モスティマさんといっしょ!!!   作:にゃんこぱん

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危機契約が迫ってますね。
備えよう(テンニンカの特化素材を眺めながら)


A year:一月──下

本日は休日だ。朝からの号令に叩き起こされることもないが、体に染み付いた習慣が取れてくれなくて5時に目が覚めてしまう。

 

横で寝ていたフロストリーフも同様らしい。

 

「……おはよう」

「ああおはようフロストリーフ。今日は休みだ、よかったな」

「ああ。……顔を洗ってくる」

「俺も行く。朝飯行くだろ?」

「ああ」

 

宿舎の食堂で朝飯を食べながら、フロストリーフと話している。休日というのは全員に適応されるようで、穏やかな雰囲気が流れている。

 

ラテラーノでは日曜は聖なる日として休むことが慣例となっていて、それはこの部隊でも同様らしい。まあ、もちろんこの日に働く部隊はいるが……。

 

「休日ってのはいいもんだな。朝っぱらから何十キロも走らなくて済むし」

「ああ、まったくだ。だが……アルクは今日は、どうするんだ?」

「ノエルから紹介してもらったヤツに、トランスポーターのなり方を教わることになってる」

「アルクはトランスポーターではないのか? やはり自称じゃないか」

「うるせえな……」

「それで、どんな人なんだ?」

「いや、まだ分からねえ。優秀だとは教えられているんだが、それ以外は集合場所に行ってみねえと分からねえ」

「そうか」

「で、お前は何するか決めてんのか?」

 

フロストリーフは難しい顔で答えた。

 

「……分からない」

「分からない? 何だそりゃ。決まっていないの間違いじゃなくて?」

「分からないんだ。何をしたらいいのか……」

「……詳しくは聞かねえよ。ああそうだ、これ、やる」

 

俺はポケットから財布を取り出して渡した。

 

「ノエルからちょっと小遣いもらってんだ。お前の分。多少飲み食いできる分はあるはずだから、それで街にでも遊びに行ってみたらどうだ?」

「……考えておく」

「はは、自称傭兵は遊んだことがねえのか?」

「自称じゃない。私は傭兵だ」

「くく、そうだな。だがまだガキだ、ちょっとは遊べよ」

「子ども扱いするな!」

 

俺は怒るフロストリーフに、あからさまに子供扱いするように頭を撫でてやった。ぽんぽんって感じで。

 

「はいはい、傭兵だもんなー。偉い偉い」

 

ニヤニヤしながらフロストリーフの反応を待っていたのだが、意外にもフロストリーフは怒らない。

 

「……ちょっと、悪くないな」

「お、おお? じゃあやっぱ止めるか」

「アルクは意地が悪い。人には優しくするんじゃなかったのか」

「そんなこと言ったことあったっけな。ま、俺は先行ってるわ。じゃあな」

「ああ」

 

食器を片して物置部屋に戻る。

 

周囲からの視線にも慣れた。サルカズのツノは目立つ。だがまあ、俺の存在はちょっとずつこの部隊に溶け込み始めていた。

 

 

 

ノエルの紹介した、優秀なヤツってのとの集合場所は、法皇親衛隊の宿舎から歩いてすぐの図書館だった。存在自体は知っていたが、図書館なんて初めて見たし、初めて入る。

10時に図書館一階のロビー。ノエルから指示された通りに待つ。周りが新鮮で、ついキョロキョロしてしまう。目新しいのだ。

 

そんな俺に話しかけてくるヤツが居た。

 

「やあ、君がトランスポーターを目指して、いる……って、……」

「ああ、ノエルの紹介なんだってな、よろし……く……。……」

 

真っ白な天使の輪っかに、黒いツノ。

 

モスティマだった。

 

俺は早くも帰りたくなった。ノエルの野郎……余程俺を苦しませたいようだな。

 

