彼女が死んでも、物語は続いていく   作:HAL2001

9 / 46
即興の殺し合い

 私は、ノートパソコンにある、合格通知をみて、ただただけいちゃんは凄いなあと、本当に12人にの枠に選ばれちゃうなんてと思った。そして、けいちゃんに事務所に来てもらって、映画「デスアイランド」の出演契約についてと合格通知のお祝いをしようとしている。勿論、お祝いが主な目的だ。ただ、墨字さん曰く、この映画の監督と知り合いらしくて、こんな事を言っていた。「まあ今の夜凪じゃあ、落ちてもおかしくないと思ってたよ、手塚の奴、思ったより酔狂だなと……」 意味深な事を言うが、どういう意味かは、すぐに分かった。

 

 ガチャっと急に事務所のドアが開き「デスアイランド受かったって……私が……? 本当に?」と けいちゃんが、肩で息をして入ってきた。私はそう、電話で話した通り、通知が来てたのと喜んで迎えて、墨字さんも「あぁ、よかったな、これで千世子と会えるぜ」と微笑んでいる。

 

 ただ、どうも緊迫した声で、「黒山さん、私このままじゃダメだ、どうすればいい?」と受かったのにも関わらず、そんな事を言って、けいちゃんはオーディションで起きた事を語ってくれた。

 

 語り口は訥々と、だけれど何処か妙に迫力のある言い回しだった。三次審査まで、勝ち進んだのは500名もいて、たった12人の枠を求める役者ってこんなにもいるんだと感じたらしい。そして、まとめて四名ずつのオーディションをすることになって、番号順的に同じグループになった人達が、とても仲良く接してくれたという。内容は巨大な無人島のセットで行われて、そこでの芝居だった。設定は、原作漫画と同じ、修学旅行中の飛行機が、嵐にあって、海に不時着して、無人島に漂流したクラスメイト4人が、目を覚ますところが始まり、ただし、エチュード、即興劇で、この状況に応じた自由な芝居をするというものだった。

 

 

「ただし、制限時間5分以内に、四人が殺し合いを始めるように演じるという強烈な縛り付きで……」

 

 

 それで、無人島に漂流した経験なんてないからそんな「殺し合い」の展開についてはみんなに任せるしかないって考えて、それで落ちても仕方ないと割り切って、自分にできるたった一つのお芝居、未経験の「私」を想像したの。それで、修学旅行中の機内が大きく揺れるシーンを思い浮かべた後は「頭が、体が、勝手に」動いていた。

 

 クラスメイトの悲鳴、飛行機の窓の向こうが、海水で満たされる。浸水して、もの凄い、水の力で、方向感覚を失って、いつの間にか意識がなかった。

 

 そして、周囲の雑音というか人の声が聞こえて、間が覚める。どうやら、何処かの海岸、ああ私「生きてる……」と思った。それで、周りにはクラスメイトの3人が、無人島に流されたって言ってる。私には何故此処が、無人島だと断定できたのか分からなかった。もっと、奥の方に人里があるかもしれないのに、周囲の足跡を見るに、たいして歩き回っていないのに、どうして、無人島だと知っているの? クラスメイトの人達は、目的地とそこからまでの航路、フライト時間を逆算すれば、無人島が多く点在するエリアだとか、飛行機の上からもこの島は無人島に見えたとか、いうけれど、あまりにも自信ありげに無人島であることを断言しているから、みんなで口裏をあわせて、私を騙そうとしているみたいだった。みんな黙って、顔を見合わせて、どうかしたようだった。

 

 クラスメイトの一人が本気で、怒りだしたり、別の人が私のことを変だとか言うから、私は無人島の奥へ逃げ出した。途中で、転んでしまったけれど、来ないで! と叫んだら、一番大柄のクラスメイトが、すべて自分たちがやった、みんな殺した、残るはお前だけだなんていうから、私は咄嗟に、木の枝を引きちぎって、彼に殴りかかろうとした。そうしたら、あの怒っていたクラスメイトの子が私を取り押さえて、こんな事を言ってきたの……

 

「なんで、こんな滅茶苦茶できんねん、みんな……みんな必死やろうに、真剣やのに、人の気持ちがそんなにわからんなら、役者なんかやめちまえ!」とその子が泣きながら怒鳴ってきた。その時ようやく「私」はああ、これが「演技」だった事を思い出したの……

 

