生えた天使──モスティマとか言ったか? クソ女が──が段ボールを持って来て置いた。

 

「君たちのベッドね」

「ぐ、この……!」

「アルク、落ち着け……」

「急な話です。だから一日で用意なんてできません、普通に考えて怪しい二人組ですし、上を納得させることができないとベッドも用意できませんから。それまでしばらく掛かります、我慢してください」

「仕方ねえ、か……。分かった、これだけでも、感謝する。──で、俺たちは何をすりゃいいんだ?」

「雑用と下っ端です」

「……まあ、それはいいが」

 

ノエルは薄く笑った。

 

「大変ですよ? このラテラーノ法王親衛隊での下っ端は、そこらの下っ端とは格が違いますから」

「腕には自信がある。問題ない、感謝する」

 

俺たちは不敵に笑ったが、それを見てノエルは笑った。

 

その意味は、すぐに知ることになった。

 

 

 

 

早朝5時、起床。すぐにランニングが始まる。俺は一度ここで死んだ。体力がなさすぎる。

 

昼まで訓練、なんで下っ端まで訓練されてんだと思いつつ、サルカズを気味悪がる連中に混じって剣振ったり槍握ったりしていた。

 

昼飯がうまかった。

 

午後、巡回。

 

タッグを組んでラテラーノ市内の巡回。ただなんかよくわからんが、車だかの準備がクソほど忙しくて死んだ。おそらく、フロストリーフも似たようなものだったろう。

 

4時から神学だかの座学? ってものを受けさせられた。

 

こう、机に座らされて訳のわからんクソ分厚い本を読まされては……。ああ、もう思い出したくない。クソったれの神様よ、どうして俺にこんな試練を与えるのかね。

 

夜飯がうまかった。食えるって嬉しかった。

 

シャワーを浴びれたのが一番デカかった。これまでの疲労が流されるようだ。

 

ようやく自由時間らしい。俺は疲れからもう寝た。あとで知ったのだが、消灯9時らしい。

 

こんな生活が二週間ほど過ぎて、そこそこ知人やらが増えて来た。

 

昼休み、ノエルに呼び出されて隊長室やらに行った。扉を開く時、ノックの習慣がつくようになった。やんないとめっちゃ叱られた。

 

「どうぞ」

「失礼します。アルク訓練兵であります。……なあ、これ毎回やんなきゃいけねえの?」

「ここで暮らしているのだから、ここのルールに従うのは当然のことです。まあ、それなりに慣れたようで何より」

「……まさか、それの確認だけか? 俺飯まだなんだが」

「一応私は上官なのですから、敬語くらい使ったらどうですか? 今は許しますが、公的な場においては認めませんよ」

「さてな、拾ってくれたことには感謝してるが……俺の出身はスラムだ。敬語なんぞ分かんねえ、こっち来て初めて聞いたわそんなもん」

「ならばこれから覚えなさい。ところで本題なのですが」

 

ノエルは豪華な隊長室のデスクについたまま、言った。

 

「ここでの暮らしはどうですか?」

「いやマジでそれだけかよ……。まあ慣れたよ。あの物置部屋も、住んでみれば悪くねえ。狭いのが難点だがな」

「宿舎は得てしてそういうものです。快適さは求めるべきではありません。他には」

「訓練についてだが……俺はその、別にラテラーノの軍隊に所属した覚えはないんだが」

「軍隊ではありません、法皇親衛隊です。言っておきますが、超エリート部隊です。訓練の過酷さは他を圧倒しています。正直、よく一週間も持っていると感心しています。あなたも、あの少女──フロストリーフも」

「お、褒めてんのか。まあそうだな、別に一年続けたってへバりはしねえよ。キツイのは確かだけどな」

「それで、他には?」

「そうだな──とりあえずベッドが欲しい。段ボールじゃ疲れが取れにくい」

「ええ、現在手配中です。他には?」

「……本題に入ろうぜ。まどろっこしいのは要らねえだろ。なあ、どうして俺とフロストリーフを受け入れたんだ?」

 

ノエルは佇まいを変えて、息を抜いた。

 

力を抜いて、上官としての個人から、ただのノエルに切り替えた。

 

「実を言うと、あることを期待しています。モスティマは分かりますか?」

「──あのツノ付き女か。あいつがなんだって?」

「彼女は私の親友で、学院からの付き合いです。もう5、6年になりますか。モスティマもこの法皇親衛隊に所属しています。彼女はアーツ部隊にいるので普段は会いません。それに頻繁に任務に出ています。上官としても、親友としても、非常に優秀だという評価を付けざるを得ません」

「ほん。で?」

「私は、あなたがモスティマを変えてくれることを期待しています」

「……? ………………? さっぱりわからん。何で?」

 

本心だった。何で?