「一応、ノエルの友人として義理は果たすよ。たとえ誰が相手だろうとね。一応確認しておいてあげるけど、ノエルの紹介を受けたのは、君かい」

「ああ。こちらからも確認だ。俺にトランスポーターのなり方を教えてくれるってのは、お前か?」

「ああそうさ。残念ながら、ね」

「そうかそうか。残念だ」

「私としては、君には今すぐ帰ってもらって構わないんだけどね」

「──そうだな、俺もそれをしたいのは山々なんだが……」

 

それができない理由がある。それをしてしまったら、俺は自称トランスポーターのままだ。フロストリーフに顔向けできない。

 

だからこそ、クソ気が乗らなくても、やらなければならない時があるのだと、この時初めて知った。

 

「俺はトランスポーターになると決めている。だから……使えるものは、何だって使うつもりだ」

「へえ。じゃあここで私に頭を下げなよ。お願いします、教えてくださいモスティマ様って」

「ぐ……! こ、この女……!」

「どうしたの? 口だけかい?」

 

屈辱だ。だが……屈辱より重要なものがある。屈辱だけど。屈辱だけど!

 

俺は頭を下げた。

 

「お願いします。教えてください、モスティマ様」

「ほんとにやるんだ。君プライドないの?」

「てめえこのクソ女が! 表出ろ!」

「いやいや冗談さ、そこまでされてはいくら君のことが嫌いとはいえ義理は果たすつもりさ」

「……」

 

俺はぐっと押し黙った。耐えろ、耐えろ……。

 

「サルカズ。君の名前を聞いておこうか?」

「……アルクだ。”よろしく”頼むぜ、モスティマ様」

「へえ。”よろしく”ね。アルク」

 

交わした握手から、鈍い音が聞こえてきた。力を込めすぎたために生まれた摩擦音だった。

 

「ま、行こうか。こっちさ」

 

歩き出したモスティマを追って、俺は図書館の奥へ歩いて行った。

 

一室に入った。ホワイトボードなんかがあって、数人で会議するような場所らしい。勝手に使っていいのだろうか?

 

「まあ座りなよ、アルク」

 

俺は座った。できる限り目の前の女と言葉を交わしたくなかったので黙ったまま。

 

「説明を始める前に、君と私のことについて確認しなくちゃいけない。ノエルから頼まれているとはいえ、私だって君と長く一緒に居たい訳じゃないってこと、わかるよね」

「その点に関してだけは同感だ」

「だから私は君に相応の対価を要求することにしよう。もっとも、君が差し出せるものなど、そう多くはなさそうだけどね」

「ぐ、この、口を開けば次から次へと……!」

「じゃああるのかい? 私に提供できるようなメリットが」

「……」

 

なかった。

 

「ないんだね。だから私はこれを”貸し”としようと思う」

「”貸し”だと? どういうことだ?」

「そのままさ。もしも君が私に何か有益なことをもたらしたり、私を助けたりすれば”貸し”は一つずつ減っていくことにしよう。でもそれが出来ず、最後まで私に”貸し”たままなら、まあ覚悟くらいはしてもらうけどね」

「……異論はねえ。こっちも、その程度は弁えてる」

「ふうん。ま、別にいいか。じゃあ手早く済ませるよ。いいかい、トランスポーターには、普通トランスポーターと国際トランスポーター、それから天災トランスポーターがあって──」

 

忌々しいが、モスティマの説明は地味に分かり易かった。

 

「それで、おそらく君が欲しいのは国際トランスポーター資格のはずさ。入国審査も甘くなるしね。それで、これは国際基準で定まっている試験をパスする必要が──」

 

トランスポーターというのは、簡単ではないらしい。

 

「それで、ラテラーノでは七月と十一月に一回ずつ試験があるのさ。試験は一回きり、合格率は大体30%ってところかな。内容だけど──」

「ってことは──」

「そう、図書館に参考書は揃えてあるから──」

「で、実績が必要ってのは──」

「国内のトランスポーター組合での、半年以上の訓練実績のことさ──」

 

本当にいろいろ面倒らしい。

 

説明が終わった。

 

