彼女が死んでも、物語は続いていく   作:HAL2001

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悪人になる覚悟

 目の前で人が死んだ、それも拳銃自殺で……そんな状況をただ撮影している。体に染み付いた技能は反射的に倒れた「死体」を出来るだけ綺麗なアングルに映るように無意識的に撮り続けていた。

 

 そして、倒れてから一分以上経ってようやくカメラを止めた。それで真っ先にやったことはコイツの手の中にある「拳銃」のシリンダーの中身を確認をすることだった。確かに残り「五発」きっちり込められていた。本当に、コイツは賭けでも何でもなく、確実に自殺してみせたということだ。それじゃあ、あの無駄な駆け引きは何だったのか……ただ自分が自殺するところを俺に撮影させただけじゃないか……

 

 この時、俺は完全にこの後の行動に何をするか揺れていた。純粋な小市民として、即座に警察に報告し、そのままこの自殺をそのまま明るみにするか……それとも今目の前にある「拳銃」を持って逃げるかだ。

 

 なんで後者の選択肢なんかが、挙がったかというと、この現在の状況の構図が、コイツの作品「マクガフィン」の中の主人公が「拳銃」を手に入れた時と明らかに類似しているからだ。あの作品では、悪友が酔っ払らって自身の悪運の良さを証明するために行った行動にとても似ている。まあ、あちらではオートマチック拳銃だったが、確率的には同じような物だ。確かそのシーンも何かで撮影はされていた筈だ。確か、部屋の監視カメラだか何だっただが……

 

 

 人は一生で一度しか死なない、そんな希少な、絶好のタイミングの被写体が、目の前で確かに俺に撮られ、死んでいった。これがコイツの表現したい「ラスト」だった事は嫌々だが、理解せざるを得ない。これはメッセージでしかない。

 

 俺はあの作品を撮ろうとしている。故に自分自身が「拳銃」を手に入れられたら、俺があの作品の主人公のポジションとしての役割を疑似的に与えられたということになる。そしていま、手元には最高の「切り札」が手に入ってしまった。故に、やるべきことは残念ながら馬鹿な方の選択だ。俺は、その場で「拳銃」を持ち逃げを決意した。

 

 こんな重要なピースは残念ながら存在しない。作家生命を文字通り賭けて、あの野郎が俺に与えたものだ。こんな物本当は欲しくないと強がりを言ってしまいたいが、それでも撮ってしまった以上、やるしかない、あの死を無駄に出来ないと思ってしまう。ちなみに、後方に投げられた模造品も念の為、確保しておいた。書類は持って帰っても意味がないだろうし、この後の事を考えるとこのままにした方が良いだろう。

 

 

 ただ、頭がまるで冷静にならず、銭湯にも入っていない。別に何処か返り血を浴びているとかではないが、これからどうしようか? そう思った時に非情さというか、最も頼るべきではない相手という存在が頭に浮かぶ。ただ、この状況を唯一正しく理解できるのはアイツだけだろう。

 

 俺は「天知心一」という人の皮を被った悪魔に助けを借りた。携帯はたった三コールで繋がり、俺は緊張と動悸の激しい口調で、捲し立てながら現状を説明した。

 

 アイツは、即座にこの状況を一飲みし「成る程、とりあえず、選択肢は二択です。このまま警察に行くか、本当に『全て』を前倒しにして強行するかです……私を頼ったということは後者を選んだという事で間違いないのですね」そう断言した。

 

 アイツのその「全て」を前倒しにして強行するというアイデアは狂気的だが、残念ながら俺のアイデアとほぼ同じだ。目的の為にもはや突き進むしかない。迎えに来た天知に送迎されながら、俺は即座に計画を練った。撮影はどんな事を用いても実行するとして、そのための舞台装置には「夜凪」以外にもう一人必要になる……誰が良い? 頭には一瞬「環連」の名前が過ったが、俺が選んだのは「桃城千世子」だった。

 

