人類滅亡3秒前   作:あたらんて

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3秒前

「よし。突っ込め!」

「事故が起きても知らないですからねー!」

 

 ゾンビの大群に向かって白石ちゃんが車を突っ込ませる。

 しかし轢かれる程度では5秒とたたぬ内に起き上がってくるのがゾンビ共だ。

 倒れた隙に荷台に乗る俺が銃で撃ち殺す。

 

 やがて、街の奥からわらわらとゾンビ共が湧き出て俺たちは包囲された。

 

「白石ちゃんも射撃開始だ!」

「はい!」

 

 白石ちゃんも荷台へ出て来て射撃戦を行う。初戦闘だが、問題なく戦えているようだ。

 二丁の対ゾンビ用ショットガンは遺憾なくその性能を発揮し一匹、また一匹とゾンビ共の数を減らしていく。

 

 しかし中々ゾンビの数も多い。元の人口が多いというのも関係しているのだろう。

 中々の長丁場を覚悟する。

 

 そんな中、この任務1つ目の危機は程なくしてやって来た。

 

 

「っ…! この犬のゾンビ、速い!」

 

 着実にゾンビ達の数を減らしていく中発せられた白石ちゃんの言葉に目をやれば、素早い動きで白石ちゃんの弾丸を回避する犬のゾンビがいた。

 

「こ、の…! 当たれ、当たれ! …あっ、マズ――」

 

 右に左にと回避していく犬ゾンビはじりじりと白石ちゃんとの距離を縮めていき、遂にその牙を剥いて白石ちゃんに襲い掛かる。

 

 ここは先輩として格好良く助けてあげるべき場面だろう。

 飛び掛かる犬ゾンビと危機に思わず目を瞑る白石ちゃんの中間からややゾンビ寄り。

 目標の前方30cm程に狙いをつけ、弾丸を放つ。

 素早い動きでこちらを翻弄していた犬ゾンビは白石ちゃんに襲い掛かるギリギリの所で爆散した。

 

「爆散したゾンビの肉体に触れてないか?」

「…あ、はい!」

「素早くて中々弾丸が当たらない時は1秒後の位置を予想して撃て。そのまま撃っても当たらないぞ」

「はい!」

 

 新人だから動物のゾンビに対応できないのは仕方が無い。

 人間以外のゾンビは全て自分で始末しようかと考えていると――

 

「1秒後の、位置を、予想して……やった! 当たりました!」

 

 またもや現れた犬ゾンビを今度は一発で仕留めていた。

 …思ったより才能があるのかもしれない。有望な新人の参入に少し顔が綻ぶ。

 

「よし。そろそろゾンビ達の数が許容量を越える。一回この包囲を抜けるぞ!」

「わかりました!」

 

 白石ちゃんを運転席へと戻し、進歩方向のゾンビを荷台の装備から取り出した手榴弾を投げ込んで一掃する。

 

 爆音が響くのと同時、軽トラックはぽっかりと空いたゾンビ包囲網の穴へと突き進む。

 身体能力は大したことないゾンビたちは車の速度に追いつける筈も無く、包囲から俺たちを簡単に逃がしてしまう。

 

「よし、また射撃戦だ! 一応銃のバッテリーは交換しとけ!」

「ありがとうございます!」

 

 荷台に出てきた白石ちゃんに対ゾンビ用の銃のバッテリーを投げてまたゾンビ達を撃ち始める。

 

 

 ――いける。

 始めは足手纏いになるかもしれないとすら思っていた白石ちゃんは動物ゾンビすら軽く屠れる程の戦いの才覚を発揮した。

 目立った脅威も未だなく、装備も万全で消毒液も完備してある。

 

 目標のゾンビはまだまだ数あれど、俺は任務の成功を確信していた。

 そんな時である。

 

 

 音がした。

 

 地面を震わせ、空気を震わせ、心すらをも恐怖で震わせる音がした。

 

 射撃を一度止め、双眼鏡を覗く。

 

 1km程前方に建つ1つのビル。

 宇宙人の空襲にでも遭ったのか、半ばからその姿を失ってはいるがそれでもハッキリと目に見える程巨大な建物だ。

 

 そのビルが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その生物は四本の腕を持ち、体躯は3メーターを優に越える。

 茶色の体表から生える真っ白な爪はそれだけで一つの武器と化す。

 

 死角を無くすためか頭部を一周して輪のように並ぶ目は合計7つ。

 見る者全てを恐怖に落とし、触れる者全ての命を奪う。

 

 地の底に眠り数千年。星の力をその身に宿す怪力の化身。

 

 

 その怪物と、目が合った。

 

 

「逃げるぞ! ()()()()()()()だ!」

「――!!」

 

 地底人。その名の通り地中深く、人類の観測の及ばない範囲にて眠っていた怪物。

 巨大な体躯に四本の腕は見るだけで恐怖を感じさせられる姿ではあるが、何よりも特筆すべきはその腕力。

 

 僅か一本の腕で戦車を引き裂いたというのは有名な話。眼前のビルは今まさにその怪物に倒された。

 明らかに生物の枠を越えた力。それがヤツら地底人には宿っている。

 

 そんな強力な生物である故、レジスタンスも周到な前準備が無ければまず手を出せないのだ。

 ゾンビ如きが敵う相手ではない。だというのに感染している、ということは。

 

「左下腕が半ばから千切れていて、全身にゾンビ化による腐敗だけでなく裂傷、火傷…弱っているところをやられたか」

 

 予想では宇宙人辺りと戦って劣勢になり、ボロボロになりながらも逃げた末に…という感じだろう。

 

