彼女が死んでも、物語は続いていく   作:HAL2001

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「普通」の文化祭

 そうして、けいちゃんの大変な学校生活が始まった。正直、結構苦戦するだろうなぁと思う。今のけいちゃんは半分有名人で、あの性格だ。そう簡単に『普通の友達』を手に入れるのは難しい気がする。面と向かって、友達になろうとか言えば成れるものだとか思ってそうで、ちょっと不安。あと、適当に連絡先だけ聞かれて、簡単に渡してしまいそうな気さえする。ああ、大丈夫かなぁ……とそんな事を思っていたある日、突然けいちゃんはこんなことを言い出した。

 

 撮影用機材が借りたいということだ。どうして、そんな真似に出るのか、残念ながら分ってきたのが悲しいのだけれど、とりあえず、今は使っていない備品は貸すことにした。

 

 私はとりあえず撮影用の機材の使い方、初歩的なピント調整方法やシャッタースピード変更、絞り方に、録画ボタンの使い方その他もろもろを簡単には伝えた。

 

「うん、覚えたわ、ゆきちゃん色々教えてくれてありがとう!」とけいちゃんは大荷物を持ったまま元気よく答えた。本当に撮影用機材一式を持って、学校に行くらしい。

 

「本当に、それで学校に行くの……大丈夫?」と私が聞くと「うん、平気!」とけいちゃんは多分体力的な意味合いで答えた。いや、どっちかっていうと学校での常識的意味合いで聞いてるんだけど……

 

 墨字さんがそんな様子を傍から見ていて「撮影用機材一式貸してくれって、映画でも取るつもりかよ」と墨字さんが冗談の口調で言ったら「そそそ、そんなわけないでしょ、学校の放送係? になっただけ! 映画部のみんなで、一緒に映画を撮ってお芝居も友達も出来て、一石二鳥とか持ってないから!!」とけいちゃんは自分の計画をほぼ全て言ってしまった。

 

 とりあえず、まあ送り出すことにはなったけれど、墨字さんに「……いいんですか、学校でお芝居するつもりですよ……けいちゃん」と私が言うと「まあ、止めろって止めるやつは役所じゃねえしな……」と諦観を持って答えた。

 

 私はやや衝動的に「そんな無責任な! 今のけいちゃんにお芝居なんてさせたら!」と最悪の事を考えてつい感情的に言ってしまった。

 

「……学校の友達と映画作り……それも有りか」とボソッと墨字さんが呟いたので、ちょっと驚いてしまった。まあ、少し冷静になれば、墨字さんの言い分も分る。きっと撮影機材を貸さなかったら、別の方法で、例えばスマホでもなんでも使って、実行するだろうし、止めようがない。むしろ、今、最低でも学校の誰かと撮影しているという事実は友人を作るという点に関しては確かに前に進んでいる。

 

 そして何日かたったある日、テレビでは「デスアイランド」の特報がニュースになっていた。「来春公開の本作、映画オリジナルのキャラクターの『ケイコ』に扮する少女『夜凪景』ちゃんについてはご存知ですか? 今日は新人女優『夜凪景』ちゃんについて特集を……」とけいちゅんのニュースが流れている。これは一つの媒体だけじゃない、ネットでもSNSでもたったひと月でこんなに話題になってる。様々な記事が話題になっているのに今「活動休止中」にちょっと悔しい。

 

「……あの野郎」と墨字さんはボソッと言った。この意味を聞いたらあの「天知心一」というプロデューサーが、何か裏で工作をしていたようだった。

 

 そのせいかもしれないが、学園祭でけいちゃんが自分たちで撮った映画を流すという情報が、SNSで流れてきた。私のような関係者のエゴサーチに引っかかるような物ではなく、普通に数万単位のリツイートがされた内容だ。結局、学園祭では「夜凪景」の名前があまりにも広がりすぎたせいで、大勢の一般客が想定以上に訪れ、学校側の判断で、映画の放映は差し止めになったとのことだ。

 

 ただそんな中、夜の時間帯になってから無断で屋上から、プロジェクターを使って学校の壁面に、無理やり映し出して映画を上映したとのことだ。当然、大騒ぎになって、けいちゃん含め、映画部の四人は停学処分になった。三日間の停学だからまあ軽いものではあるんだけれど……

 

 事務所にて「はぁ~ついにお姉ちゃん不良になってしまった」とレイちゃんが言い「不良かぁ、お姉ちゃんカッチョイイな……」とルイくんが感想を漏らしている。けいちゃんは弟妹たちのこの反応に、かなり不満そうな表情をしている。

 

「で、でも、ほら停学なんて、皆やってるし、普通よ、普通」とけいちゃんがなんとか取り繕おうとしている。それに私は「普通じゃないよ、誰だよ皆って」と私が突っ込んでいると「リョーマは停学三回目だって、ほら普通でしょ」と言うので「いやいや」と言うと墨字さんが「そういや俺も、昔停学くらったわ、普通に」と抜かした。

 

