突発短編集:アリス・ギア・アイギス 作:Ente
※この蛇足編は1000文字縛りの例外となります。
1000文字編で入りきらなかった部分とかも補足していきたいので…
コンドッティエーレによる戦場への介入の後、俺の身に起こった出来事を幾つか話そう。
まず、右手は切断した。
破片手榴弾の直撃を受けて相当ズタズタにされ、その場でロクな止血処置すらしなかったので切断するしか無かったのだ。
一応、医者からは新型の義手を付けてはどうかと勧められた。
曰く、新型の義手は神経からの電流を読み取って実際の腕に動かせるらしい。
だが、その話は断った。
理由としては、きわめて個人的な物だ。
もう俺は、傭兵として戦っていくつもりがなくなったのだ。
あの戦場で、俺は彼女という存在に魅せられた。
もしまた傭兵として戦場に立って彼女が敵として現れたら、この思いは恐らく恐怖で塗り替えられてしまう。それがいやなのだ。
…と言えば聞こえはいいが、実際は戦うのに疲れただけである。
十数年の付き合いだった傭兵団の仲間たちも全滅し、生き残ったのは俺だけ。
おそらく自由な右手があれば、望もうとも望まなくとも俺は戦場に立つだろう。
ならば俺は自由な右手を捨てる。
そして、これを最後に銃を捨てる。
そう心の中で反芻しつつ、目の前で尻もちを着いている男に拳銃を向けた。
こいつは依頼主だった男だ。
あの地獄のような戦闘の後、彼女が現れた理由について調べて驚いた。
なんと彼女は、依頼主が追加で雇っていた訳ではなく、それどころか誰に雇われた訳でも無くあの戦闘に介入していたのだ。
それと同時に、依頼主に関する真っ黒な情報も出てきた。
どうやら依頼主は、自国を裏切って敵国と通じていたらしく、今回の依頼は敵国からの指示を受けて俺たち傭兵を磨り減らす為の物だったらしい。
そして、それを知った彼女がアリスギアであの戦闘に介入した…という顛末らしい。
つまり、この男は俺たち傭兵団を意図的に陥れ、戦場で始末させようとしたのだ。
そのケジメを付けさせる為、俺はこうして男の事務所に乗り込んだのである。
乗り込んだ直後には数人の護衛らしき人物が銃を向けてきたが、傭兵を相手にするには練度不足にもほどがある。
特に撃たれる事も無く全員始末した。
…できればコンドッティエーレのように不殺で通したかったが流石に俺は彼女じゃない。
撃たれれば死ぬ上、銃としての性能はアサルトライフルを持っている相手の方が高い以上流石に無理があった。
「恨みは無いが、と言えるほど俺は聖人じゃないんでね…」
今も目の前で「私は君たちなら勝てると思っていた」「あんなに敵が多いとは知らなかったんだ」などと喚き散らす男の胸元に狙いを向ける。
「これは殺された仲間たちの分」
そう言い、銃弾を2発心臓に撃ち込む。
「これは俺の右手の分」
続けざまに額に向けて2度引き金を引く。
力なく倒れた男の開いた口に、ピンを抜いた手榴弾を放り込む。
男からの依頼の前金で作らせた、爆発まで30秒ほどかかる特注品だ。
勿論戦場ではとても使えないが、脱出する時間が必要なのでちょうどいいのである。
「そいつは俺の辞表代わりだ。じゃあな」
そう言い残すと、俺は事務所の扉を閉める。
俺が事務所のビルから出た直後、爆発がビルの窓数枚を吹き飛ばした。
それが数日前の出来事。
現在、俺は一人しかいないアジトで寝転がりながら思考にふけている。
依頼主を始末した後、右手が無いと目立つって事で医師に見た目だけの義手を着けてもらったのでぱっと見は五体満足だ。
このアジト自体は廃ビルの地下を掘る形で作られており、地上部分はただの廃ビルである為ここに傭兵団のアジトがあるとバレた事はない。
…その分、依頼を受ける時はネットで依頼の有無を把握し、依頼人の元に俺たちが向かう事になっていたのだが。
それはともかく。
これからどうしようか。
これ以上俺は銃を持つつもりもないし、実際殆どの銃は戦場となった砂漠に埋めてきた。
男を始末するのに使った拳銃は例外的にまだ持っているが、コイツもいずれ捨てる予定だ。
幸いと言うべきか、今までの傭兵稼業で十分な額の貯金がある。
派手なことをせずに隠棲するのならば働く必要もないほどだ。
となると、問題は隠棲先である。
「国内は無いよなぁ…」
まだそこまで大々的に報道されていないが、依頼主が死んだ事は既に世間に知られている。
去り際に回収した、依頼主が敵国と通じていた証拠をネットにばら撒いておいたので世間の目はそちらに向いており、犯人が俺という事までは知られていない。
が、時間を掛ければやがて俺が犯人という事も調べられてしまうだろう。
