彼女が死んでも、物語は続いていく   作:HAL2001

42 / 46
劇的でなければならない

 墨字さんから急に来た呼び出しの連絡は本当にビックリしたけれど、結局私は言う通りにした。だって墨字さんがあんな口調で頼むなんて本気な時だけだ。

 

 けいちゃんはちょっと強引な形で、連れ出す事になった。今回の話にもしかしたら墨字さんが多少かかわっているんじゃないかという風に言って、向こうも心当たりがあるから資料を見せるためにスタジオ「大黒天」に行こうと……

 

 かなり動揺していたし、弟妹達の面倒があるから、行きたがらなかったが、墨字さんが「マクフィン」という映画を作るために、お父さんと接触している可能性があると言うと、顔が真っ青になり、なんとか連れていくことが出来た。子供たちには今日は保存食用に買ってあったインスタント食品で、適当に済ませるようになんとか言って聞かせた。

 

 正直、子供たちは困惑していたが、それよりもけいちゃんの様子が明らかに可笑しい。いやまあ、そうだろう。子供たちはまだ、父親が死んだことはなんとなく分っていても、拳銃で死んだ事は知らない。そんなところに関係があったと思われる墨字さんから呼び出しがあったのだ。困惑しない方がどうかしている。

 

 

 そうして、なんとか車を出して、十分後くらいで、墨字さんからメッセージが来た。ただ、送られてきたのは、とある動画サイトへのURLと「見ろ」という一文のみ。

 

 なんだろうと思って、車を一時停車し、おそろおそろとそのURLを開くとそれは生放送中の映像に繋がった。そこには拳銃を持った墨字さんと椅子に縛り付けられた女性の姿が映っていた。いやこの女性は「百城千世子」ちゃんだ。

 

 頭の中は意味不明のクエスチョンマークで一杯になり、不安な感情が渦巻き、まるで現実感がなかった。だが、その放送は数千人単位で見ている。始まってから、まだ三分も経っていないが、明らかに様子が可笑しい。そう思うと千世子ちゃんが座っている椅子の横にあきらかに弾丸の跡がある。墨字さんが持っている、この拳銃で撃ったのだろうか? コメント欄が荒れに荒れている。どうやらこの配信は千世子ちゃんのSNSから拡散されていて、実際に「撃った」という場面が、少し前にあったらしい……

 

 そして画面越しに墨字さんが「柊、見ているか? 見ているなら、すぐに指定された場所に来い……来なければどうなるか分るだろう」と拳銃を振りながらカメラ目線で言っている。

 

 

 助手席に座っていたけいちゃんが、この映像を見て明らかにどうにかなってしまいそうな表情で、振るえている。

 

 私は先ほどまで、頭の中を支配していた不安とは、もはや別の感情が支配している。疑いと興奮と恐怖で、体は震えている。だが、とにかく急いで、事務所への道のりをスピード違反なんか全く気にすることなく、最短距離で駆け抜けた。ただただ、冗談であってくれと願いながら。

 

 スマートフォンは多分芸能関係者からだろう、電話やメールが大量に来ている。だけれど、墨字さんの状況なんか分らない。鳴り止まない電話に私は状況を徐々に理解せざるを得なかった。本当に墨字さんがやってしまったんだ。

 

 これはなにかの作品の演出じゃなくて、本当に実際の事件の生放送になっている。

 

 

 私はけいちゃんに警察に連絡を入れるように頼んだ。けいちゃんは怯えたように「な、何を言って、警察に説明すればいいのかまるで分らない」と力なく言う。

 

 とにかく110番を強引にさせ、分っている事を全部伝えてと言った。けいちゃんは、今インターネットの生放送で拳銃を突き付けられてる「桃城千世子」はスタジオ「大黒天」にいる筈で、自分たちはそっちに向かってるという事を警察に何とか事情を伝えようと頑張った。正直、かなりいっぱいいっぱいで、正しく伝わったかどうか分らないが、電話を掛けている最中に先にスタジオ前に着いてしまった。