「わかったかい?」

「ああ、大体理解した。遺憾だが礼を言う」

「いらないよ。貸し一つさ。それじゃあね」

「待て、トランスポーター組合に参加するには紹介が必要なんだろ? それはどうすりゃいいんだ?」

「自分で言っているじゃないか。紹介してもらえばいいのさ」

「だが誰に? 俺は心当たりなんてねえ」

「トランスポーターを目指しているんだろう? なら自分でどうにかしてみなよ」

 

正論だったし、これ以上モスティマに頼るのも癪だった。

 

「ち……。まあいい、”一応”礼は言っておく。サンキュ」

「ふぅん、”一応”受け取っておくよ。それじゃあね」

 

現在一月、国際トランスポーターの試験があるのが七月。気の長い話だと思った。

 

 

 

 

近接格闘訓練の時、俺とフロストリーフは前に出された。

 

「アルク訓練兵、ならびにフロストリーフ訓練兵の近接戦闘能力を鑑みて、この二名を訓練顧問とする。以後、積極的に教えを受けろ。いいな」

「はっ!」

 

ということになり、なんかよくわからんが実力が認められたらしい。

 

その日の訓練はやたら対戦相手が多くて疲れた。

 

「アルク訓練兵、君の戦い方だが、もう少し手心を加えられないか?」

「教官殿。俺に無茶を言ってる自覚あるか?」

「怪我人が続出している。君を訓練顧問にしたのは、ただの訓練兵で押さえが効かなくなったためだ。隊全体の戦力を向上させるため、君にも努力をしてもらいたい」

「っつってもなぁ……。俺って力任せにぶん殴ることしかできねえぜ?」

「いいや、そんなことはないだろう? 君の体術には、確かな技術が存在している。誰に習ったかは知らないが、基本に忠実な、良い教えだ」

「──。そりゃ、どうも。善処するよ」

 

先生のことを思い出した。

 

俺は先生の教えが自分には合ってなかったと思っていたが、意外な場所に活きるものだ。

 

そしてフロストリーフは、確かな実力を備えていた。自称傭兵だとか言っていたが、確かに傭兵でもやっていけそうだ。専門は戦斧で、氷結のアーツを纏うとなかなか厄介になりそうだ。

 

意外にも、感染者である俺たちへの差別は少なかった。

 

感染者から一般人に鉱石病が直接伝染することはないと教えられているのだという。素晴らしいな親衛隊。

 

意外といい方向に話が進むものだと、俺は不思議な感覚だった。

 

その夜の話だ。

 

毛布にダンボールとかいうよく分からん組み合わせで寝るのにも慣れて、積み重ねたタンボールは暖かいということを理解した夜。

 

一月は冷たい時期だ。夜は冷える。

 

だがその夜は、やけに冷たかった。あまりの冷たさに身を起こす。流石に寒すぎる。

 

俺は電気を付けた──フロストリーフから、冷気が放出されていた。明らかに普通じゃなかった。

 

「……!? おいフロストリーフ、おい! 起きろ!」

 

応答がない。肩を揺らすが、フロストリーフは苦しそうな顔で呻くだけだ。

 

「うぅ……」

「クソ、どうなってやがる。てか冷てえ──おいフロストリーフ、お前このままだと低体温症で死ぬぞ!? そのアーツどうにかしろ!」

 

アーツが暴走しているのか? フロストリーフのアーツ、凍結が無意識化で暴走しているのかもしれないと辺りを付けて、俺は小さな子供を担ぎ上げた。医務室へ走る。

 

「おい、急患だ! どうにかしてくれ!」

 

夜勤の医師が眠そうな顔で座っていた。俺たちを見て目を丸くする。

 

「こいつのアーツが暴走してる! 体が冷たくなっててヤバい! どうすりゃいい!」

「少し落ち着いてください。体温を……冷たすぎる。まずい、今すぐ温めなければ」

 

医師はエアコンの温度をマックスにするとフロストリーフをベッドに寝かすよう指示した。俺はその通りにした。

お湯入りのペットボトルを何本も作り、フロストリーフのベッドに突っ込んでいく医師と俺。なんともアナログだが、こういう事態に対して設備がないのだという。

 

