TIGHTROPE~Good luck with this worst encounter.   作:信濃 一路

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Episode 5 起動~Code Rainbow Vol.Ⅱ

 

 □□□Are you really happy with it ?

 

 蜂蜜色の長い髪が揺蕩う。

 大きな紺碧の瞳が揺れていた。

 

「ありがとう、スレイマン卿。最後の我儘を聴いてくれて」

「我が身命は、この国の未来とあなたに捧げると誓いました。お気になさいますな」

 

 静寂に包まれた玉座の間で、主の前に傅く一人の騎士。その身は至る所に傷を負い、元は華美であったであろう白金の鎧も無残に破損している。剥き出しになった皮膚の下に精緻な絡繰りの仕掛けが見える。彼は人ではなかった。

 

「でも、あなたはその為に――」

「……それを言えば彼女の行いを穢す事となります。今は為すべきことをなさいませ」

 

 主の悲痛な訴えを、感情を抑えた声で遮る騎士。主は俯いたまま、こくりと頷く。顔前を滝のように覆う蜂蜜色の髪の奥で、二筋の雫が流れた。

 

「さあ、時間がありません――」城内で剣戟の音が聞こえ始めた。近付いて来る。

 

「わかりました……召喚の儀を始めます」

 

 かぶりを振ると、主は毅然と騎士を見詰める。それを見て騎士は優しく微笑むと、踵を返して駆けだす。戦闘の音は間近まで迫っていた。(どうか、ご無事で。わたしは――)叶わぬ願いと知りながらもそう祈り、彼女は美しい抑揚で召喚の呪文を唱え始める。

 

 この世界を救う新たな騎士と、その主を呼び出す為に――

 

■□

 

「何ともテンプレな展開だなあ……」

 

 夕日の差し込む、他に誰もいない放課後の教室。自分の席でボンヤリとゲームに耽っていたCR小隊隊員・水無瀬(みなせ)内匠(たくみ)は、ヘッドセットを外してかぶりを振ると、ぼやく様に呟いた。

 

 ――MKこと機械仕掛けの騎士(Machinery Knights)。鷹月のゲーム開発部がDDOに続くVRMMOとして、今年の春にサービスを開始した新作ゲームだ。世界観はどちらかと言うとファンタジーモノに近く、そこに滅びゆく古代王国によって呼び出されたプレイヤーと機械の身体を持った騎士が現れる……という展開。プレイヤーは開始時に使役者(マスター)である自分と、その相棒となる騎士を作成、二人三脚で世界を旅する事となる。

 

 対戦、自由度の高さに重きを置いたDDOと比べ、こちらはストーリー重視でソロでも楽しめるというのがウリだ。確かにDDOからさらに進化したグラフィックとNPCを始めとした世界の創り込みは素晴らしい。しかし肝心のストーリーは前時代的で、特にNPCが主導する展開においてプレイヤーはそれに助太刀する脇役に過ぎない。

 

「技術の無駄遣いというか……成功したDDOと同じ方向で作ればいいのに。取って付けた様なストーリーなんて無い方が良いゲームなんじゃないの?」

 

 一緒にやろう、と鷲尾に勧められてアカウントは取ったものの、今まで水無瀬はチュートリアルの段階で投げ出してしまっていた。鷲尾は気に入っているらしいが、それは騎士たちのデザインが女性向けだからなんじゃないのか。そんな風に邪推する。事実、最近になるまでアバターは女性、作成する騎士の性別は男性一択だったのだから。

 

(ま、どうでもいいんだけどさ)イラついた時の癖で前髪を弄る水無瀬。溜息を吐きながら誰もいない教室を見回した時――

 

「なんだか酷い言われようね?」突然、背後から声が聞こえた。

 

「キミは……?」慌てて振り返った水無瀬は、思わず目を見開く。

 

 先程まで誰も居なかった教室に、忽然と一人の少女が佇んでいた。

 

 腰まで届く蜂蜜色の長い髪に紺碧の瞳。気品ある顔立ち。身に纏う優雅な中世風のドレスは適度に現代風にアレンジされ、それは華麗というよりは少女の可憐さを際立たせている。大きく開いたドレスの胸元からは深い谷間が覗く。うん、ミユより大きいかも……

 

(……って、少しは警戒しろよ)水無瀬はかぶりを振って意識を緊張させる。

 

 同世代に見えるが、どう見ても学生とは思えない。誰も居なかったはずの教室に、忽然と現れた見知らぬ金髪の美少女。ありえない。ボクは幻覚を見ているのか? あいつと喧嘩したことがそんなに響いているのだろうか……いや、これは小隊を狙ったデザイアの精神攻撃かもしれない。けれど、何処かで見たような――

 

「クスッ、想像力豊かなのね、君は?」

 

 形の良い唇から漏れる、鈴を鳴らしたかのような笑い声……待てよ?

