彼女が死んでも、物語は続いていく   作:HAL2001

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偶然の霹靂

 その情報が入ってきたときには大々的にニュースになった後だった。結論から言うと「王賀美陸」が早々に帰国しようというのだ。勿論短期的な急用などではなく、この舞台そのものを下りるために、去ろうとしていたらしい。理由としてはあくまで彼は「新宿でのMV」あの映像を見て出演を決めたらしく、それが叶わない、演出家が「黒山墨字」でないなら、出ないというスタンスを取ったらしい。

 

 どのように「天知心一」が説得したのかは知らないが、それだけで充分に「王賀美陸」にとっては演ずるに値しないのだろう。

 

 一部ニュースではすでに、空港に押しかけて、生中継で「王賀美陸」の一挙手一投足をカメラで捉えようと必死だ。それに伴って周囲からは何らかのコメントを引き出そうと、様々な内容が飛び交っている。やれ、何度目のドタキャンだの、帰国の理由はスターズとの確執だの、舞台はどうなるんですか等の様々なインタビューともいえないヤジの嵐だ。聞きたい気持ちは分かるが、そんな言葉は王賀美さんのこの言葉で吹き飛んだ。

 

「うるせえなぁ、どうしてお前らにそんなこと教えないとにならねーんだよ!」

 

 まさに、傍若無人である。しかし、それこそが「王賀美陸」の魅力でもあるし、圧倒的存在感の力強さがこんな行為を許している元凶にもなっている。

 

 そして本当に、ただ目に付いたという理由で「あ、そういや忘れてたなぁ、天知ちょっと来い」と天知さんを呼び寄せると「こいつの名前は『天知心一』いわゆる悪徳プロデューサーと言う奴だ、各社気をつけろ、以上だ、じゃあなぁ」と今の怒りをぶつけるようにカメラに向かって言い放った。これで、恐らく天知さんはこの業界にはいられなくなるだろう。

 

 そこに竹光くんという、たしかサイド「甲」の猪八戒役の子が現れた。少し離れた地点だからテレビ越しには何を言っているのかは分らないが、何を言っているのかは想像が付く。せっかくのチャンスを、こんな大舞台を、誰だって普通は逃したいとは思っていないはずだ。思いの丈をぶちまけているんだろう。

 

 けれど、やはり王賀美さんの決意は変わらないのだろう。先ほどまでの怒気を荒げた口調から優しい口調というか聞き取れない音量で、何かを竹光くんに喋っている。それで、竹光くんは納得してはいないようだけれど、表情から何か大事な事を言っているようだった。

 

 竹光くんはそれでも食いついて、何とか引き止めようとしているように見える。けれどもう言葉はまるで届いていない。

 

 ただそこに「スターズの天使」が現れた。突然の彼女の登場に顔を明らかに嫌そうにそちらに向けるが、とても優し気に「私と遊んでよ、王賀美さん」といつものカメラを意識した口調と声量でその場の空気を持って行った。ああ、流石「百城千世子」だ。

 

 その後の「桃尻」といういつもの王賀美さんの冗談を軽く訂正しながらいなして「私のこと、名前から覚え直させてあげる、きっと楽しいよ」と彼女はカメラの前ということを完全に意識しながら、誘惑して見せた。それでも、なお立ち去ろうとしている所に、今度は「明神阿良也」まで現れて、止めに入った。

 

 彼は天性のカリスマ性と迫力で「気に入らないなぁ、俺もこの女も化け続けている、あんたの本当の遊び相手は『夜凪』じゃない、俺たちだ」とばっちりマイクに聞こえる大きさの声量で言ってのけた。

 

 もはや、ここまで来るとヤラセにしか見えない光景だ。そして駄目押しに、彼女がやってきた。もちろん女優「夜凪景」だ。

 

 周囲の騒めきと驚愕と疑いの眼差しは、今回の舞台の主演四人のオールスターにただ注がれていた。

 

 流石に王賀美さんも「……今更、何しに来た、新宿ガール」と尋ねざるを得ないようでそう聞くと「読み合わせの続きを」とけいちゃんは言った。

 

「……期待できるのか?」と王賀美さんが聞くと、けいちゃんは手を前にしてかざして、芝居に没入し始めた。

 

「ああ、腹が立つ、腹が立つ、あの男は毎年、毎年、妾のところへ!」

 

 その迫力は周りに誰がいるだとか、カメラに撮られているだとか、そんな些末な事は感じさせない、怒りに満ち満ちた独白だ。

 

「私というものがありながら、ああ、この怒り、どうしてくれよう」

 

 そう彼女が不気味に微笑んだ瞬間、雷が落ち、雷鳴が聞こえ、辺りは暗闇に変わった。勿論、ただの偶然の落雷だ。ただ、その光景を見ている誰もが彼女の仕業に思えるほどの迫力が其処にはあった。

 

「おい、俺だ、孫悟空だ! 扉を開けてくれ!」王賀美さんが遂に応えた、周囲は大きく騒めいている。そこから、舞台の触りの部分、台本の読み合わせが始まった。ところどころ、王賀美さんが脚本を覚えきっていないのか、アドリブでこなしているが、とてつもない迫力で芝居が繰り広げられていく。

 

 そこには確かに怒りに満ちた人智を越えた女性がいて、それを破天荒な存在感を放つ男性がいて、お互いが常軌を逸した「読み合わせ」という表現のぶつかり合いを行っていた。

 

 もはや、この芝居を見せる為にこれまでの全ては宣伝のためのヤラセだったんじゃないかというほどにあまりによく出来上がっているが、落雷なんか演出で落とせるわけない。演出で空港を停電にできるわけない。全て真実だと考えると本当に恐ろしい物がある。

 

 この映像はすぐさまニュースになって、放映されてこの舞台の宣伝に大きく影響を与えることになった。と同時にサイド「甲」の圧倒的芝居の完成度も知れ渡ることになった。

 

 この事件は正直、舞台を運営する側からすると結果としてはなんとか丸く収まったが、サイド「乙」の人間として考えると、初速のアドバンテージは完全に取られた印象だ。けいちゃんが有利になるのはいつもなら嬉しいけど、今回ばかりは違う。

 

 ちなみに後に天知さんから、今回の顛末を関係者一同に伝えられた。なんと、ニュースになった映像の殆どが事実で、あの場でけいちゃんが登場しないと、この計画自体なくなる寸前だったらしい。唯一の報道上の間違いは自分は「悪徳」なプロデューサーではないという点に関してのみだという主張には呆れかえった。

 

 これは殆ど冗談の様なものだが、たちが悪すぎる。まあ、元々こういう人だから「王賀美陸」をキャスティングしようなんて考えに至ったんだろう。本当に信用「は」してはいけない人物だと確信する。だから、あくまでお互いに利用価値がある間のみ、協力をしよう。

 

 ただ、こうなることはある程度分っていたのなら、何故墨字さんは「スターズ」から直接指名を受けたのか? もしかするとスターズの運営「星アリサ」と「桃城千世子」のこの舞台に対する考え方は違うのかもしれない。

 

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