 

 言われた通りに来たが、そもそも今、入って行っていいのかどうか分らない。もしかしたら警察を待った方がいいのか? そんな事はわからない……ただ此処で入らなかったら後悔することは確実だ。

 

 私たちは殆ど衝動的に、スタジオ「大黒天」に乗り込んだ。鍵がかかっていたから、私は合鍵で開けた。そうして、先ほどの生放送で映っていただろう階層に向かう。そこには墨字さんと千世子ちゃん、そして複数台のカメラが集まっていた。中には見たことがない物まである。あきらかにスタジオの備品ではない。このスイッチャーは見たことがない。

 

 一瞬もしかしたらこれはただの撮影なのかもしれないと思ったが、千代子ちゃんを縛られて椅子に座っているし、墨字さんの手元には拳銃がある。そして、部屋の壁には弾丸を打った後まである。

 

 最低でも、昨日にはこんな後はなかった……ああ、やっぱり本当にこれは事件なんだ。

 

 

 墨字さんは拳銃をこちらに向けながら「柊、お前はそこにあるカメラで撮影しろ、ちゃんと拳銃をカメラで捉えるんだ」そう言って無理やりカメラで撮影するように言ってきた。

 

 続けざまに「夜凪、お前は千世子の横に立て……」ヒリヒリとした口調で、そう言ってのける。けいちゃんはビクビクしながらだが、言う事に従った。

 

 私はなんとかカメラを構えて、この現状を見たとき、ようやく理解した。これは墨字さんが撮りたかった映画「マクガフィン」なんだ。今の状況が作品の内容と、とても似ている。あの原作では完全に一人で、生放送ではないが、ビデオ撮影を使っているという設定だったが、それを墨字さんが代わりに自分自身でやってしまっているんだろう。

 

 それならばあの作品通り、誰かが死ななければならない。ただ拳銃の形態が違う。あの作品ではオートマチック拳銃だった筈だ。それが、目の前に構えているのはリボルバー、ということは、あの作品同様、どういうオチになるかどうかわからないという構成に持って行くつもりなのだろうか? まさか、墨字さん自体が弾丸が出るかどうかわからない状況にわざと身を投じているのだろうか……

 

 わざとそういう状況に陥って、作品さながらに確定しない死を演出するという事になる。それが倫理的に正しいのかどうか、なんて気にせず墨字さんは行うつもり何だろう。

 

 ということは、本当に誰かに発砲する気なのか? 生放送の始めに撃っている以上、実際に持っているのは実銃だ。そしてたぶん、けいちゃんのお父さんの死に関しても、ある程度関わり合いがある筈だ。そうじゃなければ私の周りで、拳銃で人が死ぬなんて事が起こっていい筈がない。偶然である筈がないんだ。

 

 

 そうして始まったのは墨字さんによる拳銃に対する説明だった。これがリボルバー式の拳銃であること、装填数は六発であること。その内で二発は打ち込んだこと。そう言って見せた。そして素早くシリンダーを回転させ、適当に天井に向かって引き金を引いた。鋭い発砲音と共に弾が発射される。天井のコンクリートに、穴が空く。

 

「見ての通り、本物だ、これで残りは三発、ちょうど『画面内』には一人ずつ的がいる……その的を順番に撃っていく、運が良ければ、三人とも生き残り、運が悪ければ三人とも死ぬ」そう墨字さんは言って千世子ちゃんに狙いを定めた。

 

 

 私は何処か、もう感覚が麻痺していた。そして自分勝手にもう、撮る事でしか、墨字さんを救えない。撮りたいとか撮りたくないではなく、黒山墨字という人間に師事した以上、彼の最後を見取る義務がある。そう思い込んだ。

 

 それに、こんな最高の状況はもう二度と訪れない。最高の被写体だ。

 




投稿、遅れました……あと少しで、終われそうです……
なかなか、大変な見切り発車でした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。