彼女が死んでも、物語は続いていく   作:HAL2001

43 / 46
偽装工作と裏切り

 柊たちが来る前の準備段階、俺は様々な機材を天知に持ってきてもらいながら、その中でも一番大事な特殊なスイッチャーをなんとか確保できた。これはリモートコントロール式で、記録されたカメラなら遠隔操作で、切り替えることができる。これを用いて、本番での撮影及びカメラマンとしての「柊」が来るまでの時間は四ヶ所の固定カメラのみを切り替えながら放送を行う。 このくらいの機械操作なら、手の平サイズの小さなリモコンで隠しながら、十分操作できる。

 

 撮影する箇所のアングルを何度か微調整し、生放送中に左手のスイッチャー等が見えないように違和感を感じないように一部、死角を用意する。最終的には無編集の生放送だから、かなりバレる可能性はあるが、このくらいなら流石にどうにかやってみせる。生放送中の事をかなり想定しながら、放送内容を確認する要の小さな液晶画面で一通り、違和感なく出来るアングルを決めた。

 

 

 そうして、その時間内にこの作品の概要とそれを取り巻く現状を何とか掴んだ「百城千世子」との打ち合わせが始まった。作品設定的に、多少強引にここに来たという「建前」の方がいい。連れてこられ、縛られてるぐらいの方が絵的には面白いと言ったら、彼女は納得してくれた。

 

 映画撮影なんかでも、椅子に縛られてるシーンはよく映ると思う。あれは基本的には安全を配慮して、マジックの技術を盛り込んでいることが多い。役者自身にもしも、何かことがあったらいけないから、傍から見れば、しっかりと結んであるように見えても、結び目が緩かったり、切れ目が入っていたり、そもそも結んであるの一部切り取って、その部分を役者に握っていてもらう何ていう方法がある。

 

 そのうちの一つの技法で、一応結んであるように見えるが、強引に力を入れれば解けるように縛り、その状態基準に百城と何度かどう見えるか試しかめて、多少苦しそうに縛られて見えるように縛り方を工夫した。これで固定カメラからの視点だけで見れば、まず気づかない要に出来た筈だ。

 

 

 後は、百城とのアドリブの調整だ。夜凪がどう、行動するか ? その先の行動を見つめていた。いくつかの「キーワード」を彼女に提示し、それによって方向性を決めていった。彼女は真剣に、行動予測とアドリブ内容に取り組んでいく。今の現状と照らし合わせて、見事に落とし込んでいたが……俺は違った。

 

 百城に言ってあるのは、あくまでも「松野龍也」という人物が、俺の撮りたい「マクガフィン」という小説を作った人物である事、その人物が拳銃自殺した事、そしてその人物は実は夜凪の父親であり、その映像化権が全て実子である「夜凪景」に渡る事……此処までだ。コレらの情報を使って、山野上が羅刹女の初演公演でやった事の再演を生放送でするという物だと伝えてある。

 

 実際には、縛ってある状況から始めてから、摸造銃と実銃を取り換え、実弾を百城のすぐ横のコンクリート撃ちこみ、反応を待つ。スイッチャーでの切り替えで、生配信を見てる人間にはこの取り換えは気づかない要には出来る。此処で百城が、可笑しな言動を言うか、椅子の縛りを強引に解こうとするんだんだったら、その時点で、この計画は別の方向に話を変える。

 

 

 悪いが、その場合は「百城千世子」には死んでもらう。

 

 

 これには一応考えがある。百城は模造銃は知っているが実銃は見ていない。この段階で、彼女には演技を強いることになる。それでは意味がない。だから途中までは、模造銃だと思わせ、本番ギリギリで、実銃と入れ替える。

 

 スイッチャーである程度誤魔化しは効くが、カメラの位置的に、俺の右下半身部分は若干死角になる。そこで服の中にある実銃と模造銃を入れ替える。服の上から多少膨らみが見えるかもしれないが、まあ、カメラの中だけが「真実」だ。見えないものは存在していない。

 

 これでどういう反応になるかわからないが、 ある程度の冷静さを保ったままなら、続行できる。言葉の端々に、百城だけにわかるだろう「キーワード」とアイコンタクトとそして口調、これらで彼女がどうなるか、わからないがそれで突っ走るしかない。実銃を向けられたまま、女優の仮面を演じられるかはまあ、五分五分だろうが、そん時はそん時だ。

 

 

