人類滅亡3秒前   作:あたらんて

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2秒前

「よく帰ったなレン! …お、そっちのお嬢ちゃんが救った一般人か!」

 

 『レジスタンス』アジトに帰って来た俺と白石を迎えるのは一人の中年男性。

 俺にとってはよく見知った人物だ。

 

「白石って言います。よろしくお願いします…?」

「おう、よろしくな! 俺は灰野(はいの) (ひいらぎ)だ。一応ここのボスってやつをやってるぞ!」

「灰野さん。装備全部壊れたから交換してくよ」

 

 灰野さんの自己紹介は無視してアジト内の装備をあさる。

 

「んなっ! この前交換したばっかだってのに何をしたら壊れるんだ?」

「…地底人と、()った」

「! ……それで?」

「任務で宇宙人と戦ってたとこに2体乱入。片方は仕留めたけど、もう片方は無理だった」

 

 説明をしながら、装備品の点検をしていく。

 地底人の話をしている間は、つい装備品を握る手に力が篭ってしまった。

 

「…“槍”は、使ったのか?」

「いや、使ってない。追い詰められたっちゃ追い詰められたけど何処に“神”がいるのかもわかんないのにそう簡単には使えないよ」

 

 俺の説明に僅かに頷く灰野さん。

 彼はしばらく考え込んだ後に、また口を開いた。

 

「……わかった。好きなのを持って行け。次は横浜で“生きる死(リビングデッド)”の掃討任務だ」

「了解。それじゃあ白石ちゃん、これでお別れだ。一応元の場所に戻りたいって言うなら連れて行くけどオススメはしない。ココは食糧も大量にある。そこそこの人数もいるし、美人な白石ちゃんならすぐに友達も出来るよ」

 

 そう言って白石ちゃんに別れを告げる。

 これからどうするかは本人次第だが、恐らくここで非戦闘員として暮らすことになるだろう。

 そう思いながらアジトを出ようとして――

 

「あ、あの! 私も、『レジスタンス』に入れてくれませんか?」

 

 ……驚いた。レジスタンスに入るということは即ち、あの化物共と命を懸けて戦うということである。

 そんな覚悟が、この可愛らしい女の子にあるとは思えなかった。

 

「……嬢ちゃん。ウチの組織は一見あの化物共に勝ててるように見えるが、そりゃ大きな間違いだ。先週は2人、今週も既に1人死んだ。

 ヤツらからしたら俺らは羽虫みたいなモンだ。何一つ油断してなくても、最善の行動を取り続けたとしても、ヤツらの行動一つで軽く命は吹き飛ぶ。

 人類はもう既に負けてんだ。ウチはそれでも諦められねえっていう単なる馬鹿共の集まりで…」

「――私の。私のいたシェルターは、3日前に地底人によって襲撃されました」

 

 灰野さんの言葉を遮り、白石ちゃんがポツポツと言葉を紡いでいく。

 その感情の篭った声には、俺たちレジスタンスの皆が持っているある感情を感じた。

 

「私を庇ってくれたお母さんも、ちょっぴり怖かったお父さんも、お隣のおばさんも、親友だったみっちゃんももういません。

 …レジスタンスの噂は元々聞いてました。色んな武器を持って、怪物たちと戦う人たちだって。

 実際に赤池さんに助けてもらって、本当にすごいって、私も加わりたいって。そう、思ったんです」

「……」

 

 灰野さんは黙り込む。

 薄々気づいたのだろう。この女の子が俺たちと同じ人種であることに。

 

「灰野さん。俺たちは加入希望者を断る程人員に余裕がある訳でもないし、そもそもの設立理由からしてこの子は()()()()()()()

 

 復讐。白石ちゃんの目にはその覚悟が宿っていた。

 

「……わかった。なら早速だがお前の任務に連れて行け。嬢ちゃんのサイズに合う装備を今持ってくる」

 

 そう言って灰野さんはアジトの奥へと装備を取りに向かった。

 

「…あの人は、娘さんを失ってるんだ」

「!」

「だから、白石ちゃんには戦わずにいて欲しいんだと思う」

「…それでも、私は……」

「ああ。わかってる。だから絶対に死なないで欲しい。さっきは仲間が何人も死ぬって言ったけどさ。あの人も、ここの皆は誰かが死ぬ度に泣いてるんだ。

 …だから。絶対に生きて帰ろう」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アジトの外に出て東に200m。またもや合言葉をインターホンに囁いてこれまた地下に作られた車庫に入る。

 そこにはレジスタンスが用意した車がズラッと並んでおり、中には中々の高級車もあったりする。

 そんな車庫を少しばかり歩くと、お目当ての軽トラックを見つけた。荷台に銃やら爆弾やら色々な装備を載せ、用意して来た鍵で扉を開けて運転席に座る。

 

「ところで赤池さん。…免許って、持ってるんですか?」

 

