染岡君に夢を見ています。
BL風味!! 注意!!
場所は部室。ホワイトボードを挟むように左右に円堂君と風丸君が立っている。
「帝国戦で俺達の問題点が分かった。それで…」
「問題点も何も、まず体力無さ過ぎ」
何気ないマックス君の一言が俺達の心を一瞬にして傷つけた。
まともに練習し始めたのが最近だからしょうがないとは思うんだけど、やっぱり人に指摘されるとへこむなぁ。これでも毎日走って登下校してるんだけど。もっとスタミナ付けなきゃな。
「体力作りはもちろんやるとして、こんなフォーメーションを考えたんだ」
円堂君がホワイトボードに貼られたコート図に背番号を振っていく。
「えーー!!僕入ってすら無いのぉ!?」
「逃げ出した奴が何言ってんだか…」
あきれた様子の半田君に目金君は戦略的撤退と言って欲しい。と言い返していた。
開き直りが凄い。
ずっこけた空気の中、少し言いずらそうに宍戸君が声をあげた。
「この間の豪炎寺さん呼べないんですかね」
それを歯切りに次々と豪炎寺君を求める声が挙がった。そうだよね、戦力はいくらあっても困らないから。かのエースストライカーがうちにいると分かったら、仲間になってほしいと思うのが普通だ。
それを聞いた途端隣の染岡君の様子が険悪なものになった。
「みんな豪炎寺豪炎寺って、あんな奴いなくても十分だ!俺が本当のサッカーを見せてやる!!」
「そ、染岡?」
「染岡さん…」
「豪炎寺はもうやらないんだろう?」
「それは、分からないけど…」
「円堂まで…。みんなあいつを頼り過ぎだ!」
『…そうだね。あれだけ上手な人が急にサッカーをやめるのはおかしいし、何か事情があるんじゃない?』
「事情ってどんなのだ?」
『さぁ?一般的なのは体を壊したとか、家庭の事情とか?』
「兎に角。俺達だって出来るさ。もっと俺達を信じろよ!」
染岡君の必死の訴えにたじろぐ一同。
不意に部室の扉が開かれた。やって来たのはサッカー部のマネージャーの木野ちゃんだった。みんなの険悪な雰囲気を感じ取ったのか、一体どうしたのかと聞いてきた。
「いや、何でもない」
「…そう?それよりお客さんを連れて来たわ」
「……え???」
お客さんを見るなり素っ頓狂な声をあげる円堂君。どうやら知り合いらしい。
育ちの良さそうなしゃんとした佇まいにの気の強そうなつり目の美少女。この子は雷門夏未。この学校の生徒会長で理事長の娘だ。
全校集会とかでスピーチをする所をよく見かけるけど、こんなに近くで見るのは初めてだなあ。可愛い子ってやっぱ癒されるよね。
部室を睨み付けるように見回した後、彼女は入って来るなり一言。
「…臭いわ」
俺の心にクリティカルヒット!!
何でや工藤!ちゃんと毎日消臭しているのに!消臭剤も置いてあるのに!
だってしょうがなくない?元から埃臭くて汗臭かったんだから。元々男しかいない部活だから匂いとか気にしない人達ばかりだし。もう匂いが染み付いちゃって取れないんだよ!これでもマシになった方なの!
『…ぐふぅっ!!』
「き、清里ーー!?」
『くさい、くさいって…』
血を吐いて倒れそうになった所を染岡君が支えてくれる。
「俺達は毎日お前が消臭してるの知ってるから!元気出せ!な!!」
「あら、これでも消臭しているの?ごみ処理場かと思ったわ」
夏未嬢の最後の一言により、俺のHPは完全にゼロになった。
『……』
「清里ーー!!!!」
「清里さんが死んだ!」
「この人でなし!!」
この瞬間だけ先程の嫌な雰囲気は完全に払拭され、妙な一体感が生れた。
「茶番はもういいかしら?」
「は、はい」
彼女は咳払いをした後佇まいを直し、生徒会長らしい大仰な態度で言葉を紡ぐ。
「帝国学園との練習試合、廃部だけは逃れたわね」
「お、おう!これからガンガン試合していくからな!」
「次の対戦校を決めてあげたわ」
次の試合って早くない?ついさっき帝国と戦ったばかりなのに。
そんな俺と違って、みんなは興奮したようだ。若いっていいね。まぁ今は俺も若いけど。
盛り上がる彼らを他所に、早く話を進めたいらしい彼女が顔を顰め始めた。
これは不味いぞ!