 

 馬鹿げた妄想だと思いつつ、「まさか、MKの……」そう言いかけた時、水無瀬の携帯端末のアラートが鳴り響いた。眞喜志指令からの呼び出し……放課後の訓練が開始されたのだ。とはいえ水無瀬には参加する気など無かった。

 

「君を呼んでる……行かないの?」ゲームの中で見た()()()が水無瀬に問いかける。

 

「行かないよ。TDに乗れないなら、もう此処に居る意味なんてないしね」

 

 心を映す鏡の様な紺碧の瞳から視線を逸らし、不貞腐れたように呟く水無瀬。転属命令に従うという事は曲りなりにも操縦士である今を諦める事になる。無論、命令を無視すれば小隊に居る事は出来ないのだが。

 

「本当に、君はそれでいいの? 貴方が此処に来た()()()()()って何だったのかしら?」

 

 ――真摯な問いが胸に突き刺さる。脳裏で萌黄色のツインテールが揺れていた。

 

(キミに言われなくたって、そんなの――)水無瀬は俯いて拳を握り締める。わかっている。多分自分にはその力がある……やりたかった役割ではないけれど。そして目的の為に手段を選べるってのは、余裕がある奴だけの特権だろう……残念ながらボクにはそれが無い。なら――

 

(ボクはボクに出来る事をやろう。護りたいものを護れるなら、それでいいじゃないか……)

 

 意を決すると意固地な想いは霧散してゆく。「――やっぱり、行くよ」顔をあげると、蜂蜜色の髪の少女の姿は何時の間にか消えていた。そんな存在など居なかったかのように。

 

(……疲れてるのかな、ボクは)水無瀬は訝し気に教室を見渡す。

 

(そういえば転入生の狩野さんて、МKの()()()に似てるんだよなあ……もしかしてキャラのモデルだったとか?)そんな愚にも付かぬ事を考えつつ、水無瀬は端末を鞄に収めると教室から飛び出し、皆の居る旧体育館へと駆けてゆくのだった――

 

 

□□□模擬戦闘訓練・Ⅲ

 

 ――仮想空間における二機の巨人の対戦が開始されてから二分が経過していた。互いに手にした高周波ブレードによる剣技の攻防が続く。

 

 桜色にペイントされた指揮官機仕様の風神改(アイオロス・カスタム)――ウインドⅠの操縦士・来栖(くるす)優奈(ゆな)。そして真紅の装甲に鎧われた重装甲型の風神――ウインドⅢを駆るウィルヘイム・ハミルトン。その二人の戦いを、この状況を作り出した張本人である桂城(かつらぎ)志生(しお)が、漆黒の荒神改四(ウルスラグナ)の機上で見届けていた。

 

 常に攻め続け、主導権を握ろうとする優奈に対し、ハミルトンは機体の損傷もあってかそれをいなしながらの後の先を狙う。細かい損傷を与え続けるものの決め手のない優奈。わずかな隙を突いたハミルトンの斬撃がウインドⅠの肩装甲を紙の様に切り裂く。衝撃によるダメージが主である高周波ブレードでは有り得ない切れ味だ。

 

(この子、()()な――)

 

 目まぐるしく変化する戦況を分析しながら、ウインドⅠの機上管制官・狩野(かのう)エリアは呟いた。

 

 脚部を損傷しているウインドⅢに無傷のウインドⅠが機動力で優位に立てないのは、複座ゆえに僚機より一回り大きな機体サイズとそれによる重量の為だ。リアクター出力はそれを補ってはいるものの、白兵戦では指揮官機用の装備がデッドウエイトとなる。それに――

 

(格闘戦では優奈さんは、ウィルさんに勝てない――)こと剣技について全くの素人であるエリアだが、ハミルトンが優奈より数段巧者である事ははっきりと認識できた。加えてハミルトンには刀身に触れるあらゆるものを"切断"するというエフェクトがある。守りは無意味だ。一旦防戦に回ったら優奈に勝機は無いだろう。

 

(あれ……わたし、どうしてこんな事……?)

 

 複座式の風神改の後部シートに納まり、逐一機体制御を調整しながら、エリアは自らの思考に困惑する。操作ができる事は何ら不思議ではない。第三世代機以降のTDの操縦方法は基本的に脳に直接学習させる形で、装置によってパイロットに文字通り叩き込まれる。エリアも訓練前にインストールが行われていた。けれど、戦術眼や対応力は別だ。

 

(博士や指令の言う通り、こういうのに向いてるのかな?)

 

 才能がある……そう言われた高揚感をエリアはかぶりを振って否定する。わたしは優奈さん達とは違う。地方の中堅企業に勤める父と時々パートで帰りが遅くなる母。ごく普通の家庭で育った、別段何の取柄も無い女の子。友達はそれなりに居たけど、印象に残らない子だってよく言われていた。それがわたし……狩野エリア。でも――

 

(こんなわたしでも、出来る事があるかもしれない……そんな風に思えるのって、嬉しいな……)

 

 

『なかなかの太刀筋ですが、格闘戦でこの僕と戦うには――』左右に揺さぶりをかけた優奈の刺突攻撃を真紅の機体は難なく回避した。『まだまだ未熟ですよ、ユナ!』

 