ノエルは憂うような顔で続けた。

 

「モスティマは優秀です。上官として彼女を評価した時、何一つとして欠点はつけられないでしょう。しかし、友人として彼女を見た時、彼女には一つの悪癖があるのです。──モスティマは、あらゆることへの興味が薄い」

「……で、それの何が悪いって?」

「彼女は、彼女自身にすら興味が薄いのです。将来や、自らのやりたいこと、夢と言い換えてもいいですが……それらへの興味がないようにすら思えます」

「それが問題だって言いたいのか?」

「ええ。彼女はまるで凪のように穏やかです。感情の動きが少ないとも言えます。彼女の親友として、このままではモスティマは彼女自身の望み、幸せを掴むことができないかもしれないと、危惧していました」

 

友達思いで結構だな。

 

問題は、なんでそこで俺が登場するのか、ということだが。大体なんだ感情の動きが少ないって、信じられるか。

 

「アルク、あなたは唯一の例外なのですよ。モスティマがあそこまで感情を露わにしたのを、私はおそらく初めて目撃しました。あなたには、彼女をそうさせる何かがある。モスティマに影響を与え、彼女を変えられるかもしれない可能性を持っていると、私は判断したのです」

「なるほどな。俺をいいように利用しようってのか」

「──不法入国罪で国外に放り出されたくないのであれば、私にあまり迂闊なことを言わないことです。……まあ、実際にその通り、あなたを利用したいのですが」

「それで、俺にモスティマをどうにかしろって言うのか? やんなきゃ追い出すぞって脅して?」

「そこまでは言いません。ただ、モスティマを変えられない、もしくはモスティマを変えることができそうにないと私が判断したその時、あなたの利用価値がゼロを通り越してマイナスになるということだけを理解していただければ結構です。同時に、その時あなたと──あのフロストリーフという少女はどうなるのか、想像していただければ」

 

しっかり脅してるじゃねえか。

 

つまりなんだ? このままの生活を続けたけりゃ、どうにかしてモスティマを変えろってことか?

 

どうやって? 出来る気がしない。そもそも俺あいつ嫌いだし。

 

「……お前、無理難題を言っていることは理解してるよな」

「ええ、十分承知の上です。同時に、ここまであなたに与えているメリットが、私からの期待の裏返しであることも理解していますね?」

「衣食住つけてる分だけ働けってことかよ。……とても出来るとは思わねえぞ? 成功の保証なんか以ての外だ」

「私は一定の可能性があると判断しました」

「……おいおい、本気かよ」

 

空を仰いだ。天井があるだけだった。

 

「……いくつか頼みがある」

「ええ、ある程度のことであれば、聞きましょうか」

「トランスポーターになるにはどうすればいいか教えてくれ」

「ええ、教えましょう。実は、適任がいます。その方にいろいろ聞くのがいいでしょう」

「そうか、ありがたい。それでもう一つなんだが……武器を探してる。できれば銃器を扱いたい。可能か?」

「ふむ……。理由をお聞きしても?」

「俺は剣は使いたくねえ。それに遠距離からの攻撃の方が安全だ。携帯性を考慮して、ボウガンより銃器の方がメリットが高いと判断した」

 

アメリアとの約束を思い出した。剣を使うなと言われたからには、使いたくない。俺は傭兵じゃなくてトランスポーターになるのだと言う決意も籠もっている。

まあ、もう一つの遺言……人を傷つけて欲しくないってのは正直、難しいだろうが……。銃なら幾らかの融通が効くかもしれない。足とか撃てば命までは奪わないだろうし。

 

ノベルはしばらく考えて、結論を出した。

 

「可能ですが、難しいでしょうね」

「理由の説明を頼む」

「まず一つ、ハンドガンならまだしも、マシンガンやアサルトライフルの扱いは、サンクタ族にしかできないと言われています。それは銃器がロストテクノロジーであり、扱いが体系化されていないことに依存します。多くのサンクタ族は、自分がどうやって銃を扱っているのか理解していません」

