ヒロアカ×Fate   作:トラッキング

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07 USJ編

 水曜日、午前の授業を終えて、午後のヒーロー基礎学が始まる。

 普段、授業開始のために時間を食われるというわけではないが、その日は早めに着席する事を指示され、全員がチャイム前には席に座っていた。先生も珍しく予鈴が鳴る頃には既に教壇に立っており、何か準備を始めていた。

 本鈴と同時に、相澤が話し始める。

「今日の授業は、人命救助(レスキュー)訓練だ。俺とオールマイト、13号の三人体制で行う。戦闘訓練以来の実技訓練だ、気合い入れろよ」

 ざわり、と教室がどよめいた。

 これまでヒーロー基礎学は、ヒーロー法についての座学だったり、基礎能力を手に入れるための運動だったり。まあ普通の授業とさほど変わらない内容だった。生徒達は拍子抜けしていたと言えるし、欲求不満だったとも言える。

 つまり待ちに待った授業だった訳だ。思わずその心意気が漏れる者達がいるのも、仕方ない。

 ただし、相澤には関係のない話だが。

「話の途中だ、黙っておけ」

 ぴしゃりと言われて、教室は一瞬で静まる。

「今回、コスチュームの着用は各自の判断に任せる。必要だと思った者だけ着ていけばいい。ただし、コスチューム自体は持って行くこと。ヒーロー活動はコスチューム着用が大原則、着てたから救難活動に支障がありました、なんて言い訳は許されない。授業最後の方じゃ、さわり程度でもコスチューム着用状態での活動を体験させるからな」

 ぴ、と手元のリモコンを押すと、コスチュームが収納されているハンガーが小さい駆動音を立てて出てきた。

「着替え次第外のバスに集合、速やかに搭乗しろ。向かう先は少し離れてるから迅速に動け。以上」

 全員が一斉に動き出す。行動は効率的かつ迅速だった(早くしないと後が怖い)。

 バスの前に集合すると、飯田が声を上げた。

「全員、速やかに行動するため、二列に並ぶんだ! 搭乗したら奥から素早く着席するように!」

 が、内部は彼が予測していた横2列型ではなく、縦列と横2列複合タイプだったためあまり意味はなかった。飯田は席に座りながら落ち込んで声を上げていた。それでも段取りは守っている辺り、ヒーロー科の委員長らしいと言えばいいのか。

「なんであいつってこう、気合い入れるほど空回りするんだろうなー」

 ぼんやりと言ったのは砂藤だ。連日の放課後訓練で、それなりに仲が良くなっている。高度連携(と、それを断ち切る者)を要求される関係上、不仲でいられる訳もなくはある。

 現輪は横2列タイプの座席で、隣には耳郎響香が座っていた。彼女は眠たいのか、こっくりこっくりと船をこいでいる。一度かくんと頭を落とすと、その拍子に起きたようだ。一瞬、ここがどこだか分からないと言った様子で周囲を見回し、バスの中だと分かると、恥ずかしそうに涎を拭く。

「疲れてるみたいだな」

 現輪が言うと、彼女は顔を赤らめた。今の一連の動作を見られていたと思ったのだろう。実際見ていたので、否定は出来ない。

「まあ、ね。分かってるつもりではあったけど、ミュージシャンとヒーロー活動、両立するのって大変だわ。救いは、どっちかに行き詰まったらもう片方で気分転換できる所だけど。なんだかんだ、どっちかの活動はノってやれるからね。まあ、楽しくはあるよ」

「そいつは上々」

 耳郎と他愛のない話をしていると。

 いつの間にか縦列座席では、個性の話になっていたようだ。わいわいと、レスキュー向けの個性やら、ヒーローで扱いやすい個性やらと離している。

「なー魂魄!」

 と、いきなり切島が声を掛けてきた。

「今さ、緑谷の個性について離してたんだけど、実際の所あいつの個性ってどうなんだ!? やっぱ制御不能か?」

「んー……わかんねえなあ」

 いつの間にかまた寝入り、肩に頭を乗せて意識を飛ばす耳郎に、さりげなく位置を直して寝やすくしてやりながら。

 理屈の上では、できるはずではある。ただしこれは、幼い頃から個性を体になじませていればの話だ。ましてや人から移ってきた個性というのが、どれだけ融通が利かないのかは、現輪が量れる所ではない。

