【完結】FGO VRMMO インスタント・ホムンクルス   作:292299

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つづき

かつて魔神王によって人理は焼却された。人理定礎は焼き払われ、もはや自然に回復する事はない。星を模したカルデアスから文明の灯火は失われ、それは魔神王を打倒した今も変わらない結末として残っている。カルデアスは燃え尽きたように灰色で、100年先も希望の光はない。

 

それから1年後、地表は漂白された。発芽した空想樹によって、8名のクリプターによる8界の異聞帯が展開される。それは人類の復興を掲げながら、異星の神と呼ばれる存在の降臨を謀っていた。しかしカルデアは全ての脅威を退け、星より襲来した異物を排除する。そうして残ったのは、漂白された星の残骸だった。

 

「カルデアの空想樹を降下させます」

 

カルデアにいる全員を集めた管制室で、そう告げたのは所長代理のオルガマリーだった。消え去った異聞帯で捕獲され、謹慎室に監禁されていた8名のクリプターも並んでいる。空想樹を伐採されたクリプターとしては、オルガマリーの決定に反意を覚えるものだ。しかし、この場でクリプター以上に危険なのは、女神の肉体に内包されたリッカ・フジマルだった。

 

「所長、それは特異点を作るということですか?」

 

リッカは怒りもなく、涼しい声で淡々と尋ねる。女神としての神威も抑え、落ち着いている様子だ。オルガマリーを殺すとしても、そのまま淡々と殺すだろう。女神ロンゴミニアドの影響を受けている事は、誰から見ても明らかなことだ。オルガマリーは逃げ出したい気持ちを抑え、カルデアの所長として意地を張る。

 

「このカルデアは唯一残った、本史の遺物です。このカルデアを起点として本史を復興します。これならば魔神王に焼却された人理も取り戻せるでしょう」

 

それに反論したのはクリプターとして並んでいたカドックだ。

 

「屁理屈だ。空想樹を用いる以上、それは紛い物でしかない。すべての異聞帯を排除して邪魔物は無くなったから、自分にとって都合のいい異聞帯を作る気だろう」

 

それは消え去った自身の異聞帯も否定する言葉だ。胸の前で手を握り締めたカドックは、今は亡きサーヴァントであった皇女を思い浮かべる。消え去った異聞帯に意味はなく、元の世界を取り戻した方がカドックにとっても利益となる。それでも胸から湧き上がる感情を止められなかった。

 

「カルデアでは異聞深度を採用しています。これは本史から、どれほど剥離しているのか示すものです。この異聞深度を基準とすれば、本史に限りなく近い異聞帯を形成できるでしょう。他に質問は?」

 

疑問を上げたのはペペロンチーノだった。

 

「カドックの言った事も、そうね。それに本史へ帰ったとしても、このカルデアが世界を歪める原因になるでしょう。たとえカルデアに引きこもったとしても、魔術協会や聖堂教会は黙っちゃいないわ」

 

キリシュタリアも補足する。

 

「特務機関カルデアは複数の組織から監査される立場にある。レイシフトによって過去を改変されても、それは人々に知覚できないものだ。どのような理由であっても、無断でレイシフトを行った事実は許されないだろう」

 

オルガマリーにとってキリシュタリアは邪魔だった。それは1年も前の話だ。先代所長であるマリスビリーの死んだ後、オルガマリーは所長となった。サーヴァントのマスターとなるための適性も、レイシフトを行うための適性も、どちらもオルガマリーは持ってはいなかった。そのせいでキリシュタリアこそマリスビリーの後継に相応しいなんて言われていた。

 

「そちらも問題ありません。あちらも神秘の秘匿を破りはしないでしょう。魔術協会と聖堂教会を速やかに抑えれば、人理に影響を与える事もありません。そのための戦力もカルデアに十分なほど備わっています」

 

オルガマリーは感情を荒げる事もなく、落ち着いて説明する。オルガマリーの指揮下にムネーモシュネーがあり、そのムネーモシュネーの支配下に空想樹はある。カルデアを貫く大樹は、オルガマリーの戦力となって、オルガマリーの自信を支えていた。