 センサーバイザーが陽光で煌めく。それは優奈の網膜にウインドⅢが笑ったかのように映った。

 

(このっ――)もう一太刀……しかし無理な体勢からの攻撃は大きな隙を生む。

 

 間髪入れずカウンターの斬撃が桜色の機体に襲いかかった。「……くっ」それをかろうじて回避して相手との距離を取る優奈。それを許さず追撃に入るウインドⅢを管制側から割り込んだエリアがアサルトライフルで牽制、動きを止める。

 

「余計な事、しないで」

「ごめんなさい。でも……」

 

(何やってるんだろう、あたし……)自己嫌悪に唇を噛む。こんなの単なる八つ当たりだ。エリアは凄い。仮想訓練とはいえ、今日初めてTDに触れたとは思えない的確な判断力がある。彼女のアシストがなければ今ので勝負は決まっていただろう。それに引き換え、あたしは――

 

『お前な、助けて貰ってそれは無いだろ……』志生の呆れ果てたような声が通信越しに聞こえた。

 

『ハッキリ言ってハミルトンはお前より格上だよ。チャンバラじゃ勝ち目はないぜ?』

 

(そんなの、分かってるわよ……!)湧き上がる激情を、優奈はかぶりを振って押さえつける。

 

 ――冷静になれ。志生の挑発によって始まったこの戦いだけど、それを受けたのは心の中で自分がそれを望んでいたからだ。病院の一件で少しは解れた(わだかま)りだが、(やっぱり、一回は引っ叩いてやらなきゃ気が澄まない――)それならば此処で負けて不戦敗にはしたくなかった。

 

 ――なら、どう戦えばいい?

 

「あの……」躊躇いがちに機長の優奈に戦術を具申するエリア。

 

「武装コンテナの子機(セントリーガン)を展開しませんか。使わないのなら荷物になるだけですし、ウィルさん相手でも牽制にはなるんじゃないでしょうか?」

 

 セントリーガンは風神改の背部コンテナに搭載された自律型の自走砲だ。それなりの機動性と火力を持ち、戦線での手数を増やす駒として有用な装備だった。しかしながら運用には本体の高度な処理能力が必要とされ、電子戦に長けた複座式の指揮官機でも通常運用では最大搭載数四機に対して二機が限度とされる。

 

「けど――」一瞬ためらう優奈。

 

 ハミルトンが優れた操縦士とはいえ、損傷した相手に正攻法で勝てない、という事実が優奈には悔しかった。だが、それは独り善がりなプライドに過ぎない。このまま相手の土俵で戦っていても敗北は必至だろう。改めてエリアの判断力に舌を巻く。

 

「わかった……それなら全機展開で行きましょう。次いでコンテナをパージ。火器管制を此方に回して、モードはマニュアルで行くわ。エリアは子機の操作に専念、十字砲火を形成して彼を追い詰めてくれる?」

「でも、それじゃ優奈さんに負担が――」

 

 優奈の言うマニュアルとは機体の指一本まで操縦士がコントロールする操縦方法のことだ。完全に操縦者の身体能力が反映され、人型兵器としての利点が最大限に発揮される反面、操縦者の脳神経への負荷は高くなってしまう。そして旧世代の制御システム故にSSSに組み込まれたエフェクトの増幅機能には対応していない。けれど優奈にとっては最も得意とする制御モードであり、旧市街での戦いではこれを用いてレックスを撃破している。

 

「大丈夫、あたしを信じて。アイハブコントロール」

「……はい、ユーハブコントロール」

 

 こちらを気遣うエリアに心の中で感謝しつつ、機体のコントロールを掌握。全神経を研ぎ澄まし、機体と身体を一体化させる。神経接続、マニュアルモードON。

 

 エリアの操作で切り離された子機が左右に展開、火線によってウインドⅢの行動範囲を狭めてゆく。それと連携して、機体重量を軽減させ機動性を増したウインドⅠはアサルトライフルと高周波ブレードを用いた波状攻撃で畳み掛ける。

 

『……搦め手で来ますか。ようやく本気になってくれたという事ですね』

「悔しいけどウィル君に剣技では勝てそうにないからね。使えるモノは使わせてもらうわ」

『いい判断ですよ。あのまま戦っていたなら、結果がどうあれ僕は貴女を軽蔑していた――』

 

 総勢五機の攻撃を受け、流石に防戦一方になるウインドⅢは一旦距離を取ると、戦場中央の岩塊の陰に身を隠した。エリアはウインドⅢを包囲するべくその背面へ子機を誘導する。

「これなら」後席のエリアの声に歓喜が滲む。四機の照準がウインドⅢを捕らえた刹那――しかし立て続けに四つの爆発が起こった。

 

「そんな……」驚愕するエリア。彼女の操作する子機の反応は全て消失していた。微かなフェリオン反応。ウインドⅢが直前に放った四閃の斬撃から延びる力場が子機を切り裂き、破壊したのだ。

 

「なるほど……要するにあなたのエフェクトの正体は()()()()()()()()()()()()って事ね?」

ご名答(イエス)。大気中のフェリオン粒子を操り、不可視(インビジブル)の刃を創り出す……それが僕のエフェクトですね。御覧の様に、刀身から放つことでちょっとした飛び道具(ショット)としても使えたりもします』