「そもそも緑谷って個性のオンオフだけ、0か100だけしか今まで意識してなかったんだよなあ。微調整や制御がそもそも頭の中になかったって言うか。つい先日、微調整の“感覚”だけを魔術で教えたから、これからに期待としか言い様がないが」

「あー、まあそうだよねー」

「皮肉とかじゃなくて、個性の扱いが幼児と同じだからな」

「10年の遅れは痛いわよね、けろ」

 芦戸、切島、蛙吹が続けて言う。

「あくまで私見だけど、緑谷の個性は発動倍率が決まってる類いのもんじゃないと思う。後はまあ、時間と努力の問題でなったらいいなと思ってる」

 オールマイトと同じように……と内心だけで付け加える。全くの手探りでは難しいが、要は彼の感覚をオールマイトのそれに近づければいいのだ。サンプルがあるなら、いくらか成長も早まるという希望は持てる。

「俺の“硬化”は最初あんま強度ない類いのもんだったから、その点緑谷は恵まれてるぜ! 遅れを取り戻すのは大変だろうけどがんばれよ!」

「うん! 早く皆に追いつかないと……!」

 緑谷はぐっと、小さくポーズを決めて気合いを入れていた。

「制御が難しいっていう意味じゃ、魂魄ちゃんも同じよね」

「俺の場合は、そもそも制御できないタイプだからな。というか、制御できる範疇だと、自分で言うのもなんだが完璧に制御はしているんだ」

「そうなのかね?」

「ああ」

 カクカクと腕を動かしながら問う飯田に、なんと言えばいいかとしばし考えて。

「例えばこのクラスでも飯田みたいな奴から爆豪みたいな奴まで、いろんな()()を持つ人間がいる。そんなに奴らに「とにかく俺の言うことを聞け!」と言った場合どうだ? 飯田なら不承不承でも聞いてくれるかも知れない。だが爆豪なら絶対に聞かない? そうだろ?」

「ったりめえだボケ!」

 最後の問いかけは爆豪に向けたものだが。彼は期待通りというか、強く反発した様子で答えた。

 爆豪の大声に、びくんと肩に乗っている耳郎が震えた。が、起きる様子はなく、頭の座りがいいようにもぞもぞと動いていた。

「とまあこうだ。これは別に、爆豪が悪いわけじゃないぞ。当たり前の事なんだ、一個の人格がある人間なんだから。ましてやサーヴァントから見れば、俺なんて目下、格下の人間だ。そもそも言うことを聞いてくれる方が例外なんだよ」

 いつの間にか、バス内の視線はほとんど現輪に集まっていた。相澤ですら、注意して言葉を聞いていたくらいだ。

「俺に出来たのは、たった二つだけだ。呼ばれてきた奴を無視しない。そして差別しない。本当に、たったこれだけなんだ。それで、なんとか奇跡的なバランスでやってきてる。個性の制御は頑張ってるが、サーヴァントの制御なんて考えたことがないよ。せいぜい、問題を起こさない奴に裁量を多目に振ったくらいだ。もし俺がサーヴァントを支配していいように扱おうなんて考えたときは、多分、それが俺の破滅の時だ」

「なんというか、聞くだけでもぞっとしないはなしね、けろ」

「そうだな。俺も今の個性で良かったと思わされるよ。魂魄にゃ悪いが、魂の具現化個性なんて冗談じゃねえや」

「ま、悪いことばかりでもないんだ。俺が強くなれたのは、間違いなくサーヴァントに指導されたからだし」

 一応、フォローだけは入れといた。

 言っていて、ふと現輪は気がついたように呟いた。それは誰に向けたものでもなかったのかもしれないが。

「どのみち、人間なんて体一つだって理想通りに動いてくれるわけじゃないんだ。今更個性がちょっとばかりままならなくたって、嘆くような事でもない気がするよ」

「そんなものなのかなー?」

 どこか疑わしげな芦戸の言葉には、苦笑するしかなかったが。

「多分そんなものだよ。そうやって15年やってこれたんだから、文句を言うほどのことでもないんだ。本当にね」

 

 

 