「このようなことはこれまでにも?」

「いいや、今日が初めてだ。何が起こってやがる……」

 

くそ、しっかりしろと思いながら、医師の説明を聞く。

 

「寝ている間にアーツが暴走するというのは、心的外傷を抱えた術師に稀に見られる現象です。おそらく、夢か何かが原因となって、アーツを発動させるのです。大抵の場合、トラウマとなった夢を見ていることが多いです。彼女の経歴は」

「傭兵をやってるって言ってたが……」

 

聞かれて気づいた。俺はこのガキのことを何も知らない。

傭兵やってるガキで感染者なら、過去なんかそう聞きたいような話じゃない。そう思って触れていなかった。でもそれは間違いだったのかもしれない。

 

「あなたと彼女の関係は」

「相棒だ」

 

迷わずにそう答えるくせに、俺はフロストリーフのことを何も知らない。情けないと思った。

 

「……このまま状況が改善されないなら、夜間病院へと搬送します。ですがその費用は、彼女自身が全額負担することになります。確かあなたがたは、ラテラーノ国民ではありませんでしたからね。少なくない金額が請求されるでしょう。あなたが決定してください。どうするのかの判断を」

 

金……。金、金、金か。なんでもそうか。俺たちにないものナンバーワンだ。ノエルに貸しを作るか? いやしかし……。

 

「他にどうにかする手立てはねえのか」

「こういった応急策が手をなさないとなると、あとは直接人肌で温めるしかないでしょう。彼女の意識が回復するまで温めれば、アーツの制御が可能になるはずです」

「……ここのベッド、借りるぞ」

「ええ、ご自由に。心配なさらずとも、ここでなら料金の請求は致しませんよ。そういうことであれば私はお邪魔ですかね」

「ガキ相手に余計なお世話だ、馬鹿野郎」

 

医師は少し笑って出て行った。

 

気は重たかったが、フロストリーフの命には変えられない。

 

俺はフロストリーフのベッドに入り、フロストリーフを抱きしめる。冷たい。まるで氷にでも触っているかのように。だが小さく、柔らかい体だった。

 

いや冷てえ。尋常じゃないくらい冷たい。

 

……なるべくならやりたくなかったが、俺は上裸になった。流石にフロストリーフの服を脱がすわけにもいかなかった。肌と肌が一番体温を伝えやすいし、それが理想ではあったのだが……出来るか。最終手段だ。

 

その状態のまま幾らか時間が経つと、次第にフロストリーフの呻き声がはっきりしたものへと変わっていった。

 

「寒い、冷たい……、痛い、痛い……」

 

フロストリーフはどういう過去を辿ってここにたどり着いたのか。俺はその一言で大体察した。

 

「安心しろ、俺がついてる……。あと寒いんでとっととこれどうにかしれくれ……」

「寒い、痛い……。誰か……」

「俺がついてるっつってんだろうが。あと寒いのは俺も一緒だっての……」

「痛い、痛いよ……。アルク……」

「いや痛いのは俺も一緒──あ?」

 

名前を呼ばれた?

意識が戻ってきているのか?

 

「フロストリーフ。おいフロストリーフ! 目を覚ませ、おい」

「アルク……? 冷たい、寒い……」

 

俺はちょっと強めに抱きしめた。

 

「ん……狭い、窮屈だ……離せ……」

「このガキ……! おい起きてんのか。実は起きてんだろてめえ」

「…………う、冷たい……、寒い……」

「いや今の沈黙なんだ!? おいやっぱ実は起きてんだろ! とっととこれ止めろ、冷たいのは俺もなんだぞ!?」

「うるさい……」

「ぜってえ起きてんな。もういいな」

「……もう少し……」

 

俺はさっきからフロストリーフの冷気が弱まっていることを知っていたし、フロストリーフの口元が少し緩んでいるのにも気がついていた。

 