 

「丁寧な解説ありがとう――」臍を噛む優奈。再び形勢は逆転していた。子機を撃破され、ウインドⅢが遠距離攻撃が可能ならば間合の利は失われる。

 

「ごめんなさい、役に立てなくて……」後ろから消沈したエリアの謝罪が聞こえた。

 

 そんな事ないよ……優奈はそっと呟く。エリアがハミルトンの奥の手を引き出したのだから。予めそれを知っていれば……まだ()()()はある。けれど、それは――

 

『おいおい、出し惜しみしてる場合じゃないだろ?』揶揄(からか)う様に志生が煽る。

 

『へえ、ユナにはまだ隠し技(サプライズ)があるという事ですか……ならば』

 

 ハミルトンはウインドⅢの大盾を投げ捨て腰を落とすと、高周波ブレードの刀身を機体の後ろに隠す、奇妙な体勢を取らせる。それは中世日本の、侍と呼ばれた人々が用いた剣技の“構え”の一つだった。

 

「まさか合衆国人の……騎士の名家(ハミルトン)である貴方が居合とはね……」

『この技はショーコの父君から学びました。ハミルトン流ではありませんがご容赦を。けれど僕のエフェクトとは中々に相性が良いのですよ』

 

 居合は刀身が届く範囲を結界とし、中に踏み込んだものを両断する待ちの戦法だ。独特の構えはリーチを捉え辛くする。其処にハミルトンのエフェクトが加われば尚更だ。駆け引きの必要のないデザイア相手では意味をなさないが、一対一の対人戦では有効な戦法といえる。

 

(先に仕掛ければ負ける。けど動かなければ勝てない……それなら)優奈は軽く深呼吸をすると、

 

「エリア、()()()()()()()

「……えっ!? それ、どういう――」

 

 ウインドⅠが左手のアサルトライフルを斉射する。焦れたかの様なその攻撃は、鷲尾の狙撃すら切り払ったハミルトンの一閃によって当然のように防がれ、同時にウインドⅢの刀身より放たれた不可視の刃がウインドⅠを襲う。サイドステップ。右へ回避行動。直撃は避けたもののウインドⅠの左腕がアサルトライフルごと爆散する。エリアの悲鳴。

 

「――ここで!」強く大地を蹴り、方向転換。優奈は思考アクセルを全開にしてウインドⅢへと突貫。技を放った直後の隙を狙う。高周波ブレードの切っ先がウインドⅢの胸部へと延びる。

 

『妙手ですが、甘い――』ウインドⅢは抜き放った刀身を翻し、そのまま二の太刀を放つ。

 

 ――ガシュッ

 

 激しい金属音。仄かに緑色のフェリオン粒子の輝きを帯びたウインドⅢの刃。それは目前に迫ったウインドⅠの機体を正確に両断していた。撃破判定のアラート――

 

『……成程、それが――』ノイズに沈むハミルトンの声。

 

 ウインドⅠの姿が霧のよう消えた瞬間、ウインドⅢの胸部を、巨大な刀身が貫通していた。それはTD用の高周波ブレード。ウインドⅢを刺し貫く、桜色の隻腕。

 

『――お見事です……』溜息を吐くようなハミルトンの声が通信から聞こえた。

 

 桜色の巨人がゆっくりと刀身を引き抜くと、ウインドⅢはガクリと膝をつく。それと同時に深紅の巨人の姿にノイズが走った。チリチリと歪み、次第に単純化されたオブジェクトへと変化し、少し安っぽい弾ける様なエフェクトとなって消えてゆく。

 

《ウインドⅠ・来栖機、ウインドⅢ・ハミルトン機を撃破》

 

 博士の趣味なのか、人気声優の声を模した合成音声がこの対戦の終わりを告げていた。

 

「何が起こったの……?」

「……あたしたちの勝ち……って事よ」

 

 荒い息を吐きながら、優奈は狐に抓まれた様なエリアにそう答える。翡翠色の瞳で前方に残る漆黒の巨人を見据えながら――

 

 

□□□Meanwhile in ~

 

「いやあ、若いっていいねえ。これぞ青春って感じで♪」

 

 薄暗い戦闘指揮車の車内。いくつものモニターがVR空間内の状況を映し出している。

 橘花学園特別講師にして特務試験機小隊(Code Rainbow)の技術顧問である鷲尾(わしお)(かなめ)博士はボサボサの頭を掻きながら、傍らに立つ同学園一年一組担任にして同小隊指令、眞喜志(まきし)一之(かずゆき)の肩を叩いて笑った。

 

『こちらハミルトン、模擬戦闘訓練を終了しました……厳罰は覚悟の上です』

 

 優奈に撃破されたハミルトンから通信が入った。眞喜志が苦々し気に悪態をつく。それは命令無視をした彼についてなのか、この状況に対してのモノなのか。

 

「他人事のように言わないで下さい、博士」

 