 着いた場所は、救難訓練場というよりは、どこかアトラクションじみていた。誰かが「USJかよ!」と声を上げる。現輪は首をかしげた。

「USJ?」

「魂魄ちゃん知らないの? 有名なテーマパークなんだけど」

「あいにくとそういうのとは縁のない人生だったからなあ」

 あるいは、人生がまるまるアトラクションのようなものだが。

 呟くと、周囲の視線が集まった。半分は信じられないというもので、もう半分は哀れんだものだった。なぜそんな目で見られるのか、とちょっと釈然としなかった。

 先生、13号が生徒の前に立ち、声を上げる。

「地震、台風、ヴィランの暴走……それらに伴う無数の事故・災害。そういったものでも特に発生件数が多いものをここに詰め込みました。その名もウソ(U)災害(J)事故(K)ルームです」

 ふむ、と現輪は頷いた。

「やっぱりこれがテーマパークなんだな」

「違うわ」

 きっぱりと蛙吹に否定されたが。

 13号と相澤が、ぼそぼそと密談していた。普通に考えれば打ち合わせなのだろうが、にしては声を潜める理由というのも分からない。

「先生!」

 飯田が声を上げる。腕はそこまでしなくてもというほど、垂直に起立していた。もげてそのままどこかへ飛んでいきそうな勢いだ。その動作の大きさが学級委員長として頼りがいがある理由であり、同時にどこか空回りしていると言われる所以でもある。

 なんにしろ、今は空回っていない方だった。

「先生方が3人体勢と聞いていたのですが、オールマイト先生はどうしたのでしょうか!」

「あー、それを今13号と話していたんだが……どうも急用でな。授業後半には合流出来る見込みだ」

「なるほど、了解いたしました!」

「他に質問は? なければ進めるが」

 相澤は誰の手も上がらないのを確認して、13号に目配せした。

「では僕から、言いたいことはいくつかあるのですが、重要な事だけ」

 13号はどこか雰囲気を変えて――これはおそらく怒気だ――続けた。

「我々の許可なく個性を人に向けた場合、その者は僕の権限において即除籍です。これに救済措置はありません」

 ぴりぴりした雰囲気に気圧されて、全員が押し黙った。誰かが飲んだ固唾の音が聞こえる、そうとすら思えるほどの重圧。

「この中に心当たりがある者もいますね? あえて誰とは言いません。ですが、温情はその一回限りと思ってください。僕は相澤先生ほど厳しくはありませんが、甘くもありません。不用意に、感情的に個性を人に()()()()()()()()者はヒーローになどできません」

 びくり、と爆豪が震えた。クラスの半数ほどの人間も、彼の方を見ている。

「13号……」

「相澤先生は黙ってください。僕はこの一点に限り、あなたには賛同できません。最低でもその場で何かしらのペナルティを与えるべきだったんです。いいですか、心当たりのない者も他人事だとは思わないように。僕は常に目を光らせているし、目撃した以上絶対に許しません。分かりましたね?」

「はい!」

 全員が、戦きながらも返事する。爆豪は悔しげだったが、それでも返事をしないほど幼くはなかった。

 13号は手を打った。その途端に、脅すような雰囲気が霧散する。

「よろしい。ヒーローとは、個性を人のために使える者、これは大前提です。さらにその上で、どれだけの事が出来るかが問われます。これは一生の事だと思ってください。以上! それではこれから、レスキュー訓練のガイダンスに入りましょう」

 言葉を終えた瞬間――

 中央噴水広場近くで、無数の気配が湧き出た。その中には隠しもせず、敵意、害意……そしてなにより、殺意があった。

「先生!」

 現輪は思わず叫び、気配の方向を指さした。

 相澤も13号も、なんだか分からないと言った様子だったが。指した先を見て、瞬時に二人は構えた。

「13号!」

「はい! 全員その場から動かず、指示を待ちなさい! 相澤先生、守りはまかせて」

「何だこりゃ! いきなり意味わかんねえっすよ先生!」

「ぼさっとしてんな!」

 呑気な事を言っている切島の頭を思わず叩きながら、現輪。

「これは襲撃だよ!」

 黒く広がった塊が、一点に収束していく。それはやがて人型を取って、頭部らしき場所に白い線が入った。どうやら黒い男が、ヴィランを運んだ個性を持っているらしい。現輪はひっそりと、その男の危険性を最上位に置いた。あの男さえ何もさせなければ、どうにでもなる。逆に言えば、あの男に好きにさせると、手の施しようがない。

