U.C.0094 とある写真家の旅   作:春風れっさー

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三枚目『友人の笑顔』 四枚目『基地祭りのジムⅡ』

 三枚目は友人のはにかみ顔だった。早めにこの同行者のことについて書いておこうと思ったからである。

 一見今回の旅の趣旨とは外れるように見えるが、彼もまた貴重な戦傷の一つだ。

 

 私がこの旅に出られたのも偏に彼の支援あってこそである。あまり運転が得意で無い私の代わりにレンタカーの運転手を買って出てくれることもそうだが、特に大きいのが金銭的支援である。

 つまり、借金だ。友人は返さなくてもいいと笑うが、私は借用していると思っている。

 

 三十代半ばの男が、男二人とは言え一年ほどの旅程の旅――正確にはまだそうとは決まっていない。あくまで見積もりである――の金をポンと出せるのには訳がある。

 何を隠そう、彼の実家は名家だ。しかし、地球の名家では無い。

 彼の家は一年戦争の終わり、ジオンから脱出した貴族家だった。

 

 ジオン貴族。それはサイド3の発展に寄与したいくつかの富豪たちに与えられた称号のようなものだ。旧世紀の遙か彼方から続いてきた血筋ではなく、単にコロニーの発展と共に栄えてきただけの家系である。

 しかし、ジオンにおいては本物の貴族だった。だからこそ、悪名高きザビ家は権力を握ることが出来たのだから。

 彼はその中でも自分は分家だと言って笑うが、彼の屋敷の広さを思い出せば私の笑いは止まる。彼の家の屋敷ではなく彼の屋敷だ。住んでいるアパートがまるまる一つ入ってしまうとは思った。私の部屋換算では考えたくもない。

 

 そんな彼の家は、一年戦争が終結すると同時にジオン本国を脱出した。あの時のジオンは共和国化したとはいえ血筋の良い人間が居ていい場所では無かった。財産の没収、反乱の旗頭、そして暗殺……待ち受けたであろう災禍は枚挙に暇がない程だ。

 彼らは持てる財産を全て抱えてコロニーを離れ、地球へと降り立った。他のサイドではジオン難民は受け入れてもらえなかったからだ。ジオンの所業は地球の人間だけではなく他サイドも恨んでいた。

 戦後のドサクサに紛れて大地に立った彼の家は事業を始め、なんとか根付くことに成功した。

 その後ティターンズの手によって一時投獄されたりもしたが、現在は元通りだ。私もその時はすごく心配したが、その当時に私が出来ることはカラバに協力することぐらいだった。

 何はともあれ彼の一家は現在も一般的に富豪と言われる立場を確立し、現在まで存続している。ジオンの外において現存している数少ない貴族家では無かろうか。

 

 彼の人生は激動だ。兵役こそ跡取りということで免れたが、戦争の空気を間近で感じたのには変わりない。実際、ダイクン派とザビ派の争いの時には銃弾が頬を掠めるような体験をしたと言う。彼が拳銃を肌身離さず持っているのはその時の経験からだ。

 地球に来てからも親の事業の手伝いに奔走し、そしてティターンズの全盛期のはまたもや命の危機に陥った。処刑を免れたのはグリプス戦役が勃発し、ティターンズがそれどころでは無くなったからに過ぎない。

 しかし彼がプリズンブレイクしたと聞いた時は仰天した。確かに彼の存在はカラバに伝えたが、だからといってそんな大立ち回りを演じるとは思わなかった。その後のカラバ時代は私と彼にとってもっとも忙しなかった時期だろう。キリマンジャロは地獄だった……。

 

 彼は幾度となく戦争の風雨に晒され続けてきた。今もまた、シャアの所業によって元ジオン貴族である彼らへの批判は高まってきている。

 彼がこの旅へ同行することになったのはそういった時節も関係しているのかもしれない。

 

 余談だが、彼本人の人格は貴族のイメージとはかけ離れている。普段はガハハと笑い、酒と女に生きている人間だ。写真ではにかんでいるのも、私がなるべく貴公子然と見えるようにプロデュースしたからだ。

