彼女が死んでも、物語は続いていく   作:HAL2001

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天使の仮面を盗むには?

 今日は映画「デスアイランド」の顔合わせの日だ。誰が受かっているかは、墨字さんもけいちゃんも知らない。あの日の500人のうち、誰が選ばれたのかは謎だ。個人的には、けいちゃんが迷惑をかけたという人達、それでいて、優しくしてくれたという人達が、受かっていれば嬉しい。ただ、それよりスターズの面々が顔を揃えて、集まるということは、勿論、あの星アキラや主演の「百城千世子」に会うということだ。正直、けいちゃんのやる気は、あの天使を目の前で、見たいというモノが幾分かあったので、どんな感想を持って、帰ってくるかは気になるところだ。

 

 事務所に報告に帰ってきたけいちゃん曰く、あのオーディションで、同じグループだった人達は皆受かっていたらしい。これは、けいちゃんが「暴走」したのが、怪我の功名になったのだと思う。まあ、良かった。ただスターズの人達はとても忙しいので、顔合わせには殆ど来れなかったらしい。しかし唯一「百城千世子」は少し、遅れては来たものの、やってきて、もの凄い存在感だったと言っていた。佇まいや表情、発声どれをとっても凄い人だったそうだ。

 

 カメラの前以外でも、あの天使の姿だったというのは、末恐ろしいモノがあるが、それよりも恐ろしいことをけいちゃんが言い出した。その場で、あの「百城千世子」に、自分の演技を見てもらった旨を伝えられ、凄い映像だった、迫真だとか、どうやってヤってるのか? と尋ねられ、本音を漏らしてしまったらしい。

 

 簡単に言うと「俯瞰」という事を、幽体離脱という言葉を用いて聞いたから、本人からも笑われて、周囲からも笑われて、謝りながら「つい」あの時テレビで見た印象と今の印象がどちらも綺麗だと伝えた後に「どちらのあなたも、顔が見えない、まるで人間じゃないみたい……」と言ってしまったらしい。

 

 その時、「百城千世子」はけいちゃんに「あなたの芝居はちゃんと人間だったよ、私と違って」と切り返してさらに「幽体離脱が何のことかは分らないけど、こっそりアドバイス、私たち『俳優』の使命は、観客を『虜』にすること、素顔晒して、ありのままの自然体を演じることを『人間』と言うのならだったら、私は『人間』じゃなくていい」と微笑みながら、優しい口調で答えてくれたらしい。それが、けいちゃんには天使の「顔」が一瞬だけ、とても怒っているように見えたという。

 

 凄い、恐ろしい体験をしたというか、そんなこと言ったら、降ろされても文句言えないなあと思うけれど、けいちゃんは何処か、他人の最も「本質」的な部分を見抜く才能がある気がする。まあそれは普通、口に出したらいけないような事が、殆どだから誰も言わないんだろうけど……

 

 さて、そんな件を墨字さんと二人で聞いていたら、墨字さんが幽体離脱の解説というか「俯瞰」というものについて、教えると言い出した。

 

 後日、けいちゃんをスタジオのある部分に立たせて、目を瞑らせた。勿論何故そんな事をするのか、墨字さんに尋ねて「なんの稽古なのか? 稽古なら普通は台本を読んだりするものなんじゃない」かと文句を言っている。それに墨字さんが「とにかく、文句を言わず、いいからさっさと答えろよ、何が見える?」と尋ねた。

 

 それに、訳も分からない様子で「何を言っているの? 何も見えるはずないでしょ? 目を瞑っているんだから」とけいちゃんは真面目に答えている。それに墨字さんが「分ってるよ、その状態でもし目が開いていると想像して答えてみろ」と指示した。

 

 それにけいちゃんが「あ、チンピラが見えたわ」と悪ふざけをして、それに「オイ、誰がチンピラだ! ちゃんと想像しろバカ娘!」と答えているが、本質的にはそれで問題がないので、私は冷静に「ちゃんと想像できてるよ」とツッコんだ。

 