「13号……イレイザーヘッド……おや、おかしいですね。先だって手に入れた情報では、イレイザーヘッドではなくオールマイトがいるはずですが」

「チッ! 先日防衛機構を壊したのはお前らか。あの混乱に乗じやがったな」

 相澤が悪態をつく。が、彼がそうした理由がもう一つあるのを、現輪は分かった。

 抹消ヒーロー・イレイザーヘッド。その名は、実のところほとんど知られてないと言っていい。本人が露出を望んでいない事もあり、雑誌などで全く扱われないのだ。それこそ知名度で言えば、木っ端ヒーローに毛が生えた程度だ。彼の名を知っていると言うことは、情報収集を怠っていないという事になる。

 まさか雄英を舐めている訳もないが、それにしたって、名声で言うならぶっちぎり最下位の相澤まで調べて来ている。これだけでも脅威はそこらのヴィランより上だ。

 リーダー格らしい体中に手を貼り付けた男が、どこかひび割れた声で言った。

「なんだよ……オールマイトがいないなんて……いきなりゲーム不成立じゃないか」

 ぶつぶつと、小さく独り言を言う。声などさほど大きくないはずなのに、その声は妙に通った。

「何人か殺せば出てくるのか? なあイレイザーヘッド、どれくらい殺せばオールマイトは出てくると思う?」

 掌の男を無視して、相澤は叫んだ。

「13号、連絡は!?」

「駄目です、通じません。有事の有線回路も切られているようですね」

「やることはただの突撃でも、過程は周到か。ここに居ないブレーンがいるな」

 彼は視線を隠すための網目が入ったゴーグルを装着し、首の布を緩めた。特殊な繊維でできたそれは、拘束具であると同時に、武器でもある。

「上鳴、お前の個性で連絡!」

「試しました! でもダメッス! ジャミングか何かされて通じません!」

「チッ! 本当に準備がいい」

 吐き捨てて、彼は包帯を構えた。

「13号は全員連れて避難だ。俺は殿を務める」

「無茶ですよ先生!」

 絶叫したのは、緑谷だった。

「先生の個性は多対一に極端に弱いじゃないですか! それをこんな人数……ただじゃすみませんよ! 本当に死んじゃうかも!」

「覚えておけ、緑谷」

 相澤が、階段から飛び降りるように跳ねた。

 作られた災害を万が一にも外に出さないためか、USJは盆地のような形になっている。入り口からかなり長い階段があるのだが、彼はそれを一足で飛び降りた。当然、普通の人間が同じ事をしてただで済む高さではない。それをたやすく行う当たり、高い身体能力と体術が窺えた。

 飛び降りた相澤は、すぐに乱戦へと持ち込んだ。いくら抹消の個性があろうと、四方から狙われて消去し続けられるわけではない。それを封じるためなのだが。

(おかしいな……)

 現輪は戦いを見ながら、独りごちた。

 相手の反応から察するに、“消去”の個性を知らなかったらしい。少なくとも有象無象は。彼らの幹部格らしき掌の男と霧の男は知っている様子だったのに。

 ついでにいえば、戦い方もなっちゃいかなかった。いくら相手の手口が分からなかったと言っても、多対一でさえたやり方など決まっている。統制を保ち、相手の足を止めて、数を頼りに袋叩きにする。これで手練れだろうが何だろうが、大抵は勝てる。が、彼らはあっさりと混戦に持ち込まれ、相澤に終始ペースを握られていた。

 さらに、一人一人が弱かった。たしかに喧嘩慣れしている様子はある。体も大きな者が多い。が、それは単純に素質があるといった程度の話しである

(ただのチンピラの集まりだ……これで……この程度で、オールマイトを狙う?)

 その疑問こそが、現輪の抱いた最大のものだった。

 相澤が時間を稼いでいる間に、集団は扉へとついていた。ほぼ同時に、13号の悲鳴が上がる。

「開かない……システムが奪われてる!? 仕方がない、無理矢理壊して……」

「申し訳ありませんが、逃がすつもりはありません」

 いつの間にか現れた霧の男。現輪でも、気配が急に切り替わったようにしか感じなかった。おそらくは転移系の個性だ。

「こんにちは、ヒーローの卵達。我々は(ヴィラン)連合。我々の目的はオールマイトを殺すこと……あなた方には、オールマイトをつり出す餌になって貰います。まずは、ヒーローに無力と絶望を食らっていただきましょう」