 

そんなオルガマリーに同意したのはベリルだった。

 

「おっ、いいね! ずっと同じ風景で退屈してた所だ。ずっとカルデアにいると気が滅入っちまう。本史に戻ったら外出しても良いよな、大将!」

「良いでしょう。カルデアを辞めるのなら、その前に書類を提出してください」

 

ずっと黙っていたリッカが、口を開いた。

 

「それならば、ボクも退職を希望して良いでしょうか?」

 

大問題だった。

 

ーーー

ーー

 

ダ・ヴィンチの工房にリッカはいた。ベッドに体を倒したリッカは服を脱ぎ、上半身を晒している。そこにあるのは本来は存在しない膨らんだ胸だ。女神ロンゴミニアドの神体だった。その肉体を狙う者は多く、どこへ行っても平穏な生活は望めないだろう。そんな体でカルデアを下山する訳にも行かず、リッカは再び肉体の交換を迫られている。

 

「私のスペアボディへ、君の脳として存在するフォトニック結晶を移植する。だから通常の脳移植と違って、それほど難易度は高くない」

「それは良かった。ダ・ヴィンチちゃんが万能の天才で助かったよ」

 

「誉めたまえ! もっと誉めたまえ! なぁに、ちょっと失敗してもリカバリーできる程度さ。魔術による肉体の操作も、これまでと変わらない。でも事後観察のために、私も君に付いて行くよ」

「ダ・ヴィンチちゃんも退職するの?」

 

「用が済んだらエミヤや陳宮も退去するそうだ。あと召喚したサーヴァントもね。私も退去する予定だったけど、君の肉体が安定するまでは様子を見るよ。なにしろ私と同じTS属性だからね。さらに私のスペアボディとなれば、妹みたいなものさ!」

 

カルデアにおいてダ・ヴィンチは唯一の技師だ。それも居なくなるとなれば、オルガマリーは新しいスタッフを雇うことになるだろう。そもそもスタッフは全滅したのだから、どちらにしてもスタッフは募集するに違いない。ただし、それも魔術協会と聖堂教会の制圧が終わってからとなる。

 

「そうそう、カルデアは雪に閉ざされた山頂にある。外部から移動手段を待つ必要があるけど、そんな事をしていたらカルデアの戦争に巻き込まれてしまうよ」

「その時になったらボクは、女神としての力を失っている。そのまま再びカルデアへ閉じ込められてしまうかも知れないね」

 

「そこで、こんな事もあろうかと格納庫に用意しておいた特殊車両で脱出できるよ」

「さすがダ・ヴィンチちゃん。いつの間に、そんな物を?」

 

「設計図だけ書いて頼んだら、ちみっ子たちが作ってくれたよ。あっという間に出来上がるし、あれって便利だよねー」

「そうだね。ホムちゃんたちが居れば、カルデアも安心かな」

 

診察を終え、ベッドから起き上がる。リッカは服を着て、乱れた髪を整えてもらった。女神の肉体は、いくつかの肉体を内包している。魔術礼装へ加工された藤丸立香としての肉体と、マシュの肉体だ。それらを捨てる事になる。お腹に手を当てたリッカは、お別れする事に寂しさを覚えた。

 

「さて、私は手術の準備を始めるよ。その間、ちょっとした用事を頼まれて欲しい」

「うん、ダ・ヴィンチちゃんの言うことなら何でも聞くよ」

 

「おおっと、それは魅力的な提案だね。でも、大した事じゃない。君の心の整理をするついでに、クリプターの皆にカルデアを出るか聞いて欲しい。正確に言うとクリプターではなかったマシュも含めてね。もしもカルデアから出るのであれば特殊車両に乗せてあげるよ」

「分かったよ。伝えに行ってくる」

 

ーーー

ーー

 

クリプターは謹慎室に閉じ込められていたけれど、今は解放されている。すべての異聞帯が滅びた今、カルデアを攻撃する利点は無いからだ。それにカルデア全体が人工知能であるムネーモシュネーの監視下にある。そんな中、クリプターの男性陣はチェスで対戦していた。そこを訪れたリッカに、カドックが噛みつく。

