彼女が死んでも、物語は続いていく   作:HAL2001

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終幕はあっけなく

 千世子ちゃんに向かっての引き金はあまりにあっさり引かれた。そうして、カシャっとシリンダーが回転する音以外、何も聞こえてこなかった。つまり今回は、弾は詰まっていなかったということだ。

 

 ただ、その事実に少しだけ安堵する素振りを千世子ちゃんは見せたが、即座に大切な友達の事を思ってか、険しい表情で、この理不尽に立ち向かうとしている。

 

「これで、とりあえず百城は助かった、後二回……次は夜凪、お前の番だ」そう言って、今度はけいちゃんに墨字さんは拳銃を向ける。

 

 心底震えながらけいちゃんは「なんで、どうして、こんな事するの……」と本当に怖がり、怯えながら、墨字さんに思いの丈を投げかける。

 

 それに墨字さんは「理由は分ってんだろ、お前の父親の『脚本』だよ」と全く悪びれた様子も見せずに答える。そして、ほんとうにあっさり引き金を引く。

 

 

 弾は出ない。またしても回転音がするだけだ。この二発連続で出ないという確率は今の緊張状態で、まともに計算できないが、とても運がいい事だけは分る。墨字さんはだらりと腕を降ろし、けいちゃんから拳銃を逸らした。そうしてけいちゃんは本当に泣きそうになりながら、こう懇願した。

 

「もう、止めて……」

 

 

 この言葉の意味は一応、二通りだろう、まずは自分達に向かって撃つのはもう止めてと言う意味と「黒山墨字」自身に向かって撃つのは止めてと言う意味だ……

 

 墨字さんはそんな言葉を聞いても全く表情を変えないまま、芝居がかった口調で「それじゃあ『ラスト』だ、弾は残り三発、リボルバーは六発装填式、つまりは確率は二分の一さ」とシリンダーを回転させることなく、軽く笑いながら言った。

 

 そして、拳銃を持ち上げ、自分自身の右頭部に向けて、本当に簡単に引き金を引いた。

 

 

 鋭い銃声が響く。画面一杯には血しぶきが広がる。映画なんかでよくあるシーンとは何処か違う、現実の事なのにどこか嘘っぽい。チープさすら感じるのに、墨字さんは勢いよく倒れた。

 

 横たわった身体は軽い痙攣を起こしながら血をドクドクと流して、床を汚していく。実感なんてない、それ故にこの光景を私は撮り続けていた。

 

 

 そうしてカメラで捉えていると生放送が自動的に切れた。時間にすると引き金を引いてから三十秒程度だろうか? 生放送自体にある程度のタイマーの設定があったのだろうか? それとも、別の何かだろうか? そういえば、画面を切り替えるスイッチャー等は何処にあったのだろうか? 誰かの遠隔操作だろうか?

 

 ただ、私がそんな事を考えている時に、けいちゃんは放心状態に近かったが、なんとか千世子ちゃんに近寄って、縛っている紐を解こうとしている。しかし、そんな事をしなくても、千世子ちゃんは自力で身体を捻り、脱出してしまった。

 

 私たちは呆然とした。そして千世子ちゃんは即座に、墨字さんの右下半身のズボンから一丁の拳銃を取り出した。何で千世子ちゃんは抜け出せたのか? その拳銃はいったい何だ? 拳銃は初めから二丁あったということか? 訳が全く分からない。

 

 そんな混乱の中、千世子ちゃんは「 これ、どうする?」と私達に訊ねる、外からは小さいが、少しずつ近づいてくるパトカーのサイレンの音が聞こえて来る。

 

 

 パトカーが来たのは、生放送終了後の五分後くらいだった。予想よりもかなり早い。予め、けいちゃんが連絡してあったとは言え、最初の車の中の電話から考えると二十分以内にスタジオ「大黒天」にこんな大勢で駆け付けたられたと考えると驚くべき速さだ。

 

 これは「百城千世子」のSNSから事件が素早く警察内で認識され、それに先のけいちゃんの電話が決め手となって即座に動けた形だ。普通、此処まで早く動く事はない。それでも、間に合わなかった現実はなにも変わらない。