 ……彼がトラブルに巻き込まれるのは本人の資質も大きいかもしれないな。

 

 

 

 

 

 四枚目は連邦軍の基地祭りで撮ったジムⅡの勇姿だ。手には子どもを乗せてピエロのような扮装をしている機体もあるが、勇姿だ。

 

 連邦地上軍の主戦力は現在も旧式のジムⅡだ。彼らは一年戦争時、数を揃える為にオミットされていた性能を原型機のガンダムレベルまで引き上げただけの機体であり、つまり一年戦争の頃と変わらない性能の機体だ。そんな彼らが何故十数年経った今でも主力機なのか?

 それは、ティターンズの凶事の所為である。

 

 ティターンズ。ジオン残党の撲滅を掲げて設立された特殊部隊。

 堂々と『地球至上主義』を謳う彼らはエリート故の視野の狭さと若さ故に過ちを犯した。

 スペースノイドの弾圧。そして虐殺。コロニーに毒ガスを用いた30バンチ事件はジオンの再来と言って差し支えない所業だ。ジオンと真逆の思想を持つ彼らが同一視されるのは何とも歴史の皮肉を感じる。

 ティターンズの横暴はエゥーゴという反連邦組織を生み出し、グリプス戦役という戦争を引き起こした。この戦争は地球市民にとっては少し遠い世界での出来事だが、スペースノイドにとっては一年戦争の次に記憶に刻まれた戦争だろう。

 結局この戦争がもたらしたものといえばアースノイドとスペースノイドの確執の強化、アナハイム・エレクトロニクスの台頭。そして次の戦争に繋がるアクシズの襲来だけだった。

 

 それは連邦軍軍備にも言える話だ。

 かつては連邦軍も、もう少し発展した装備を持っていた。

 軍事面において連邦を牽引したティターンズのお零れを預かり、ハイザックやギャプラン等と言ったジムⅡよりも高性能なモビルスーツを所有していたのだ。

 それが何故現在は残っていないのか。それはティターンズの悪名の所為である。

 ティターンズの引き起こした事件はそのまま連邦の威信の低下に繋がった。ティターンズは間違いなく連邦の一組織であるが、全く御し切れていなかった。好き放題にするティターンズを止められず、グリプス戦役時の連邦軍は翻弄される哀れな老象に過ぎなかった。

 しかしティターンズの所業は連邦の不祥事でもある。連邦としては全く言うことを聞いてもらえなかったのにその悪名だけ被ることになった。彼らにとってしてみれば理不尽だろうが、情けなさの責任でもあるので市民として見ればさもありなんというところである。

 

 つまり連邦にとってティターンズの装備を続けて使うことはそのままイメージダウンに繋がるのだ。敵国であったジオンの兵器は戦利品であるが、ティターンズの兵器は不祥事の証だ。到底そのまま使えるものでは無い。

 ティターンズで使われていたモビルスーツは粗方破棄され、連邦軍でも使用されていたハイザックは目立たないところへ配置換えとなった。こうして人々の目につくところで活動するのは、クリーンなイメージを持つジムⅡたちだけである。

 

 モビルスーツ好きとしては惜しいところだが、それはそれとしてジムⅡもいいものである。

 シンプルな造形に隠された機能美は一種の芸術品ですらあると思う。生産のし易さも連邦軍主力機の座を射止め続けている理由の一つだろう。浪漫が薄い機体だと唾棄するマニアもいるが、量産機には量産機の魅力がふんだんに詰まっている。流石にもう陳腐化し老朽化が問題となっているが、専門家の間では完全な機種変更にはまだもう少し時間がかかるという見解だ。早く地上でもジェガンが見たいものである。

 

 ……友人からは「お前、世界中のモビルスーツが見たいからこの旅を始めたんじゃねぇか?」という言葉をいただいてしまったが、子どもたちに紛れてはしゃぐ私には反論することは出来なかった。

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