理想としては、そうなる前に国外へ高飛びしてしまう事だ。
と、数年ほど前にとある人物と話した事を思い出した。
「…日系シャードあたりにでも行ってみるか。確かアイツは東京シャードに行くとか言ってたな」
以前、俺たちの傭兵団に奇妙な客が来た事がある。
ぱっと見はヒョロイ外見だったが、射撃は傭兵として長く戦っていた俺たちの誰よりも正確であり、ナイフを使った格闘技能でも俺たち全員を上回り、更には語学も堪能だった。
俺としてはアイツが傭兵団に入ってくれれば助かったんだが、生憎しばらくしたら唐突に去ってしまった。
きな臭い何かを感じないでは無かったが、下手に詮索する必要もないので詮索しなかったのだ。
そこまで思い返し、体を起こす。
「さて、思い立ったが吉日。行くとしますか東京!」
1人でそう言い、後始末に入る。
持っていく手荷物を手早く鞄に収め、拳銃をテーブルの上に置く。
最後に手元のリモコンを操作すると、リモコン自体もテーブルの上に置いていく。
ピッ…ピッ…という規則的な電子音がする事を確認し、今生の別れとなるアジトを最後に視界に収める。
そこに、依頼主に殺された仲間たちの姿が見えた。
いや、彼らの姿がここにある筈がない。
彼らはあの戦場で死んだのだ。
ならば、今目の間にいる彼らは全て幻という事になる。
だが、例え幻だとしても2度と会えない彼らが目の前にいる。
思わず、足が彼らの方に向かいかけ。
脳裏に、戦場で見たコンドッティエーレの後ろ姿がよぎった。
同時に、見えていた仲間たちの幻も消滅する。
その直前、彼らからの声が耳に届いた。そんな気がした。
行け、と。
彼らの声に背中を押されるように、俺はアジトを出た。
――数分後、アジトに変化が起こる。
内側からの爆発によってアジト内部が破壊され、爆発の余波でアジト上部の廃ビルが破損し、崩壊する。
傭兵がアジトを立ち去る前に起動させた自爆装置が作動し、アジトを爆炎と衝撃が飲み込んでいく。
加えて廃ビルの崩落により、地下のアジトはビルの残骸によって押しつぶされる。
その炎と破片の中で、傭兵の痕跡は全て抹消されたのだった。
アジトを出てから数時間後、俺は既に幾つかのシャードを乗り継いで東京シャード行きの飛行機に乗っていた。
まだ俺たちの先祖が地球に住めていた頃の飛行機とは形が違うらしいが、今となってはそんなもの博物館の片隅で記述がみられる程度でしかない。故に興味もない。
と、俺の座席の隣に、長い銀髪の少女が座った。
その少女の姿が、何故か脳裏に残る彼女と重なり、俺は彼女に声を。
…掛けようとして、どう声を掛けたものか迷った。同時に困った。
当たり障りのない話からできればいいのだが、果たして自分より年下の少女とどう話したものか。
ぶっちゃけ年下の少女と話した経験など殆ど無いのでどうしたものか悩んでいると、前の座席の下から何かが転がってきた。
一瞬癖で右手を出し掛け、義手なのを思い出して左手で拾い上げると転がってきていたのは空薬莢だった。サイズ的には拳銃のものだが、どこから紛れ込んだんだよ。
後でエアロックから放り出すか、と考えてとりあえずポケットに押し込むと、少女がこちらを見ているのに気付いた。
その視線はやけに俺の右手に向いている。…流石に外見から義手って事は分からないと思うんだが…?
「その右手、義手ですか?差し支えなければ、どのような事情かお聞きしても?」
一発でバレた。
「…まぁ大した事じゃないさ。仕事の時にな」
詳細をぼかしつつ説明する。
「なんで一目で分かったのか聞いても?」
「貴方は先ほど小物を拾い上げるのに右手を出しかけました。それを途中で引っ込めてわざわざ左手で拾ったのは、右手に何か見せられない物があるか、或いは右手が何らかの事情で使い物にならないかという事です。
後は何となくの勘、ですかね。人を見る目には少し自信があるので」
…大した観察眼だなぁ。
そう感心していると、茶髪の少女が銀髪の少女のものらしい名前を呼びながら歩いてきた。
「あっ、ここにいましたか?
ちえり、私達の車両あっちですよー?」
そう呼びかけられ、席を間違えていたらしい銀髪の少女は荷物を持つと立ち上がって去っていく。
その後ろ姿はやはり、瞼に鮮烈に焼き付いた女神の後ろ姿と重なる物があった。
…あ、赤面してる。恥ずかしかったのかな?
辛うじて毎日不定時投稿の範囲に収めました(震え声)
この後傭兵は東京シャードで隠棲したそうな。(一応AEGISが監視してるけど)
地衛理さん/蛇足編はこれにて終幕。
しっかし縛り無くしたら3000文字越えかぁ。