 瞬間、ぶわりと広域に、闇の膜が舞った。

 現輪は脚に力を入れて、しかし失敗に舌打ちする。襲撃をかけるには、位置取りが悪すぎた。人が周りにいすぎて、進むも退くも上手くいかない。

 彼に変わって素早く動いたのは、爆豪と切島だった。素早く殴りかかる。それは成功したように見えたが、しかし攻撃は、霧に散らされていた。

「反応が早い。さすがは雄英生徒ですね。しかし……迂闊」

 さらに大きく広がった闇が、まず真っ先に二人を包んだ。

「って、すぐ避けられもしないのに突っ込んだのかよ!」

 闇は卵形に、かなり大きく広がっていった。

 現輪はそれに包まれる前に、脚に貯めた力を解放した。垂直にまっすぐ数メートル跳ねて、個性の影響外に跳ねて出る。

「おや? 一人逃げられてしまいましたか。まったく、本当に。ヒーロー候補生は恐ろしい」

 現輪が落下するより早く、霧の男は消えていた。彼が落ちれば、真っ先に攻撃されると分かっていたのだろう。ちっと舌打ちして、現輪は地面に降り立つ。次にしたのは、地面を確認することだった。

(血は……ないな)

 霧の男の個性が、転移系である事は割れている。ではそいつにやられて最も恐ろしい行動は? 転移の途中に個性を切って、擬似的な、なんでも切れる剣にされる事だ。

 周囲に血痕がないという事は、あの一瞬で殺されたという事はないだろう。とりあえず、現輪はほっと息を吐いた。まだ考えら得る可能性はある――地面の中に直接転移されて窒息死だとか――が、生存率が高まったことは嘘ではない。

 次にすべきこと。これは簡単だ。すぐさま脱出して、先生を呼んでくる。現輪が全力で走れば、どれほどもかかるまい。

 全力で跳ねて、壁の向こうへ飛んでいこうとして。レーザーか何かだろうが、正体は分からないが、とにかくそんな物に打ち落とされて、内側へと戻された。

(侵入者防衛機構……内側からも機能するのかよ! 鉄壁過ぎるだろ雄英! これじゃ助けを呼べない!)

 さすがに毒づいて、現輪は着地した。

 雄英の防備は、かなり強力だ。が、それが逆に裏目に出た。さすがにこの規模で、電子制御に寄らない非常脱出口がないという事もないだろうが、現輪が探すほどの余裕はなかった。というか、非常脱出口のためにUSJ内を走り回るなら、ヴィランを全滅させた方がまだ早い。

 個性で防衛機構までをも掌握、ないしは暴走させているヴィランだが。さすがに長時間奪っていられる個性の持ち主がいるとは思えない。まさか、電子機器制御などという個性の持ち主が複数いる訳でもないだろう。そうは思うが、希望的観測は最大の敵だ。それこそヴィランよりよほど恐ろしい。ほんの一度裏切られただけで、人はあっさり死ぬ。時間経過による脱出の可能性も折り込み、正攻法の脱出は困難だと思った方がいい。

 次善の行動は、考えて、彼はすぐ行動に移った。さきほど相澤がしたのと同じように、階段を飛び降りる。

 相澤の背後、異形型個性のヴィランが襲いかかっている。それに相澤が対処するより早く、現輪は殴りかかった。膝を横合いから蹴り抜いて、折ってやる。異形型ヴィランは悲鳴を上げたが、そんなものは無視して相澤と背中合わせになった。

「お前……!」

「報告!」

 相澤が全ていう前に、現輪は声を上げた。

「現在入り口からの脱出は不可能! おれ以外は転移個性持ちに散らされて行方不明! 現在すべきなのは、ここにいるヴィランを可及的速やかに排除して、再度脱出を試みるか、他の生徒達を探して安否を確認すべきだと思います!」

 ぐっと、相澤の押し黙る気配。

「恐らく緊急防備が暴走している。これを止めるには、センターに行って教師IDで承認する必要があるが、今はそんな余裕ないな。13号なら上手く非常経路から脱出してくれるだろうが」

「その機能をヴィラン側が全部奪った可能性は?」

「ない。センターシステム自体は雄英本校に設置されている。こっちにあるのは制御装置だけだ」

 とりあえず、最悪のパターン、ヴィランに施設ごと乗っ取られている訳ではないと知って、安堵する。

「俺はわりかし対人特化なところがあるんですよ。どんだけあるか分からない防備を抜くよりは、ここで先生と戦って、とっとと抜けた方がなんぼかいいかと。それとも、戦いはおれに任せてとっとと逃げてくれますか?」