だからガキが甘えてきたのに、ちょっと嬉しくなった。

 

 

「わかったわかった……」

 

少し沈黙した。

 

「ん……暑苦しい……。離れろ……」

「本当にこのガキは……もういいんだな」

 

腕を離して体を起こす。まだ俺は体が寒いんだが、エアコンが幾らか温めてくれた。

 

フロストリーフはいつの間にか目を開けていた。

 

「すまない、迷惑をかけたな……」

「いい。ガキなんだ、迷惑ぐらい、いくらでも掛けろよ」

「……すまない」

「謝んなっつってんだろ? 俺たちは相棒だ。そうだろ?」

「──」

 

フロストリーフは珍しく微笑んだ。

 

「そう、だな。相棒、だからな」

 

体を起こして来て、そのまま俺に体を預けてきやがった。

 

うーん……。

 

「ちょっとだけ、嬉しいな……」

 

いや相棒だけども。さっきまで抱きしめてた俺が言うのもなんだが、君距離近くない?

 

「”これ”、前からもあったのか?」

「以前は……戦場にいた頃、たまにあった。それからはもう意識的に押さえ込んでいたのだが……気が緩んだのかもしれない。こういう、平和な日々は慣れない」

 

だと言うのなら、これからもこの症状はしばらく現れるかもしれない。少なくとも、これから先しばらくは平和だろう。

 

「慣れとけよ。じゃねえと、また俺にぎゅってされちまうハメになるぞ」

「私は構わない。だが、あまりアルクに迷惑をかけるのは、……やっぱり、別にいいか。アルクだしな」

「どういう意味だクソガキ」

「相棒なんだろう?」

「お前なあ……ガキが一丁前に……」

 

だが悪くない関係である事は、確かなのかも。

 

 

 

「犯罪です。ロリコン罪です」

「ノエルさん、あのですね。誤解があります」

「敬語、使えるではないですか。それで、誤解も何もありますか? 眠っている少女をベッドに連れ込んで抱きしめていたと、報告があったのですが」

 

──あのクソ医者! 見てやがったな!

 

「いや、あれは仕方ない事だったんだって。マジで。人命救助なんだって」

「まあ冗談です。いろいろありそうですが、彼女──フロストリーフはあなたが支えるべきですからね。彼女の相棒だと言うのなら」

「言われるまでもねえよ。で、今回はなんだ?」

「実はご褒美を与えようと思いまして。訓練顧問に昇進したようですね」

「ああ。いや、お前の差し金じゃねえの?」

「いいえ、そこまで細かいところまで私の気は回りません。あれは純粋に教官の評価と捉えて頂いて構いません。いえ、なかなかないことです。訓練兵がそのまま訓練顧問に格上げなど、異例の事態と言っていいでしょう。なにせ、過去に一度しかありませんでしたから」

「へえ」

 

実力が評価されたと言う事らしい。嬉しいね、やったぜ。

 

「実際、思わぬ拾い物であったと評価せざるを得ないでしょうね。このまま親衛隊に正式に編入しましょうか」

「そいつは勘弁だ。俺はトランスポーターにならなきゃいけねえし、あいつは……どうだか分かんねえけど」

「そうですか。まあ私からその功績を称えて、プレゼントです。こちらを」

 

渡された箱を開けると、マシンガンが入っていた。

 

「……いいの? 俺に?」

「ええ。ついでに頼みが一つあります。あなたにとっても、悪い話ではありません」

「……なんか胡散くせえな」

「私の妹を紹介しましょう。次の休み、予定を開けておくように」

「……妹だと?」

 

一週間後。休みが来た。

 

「やっほー! あたしはエクシア! よろしく!」

「アルクだ。あー……よろしく」

 

俺は街の一角でノエルに連れられて、一人の女と出会った。赤い天使だ。ロングヘアーが特徴的なサンクタだった。大学生か?