 流石に漫才をしてるわけではないから、墨字さんはこう続けた「まあ、その要領で答えろ、お前の背後には何が見える?」と問いかけると、少し小首を傾げながら「えーっと、資料をの並んだらラックに、デスクとチェア……あ、そうそう、何故かマトリョーシカも並んでた、あれどこで売ってるの?」 と続けた。

 

 それに墨字さんはニヤリとして、「そうだ、今、お前の目玉は、お前の背中に付いている、次は、その目玉を天井に移動させてみろ、何が見える?」と問いかけた。

 

 けいちゃんはパッと、目を開け、視線を上に向けた。表情から察するに、何かを掴んだようだ。

 

 その反応を見て「よし、この視点が『俯瞰』だ。まあ幽体離脱はものの例えだ、人前で口にする奴らは笑えるだろうよ、だが人間は皆この視点を大なり小なり持って生きている『私は、彼にどう見られているんだろう』『この服似合ってるかな』とかいう風にな」と言い、さらに続けた。

 

「その視点が、お前にはほぼ完全に欠けているんだ、まあ此処までくれば、一周回って才能だがな。お前の視点は一箇所しかない、その顔に着いた両目だけだ。客観的に自分をを俯瞰できないお前が、自分をコントロールできないのは当たり前だわな、当然、千世子は違う、奴は、自分の目玉を使ってない、捨てたも同然だ、その代わりに自分を俯瞰する複数の目玉を選んだ、客観的な美しさだけを追い求めた、自己の視点を排除した、そうだな、お前の言葉を借りるなら『綺麗なのに、顔が視えない』だ。まあ、プロフェッショナルだな」と言ってのけた。

 

「アイツの行動原理は『作品』のため、ひいては『大衆』のため、そのために自分自身を、完全に『商品』として割り切って生きてきた、まだガキのくせにな、そりゃあお前みたいな野生児と共演させられたら、怒りたくもなるかもな」墨字さんは諭すように、事実を述べた。

 

 それの事実にけいちゃんは、少し戸惑いながら「黒山さん、前に『天使』から技術を盗めって言ったよね……千代子さんも私にあれは『芝居』じゃないって……私も千世子さんみたいにその『商品』になればいいの」と少し怯えながら聞いた。

 

 墨字さんは「なりたいのか?」と問いかける。

 

 それにけいちゃんはハッキリと「私は、もっと……知らない『自分』を演じたい、もっと自由に……」と主張した。

 

 その答えに墨字さんは「でもそれじゃあ、共演者を泣かせ、作品を壊しかねない、いつもの暴走だ、夜凪このままいけば、多分そうなる、分ってんだろ、じゃあどうする?」と言うと即座に「私は、私のまま『天使』みたいになる」とけいちゃんは断言した。

 

 その言葉を聞いて「だから盗めつってんだ、全部吸収して、取り込んで来い、夜凪」と墨字さんはそう言った後、けいちゃんは元気よく頷いた。

 

 私は「衣装合わせ」が済んだら、すぐ泊まり込みでクランクイン……これは一気に忙しくなるな、けいちゃん……って、あの子達はどうなるんだろう? と当たり前の疑問が浮かんだ。結局、あの子達は私が、面倒を見ることになった。仕事としては、流石に通常業務外ではあるが、スタジオに所属して、けいちゃんの面倒を見る以上、コレは仕方ない。

 

 けいちゃんの所の双子の子供達を預かる時に、流石に、この仕事で得られるギャランティの内から生活費に当たる部分は貰ったからコレも、今日から仕事だ、ちゃんと「責任」が有る。

 

 けいちゃんが、映画の撮影で約一か月、いなくなるというのは、子供達にはやはり悲しいようで、弟のルイくんの方は割と別れ際に割とぐずって、けいちゃんも少し泣いていた。そりゃあ、この年頃の子には辛いだろう。私が、しっかりしなくては、だって墨字さんは当てにならない。こんな常識からかなり外れた人が、当てになるわけがない、こんな大人を見本にさせてはいけない。

 

 そうこの時、私は強い使命感から、けいちゃんが帰ってくるまで、この子達を守らなくては、 とそう思わせたのだが、 結局ずるずるとスタジオ「大黒天」が終わる日まで、私があの子達の面倒を見ることになった。大変だったけれど、楽しかった。良い思い出だ。

 

 

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