 

「女神様が何の用だ。滅ぼした奴が、滅ぼされた奴へ会いに来るなんて、嫌がらせか?」

「失礼するよ。ダ・ヴィンチちゃんの伝言を伝えに来た。もしもカルデアから出るのであれば特殊車両に乗せてくれるそうだ。この中で希望する者はいるかな?」

 

「その特殊車両とやらに、お前も乗るんだろうな」

「ダ・ヴィンチちゃんのスペアボディへ交換した後にね」

 

「その時なら、おまえを殺せるかもな。いや、動きを封じて魔術協会へ突き出してもいい。どっちが好みだ?」

「好きにするといい。だが、私も抗わせてもらう」

 

同じ特殊車両に乗るという事は、そういう事だ。それでもリッカは謝らないし、戦うことに迷いもない。復讐者たるアヴェンジャーをリッカは知っていた。もしも謝罪を求めるとすれば、それは可哀想な自分自身に謝って欲しいだけの者だ。復讐者は謝罪など求めておらず、どちらか死ぬまで復讐を終える事はない。

 

「僕は乗らない。まだ僕は、カルデアで何も成してはいないんだ」

 

カドックと対戦していたベリルも続く。

 

「俺もパスだ。弟分を残して行くのは心配だからな」

「本心が透けて見えるぞ。退屈してたんじゃないのか?」

 

カドックの突っ込みに、ベリルは妖しい笑みを浮かべた。

側にいたデイビットも同じようだ。

 

「俺もカルデアへ残ろう」

 

最後のキリシュタリアは2人いる。聖杯によってコピーされたキリシュタリアと、異星の神によって蘇生されたキリシュタリアだ。2人のキリシュタリアは、他から離れた所で対戦していた。保有スキルを切っているらしく、そこに大きな差はない。その盤面をリッカは覗いた。

 

「私の方が優勢ではあるものの、それは先攻だったからに過ぎない」

「逆の立場であれば、そうなっていたのは私だろう」

 

片方は異聞帯を滅ぼし、片方は異聞帯を滅ぼされた。

 

「片方はカルデアに残り、片方はカルデアを出る」

「それが多くの可能性を残す、無難な方法だ」

 

ーーー

ーー

 

クリプターの女性陣は、女子会を開いていた。テーブルに並んでいるのはエミヤの製作した菓子類だ。サクサクのクッキーや、甘いチョコレートケーキ。これらはプレイヤーの製作したプラントで生産された食材を元に作られている。その気になればレイシフトを使って、世界各地から資源の回収も行えるだろう。その女子会へ招かれざる客がやってきた。

 

「あーら、リッカちゃんも参加したいのかしら? でも、ダメよ。あなたの心は男の子のままでしょう?」

「そう通りだよ、ペペロンチーノ。邪魔をして悪いね。今回はダ・ヴィンチちゃんの伝言を伝えに来た。もしもカルデアから出るのであれば特殊車両に乗せてくれるそうだ。この中で希望する者はいるかな?」

 

「そうねぇ。だいたいは決まってるけど、他の人の結果を聞いてからにしたいわ。ここで聞いても良いかしら?」

「それならば、カルデアから出るのはキリシュタリアの一方のみ、と言っておこう」

 

ベリルは残留する、という事だ。

 

「マシュは、どうかしら? カルデアの外へ出てみたい?」

「そう、ですね。異聞帯のことで健康上の問題は解決しました。今の私ならばカルデアから出ることも可能でしょう。でも、それはカルデアを嫌っているという事ではありません。私にとってカルデアは家のような物です。けして出て行きたいと、そう言う気持ちがある訳ではありません」

 

どちらとも言えない、という事だ。

そんなマシュへ、オフェリアは助言する。

 

「私はマシュに色々な人と会って欲しいわ。そうしてカルデアの外とも繋がって欲しい。カルデアにいるだけでは、出会えない人もいるもの」

「オフェリアさんは、どうするのでしょうか?」

 