「駄目だな。そんな危険なギャンブルはできない」

「おいおい、一人逃がしてるじゃないか。黒霧の奴、使えないなあ」

 ぼりぼりと、いらだたしげに顔を掻いて、掌の男。

 なんとなく、ではあったが。木っ端揃いのヴィランの中で、彼だけは『鍛えた』形跡を感じた。彼がヴィランを盾にしながら襲いかかってくれば、それこそ脅威だっただろうが。今のところその気配はない。それだけが吉報といえた。

 発動系個性だろうか、氷や火などが現輪に飛んでくる。それらが発動できているという事は、背後を任せてくれたのだろう。現輪はそう判断した。

 地面に転がる、砕かれたコンクリートの破片を蹴飛ばす。それで火を迎撃し、氷は手で弾いてやった。

 タイミングを合わせて――合わせたつもりだろうが、動き出しが遅い――ヴィランが左右から突撃してくる。姿勢から打撃勘を持ってるのは感じるが、そもそも正規の訓練を受けていない。手で拳を受け止めて、軽くねじってやる。そうすれば、自分の力で腕が折れる。

 骨が破砕する鈍い音。一瞬送れて、ヴィランの耳障りな悲鳴が、二つ響いた。

「おい! あまりやり過ぎるなよ!」

「基本的に相手の力でぶっ壊れてるんですよ。そういうのは敵にいってください」

 相澤に注意されるが、そう言うしかなかった。

 基本的に、現輪が教えられている技は必殺だ。そもそも相手の安否ど考えない。とりわけ八極拳などになれば、殺さない方が難しかった。

「おいおい、いいのかよヒーローの卵。ヴィランとはいえ、そんな風に痛めつけてさ」

 掌の男が、嘲るように言った。

「おれは危険人物はがんがん殴りつけるタイプのヒーローだよ。相手を痛めつけてるのに、痛みも知らず更生させるなんて都合のいい話しは信じない」

「ハハハ、俺たちよりよっぽど危ない奴じゃないか」

 何がおかしいのか、男はけたけたと笑っていた。

 しゃべっているうちにも、ヴィランは襲いかかってくる。そのたびに半殺しにしていると、そのうち及び腰になる者が出てきた。現輪を見て怯えながら、なんとか遠距離攻撃で対処しようとしている。

 そのうち近づいてこなくなったので、相澤の背後を空けない程度に接近してなぎ倒していく。

 相澤も少し余裕が出来てきたのか、合間に上手く呼吸を入れながら、現輪に言った。

「おい、お前の“個性”は使えないのか?」

 ぼかしているのか、彼の言葉は少々曖昧だった。

「一人ここにいる気配はあります。誰かまでは、おれには分かりません。それでも手を出してこないという事は、奇貨とでも思ったんじゃないですかね。実践を積ませる好機だとでも。なんにしろ、頼りにはならないと思ってください」

「まったく、いい個性だよ!」

 相澤は叫びながら、ヴィランの一人を縛ってこちらへ投げてくる。落ちてくるヴィランの顎を打ち抜き、割ってやる。口から血をまき散らしながら、気絶したヴィランが転がっていった。

「それより問題は霧の男――黒霧とやらですよ。あいつがフリーハンドでいる限り、いくらでもなんとでもなります」

「個性で分かったことはあるか?」

 現輪はちらりと掌の男を見た。

 彼は話しを中断させてくる様子がない。それどころか、面白そうに様子を静観している。よそ見をしたと判断したヴィランが襲ってくるが、それは視線も戻さないまま蹴倒した。

 彼の隣には、体中に傷を持った、奇妙な男がいる。あるいはこれが自信と余裕の源なのか。見た限りでは、呼吸すらしているか分からないほど、微動だにしないが。

「複数人数を同時に転移させる強力なワープゲートの個性。個性の範囲は広く、発動も早い。おれ以外誰も逃げられなかったくらいですから。個性そのものに殺傷能力を持たせられるかは分かりませんが、少なくとも条件はある。じゃないとあの場で皆殺しにしなかった理由がありませんし」

 掌の男は、やはり何も言わない。それどころか笑いは深まり、続けろと言っている風ですらあった。

「推測その一、一定以上の質量がある場合は個性を切れない。推測その二、個性を切って擬似的な切断機にはできるが、即応性がない。推測その三、切断を行う場合は、なんらかのリスクがある。個人的には一番であってほしいですがね」