 辺りのゾンビ共を撃ち殺しつつ双眼鏡で地底人ゾンビを観察する。

 その脚力も凄まじく、あっという間に距離を縮められているが遠方にて発見できたのが幸いだ。

 ゾンビ化した地底人の行動は読めないが、元の地底人の性質から考えれば今の内に逃げられれば恐らく追って来ないだろう。 

 

 兎にも角にも今は相手できない。ただでさえ怪力無双、腕力の化物だというのにそこに不死性まで追加されたのである。やってられない、逃げの一手だ。

 こんなのを相手するなら普通のゾンビを千体相手する方がずっとマシである。逃げ道を空け、ゾンビの追撃に備える。

 

 しかしいつまで立っても車が動き出さない。

 何をやっている、すぐそこにまでヤツは迫っているぞ――

 

 ゾンビ達への攻撃を一旦止め、運転席に目をやるとそこには最早肉眼で目視できる程に近づいた地底人のゾンビを見つめ、銃を構える白石ちゃんがいた。

 

「あ、あああ、あ――死、ねっ!!!」

 

 赤池の言葉は全く耳に入らず、仇に出会えた喜びに震える姿がそこにはあった。

 フロントガラスを突き破った銃口が火を吹き、対ゾンビ用の銃弾が地底人のゾンビ目掛けて発射される。

 1発、2発――10発、20発、100発。

 

 大群のゾンビを相手取るために極限まで高められた連射性能は遺憾なく発揮され、僅か数秒の間に百を越える弾丸を眼前の敵へと叩き込んだ。

 

「や…やった! やりました!」

 

 当然その数の弾丸が命中すれば敵の肉体は砕け散り、消滅することは火を見るより明らかであり――

 

 

 爆発の煙が晴れたそこには、()()()()()()()()()()()

 

 

「上、だ!」

 

「GAOOOOO!!!!!」

 

 

 跳躍。

 地底人のそれは人類のそれと次元を異にするものである。

 厚さ500mmの鉄板を軽く蹴破る脚力と、戦闘に身を置く種族であるが故の力を全て伝える最適な動きから繰り出されるそれは、最早“跳ぶ”の次元から“飛ぶ”の域にまで昇華されていた。

 

 遥か上空10m。そのまま重力に従い車ごと踏み潰す構え。

 

 絶体絶命、冥府の一歩手前。

 しかしこれまでの戦場において数々の死の危険に瀕した経験は、赤池の体を無意識に導いた。

 

 荷台の積荷から素早く取り出すは二つの道具。

 一つはレジスタンス技術班謹製、煙玉。

 

 対ゾンビ用に特化されたそれは一時的にゾンビの知覚を完全に封じる。

 これを投げると同時、赤池はもう一つの道具も使用する。

 

 緊急避難装置。

 これまた宇宙人から奪取したそれは、スイッチを押すと半径3mに存在する登録されたメンバーを近くへランダムに転送するという優れもの。

 使用には多量のエネルギーを必要とするため余り使用することを好まれてはいないが、危機に陥った状況から脱するには最適解の一つである。

 

 スイッチを押すと同時、体が浮くような感覚と共に視界が切り替わる。

 

「今の内だ、逃げるぞ!」

 

 直後に響く軽トラックの粉砕される音。

 しかしこれらの道具によって難を逃れた赤池と白石は一時建物の影へ身を潜めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急ぎ建物の影に身を隠す。

 ゾンビ共はマトモな知能なんてのは無いため近づいてきたら音ですぐにわかる。一先ずは安心していいだろう。

 

「――すみません。その、私、()()を見てつい、カッとなっちゃって……」

「今は反省はいい。とりあえずアイツを倒す作戦を立てるぞ」

 

 ゾンビたちからある程度の距離を取って一息つくと、白石ちゃんが先程の行動を謝って来た。

 

 結局のところウチは復讐のための組織だ。個体は違うとはいえ仇が目の前に現れれば後先考えず殺したくもなるだろう。

 白石ちゃんの気持ちもわかる。ただ、戦場では常に冷静でなければならない。高ぶった感情は判断を狂わせるのだ。あくまで復讐は二の次に考えねばならない。

 

 しかしそんな心構えを説くような時間もない。煙玉の効果はすぐに切れ、直にゾンビたちは知覚を取り戻して俺たちの居場所を嗅ぎ付けてしまう。

 

 すっかり落ち着いて謝る白石ちゃんを止めて、敵を倒すための作戦を話し合う。

 

「まずは装備の確認だ。俺は対ゾンビ用のショットガンに転送装置、そして近接用のナイフだな。後もう一個煙玉も持って来た。転送装置は残エネルギー量を見る限り、銃のバッテリーから充電すれば後1回は使えると思う」

「私は同じショットガンにナイフ、それともう一丁実弾入りの拳銃もあります」

「…なるほど。とりあえずアイツを倒すためにはどうしても隙を作んなきゃ駄目なんだが……」

 

 あるだけの道具を見て、作戦を考える。

 一度使った煙玉がどれ程の効果を発揮するかわからない。それ一つで勝てるなんては思わない方が良いだろう。近接戦は論外。片方を犠牲にしたところで瞬殺されて隙にもならない。

 正面戦闘というのも経験が無い訳ではないが、この程度の装備では確実に敗北する。軽トラに載せていた装備があればまだ戦えたかもしれないが、今では地底人ゾンビの足元で粉々だ。

 

 倒すのはかなり難しい。かといって車も無しに倒すことなくこの街から安全に逃げ出せるとは思えない。

 あれ、割と詰んでないかこれ。こうなったら更なる危険を呼ぶ可能性があるが“槍”を使うか…?

 

 これまででもかなりの危機に頭を抱えていると、白石ちゃんが口を開いた。

 

「…あの、私に一つ案があるんですが……」

 

 

 

 

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