 いや、彼女を強引に連れ出せないのなら、このまま突っ走る意味もないのかもしれない、本来通りに警察に行ける……だけだ。夢は夢のまま、狂気に身を任せる必要もない。

 

 だが、彼女への真夜中の電話の呼び出しは案外、あっさり繋がり、気味が悪いほど順調に話が伝わった。ほんの少し、現状を話しただけで、まだ何も知らないはずなのに「天知」以上に俺がしようとするアイデアを言い当てた。

 

 そしてなにも俺の事を恐れていないというより、いつかこういう日が来ることすら、予見していたような声で「私は貴方の映画に出ると決めた、だから例え怖くても先に進む」と正確には何をするのかを分っていないはずなのに、俺を心から信じて、身を任せてくれた。それ故に、殆ど騙すような形になってしまっても謝る事すら出来ないことに心を痛めるが、全ては作品の為だ。誰を傷つける事になったとしても、俺は目的を完遂すると心に決めた。

 

 

 それでも拳銃自殺した死体は直ぐに事件になり、一日もすれば、十分に拡大し、俺の元に連絡や捜査が来るだろう。撮影そのものに使える時間は事件発覚から二十時間もない。それで、あるアイデアを思いついた。使える物は何だって使えばいい、今、目の前は「実銃」さえあるんだ。これで本当に「発砲」すればいい。そしてそれをぶっつけ本番でやるんだ。

 

 ただそうすると、誰がこの作品を世に出せる? と思ったが、そんな事はもはやどうでもいい。最終編集権を「柊」にやれば後は、俺は檻の中でも、棺桶の中でも作品は完成出来る。そう思えば、何だってこなせる。命を掛け金にすれば、何だってこなせるんだ。だから悪人になってでも、死んででも撮りたいものを撮るんだ。その為になら、全員を傷つけ、騙してしまっていい。作品のためになら……

 

 

 突貫作業でも、たった一夜だけ取り繕えばどうにかなる。撮影時間は大体一時間、その間にだけリアリティがあればそれでいい、それでこの作品は完結する。あとはこのフィクションの要に入り組んだ現実が十分に脚色してくれるだろう。

 

 そのために無理やりにでも、展開を加速させるしかない。死に急ぐような速度で、俺は強引に脚本を練り上げる。そしてそれに必要な「生配信」やインターネット上の「広報」周りの根回しは「天知」が即座にこなし始めた、それも水面下での作業と後で辻褄が合うようにの狡い手段でだ。だが、こういう仕事にはある意味全面的に信頼が置ける。

 

 そして「桃城」には、付ききっりで、今置かれている現状とこれから起こす事、それに対する演技指導とこの作品に元々あった仮台本、この事件が発覚したら「夜凪」がしてくるであろう行動の対処と、その時に出来るだけ自然に見えるつじつま合わせを伝えた。これに納得できないなら……と思ったが、基本的には協力してくれる方針だ。ただまあ、話してある事は「模造銃」で行うということになっているからこれで、どう本番で反応が変わるのかは正直分らない。

 

 勿論、こんなぶっつけ本番が作品として価値を生み出すかどうかなんてまるで分らない。だが、それでもやるしかない。あの「死体」がある以上、これ以外の方法で、行う手段は思いつかない。それにもう後には引けない、引くつもりもない。

 

 なんとか午前中までの間に、これらの事の話の大筋をまとめ上げ、撮影現場はスタジオ「大黒天」に決めた。あそこなら多少の機材を追加すれば、環境は整うし、状況的に問題はない。そして午前中の内に、スタジオ「大黒天」に機材をもって向かった。ただ、スタジオの車は出払っており、柊は今いないと即座に分った。スマホでニュースを調べると流石に、もう事件は記事にはなっている。

 

 順当に考えれば、もう「夜凪」には知れ渡っているだろう。そちらに柊は入ったと考えるのが妥当だ。もう時間はあまりないと考えるのが妥当だ。早急に取り掛かるしかない。此処での撮影準備、生放送の準備に取り掛かった。

 

 

 作品の為になら、悪人になる覚悟はできてる。

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