 能面のような表情に滲む苛立ち。それが怜悧な眞喜志から伺えて、博士は知れず微笑んだ。彼もまだまだ若い。模擬戦を強制終了させれば済むだけの事じゃないか――

 

(それをしないのは、あの優奈君が()()をみせたからかな)

 

 優等生にして努力家。常に最善を尽くし、大人たちの期待に答え続ける。周囲が期待する、絵に描いたかのような、英雄・来栖(くるす)征史郎(せいしろう)の娘であること。そんな、彼女自身が望んだことに、常に協力してきたのが征史郎の元部下であった眞喜志一之という青年だった。ペルシアの地で征史郎が暗殺された事を、優奈と志生に伝えたのは、負傷し本国待機中だった彼だという。それ以来眞喜志は忙しい任務の合間を縫って来栖家の世話を焼き、二人の……特に征史郎の一人娘である優奈の保護者的立場となった。

 

(悔恨、贖罪……ま、キミも拗れてるからねえ。僕みたいに割り切ってしまえば楽なのに……)

 

 SSSが完成すれば希少な存在であったTD操縦士を一気に増員できる。そう思って研究を推し進めてきた。それが年端もいかない子供たちを戦場に送る事になる可能性から目を瞑って。SSSに適合するのはフェリオンサーキットを持つ世代、つまり大戦後に生まれた十八歳以下の子供たちだ。大人たちの始めた戦争のツケを子供たちに払わせるのか? 自分たちは彼等に守られながら。

 

(僕だってそんなのは嫌だね――)

 

 システムの完成を受けて、早くも神聖同盟は政府に働きかけて学徒兵の正規軍への編入を可能とする法案を提出させようとしている。お手軽な戦力補充だ。若者の未来を、可能性を摘み取ることと引き換えの。()()()ですらその流れを止めることはできない。猶予は無かった。

 

 だから僕は眞喜志のお伽噺(ファンタシー)に協力している。この戦いを終わらせるのは、厭く迄も大人たちでなければならない。けれど()()大人たちを奮い立たせるには英雄(にえ)が必要だ。絶望を希望に変える、来栖征史郎のようなお伽噺が。

 

(大人の戦いと言いながら、子供たちを利用する。まったくもって目的から乖離しているよ)

 

 最低な事を行いつつ、さも子供たちの理解者であるかのように振舞う。我ながら厚い面の皮だと思う。魅悠宇はこんな父をどう思うだろうか――

 

「博士、勝手に黄昏れていないで、さっさと強制終了をかけてくれませんか?」

 

(あ、やっぱり気づいてた?)眞喜志の冷静な指摘に博士は心の中で舌を出す。

 

 仮想データとはいえ、エフェクトを用いたTD同士の戦いのデータなど滅多に取れるモノではない。そもそも戦術人形用に搭乗者の所持するエフェクトを増幅するシステムはSSS同様に、此処で試験している新規技術なのだから。加えてエリアの持つ未知の能力。この際だから少しでも多くのデータを取りたかったんだけどなぁ……

 

「……あれ?」

「どうしたのです?」

 

 強制終了のコードを入力して、博士はキョトンと小首を傾げてみせる。あまりに似合っていない仕草を不安げに見詰める眞喜志。

 

「ゴメン、無理っぽい。これはコードが書き換えられてるね~」

 

 何度入力してもシステムはそれを受け付けず、ロックが掛かる。上位者権限でそれを解除しても肝心なコードは通らない。セキュリティの為に幾重にもしたコードは解除にかなりの時間を有するだろう。電源等による物理的な終了は、パイロットの脳にかなりの負荷をかけてしまう。

 

「何てことだ……」かぶりを振る眞喜志。内部で決着がつくまでこのまま放置するしかないのか。

 

借り物を流用(手抜き)したりするからよ、パパの馬鹿……』

「うん、そうだね。ハハッ……魅悠宇はかしこいな~」

 

 中破判定で行動不能となった鷲尾からの通信に、博士は乾いた笑い。

 

「鷲尾、榊。お前たちだけでもログアウトする事は出来ないのか?」

 

 博士を憮然と睨みつつ、眞喜志は通信の通じている二人に尋ねる。

 

『何度も試してるんだが、無理そうだぜ……』

『もしかしたら、撃墜判定が出ていないからなのかもしれませんね~』

 

 この模擬戦システムは実機のコックピットを使った、Gや搭乗者へのフィードバックは反映されない簡易的な物だ。軍用の正規のシミュレーターならば、戦闘結果と搭乗者の状態を予測して即座に切断が行われるのだが、カラーズのイレギュラーな能力を反映するには役不足だった。これも予算不足のツケなのだ。……ゲームのエンジンを流用したのは確かに僕の手抜きだけれども。

 

『こちらハミルトン、こちらは問題なくログアウト完了しました。ミユの言う通り撃破される事が条件なのでしょうか? そしてミッションの終了条件は不明、となっています』

 

 ウインドⅢのハッチを開放しながら、ハミルトンが報告した。やはり付け焼刃のシステムとはいえ、単純なバグというより何らかの作為を感じる。

 