「私はマシュと同じよ。あなたを放って置けないの。やっとマシュのこと分かり始めたから、お別れしたくないわ」

「オフェリアさん、そうですね。私も、同じ気持ちです」

 

マシュの手を、オフェリアは包み込む。

その手から伝わる温かさを感じていた。

 

「私は、カルデアに残ろうと思います。カルデアが安定するまで心配です」

 

ウインクして、ペペロンチーノも続いた。

 

「私もカルデアに残るわ。こっちの方が楽しそうだもの」

 

ーーー

ーー

 

最後はヒナコだ。キリシュタリアと同じ理由で、ヒナコも2人いる。異なる点と言えば、異聞帯のヒナコは早々にカルデアへ投降した。その際、ヒナコのサーヴァントと、異聞帯の現地人も一緒だった。異聞帯から出れば、その現地人は消えるはずだ。しかしカルデアに生えた空想樹は、その現地人を受け入れている。

 

「項羽様から離れなさいよ、この泥棒猫!」

「偽物のくせに、ずうずしいわね!」

 

「今日こそ殺し切ってやるわ!」

「虞美人は世に1人で十分よ!」

 

「お止めください、私が君!」

 

いつものように2人のヒナコは争っていた。サーヴァントである蘭陵王が間に入り、2人を止めようと試みている。しかし、こうなれば止められるのは、現地人である項羽だ。その項羽は人と言うかロボットだった。不幸なことに項羽は見当たらず、リッカは盾を展開して争いを止める。

 

「ダ・ヴィンチちゃんの伝言を伝えに来た。もしもカルデアから出るのであれば特殊車両に乗せてくれるそうだ。希望するかな?」

 

「こいつを乗せて行きなさい、後輩」

「は? 出るわけないでしょ?」

 

「そうだろうと思っていた」

 

ヒナコは喧嘩を止めた代わりに、互いの頬を引っ張っている。

 

「ひょもひょもーーそもそもカルデアから出られる訳ないじゃない。空想樹を伐採されたら、異聞帯の項羽様は消えてしまう」

「ひょうはいーー後輩だってムネーモシュネーに観測されて居なければ存在できないでしょ。たとえカルデアを退職しても、ずっと監視されたままよ。必要になったら呼び戻されるでしょうね」

 

ーーー

ーー

 

カルデアには小人が住んでいる。それは無限に成長するサーヴァントと例える事もできた。強大な異聞帯を瞬く間に踏み潰すほど、その戦力は飛び抜けている。レイシフトで魔術協会や聖堂教会へ送り込めば、その制圧に時間もかからないだろう。そんな恐るべき小人たちと仲が良いのはリッカだった。

 

「かるであヲ、辞メルノカー?」

「オレも一緒ニ行クゾー!」

「管理者ハ、ドウナルンダ?」

 

「次の管理者は所長だよ。カルデアを退職するのであれば、管理者として権限を保持することはできないからね」

 

小人を制御するサーバーの管理者は、リッカと設定されている。これは小人を嫌っているオルガマリーの場合、サーバーを破壊する恐れもあったからだ。キリシュタリアも候補として上がったものの、小人のネットワークに組み込まれていたので、オルガマリーに拒否された。

 

「でも、大丈夫。これからの事を考えれば所長は、みんなを切り捨てることはできない。ボクの代わりに頼れるのは、みんなだ。その間に良い関係を築いてくれると良いね」

 

ーーー

ーー

 

ダ・ヴィンチの工房へ戻ってくると、ロマニの声が聞こえた。ロマニはダ・ヴィンチちゃんと体を重ねている。魔神王を倒してから、ロマニは解放されたようだった。マシュの健康に関する問題も片付いて、もう何も負っている物はない。楽しそうな2人の声が止まることはなかった。

 

「聞いてくれよ、ダ・ヴィンチちゃん! マシュが僕を避けるんだ! 僕は悲しくて悲しくてー! うわあああああああん!!」

「分かった! 分かったから、ロマニ! えーい、ベタベタと引っつくんじゃない! 早く戻ってきてくれ、藤丸くん!」

 

それを邪魔するのは悪いように思えて、壁に背を預けた。

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