 と、けいちゃんは事の経緯を教えてくれた。確かに、これは、墨字さんが言うこの監督「手塚」さんが酔狂だといったのも理解できる。この話が本当ならそれはエチュードではないし、演技というには、余りに逸脱したものだった。私は、とりあえず、話が聞き終わったら、映画「デスアイランド」の出演契約についての注意事項をプリントしたものを渡して、本来はこの後大々的にするお祝いの話を一応切り出した。

 

 契約の注意のプリントに目は通しているが、正直、生気が感じられないし、お祝いは後日にしようかと思っていたら、墨字さんが本当に強引に食事に連れていくとか言い出した。殆ど強引に連れて行ったから、けいちゃんに弟妹のことをお願いされて、仕方なく、迎えに行った。いや、子供たちは可愛いからいいんだけどね。

 

 とりあえず、事務所近くの感じの良い雰囲気の飲食店で待ち合わせだった。そこでけいちゃんは項垂れながら「役者じゃなかったら、一体私は、一体何者なのよ……」とボヤいていた。それに墨字さんが適当に相槌を打って、飲め飲めとボトルをコップに傾けている。

 

 私は咄嗟に、「コラァァ! 高校生に何してんじゃ!」と怒鳴った。ただ、よく見るとお酒のボトルとは別に、「ORANGE」と橙色のラベルがしてあるボトル物もあった。流石にお酒を飲ませている分けではないようで、安心した。

 

 それで、みんなに席について、子供たちが色々言っている「お姉ちゃん、映画出られるってほんと?」と可愛く尋ねたり、やっぱり気になったのか「というか、何飲んでるの」と尋ねて、けいちゃんが「オレンジジュース、一緒に飲もう。黒山さんが、奢ってくれるって」と言っていた。「まあ、なにはともあれ、お祝いをしよう! 結果オーライだよ」と私が言うと、割と楽しそうに出来上がっている墨字さんが「柊、こいつ雰囲気で、泣き上戸になるぞ、もっと飲ませようぜ」と完全に揶揄っていた。まあ、今日の此処の食事代はどうやら、墨字さんらしいので、このくらいなら可愛いものだ。

 

 そうして墨字さんは「でもまあ、今後の課題が、明確になって良かったんじゃねえか? 欠陥だらけのお前の芝居に足りないもの、その一つが自分を『俯瞰』する力だ」と言った。

 

 けいちゃんは「フカン?」という言葉を口に出して、言ってみたが、漢字が思い浮かばないようだ。それに続けて「幽体離脱みたいなもんだよ、演じてる自分を外から、外部から、見下ろし、コントロールする技術だ」と墨字さんは説明した。

 

 その言葉にけいちゃんは少し考えて「酷いわ、私本気で相談してるのに、宗教勧誘するなんて」と言って子供達も「クロちゃんまだおばけ、信じてるの?」だとか「もしかして、まだ、トイレ一人で行けてないの?」とか、テーブルの料理を食べながら言っていた。かわいい。

 

 墨字さんは大人げなく「夜凪家、この連中」とか言っているけれど、一応フォローするように「まあ荒唐無稽な話に、聞こえるかもしれないけれど、役者さんにはそういう技術、空間認識能力があるんだよ、ほんとに」と私はやっと来たビールをぐびぐび飲みながら言った。そんな私を見て、けいちゃんが「雪ちゃんまで、酔っ払い?」と話を信じていないようだった。

 

 墨字さんは、この場での説明は難しいと思ったのか、話を切り替えた「まあ所詮俺たちは役者じゃないからな、お前に教えてやれることは少ない。役者なら、テクニックは役者から盗んで来い。そのために、お前には「デスアイランド」を受けさせたんだ、「スターズ」のトップ俳優達が、大体みんなこういう技術に秀でている。そういう教育を受けさせられてきてる。だからこそ、今やつらと共演できるのはデカイ、特に『桃城千世子』あいつのテクニックは異常だ、盗みがいがある」そう言った。けいちゃんも真剣に聞いている。

 

「今回のことで、自分に足りないもんが自覚できた、それをその技術を、得たいと思えるようになった、悔しいんだろ、未熟な自分が、役者を名乗れないかもしれない自分が、それだけで、もう十分な戦果だ、夜凪、今回の現場で、盗めるものは全部盗んでこい、無念さ、悔しさ、不甲斐無さ、探究心、全部飲み込んで演じてこい、その感情がお前を役者にする」そう言ってのける墨字さんはちょっと、カッコよかった。

 

 ちなみに、みんなで全ての食事を済ませて、レジカウンターで、支払いをする墨字さんをけいちゃんが、凄い「尊敬」した目で見つめていた。いや、現金で、諭吉含めた複数枚のお札を出した事が、そんなになのか……とこの子の金銭感覚が怖くなった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。