彼女が死んでも、物語は続いていく   作:HAL2001

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カーテンコールのその後に

 劇が終わったから、優しいカーテンコールが始まった。たくさんのお客さんが拍手していて、けいちゃんが動揺してるのが見て取れる。ああ、ようやく演技が終わったんだと思うと様々な感情が湧き出してきて、ボロボロと泣き出してしまった。けいちゃんがもう本当に大きくなって、頑張ったんだと思うと、自分で自分の親心が怖いと感じるほど泣けてきた。

 

「ゆきちゃん泣き方怖いよ……」とレイちゃんに言われるほどだ。

 

 ただ、その舞台が終わった直ぐ後に悲報が流れた。巌さんが亡くなった。自らが脚本を手掛けた舞台「銀河鉄道の夜」その公開、初日に膵臓癌で亡くなった。これは、実はごく一部の人間はあらかじめ持病があった事は伝わっていて、けいちゃんは知っていたらしい。

 

 また、墨字さんもけいちゃん経由で知っていたとのことだ。私に話せる内容じゃないのは分かるけれど、よくそんな状況で頑張っていたのだと思うと、もう少し頼ってほしかった気がする。

 

 舞台は巌さんを欠けた状態でも、予定通り続けられる事が発表された。そんな中で、巌裕次郎さんの葬儀、告別式が開かれた。3000人を超える参列者が見守るなかで、演出家「巌裕次郎」の出棺が行われた。そこには著名人が大勢集まっていて、日本のアーティストがほとんど集結しているみたいだった。

 

 私たちも一応関係者なので、礼服に身を包んで訪れたが、けいちゃんとは途中から合流する事になった。劇団の皆との話し合いがあるのだろう。そうこうしてるとルイくんが「あ、見て見て!」と言って指を指した。そこにはウルトラ仮面がいた。星アキラくんだ。たくさんの取材陣から、インタビューを受けている。ただ内容が酷かった。

 

「お母様の星アリサさんと続いて、親子二代での岩尾さんの舞台に立ったわけですが、当時のお母さんの評価に対して、アキラさんは今回の出演に関してもコネだという声が上がっています。そういった声が厳さんの舞台に与える影響についてどう思いますか?」と馬鹿なインタビュアーが、場所と時間をわきまえない発言をしている。

 

 ただ星アキラくんは「どうぞ、僕たちの芝居を見に来て下さい、そこで皆さんの判断に任せたいです」とだけ笑顔で言ってのけた。

 

 そうして、劇団の皆の方へ行ってしまった。周囲の雰囲気は、なんとも言えない様子になって、私はそのインタビュアーのしかめ面が拝めて、ちょっと嬉しかった。

 

 その後しばらく待って、なんだか変な様子のけいちゃんと墨字さんと合流した。後で何が中であったのか? 墨字さんから聞いた話では、プロデューサーの「天知心一」という人間といざこざがあったらしい。どうもけいちゃんの経歴を材料にしたスキャンダル記事を掲載しようとしたらしい。墨字さん曰く「悲劇のヒロイン」というタイトルで雑誌のネタにしようとしたとのことだ。

 

 だがけいちゃんが、それを突っぱねたそうだ。周囲に強引に自分の現状を確認させて、ペンを取り出してその記事に直接修正を書き入れたそうだ。私は不幸じゃないし、友達いっぱいいるし、かわいい弟妹はいるし、私服はオシャレだとかなんとか、その様子を見て、その記事は載せない事になったとの事だ。なんか本当にけいちゃんが強くなっていったのが感じ取れる。ただ、墨字さんがいうには「天知心一」 という人物は別に諦めた訳でなく、ただ今回は引いただけで、けいちゃんになんらかのアクションは仕掛けて来るという。売り出すには良い素材だと思われたらしい。

 

 結局その後、舞台銀河鉄道の夜はトラブルもなく全日程を終えた。舞台は全日満員となりその評価も高く女優「夜凪景」の認知度は著しく上がり、舞台やテレビなどのオファーが毎日来るようになった。私はその対応に追われて、少しのノイローゼ気味だ。本当にスタジオ「大黒天」の電話をずっと鳴っている。

 

 墨字さんは簡単に「もう電話線を抜いちまえよ、どうせ全部断るんだ」と言っている。「はぁ、もったいない、せっかくのチャンスなのに……」と私は愚痴を漏らすが、墨字さんの言い分も分かる。

 

「仕方ねぇだろ、夜凪には普通の女子校生に戻ってもらうよ」そう墨字さんは言った。

 

 

 このやりとりの一日前、スタジオ「大黒天」に久々に顔を出したけいちゃんに墨字さんが「仕事? ねえよそんなの」と投げやりに答えた。けいちゃんは驚いた風に「…………え? だって雪ちゃんがいっぱい来てるって、舞台が終わったから……」と戸惑いが隠せていない。

 

 私は「それが、けいちゃん……」と言いにくい事をなんとか言おうとした時、墨字さんが割って入って「オファーは全部断ったよ、お前にもう芝居はさせらんねぇ……」と代わりに言ってくれた。

 

 けいちゃんは何が何だか分からない様子で「何言って……」と狼狽えている。墨字さんはそんな相手に向かって「カムパネルラを演じて一か月、公演を終えて一週間、揺らぎに気づいてんだろ? 自分の中の違和感に……」と核心を付いた事を言った。

 

「……な、 何のこと」と一応、その動揺を隠そうとしているがあまり意味はない。

 

「それを抜きにしてもだ、お前は成長した。突出した才能はハイエナを呼ぶ、この先お前にとっての壁は芝居だけとは限らない」と冷静に墨字さんが諭しても「そんなの関係ない! 私は役者なの、芝居をしてないと私は……」と初めは怒りを露わにしたが、それとは別に相手の言い分も理解をしようとしているのも伝わってくる。

 

「自分の定義を増やす、それが芝居を続ける条件だ」と墨字さんが唐突に言った。

 

「は?」と言われた意味の分らないとぼけた顔のけいちゃんに「課題だよ、お前をより強く、より幅広くするための」と墨字さんが言った。

 

「でも、自分の定義を増やすって意味が良く分からない……」と言葉の意味合いに関しての説明を求めると「じゃあ、わかりやすくこうする。学校で役者じゃねぇ『普通の友達』を作って来い、それまでは役者稼業は休止だ」 と墨字さんは割と不可思議な課題を出した。

 

 この一連の理屈そのものは何となく理解できる。けいちゃんは完全に、カムパネルラを演じきった。ただ、それはメソッド演技的に、死者の存在を演じてしまったということで、明らかに、日常から乖離した空間に、感情を置いてけぼりにしてしまっているということだと思う。実際に、けいちゃんの様子はどこか朧気で、精神的に不安定な様子はある。

 

 ここで、また役者として精神的に不安定な役でも演じてしまえば、何処か大事な感情に大きな傷を残しかねないのいう判断だろう。

 

 ただ、墨字さんのいう学校で『普通の友達』を作るというのは何なんだろうか? これまた定義が難しいが、この問題の前提にけいちゃんに学校に友達がいないというのがあるのが、なんともまあ物悲しい。けいちゃんの性格的に、いないというより家庭と生活の事を考えて、遊ぶ友達を作らなかったのだと思うと割と最近、涙腺が故障気味な身からするとかなりくる物がある。本当に友達が出来る事を願っている。

 

 

 

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