「はははは! 本当に優秀だな雄英生! 正解だよ。二番と三番の複合だ。やるじゃないか」

「ついでに、他の答えも教えて欲しいもんだね」

「ご褒美だ、死ぬ前に教えてやるよ」

 けらけらと、掌の男。

 これで全て把握したという訳でもないが、とりあえず分かったことはある。この掌の男にとって、今回の襲撃はゲームと何ら変わらない。子供が友達と遊ぶのと同じように、そして、それで本気になって怒らないように。その程度の感覚なのだ。

「あんたの自信の元はその隣の男か? 生きてるんだか死んでるんだかも分からなそうな」

「その通り! 見る目があるじゃないか。こいつが本命、オールマイトをぶっ殺してくれるのさ」

 にたにたと笑う。高らかに笑う。これもまた子供らしく、自慢のおもちゃを見せつけたくて仕方ないといった風だ。

「そして、お前達もこれからこいつに殺されるんだ。やれ、脳無」

 瞬間、暴風が荒れ狂った。

 脳無と呼ばれた黒いヴィランは、もうほとんど壊滅していた、残り少ない仲間を跳ね飛ばして近づいてきた。颶風に跳ね飛ばされたヴィランは、死んではいないようだった。が、放っておけば死ぬだろう。そんな風に思えるほど、勢いよく飛んでいた。

(俺より早い!)

 思考を加速させ、迫る敵を迎撃する体勢を取って。限られた時間の中で、現輪はそれを認めた。自分より早い。速度で競えば勝てない。

「脳無、先にイレイザーヘッドを行動不能にしろ。生徒の方はその後で言い。奴に見せつけながら、ゆっくりと殺してやるんだ」

 言葉の内にある残虐性を隠そうともせず、掌の男。

 相澤は即座に反応できるよう体をたわませて構えていたが、しかし全く足りていなかった。速度を目で追うことも出来ず、あっという間に組み伏せられる。

 脳無が相澤を組み伏せる姿勢は、めちゃくちゃだった。それこそ下から暴れれば、簡単に抜け出せただろう。突っ伏した相手の腕を持っているだけなのだから。しかし、腕力差が大きければ、話しは変わってくる。のしかかるわけでもなく、腕を握っているだけで動きを封じる。並の腕力差では起こらない。

「ぐ……魂魄、逃げろ!」

「ははは、終わりだ、イレイザーヘッド」

 相澤の悲鳴のような声と、嘲笑が聞こえる。相澤では勝てない、現輪は瞬時に判断した。

 手の中に、杭を取り出す。脳無の豪腕が、相澤の肘を握りつぶす一瞬前、肘の内側を突き刺した。

 やけに弾力が強く、思ったほど深くは刺さらなかった。勢いだけで言えば、それこそ腕を半ば切断するほどだったのだが。しかし、役割は果たした。肘の内側の腱を寸断した。どれだけ腕力があろうとも、構造が人間ならば関係ない。人の体は筋肉の連動なしに動けるようにはできていない。

 相澤の判断は素早く、腕を内側に巻き込んで、拘束を破った。脳無とやらはさらに追撃しようとしたが、それも現輪が、もう片方の腕も突いて妨害する。

 転がるようによってきて、受け身を取り、なんとか体勢を整える相澤。その隣で、現輪は油断なく構えていた。

「個性の使用が云々って怒らないでくださいよ」

「言わん」

 彼は短く答えながら、しかし姿勢は低いままだった。今の一瞬で、体のどこかを痛めたのだろう。動けないほど致命的ではないが、普通に戦えるほどでもなさそうだ。

 対して脳無は何事もなく動いている。肘の裏側の刺し傷も、もう残っていない。個性の系統までは分からないが、高い防御力と瞬間回復は確定だった。そして、少なくとも身体能力の方は、“消去”で無力化できない。

「おいおい、情けねえなプロヒーロー。生徒に助けられるなんて」

「その通り。だから、そのでかぶつの相手はおれにさせてほしいもんだね」

 一瞬、掌の男はきょとんとしたが。続いて、大きく笑い始めた。

「はははは! そうか、そんなに死にたいか! ならいいさ。脳無、予定変更だ。そっちの学生から殺せ」

 黒い悪魔が、身を落として構える。

 現輪は目を鋭くしながら、それを迎え撃った。

 

 

 

 

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