けいちゃんが映画の撮影に出て行ってからスタジオ「大黒天」は騒がしくなった。それは映像関係の仕事の量が、増えたとかじゃなくて、夜凪家の双子の子供達、ルイくんとレイちゃんの面倒を見るために、この小さな事務所としては、忙しくというか、騒がしくなったという感じだ。
しかし、スタジオ「大黒天」には最低でも彼らが暮らせるだけの物理的な居住スペースは、割とあったので、着替えや日用品なんかも、とりあえずは持って来て、置けるだけのスペースも用意した。だから場所的にはあまり問題はなかった。もちろん学校の送り迎えや食事のお世話なんかは、どうしても発生するから、私個人としては時間的拘束はまあ増えてしまった。ただ、墨字さんの仕事の世話をするよりは、幾分か、精神的安定感は違う。勿論、此方の方が安心して行える。
まあこのスタジオは結構立地が良くて、私自身も仕事場に寝泊まりすることが、とても多かったので、けいちゃんが撮影で、出かけてる間は結局、家に帰った事がなかった。それで、特には困りはしないのであまり問題がない。ああ、仕事中心の日々だと実感してしまう。本当に、今借りている、アパートは物置になっている。恐らく、今月のガスの請求額は基本料金だけな気がする。
それはある意味、この事務所の真下にあるの銭湯のお陰で、割と苦労なく、暮らせてしまえているのが原因だ。また事務所にはある程度の家電類の設備もあるので、割と手の込んでいない料理なら作れてしまうのも暮せて行ける要因だった。
これによってか、子供達の方は高い順応性を見せてくれた。夜凪家の子供達はホームシックのような事はあまりなかった印象で、かなり私に懐いてくれた。これがもし違うナイーブな気質の子供だったら、本当に大変だったなとは思う。この子達は今いる状況というのを、かなりしっかりと認識できていて、この年齢にしては本当によく教育が行き届いていた。
実際に自分達でも、ご飯を食べる際に、ちゃんと挨拶が出来ていたり、食べた後には自分の食器は自分で洗うなど、本当に教育が行き届いているのが実感できる。更に言えば自分の事は自分でするという大人でもなかなか出来ない行動をこの年齢で、ある程度出来ているのは単純に凄い。もちろん、年相応な面も多いのだけれど、かなり精神的に大人だと言える。
あと意外な事に墨字さんは案外面倒見が良いことにも気づいた。まあ単純に遊び相手になってるだけではあるのだけれど、 子供嫌いではないし、子供と適度に接する距離感をよく理解してる。正直に言えば、当てにはしていなかったが、私がいない時間や食事を作ってる時間に、目を離していても、その間に危ない真似をさせないような、配慮はきちんとできる分別はあるようだ。元教職の経験ゆえだろうか?
また、どうやら食文化圏が結構違うようで、私の作るものは比較的美味しいと言って食べてくれる。栄養バランスを考えての、一般的レベルの物はまあ作れる程度なので、普通だと思うのだけれど、夜凪家の食事というのはかなり変わっているようで、聞いてると、どうやらけいちゃん自体は料理は上手に作れるそうだが、食材がその腕前に伴っていないらしく、いかに安く作れるか? をメインに、子供が食べやすいものを……というのが在るというのが、間接的にだが伝わってくる。本当に苦労してるんだなぁ……と自分の子供時代も思い出しながら、そう感じてしまった。
それと銭湯に行く時は基本的に墨字さんが、弟のルイくんの面倒見てくれるから、案外ちゃんとしてるなあと思っていたのだけど、墨字さん曰く、週5で行っていたのが、週7になっただけだ。特に問題がないとの事らしい。前に仕事場の近くに、銭湯があるのが「QOL」を上昇させるとか言っていたけど、本当にお風呂が好きなのだと、再度認識させられた。でも、少しはエライ……
そうして、あまり問題がない状態で過ごしていった、ある日、テレビで「デスアイランド」公開に関しての予告宣伝のようなものが流れた。 基本的には主演である「百城千代子」ちゃんをメインにした内容なのだけど、その背景にけいちゃんが映っているらしい。子供たちがものすごく反応している。私はその反応を受けて、けいちゃんを探そうとするが、なかなか見当たらない。
そうしてると子供たちがビシッと、画面の端の方を指差す。確かにけいちゃんだ。いや、こんなピントも合っていないのに、よく見つけたものだ。
そうして口々に「お姉ちゃんが一番かっこいい」だとか「うん、一番美人さんね」とか言っている。墨字さんも「何やってんだよ、録画してねえじゃねえか」と文句なのか文句じゃないのかよく分らないことを言っているが、当然そのような事態には対処してある。すでに 「デスアイランド」というキーワードで、テレビの録画機器に自動録画するように設定しておいた。実際に、現在の映っているこの画面もきっちり録画済みだ。故にそのような心配は無用だ。
この後、当然のようにこの映像は、スタジオのテレビで「30回以上」再生されることになる。
途中で、夏休みに入った事も相まって、 流石に夏休みの間は大変になるかもなぁとぼんやり考えていたが、それほど大変ではなかった。さすが夜凪さんところの子供達と言うか、ウチにあるプロジェクターで、映画を見せていれば、本当に熱心に観てくれる。
子供ながら、その審美眼は流石という感じだ。誰が、どのような演技をしていたかだとか、このストーリーは少し無理があるかだとか、このカメラワークがどうだとか、 あの伏線の張り方はまあまあだとか、なんかシネフィルのような事を簡単に言い出すからちょっと怖い。いや、まあ私も全く他人の事は言えないのだが……
それになかなか子供達の趣味も面白く、レイちゃんの趣味が結構大人っぽいのも、ルイくんのウルトラ仮面に対する考え方もなかなかユニークだ。子供がどのような風に物事を見ているか? というのを知れるのは、かなり面白かったりする。
ただ、自分のことは自分でしているというのが本当に良く出来すぎていて、この年齢にしては本当に教育が行き届いているような気がする。いや、本当に行き届き過ぎてる。
途中から、どちらが面倒を見ているのかわからなくなった。スタジオの掃除を毎日のようにこなすようにしたり、私が担当している部分の掃除に関して口出しをしてきたり、もの凄くしっかりしている。いや流石に、毎日掃除することはないと思うのだけれど、という事をを私も墨字さんも思っていたらしく、なんとか伝えようとするが、ルイくんが「お掃除戦隊双子レンジャーなので」と言って軽くあしらわれてしまう。
ようやく帰ってきたけいちゃんに、出会えた時は本当に助かったと思った。この子達、日に日に、私たちに厳しくなっていく。いやこれが悪さをして、手に終えないだとか、そういうことならまだいいのだけれど、掃除や洗濯や家事なんかについて、至極真っ当な事で、言い負かされてしまうので、大人としてもはや何とも言えない状況になってしまう。夜凪家、恐るべし……
ちなみにけいちゃんが持って帰ってきた、お土産は凄まじく痛い T シャツばっかりだった。さすがに、これを着る勇気はない。なんなんだ、その「I♡RYUGO」とかいう奴……
ただ、これらを後に普通に着こなしている、けいちゃんは流石「女優」さん、何を着ても似合ってしまう。悔しいが、かわいい。