 

「エクシア、この男は不法入国の上、身分証も持っていない怪しい男です。気をつけるように」

「へえー! 君すごいね、……いや、どう言う事?」

「ノエルさあ……なんだ? 一応紹介してんならさぁ、もう少し褒めるような事言えねえの?」

「事実を言ったまでです。それでアルク、マシンガンは持ってきていますね」

「ああ、一応言われた通りケースに入れてきたが……」

「それ、見つかると犯罪なので気をつけるように。違法所持になります。私が一緒にいる時はなんとでもなりますが、一人の時に見つかると牢屋行きですから」

「ノエルさんさあ……。なんだ? 一体なんだってんだ?」

「えちょっと、ノエル姉、どう言う事なの? 流石のあたしも混乱するんだけど」

 

混沌とした事態のまま、ノエルはずんずん先導していく。紹介されたノエルの妹──エクシアと顔を見合わせて苦笑いした。

 

「お前の姉ちゃん、めちゃくちゃだな」

「まあ、ノエル姉はたまにそう言う時があるんだよね……」

 

──サルカズである事は、隠している。これはノエルの要望だ。

 

頭を覆い隠すニット帽をする事で、サルカズのツノを隠している。幸いツノの形が隠しやすくて助かった。

 

……まあ、法王親衛隊の隊長ともあろう者がサルカズ連れて歩くわけにもいかねえしな。

 

エクシアは活発で、全体的に陽キャだった。

 

「──法学部ねえ。とてもそうは見えねえな」

「あ、やっぱり? あたしでもそう思うもん。みんなに言われる」

「まあでも、ノエル姉も──モスティマも法学部の出身だしさ。あ、モスティマっていうのは私の言わばもう一人の姉で──」

「いやいい。モスティマの事は俺も知ってる」

「ああ、君も法王親衛隊だもんね。……でもなんで身分不詳のアルクが?」

「さあな。秘密だってよ」

 

そう、秘密だ。流石に無関係のエクシアには口止めされている。

 

「それでノエル姉、どこに向かってるの?」

「射撃訓練場です」

「えー! せっかくの休日なんだし、もっと楽しい事しようよ! パーティーとかさ!」

「エクシア、あなたはパーティーばかりしすぎです。それに、今回はあなたの訓練ではありません」

「え、じゃあ誰の? あ、ノエル姉も一緒にやるの? じゃあいいよ!」

「いいえ、そこの身分不詳男です」

「……なるほどな。え?」

 

え? いやまあ、……え?

 

 

 

 

エクシアの射撃は、実際素晴らしいものだった。

 

いや、見てわかるもんじゃねえが……。俺はその動きやら、特徴やらを出来る限りメモして記憶した。図解も混ぜて、出来るだけあとの自分が見て思い出せるように。

 

ノエルの射撃はもっとやばかった。

 

正確無比。ブレない。完成形だった。素人が見てわかった。

 

「ノエル姉すごいよね──アルク、知ってる? ノエル姉はアーツ部隊の隊長でもあるんだよ」

「恐ろしい話だ。これが専門じゃねえってのか。天才ってのはいるんだな……」

「それで、アルクはサンクタ族じゃない……よね? 銃を扱いたいの?」

「実はな。ちょうど良さそうな武器だから、ちょっとやってみようかと思ってる」

「へえー。出来るといいね」

 

さっき見た通りにマシンガンを準備し、標準を構えて撃ってみる。

 

……反動が強い。照準がブレる。

 

ダメだ、まともに扱えたもんじゃない。サンクタ族ってのはこれが天然でできるってんだから不思議なもんだ。

 

しばらく練習してみる。

 

ちょっとはマシになったか?