 運転する気満々の俺を見て、白石ちゃんが不安そうな顔で俺に免許の有無を聞いてくる。

 それに対し俺は自慢の白い歯を見せてニカッと笑い、自信を持った声で応える。

 

「大丈夫だって、安心しろ。右がアクセルで左がブレーキ。これだけ覚えてりゃ何とかなるさ!」

 

 にこやかな顔から発せられた俺の言葉に白石ちゃんの顔が青ざめていく。

 しかし事故っても無問題(モーマンタイ)。このご時勢、外を出歩いてるのは怪物たちばかりなのだから。

 

 ものすごく不安そうにしている白石ちゃんを助手席に乗せ、エンジンをかける。

 車というのは地底人とか妖怪相手ならともかく、ゾンビ相手なら最高に近い武器であり防具だ。

 免許がどうたらなんて言っていられない。レジスタンスに入って3日で運転を覚えた。

 

 限界までアクセルを踏み切り、俺たちはゾンビ共の溢れる横浜へと向かう。

 久々のドライブだ。張り切って行こう。

 

「赤池さん安全運転って知ってますかー!!??」

 

 化物共と出会う可能性を減らせると考えれば最高速こそが安全運転なのだろう。

 めいびー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破壊された道路を爆走すること三十分程。

 遂にお目当ての街が見えてきた。

 

「確かにうじゃうじゃといやがんな…」

「ヒッ…」

 

 双眼鏡で遠くからゾンビたちを観察する。

 街はゾンビに覆われ、かつての面影は全くない。

 

 これ程の数がいるとなると、この町の一掃だけでも一苦労だ。注意して任務に当たらなければいけない。

 

「よし。それじゃあもう一回ゾンビと戦う時の心構えを言うぞ」

「はい!」

「まず、基本的に遠距離から仕留める。接触行為は勿論のこと、ゾンビの体液を浴びたりなんかしても感染の危険があるからだ」

「私はこの銃で撃っていけば良いんですよね」

 

 そう言って白石ちゃんはショットガンサイズの銃を取り出す。

 これまた宇宙人からの戦利品で、小規模な爆発を起こす弾丸を連射する。丁度ゾンビを粉々にする規模の爆発で、対ゾンビ用に作ったと思われる銃だ。

 

「そうだ。そして、仕留めた後も油断しない。アイツらはゾンビっていうだけあって異常にしぶとい。頭を吹っ飛ばした位じゃ普通に動いたりするからな。

 ベストは全身を吹っ飛ばすことだが、四肢と頭が消えたら一応オッケーだ」

 

 ゾンビ共は本当にしぶとい。一度生首のまま顎の筋肉で移動して来たやつと出会ったことがある。あれは本当に恐怖を覚えた。

 

「それで、実は人間のゾンビっていうのは正直そんなに脅威じゃない。怖いのは動物のゾンビたちだ。特に小型の動物には注意しろ。

 犬や猫辺りは狙いも付けにくく、人間よりずっとすばしっこい。最悪近接戦で仕留めることになる」

 

 実は人間以外にも感染している動物は多く、更にはその多くが人間より厄介だ。

 不幸中の幸いと言うべきは余りに小型の生物が感染すると、そのまま体が朽ちて死ぬことだろうか。

 これで虫なんかが感染を広げていたり、なんてことを想像すると鳥肌が立つ。

 

「そして最後に。さっき言ったみたいにやむを得ず近接戦になったり体液を浴びたりして感染したかもしれないとわかったらすぐにこの車に戻って消毒液を浴びろ」

 

 宇宙人の技術っていうのは流石と言うべきか、ワクチンの開発には至らなくとも感染を直前で防止することには成功していた。

 装備といい宇宙人様々だが、全ての原因は奴らだ。存分に使わせてもらうとしよう。

 

「ただ、噛まれたりなんかして体内に直接菌が感染したりしたらもう駄目だ。そうなったら…ゾンビ化が進む前に、自殺しろ」

「……!」

 

 その言葉に白石ちゃんは唾を飲み込む。

 ハッキリ言って、これは見ていて非常に苦しい。噛まれた部分から腐敗が始まっていき、感染者は顔が絶望へと染まっていく中自らの命を絶つ。

 多くのレジスタンスのメンバーの死を見てきたが、その中でも一番見ていて辛い死に方だ。

 

「良し。それじゃあ突入するぞ。俺は荷台から射撃、白石ちゃんはゾンビたちの中に車を突っ込ませてくれれば良い。

 ゾンビたちが集まってきて車が動かなくなって来たら、白石ちゃんも射撃に参加だ」

「えっ…私が運転するんですか?」

「言っただろ? 右はアクセル、左はブレーキ。それだけでOKだ」

 

 俺の二度目の言葉に、白石ちゃんの顔は先程よりも青ざめた。

 

 

 

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