(でも、一体誰が、何の目的でコードを書き換えたんだろうね……)博士は頭を掻いて思案する。

 

 ――と、その時。指揮車のハッチが開き、麻色の髪の少年がひょっこりと顔を出した。

 

「ふふっ、なかなか楽しい事になってるじゃないですか」

「学徒兵の務めである訓練をサボって、今更何の用だ。殊勝にも懲罰を受ける気になったのか?」

 

 いつもの口調で悪びれもせずに乗り込んできた麻色の髪の少年――水無瀬内匠を、横目で鋭く一瞥する眞喜志。「そ、それはちょっと……」冷徹な視線に一瞬怖気づく水無瀬だが、

 

「……ボクも此処で見ててもいい? いえ、此処で見させてくれませんか、眞喜志指令」

 

 今度は真剣な目で眞喜志を見据えて、ハッキリそう言うのだった――

 

 

□□□模擬戦闘訓練・Ⅳ

 

(すまねぇな、ハミルトン。柄じゃない事をさせちまった)

 

 撃破判定で消えていくウインドⅢを見やりながら、志生はハミルトンに礼を言った。自信家ではあるものの、本来あんな挑発的な事を言う男ではないのだ。隊全体を考えて気遣いの出来る、好漢であり理想的な紳士……苦手な相手ではあるものの……それが志生がこの数カ月でハミルトンに対して抱くに至った掛け値なしの評価だった。

 

 それにしても――志生は目を閉じ、微かに呟く。

 

(英雄の娘、か。流石と言うべきなんだろうな。けど、お前は――)

 

□■

 

 赤茶けた荒野。激しい銃声と硝煙の臭い。爆散する僚機から、戦友(飼い犬)達の断末魔が通信越しに聞こえる。教団のエンブレムを付けた鋼の巨人の残骸。それが連綿と、屍の海の様に視界に拡がっていた。燻る炎と黒煙の中からゆらりと姿を現す漆黒の機体。

 

 その者の名は勝利の英雄(ウルスラグナ)――異教徒たちがそう呼ぶ黒い巨人。多くの同胞を屠った荒神。それを倒すことが僕たちに与えられた聖なる任務だった。大いなる光より授けられた力を以って鋼の巨人を駆り、悪魔を滅ぼす。その高揚感に僕たちは突き動かされていた。

 

 だというのに――

 

 僕たちは獅子に戦いを挑んだ哀れな子羊の様に、一方的に打倒されゆく。決して僕たちが弱い訳ではない。教団の大人たちは威張っていたけど僕達を恐れていた。大いなる光の加護を受けた僕たちには敵わないのだから当然だ。異教の戦士たちと巨人で、そして生身で戦い、僕たちは常に勝利してきた。神の名において彼等の命を奪ってきた。

 

 だというのに――

 

 気が付けば僕は只一人、漆黒の荒神と対峙していた。奇妙な叫びが聞こえる。それが僕の口が発した悲鳴だと気付くのにしばらく時間がかかった。恐怖なんてモノは、あの()()()に置き捨てて来たって思っていたから。

 

 蹴破られるドア。鮮血と悲鳴。床に長い黒髪が広がって――

 

 あの時と同じ恐怖と無力感に打ちのめされながら、僕は英雄という名の悪魔に挑みかかった。その時僕は泣いていたと思う。それも洟まで垂らしながら。自機の手にしたメイスを目前に迫った漆黒の巨人に、無我夢中で叩き付ける。しかしその攻撃は空振りに終わり、次の瞬間、強い衝撃を受けて僕の巨人は大地へ倒れ伏した。

 

 頭から滴るぬるりとした液体。鈍痛。白濁して行く意識――

 

 どのくらい時間が経ったのか。眩しい光に目を開けた時、僕は白い壁の部屋に居た。清潔なベッド。薬品と消毒用アルコールの臭い。すぐ傍には僕を覗き込む男の人の顔があった。

 

「――よかった。君は……生きていてくれたんだね」

 

 笑顔を涙でクシャクシャにして、()()()は擦れる声で呟いた。まるで救いを得た咎人の様に。

 

「変な顔……」けれど僕の第一声はそれだった。大の大人が情けない。そう思ったから。

 

「そうかい?」

 

 その人は拳で涙を拭って、にっと笑う。けれど赤く腫れた目の周りが余計酷くなって、僕は思わず吹き出してしまった。ちょっと憮然としたその人は、かぶりを振ると僕と一緒に笑い出す。

 

(変な人だな……)助かった事。解放された事。その人はそれを自分の事の様に喜んでいた。

 

 僕を助けてくれたその人が漆黒の荒神を駆る英雄・来栖征史郎だと知ったのは、その半年後……僕が彼の養子となり、日本に連れて来られた後の事だった――

 

■□

 

(――お前はお前でしかない。あの人の代わりは出来ないんだよ)

 

 此方に対して身構える桜色の機体。それを刹那見やりながら、志生は背部ラッチに懸架されている対装甲槍(アーマーピアッサー)を保持すると、一気に距離を詰めた。

 