 

「構え方が全然違います。いいですか、腕をもっと──」

 

やってみた。

 

「下手ですね。いいですか、もっと──」

 

……やってみた。

 

「え、どうしてできないの?」

 

エクシアの言葉が胸をえぐった。俺は泣いてよかった。

 

射撃訓練はそんなもんだった。

 

「ラテラーノ銃型武器使用協定──長いので協定と略しますが、協定では実技試験もあります。この程度の腕では、合格は夢のまた夢でしょう」

「……あのさ、銃を扱うためには協定が必要で、協定には銃の腕が必要なのか? 矛盾してねえか?」

「多くのサンクタ族にとって、その問題は解消されます。手にとれば、使い方がわかるためです。もちろん、訓練も必要ですが……。その場合、射撃場や許可を得た私有地であれば銃器の使用が認められます。そこで訓練をするのが一般的です。今日はエクシアを連れてきたため市街での射撃場ですが、親衛隊の訓練場にも射撃場はありますから、合格したいのであれば、そちらで訓練するのがいいでしょう」

「大変だねアルク、頑張ってね!」

「そりゃどうも……」

 

その後は大した事はない。飯食って解散だ。ほんの少しノエルとエクシアと仲良くなった事以外は、大したことでもない。

 

ノエルは実際、俺のために休日を潰してくれた。このことには感謝している。

 

ただ、スラム街で育った俺がラテラーノでこんなことをしているという事実は、どうにも想像できなかったな、と思った。

 

夕方ごろ帰ると、フロストリーフが部屋で本を読んでいた。

 

「おう」

「ああ、お帰り、アルク」

「何読んでんだ?」

「歴史の本みたいだ。図書館で借りてきた」

「へえ、お前そういうのに興味があるのか?」

「……分からない」

「分かんねえのか?」

「ああ。だから読んでみている」

 

フロストリーフも、少しずつ変わってみようとしている。それが知れて俺は少し嬉しくなった。

 

「なあ、晩飯食ったら飲みにいくか?」

「……それはいいな。行こうか」

 

そして飲み屋へ。近所にあった。

 

ラテラーノは宗教が盛んだから、酒は流行っていないと思っていたが、どうやらそんな事はないらしい。店内は賑わっていた。休日ということもあるのだろう。

 

ガキ連れて居酒屋だ。怪しすぎるっての。

 

「ビールでいいか。お前は?」

「そうだな……どうしようか」

「ジュースにしとくか?」

「バカを言うな。せっかく来たんだ。私もビールでいい」

「そうか。──ビール二つ、唐揚げと枝豆で」

 

注文を待つ間、暇になったのでフロストリーフと話している。

 

出会った当初と比べると、フロストリーフはだいぶ顔つきや血行が良くなった。貧相なガキにしか見えなかったが、最近じゃそのへんにいるガキにランクアップした。これで着飾ればだいぶいい感じに見えるかも知れないが、俺はその辺はさっぱりだ。

 

無骨な隊員服を着ているためか、明らかに未成年なフロストリーフにも酒が運ばれてきた。ガバガバだな。

 

「ま、当初の計画に狂いはなかったってことだな」

「何を言う。逮捕までされかけただろう」

「なんだよ、なんだかんだうまく行ってるだろ? 旨い飯と寝床付き。来週中にはついにベッドが運ばれてくるらしいぞ」

「それはありがたいな。確かに、上手くいっている……のか?」

「おう」

 

ビールが運ばれてきた。

 

「ま、何はともあれ、俺たちの未来に」

「ああ、そうだな。私たちの未来に」

 

かんぱーい!

 

 




・法王護衛隊
超エリート部隊。ラテラーノ国立大学からしか入隊できないらしい

・銃とサンクタ族について
こんな感じで落ち着けました。とっとと資料集出せYostar

・サルカズについて
ロドスにいるサルカズはほぼ例外みたいなものらしい。なので本来のサルカズはもっと凶悪である可能性が高い。だから資料集出せ

・ラテラーノに関して
設定集出せと何度言わせる気だ

・エクシア
大学生。アップルパイ!

・フロストリーフ
未成年のメスガキ。酒が飲める。かわいい
過去のトラウマがまだ残っている。

・モスティマさん
かわいい。一年後にデレる堕天使
この頃は"まだ"堕天してない

・ノエル
オリキャラ。語尾がですますキャラって書きやすいんだよな……

・かんぱーい!
こいつらいっつも乾杯してんな
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