「ほら」とけいちゃんは指さしているが「ほらって、この人の普通を鵜呑みにしちゃダメだからね」と私がたしなめると「え? どうして? だって『普通』っていっぱいあるんでしょ?」とそう言ってきた。ああ、なんだ結局墨字さんの思惑通りだ。ちゃんと大事な物を掴んで帰ってきた。

 

 墨字さんは語りかけるように、確かめるように「夜凪、役者は楽しいことばっかりじゃないよな……」と言いけいちゃんは何が聞きたいのか分らないという表情をして、とりあえず頷いた。

 

「キャリア四十年目の名優すら未だ、天職かどうかわからないと抜かす、そういう世界だ」墨字さんは諭すように言い「もう役者だけがお前の定義じゃない、お前はどんな『普通』だって選んでいい……それでも本当に役者を」と言いかけた時「うん、選ぶわ! 早く仕事をさせて」とけいちゃんは言葉を遮って急かす様に答えた。さすがに墨字さんも請求に返答するこの答えには少し黙った。

 

「黒山さんが何を心配してくれるのかは何となく分かるけど、進路調査の第一志望、私は私の意志で役者って書いたんだから」とけいちゅんは自らの意思をしっかりと示した。

 

 その答えに納得したのか墨字さんは「柊、あれ受けるぞ」と最近、けいちゃんではなく墨字さん当てに来ていた仕事の案件をけいちゃんを主演でやる様だ。

 

「久しぶりにお前を撮らせよ、夜凪、一発かましてやろう」そう墨字さんが言ってのけた。ああ、また大変なことになるなぁと思ったけれど、ようやく本気で再開すると思うとちょっと嬉しい気もする。

 

 その後少しネットを調査したら、停学処分になった時のけいちゃんの映画が少し映像として残っていた。 学園祭に来ていた誰かが、学校の壁面に映してる映像をスマートフォンかなにかで、撮った映像が流れていた。おそらくあまり良い機材じゃないし、夜間だというのと途中からしか映像が入っていないのと、ガヤガヤとした状況で撮ってるから音質がかなり悪い。

 

 ふと、これのマスターデータはどこにあるんだろうと思った。けいちゃんに聞くと、映画を作ることに夢中で、誰が管理しているかなんてそんなことは考えていなかったらしかった。当然、ネット上で公開するかどうかなんて想像すらしていない。さらに学校側に許諾を得ていないから、できないんじゃないかなとも言っていた。

 

 そんな筈はない、ここから先は映像作家として後始末しないと気が済まない。まずこの録画データは完全に価値がある。学校側の許諾や問題に関しても、どのような契約基準で撮影していたか? 何て言うのはさすがに、ちゃんとしたプロダクションが裏に動いていれば、本人達の撮影がした情報なら、権利はこちら側にある筈だ。

 

 スタジオ大黒天のチャンネルでYouTube等の動画サイトにアップロードするかどうか別にして、データそのものは欲しい。できればちゃんとしたマスターデータは、けいちゃんの友達の物でいいから、その人のチャンネルでいいから、ちゃんとアップロードしてほしい。

 

 せっかくのこういうデータを無駄にしてしまっては意味がない。宣伝価値とかそういうことではなくて、せっかくの作品を一生、他人には見れない形にしてしまうのは一人のクリエイターとして納得ができない。実際契約の関係で、そうなってしまっている作品の多さを考えると、さっさと情報が欲しい。

 

 結局、けいちゃんの友達で、今回の騒動の火付け役となった映画部の吉岡くんという存在をけいちゃんから聞き出して連絡を取った。電話口での彼は、初めもの凄く緊張していて、どうやら事務所の人から許諾を取らないで、撮影したことを怒られると思っていたらしい。けいちゃんの事務所の人間だと分かるとものすごく謝られた。まあ、実際に停学処分になっているから、叱られると考えても仕方ないだろう。

 

 ただ、その点についての誤解をなんとか解いて、録画データを見せてくれないか? という内容だと分ると、即座に渡してくれる約束をしてくれた。これも怯えながらだったから、ちょっと申し訳なくすら感じた。ただ、今のネット上で画質の悪くて音質も悪いものが流れているから、せっかくの作品をアップロードしないか? と提案した時は、少し黙って、やってもいいんですか? と言った。彼はどうやら、けいちゃんの事を考えて、自分たちの撮った内容を世に出すのは、権利的に駄目なのではないかと考えていたらしい。

 

 もちろん、発表してもらわないといけない。その為に必要なら学校に問い合わせもすると答えた。電話口でも喜んでいるのが分かる。

 

 その後は大して問題ではなかった。学校側も自分たちにインターネット上に公開させない権利を持っていない事は理解してくれたし、いまさら規制しても仕方ないというのも穏便に済ませれた。

 

 その報告を吉岡くんに伝えたら、嬉々として即座にYouTubeのチャンネルを立ち上げて、「杉並北高校映画研究部」という名前で、一本の動画をアップロードした。

 

 タイトルは『隣の席の君』

 

 拙いけれど、未熟だけれど、稚拙だけれど、ちゃんと伝えたいメッセージはキチンと伝わってくる一本だ。ああ、君は本当に彼女の事が……

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