『せっかちね。()()()()、しないんだ?』

「いるかよ、そんなもん――」

 

 冷たく響く優奈の挑発を志生は鼻で嗤う。風神改はハミルトンによって左腕を失い、子機を全機破壊されている。細かい損傷も含めれば満身創痍と言っていい状態だ。

 

『態々こっちに合わせて……そういう上から目線な所が気に入らないのよ』

 

 的確に桜色の機影を貫いた槍は、しかし虚空を突いただけだった。即座に死角側面からの斬撃が来る。志生は機体を捻るような挙動でそれを回避、同時に足払い。軽く跳躍して避けた風神改は、体勢を崩した荒神改四を上方から袈裟懸けに切りつける。激しい金属音。漆黒の機体はそれを槍で受け止め、仕切り直しとばかりに距離を取った。

 

「今の攻撃は良かったぜ」

『……っ……!』

 

 率直にそう言うと、矢継ぎ早の攻撃が襲いかかって来る。(判り易い奴)それをいなしながら志生は苦笑した。指揮官が感情的でどうする……と思う反面、今はこれでいいとも想う。隊の皆に見せる英雄の娘(他所行)の顔ばかりでは――

 

(それにしても、狩野は大した奴だよ)

 

 新たに優奈の相棒となった、頑なに自らを()()だと定義する黒髪の転入生。しかし適性があるとはいえ初のTD搭乗で、優奈を的確にサポートしている……それは普通を逸脱した結果だった。地下街での出来事、そして病院の一件。金髪に変貌したエリアと機械の戦士。彼女が異質な存在だという事を志生は身を以って知っている。

 

()()()()、か)

 

 畳み掛ける様な剣戟の嵐にじりじりと後退を続ける荒神改四だが、

 

「残念だったな……」風神改の動きが突然、目に見えて鈍化するのを見て、志生は呟いた。

 

「アクセラレータ。身体強化系(ブーストアップ)故にマニュアルモードでも問題なく使えるエフェクト。欠点は三分弱という制限時間と、反動としての著しい体力消耗……だったか?」

『……』

 

 高周波ブレードを此方に突き付けたまま、風神改の動きが止まる。まるで息を荒げているかのような挙動。『優奈さん、大丈夫ですか!』管制官のエリアの心配げな声が通信越しに聞こえた――

 

 

能力(エフェクト)の反動って奴だ。ま、しばらくほっとけば治るから心配しなくていいぜ』

 

 対峙する桂城機からぶっきら棒な通信が入った。操縦士席で苦しそうに息を吐く優奈から「やっぱり負け、か」と微かな呟きが聞こえる。不思議とその言葉から悔しさは感じられなかった。ハミルトンを破ったエフェクトを用いても互角に立ち回る志生の技量を、優奈は認めているのだろう。

 

 なにはともあれ、これで訓練は終わる――ホッと安堵の息を吐くとエリアは、

 

「志生さんて凄いんですね。でもどうして旧式機なんですか?」脳裏に浮かんだ疑問を口にする。

 

 大掛かりな改修が加えられているとはいえ第一世代機である荒神と、試作機とはいえ最新鋭の第四世代である風神とでは性能に隔絶した開きがある。唯一荒神が勝る点と言えば、フレームの強度と洗練されていない故の無駄の多い機体構造……人体に近い……による追随性の高さだが、性能差を覆す要因とはなりえない。

 

『昔取った杵柄って奴だ。俺はカラーズじゃないし、感覚変換(SSS)使()()()()からな』

「使えない……? でも志生さんてわたしより一つ上の……一七才ですよね」

 

 エリアは訝しむ。志生も自分たちと同じフェリオンサーキットを持つ戦後世代のはずだ。

 

「志生……桂城くんはナノマシン処置を受けているのよ」前部席で優奈がポツリと言った。

 

「サーキット保有者にナノマシン……そんな事って……」絶句するエリア。

 

 戦後世代は神経に張り巡らされたフェリオンサーキットにより優れた身体能力を持ち、本来なら操縦士としての適性も高い。だがTDの操縦に必要とされるナノマシンの施術を受ける事は出来なかった。神経系に定着したフェリオン粒子はナノマシンの定着を阻み、殆どの場合は死を齎す激しい拒絶反応を引き起こすからだ。

 操縦士適性を持つ戦前世代は戦死や退役で年々枯渇していく。故にTD操縦士は希少であり、ナノマシンを必要としないSSSを鷲尾博士が開発したのは主にそれが理由だった。

 

『そんな馬鹿な事を考えた()()()()()()()が居たんだよ……神の戦士を以って悪魔を駆逐する、なんてな。あの頃はSSSなんて理論すら出来ていなかった。一山いくらで掻き集めたサーキット持ちの餓鬼をTDに乗せるには、無茶だろうが施術するしかなかったのさ』

 

(桂城さん……)他人事の様に淡々と語る志生。軽い口調とは裏腹の凄惨な内容。かつて志生はデザイアとの共存を唱える世界規模のカルト組織・光芒(ひかり)教団に拉致され、少年兵として戦っていたという。それが自分を二度救ってくれた彼の原風景なのか。