 

 このあたりからは何というか、私にはちゃんとした記憶がない。私たち三人共とも警察に保護され、事情聴取され、様々な事を言われ聞かれたが、まともに覚えていない。理由としては、事務作業的にこなされる警察の沢山の質問に、あの時の精神状態では全く関心が持てなかった事と、一時的な心因性健忘症というのもあるだろう。これは、親族のお葬式の準備なんかで、忙しかった筈なのにその記憶の一時的が記憶がないという現象に近いものだと、思ってほしい。

 

 そして、もはや警察における、ただの事後処理よりなんかより、頭の中を占めていたのはスタジオ「大黒天」で隠した「モデルガン」の事だ。それを千世子ちゃんから見せられた瞬間は、私は何も分らなかったが、その拳銃のシリンダーを開け、何も入っていない事を確認させられ「モデルガンだよ」と言われた瞬間、墨字さんが何でこんな事をしたのか、分った気がした。

 

 突発的にその「モデルガン」を千世子ちゃんから奪い、スタジオを一階下に降り、事務所の小道具だらけのゴミ箱同然のクローゼットにねじ込んだ。ここなら、こういう物があっても何ら可笑しくない。実際に、舞台で使う模造刀や仕込み杖や鉄パイプなんかのごちゃごちゃした物が一杯ある。もし、見つかっても大丈夫かもしれない。

 

 そうして隠しているとパトカーのサイレンが直ぐ近くまで来ている事が分り、私は外に向かう。千世子ちゃんに半分引きずられながら、けいちゃんも出て来ている。二人は何か話し合っている様子だが、何を喋っているのかは分らない。そうして、警察が来た。

 

 

 私が、警察の応対からあの「二人」よりほんの少し早く、一時帰宅出来たのは一応成人しているということと、墨字さんの目当てであったのが、明確に彼女たちだったのが分るからだろう。まあ、けいちゃんの家に弟妹を警察が引き取りにいったらしいから、どういう状況かは微妙だ、ただ、当然の事ながら、スタジオ「大黒天」は封鎖状態にあり、本当に寝に帰るだけのアパートに久しぶりに返ってきた。

 

 郵便受けは沢山の公共料金の領収書とチラシで埋め尽くされていた。邪魔くさいなぁと思いながら、殆ど中身を見ないで、紙ごみ用のゴミ箱に入れていくが、一通だけ封筒が入っていた。シンプルな茶封筒で、宛名の書き方には私の名前が普通に書いてあるが、裏書きには「阿佐ヶ谷芸術高校元非常勤」とのみ書かれていた。

 

 私はおそるおそる、その手紙を開けると中身は128ギガのSDカードと一枚の紙きれが入っていた。そこにはGメールのアドレスと良く分からない八桁の英数字が書かれてあり、そして最後にこんな事が荒々しく書かれてあった。

 

「映画監督が、最も欲しいのは『金』でも『納期』でも『機材』でもない、当然『編集権』だ、それも最終的な奴をだ。特別にそれを『柊』お前にやる、好きにしろ」

 

 

 その内容を読んだ後すぐに、私はノートパソコンを引き出し、SDカードを開いた。そこには女優「夜凪景」を主人公にした「マクガフィン」の脚本とそれに呼応するような様々な動画が置いてあった。そして、他の動画はグーグルのクラウドに保存してある様な事が書いてあった。

 

 私はGメールを使って、グーグルのアカウントログインを試みる。パスワードはさっきの良く分からない八桁の英数字を打ち込んだ。クルクルと回転する読み込みのマークが私の心臓の鼓動を早くするが、無事に通った。そしてアカウント「マクガフィン」にたどり着いた。

 

 もう私は動かずにはいられなかった。此処からは話題性と私の身の振り方的に速攻で仕上げるしかない。もはや時間との戦いだ。今ある「夜凪景」の動画データを元に強引に私が映画「マクガフィン」を編集する。




あと少し、頑張れ自分!
ラストスパートだ。
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