「……呆れた話だ」

「ええ、まったくです。……ですが、物理的に扱えないということはありません。もしもあなたがサンクタ族と同じ動きをトレース出来たなら、マシンガンなどは撃てて当然です。ですが、一般にそこまでサンクタ族や銃器の世界的な知名度が高くなく、またそこまでの労力をかける価値もないため、銃器はサンクタ族にしか扱えない、ということになっています」

「てことは、可能性はあるのか」

「これ以外に一点。私の考えではこれが最も難しいのですが……ラテラーノ銃型武器使用協定の存在です」

「……何だそりゃ」

 

長すぎて覚えられないタイプの単語が登場した。

 

「ラテラーノでは、銃を扱うには法律上の許可が必要です。そのための資格試験、それがラテラーノ銃型武器使用協定です。この試験をパスすることで、ラテラーノや世界各国に流通している銃器や弾薬の購入が可能になるのです。銃の専門店で、この資格の提示が求められますからね」

「で、どうしてそれが問題になるって?」

「あなたが身元不詳のサルカズでなければ、おそらく大した問題はなかったのでしょう」

「……なるほど、確かに問題になる訳だ。身分証もねえサルカズ人にはそんな資格渡せねえって?」

「ええ、試験官にもよるでしょうが……難しいでしょうね」

「マジかよ……」

 

頭を抱えた。ボウガンでもダメじゃないが……俺は銃がいいと思った。ラテラーノに来た理由の一つでもある。

 

「ですが、あなたの働き次第によっては私がどうにかしましょう」

「マジで!? できんの!?」

「法皇親衛隊は超エリート部隊だと先ほど説明しました。私はその隊長です。あなたのその辺りの問題は、ゴリ押しが可能です。まあ無論、あなたが試験に合格するのに十分な学力と技術を持っていれば、の話ではありますが」

「なら何も問題はねえ! 習得してやる!」

 

気分が高揚してきた。銃器の扱い、楽しみだ。

 

「頼みというのは、以上ですか?」

「ああ、十分だ!」

「これは対価です。見合うだけの成果を期待します。無論、一週間で成果を出せなどというつもりはありません。期限は一年、その程度のスパンで見ます」

「一年!? じゃあ一年もラテラーノにいなきゃいけねえのか」

「国際トランスポーター資格、およびラテラーノ銃型武器使用協定を取ろうと思うのなら、最短でもその程度はかかります。いずれにせよ、一年という期間が妥当でしょう」

 

……仕方ない。背に腹は変えられない。

 

トランスポーターへの道は遠いが、まあ何とかやってみるか。

 

あ。

 

「そちらから何かないようでしたら、私からの話は以上です。戻ってもらって構いません」

「……昼飯の時間、過ぎちまった……」

 

俺にとってそれは、まあまあ絶望的なニュースだった。

 

「おや。思ったよりも話し込んでしまいましたね。ふむ……私にも責任の一端があります。これを」

 

ノエルはそう言ってアルミの包みを渡してきた。俺はそれを受け取った。少し重たい。

 

「これは?」

「アップルパイです。あまり量はありませんが、ないよりはマシでしょう。食べるといい」

「……なんでアップルパイ?」

「妹が好きでして。よく焼いてくれるのです。今日も、おやつにでも食べて、と渡されました」

「そりゃ心温まる話だが……俺が食っちまっていいのか? 妹があんたのために焼いたんだろ?」

「構いません。妹も、それを怒るほど気は小さくありませんから」

「なら、遠慮なく頂くか……。それじゃ失礼する」

「ええ、午後からも頑張りなさい」

 

アップルパイは美味かった。

 

美味いアップルパイを焼く妹がいる、ノエルがほんの少し羨ましくなった。

 

 




・アルク
自称トランスポーター。時系列的にはラップランドと別れたすぐ後の話。

・フロストリーフ
自称傭兵のガキ。かわいい。この頃はマジでガキ。
この話はモスティマ編オンリーとして書くつもりだったが、あまりにもかわいすぎたため急遽抜擢された。かわいい。なお弊ロドスでは未だにレベル1で放置。汁おじが全部お金吸ってくから……


・モスティマさん
かわいい。
過去編においてはアルクのことが嫌い。なお未来においては

・ノエル
オリキャラ。
モスティマの親友。アップルパイを焼く妹がいるらしい。名前が雑ゥ! 改めてアークナイツ天使勢のネーミングに驚愕した。エグゼキューターって考えたヤツ天才かよ。カッコ良すぎか

・アップルパイ
アップルパイ!
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