 

「ナノマシンとサーキットは似た性質を持っていて干渉するの。桂城くんの場合サーキットからの出力がSSS側で拾えずリンク出来ない。粗雑な施術でサーキットと絡み合って定着したナノマシンを除去するのは不可能……だから彼はSSS前提の風神には乗れない……」

『ま、違和感に慣れちまえば、()()は中々便利(チート)なんだぜ。桂城志生の()()()()()ってな――』

 

 心なしか気遣うように語る優奈をいつもの口調で混ぜっ返す志生。

 

「あたしはエリアに、真面目に説明してるのよ」果たして優奈の声音に剣呑なものが宿る。

 

『ん? 俺の身体の事なんて()()()()じゃないだろ――』

「…………っ!」

 

 アッという間もなく、激しい金属音が響いた。ウインドⅠが高周波ブレードを投付けたのだ。ウインドⅤ、頭部ユニット大破。(鈍感な人……)知り合ったばかりの自分でも判る地雷。それを思いっ切り踏み抜いた志生に、エリアは呆れ、溜息を吐く。

 

『おい、来栖、桂城……夫婦漫才はいい加減にしろよ。勝負はついたんだろ? 眞喜志の野郎が切れる前に、さっさと終わりにしようぜ。エリア、ログアウトだ――』

 

 罵り合いを始めた二人を見かねて、“死体役”として沈黙を守っていた榊から通信が入った。

 

『わたし的にはユナ先輩のヒートアップを見ていたい気も――』鷲尾の能天気な声が聞こえる。

 

『鷲尾は少し黙れ、ややこしくなるから……』

『あ、そっか。ショーコ先輩は外で待ってるウィル先輩に、早く会いたいんですね♡』

『だ・ま・れ』

 

(なんだかな――)二人の掛け合いに苦笑しつつ、エリアは指揮官である優奈の承諾を得て終了処理を実行する。それにしても、眞喜志指令は何故こんな勝手な事を強制終了もせずに黙認していたのだろう? そんな疑問を懐きつつ情報画面を見やると、

 

「エラー……?」突然の警戒音と共に画面が赤い文字で埋まっていく。

 

「どうかしたの、エリア?」

「原因不明のエラーが……ログアウトできないんです」

 

『狩野さん、聴こえるかい?』その時、ヘッドセットに男の子にしては高めの声が届いた。

 

「その声は水無瀬君? でもどうやって――」機体の通信は切られている筈だった。

 

『隠し回線……こんな事もあろうかと、ボクが風神改の管制官席に組み込んでおいたんだ。何度も優奈先輩に機体から降ろされたから、外部から何とか支援出来ないかな、と。……ジャックされる可能性があるから使った事は無いんだけどね』

 

 そう言って鼻を鳴らす水無瀬。『水無瀬、貴様は――』『眞喜志君、此処は抑えて――』背後でそんな声が聞こえた気がする。エリアは溜息を吐くと水無瀬の言葉を待った。

 

『やっぱり指揮官機側でもログアウト出来ないみたいだね。博士と調べてみたんだけど、今この訓練システムは外部から改竄を受けているみたいなんだ。この状況を“終了”させる為には、設定された“勝利条件”を満たす必要がある――』

 

 設定された勝利条件? まるでゲームだ。確かにこの模擬戦プログラムはDDOのエンジンを流用しているって聞いていたけれど。一体何が起こったのだろう。

 

 うなじが逆立つような感覚――

 

(上から来るわ――)()()()()()()()()が脳裏に響く。「桂城さん、優奈さん、避けて!」それを受けて反射的にエリアは叫んでいた。それが何なのか()()()()()()から。

 

 有無を言わさぬエリアの叫びに、二体の巨人は左右に散った。そこに眩い光の柱が突き刺さる。強力な光学兵器の輝跡。その起点となる上空には――

 

 巨大な光学砲を保持する人型の白い機影。『あの武器は……』それを見た志生が微かに呟いた。

 

「あれはTD……なの?」呆然とそれを見詰める優奈の声。

 

 上空より降下した白い巨人は、逆制動を掛けて地表に軽やかに着地する。全高八メートル、仄かに発光するフェリオン装甲。細部は異なるが全体的なフォルムは志生の荒神改四に酷似している。

 

 それは特徴的には戦術人形(タクティカルドール)に分類されるであろう白金の騎士だった。

 

『ふうん、仮想空間とはいえ、まだ設計案(プラン)しかない荒神弐式を出してくるとはね……こいつが()()()()って訳かぁ。なんだかこの改竄をした奴の顔を拝みたくなってきたよ』

 

 空気を読まずに喜悦を滲ませる水無瀬の声が聞こえた。どうしてこんな事に……困惑するエリアの視界の片隅に、チラと情報スクリーンのログが映る――――

 

 □□Operation Name_Machinery Knights

 □□Tactical Objectives_Defeat Lord Sulaymān with Platoon“CR”

 □□GAME START⏎

 

 

Continue to next Episode □□□

 

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