 天知は此処にいては話の展開上、可笑しい為、幾つかの機材の搬入を終えた後は、インターネット上での円滑な生配信の為に動いてくれた。今日の為に用意したチャンネルも天知が用意した。生放送に使うのは登録者約八千人規模のチャンネルで、実働期間が半年以上空いている。元は百城の出演したTV番組関係の違法アップロードに使っていたらしいチャンネルで、一部権利者削除を食らって、後は投稿者削除した、もはや形だけ残ってるだけの物を使う。

 

 もちろんバックアップにいくつかのミラーでの放送はするが、あまりにディープな動画サイトだと生放送である意味がなくなる為、拡散作業はアイツに一任した。まあ、最初の放送を百城のSNS上で発表すれば大丈夫だろう。そうやって、なんとか準備を整えた。

 

 スタートの合図は、柊に電話をかけた後から、夜凪がそこにいることは天知経由で分かっている。柊の怯えた声からも入るのは伺える。そしてとにかくそこから、本番が始まった。

 

 

 空気は張り詰めていた。自分が実際に「カメラ」の前で演技するというのは何とも言えないが、使えるものはとにかく使うしかない。模造銃とすり替え、実銃を握った。

 

 始まりは、問答無用の一発目……銃声とともに壁に穴が開く。だが、百城の顔は「仮面」をかぶったままだ……まさか、初めからこうなることは気づいていたのか……それはどちらかわからないが、とにかく演技を続けるようだ。俺は出来るだけ自然に「キーワード」のいくつかを言っていく。例えば「縄は解けない」や「リボルバーの弾の数」の説明や「助けに来るのは柊だ」と言った、視聴者にも説明になるような情報と百城にのみにわかる虚実ないまぜの「キーワード」を交え語った。

 

 百城は見事に怯えた表情と可憐さを表現してみせる。これが演技なのか本当なのかわからない。ただ、どちらにしても、強引に縄を解こうとすることや生放送を止めさせるようなことを言わない。とりあえずは、恐怖からかどうかは分らないが演技プランに乗ってくれているようだ。

 

 まあどちらにせよ、三十分後には放送は「拳銃」によって、強引に終わってる予定だから、警察が乗り込んで来るまでは十分時間がある。

 

 それで、彼女の演技は素晴らしかった。俺の自身を絶妙に怖がらせつつ、こんな凶行に及んだ目的を語らせる要に誘導する。これが、まるで劇場型犯罪であるかのようなアプローチだ。

 

 そして俺は出来るだけ嘘のないようにして、映画「マクガフィン」を撮りたかった事を語った。そしてそれがどうした撮れないか、またどのような「ラスト」が素晴らしいか? それを強引に視聴者に伝えていった。そして今のこの状況が、その作品の疑似的な再現である事を伝えた。この説明だけでは少々伝わりにくいかもしれないが、映画には多少の空白も必要だ。調べれば何が言いたかったのか分る要になっているのが、この作品ではそれがベストな筈だ。

 

 この生放送の大まかな目的が語り終わったタイミングで、スタジオの鍵が空く音が聞こえる。この作品の主演女優とカメラマンの到着だ。

 

 

 俺は拳銃を向けながら、場面のために二人を必要な立ち位置へと誘導していく。そしてパフォーマンスの為に、シリンダーを回し、天井に向け、拳銃の引き金を引いた。一発目で、出る確率は六分の四だったが、上手くいった。失敗したら連続で撃つだけだが、絵的には一発で出た方が良い。俺が自分のルールには従う要に見えるからだ。

 

 それからスイッチャーで、俺の上半身をアップで映す様に切り替えながら、舞台的な語りをする。ここで、手早くと実銃と模造銃と切り替える。カメラ越しにしか見えていない柊は気づかない要に身体で隠し、夜凪も多少位置的に視認しずらいのとミスディレクションも働いているから気づかない筈だ。ただ、当然百城には気づかれる。

 

 最後の最後で、緊張の糸を切るような行為だ。最後まで、仮面を被れるかは分らない。ただ、ここまで来れば死ぬのは「一人」でいい。それはもう百城ではない。

 

 百城に狙いを定める。そこには、諦観と優しさと嘆きに満ちた天使がいた。それは、演技なのか、俺の意図に気づいたが故の表情なのかもう分らない。ただもうこの時点で「ラスト」は決まっている。

 

 

 俺は無意味な引き金を引いた。




途中までは本当に死んでもらう予定もあったのですが、生き残る方が彼女の「仮面性」が強まる気がしたので、殺せなかったです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。