『それで、対戦相手はどこなの?』
「尾刈斗中、試合は1週間後よ」
尾刈斗中?とみんなの頭にハテナマークが大量に浮かんだ。
名前だけ聞くと何か物騒だよなぁ。錬金術とか召喚術とかを習っているのかな。一体どう言う学校だよ。
しかも1週間後だって。早い早い、1か月後じゃダメですか。
夏未嬢曰く今度こそ負けたら廃部。但し勝利すればフットボールフロンティアの参加を認める。と言う事だった。
彼女は要件が言い終わるとすぐ帰って行った。
暫し呆然としていたがやっと状況が飲み込めると、フットボールフロンティアに出られるかもしれないと言う事実に、段々と興奮してきたようだった。
さて、あのバカ(顧問)がちっとも役に立たないので、何時もの河川敷にやって来た。
練習が始まっても染岡君のイライラは収まっていないようだった。先程からファールギリギリのプレイをしていて気持ちだけが先走っているように感じた。
無理もないなと思う。これまでの雷門の主戦力は彼だったから。彼は皆より体が一回り大きくて(壁山君は除く)スタミナもある。
今までこのチームで頑張って来たのに、ぽっと出の豪炎寺君のシュートの方が信用されている事に我慢ならなかったのだろう。彼はプライドが高いからね。今回はそのプライドの高さが裏目に出てしまったようだ。
ボールを持った影野君にパスして貰えるよう近くに行った時、なかなかボールが奪えない事にイラついた染岡君が彼の肩を掴んで強引に奪って行った。その拍子に影野君が転びそうになったけど寸での所で受け止めることが出来た。
「うわあ!」
『よっと…。影野君大丈夫?』
「へ、あ、うん、ありがとう…」
『いいえ』
ニコリと微笑むと彼は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
やべ馴れ馴れし過ぎたかな。嫌われちゃったらどうしよう!
『そ、それより染岡君凄くイラだっているね』
苦し紛れの話題転換をした。
「…よっぼど豪炎寺君の事が気に入らないのかも」
良かった。これで無視されたらどうしようかと思った…
その時、いったん集合!と言う円堂君の声で、練習を中断し皆ベンチに集まった。
新聞部だと言う1年生。音無春奈ちゃんが尾刈斗中の情報を持っていると言う事でみんなで聞くことになった。
何でもかの中学は怖い噂が後を絶たないらしい。
曰く、尾刈斗中と試合をした選手全員が3日後に高熱を出し倒れる。
曰く、尾刈斗中が試合に負けそうになると凄い風が吹き出して試合が中止になる。
曰く、尾刈斗中のゴールにシュートを打とうとすると、足が動かなくなる。などなど。
胡散臭いことこの上ない。2番め3番目はまだ分かる。そう言う必殺技だろうなくらいだ。
けど高熱って何だよ。一体どうやったの?逆にやり方を教えて欲しいわ。
怖い想像をしたらしい壁山君がまたトイレへと行ってしまった。
う~ん。呪い、呪いね…
「本当なんですかね。キャプテン…」
「う、噂だよ噂!」
『あ、じゃあさ、視点を変えて呪詛返しとか覚えてみる?』
「じゅ、呪詛返し?」
『そう。昔から人を呪わば穴二つって言うでしょ?』
あの人たち掛けることは慣れてても、掛けられることは慣れてなさそうだし。ましてやこっちにオカルトチックな知識があるとすら思ってないだろうな。対策をしている可能性は低い。つまり相手が油断している今がチャンスじゃない?
「そ、それは最終手段に取っておこう」
『そっか。残念』
「ヒィ!あ、あのやっぱり豪炎寺さん…」
俺の現実的な解決策の提案で更に不安にさせてしまったらしい。1年生はおろか2年生までもが恐怖で震え出した。
ごめんて……
「呪いが何だ!豪炎寺が何だ!あんな奴なんかに頼らなくても俺がシュートを決めてやる!」
「おぉ!その勢いだ!何か豪炎寺豪炎寺って。そりゃあ染岡も怒るって」
恐怖に立ち直った半田君やマックス君のフォローも空しく、今だ1年生達の不安は解消されないみたいだった。
今後の部活動が危ぶまれる試合。人間、勝利する確率が高い方に賭けたいのは当然だ。
もう面倒臭いな。いっそのこと彼が自分から入部してくれれば良いのに。過去に一体何があったのだろうか。
「みんな、人に頼っていたら強くなれないぞ!さぁ練習だ!」
「「お~…」」
放課後、一度帰宅してスポーツウェアに着替える。
俺は結構形から入るタイプだから、円堂君が勧誘に来てくれた日に、近所のスポーツ用品店でサッカーに必要そうな物は一通り買っておいたのだ。
今日着ていく服は最近のお気に入り。吸水性と通気性が抜群!合成繊維を極限までシルクに似せた、肌触りの良い柔らかな着心地!が謳い文句のやつだ。
このシルクに似せた合成繊維は最近になって特許を取ったらしく、値段は合成繊維より高く、本物のシルクより安い。つまり合成繊維が主流の他のスポーツウェアより高くなってしまうが、それが気にならない程機能性に優れていた為購入したやつだ。もうこの生地でないと満足できない体にされてしまった。
最終確認。ウエストポーチにスポドリ2本とタオル、小銭を少々。…よし準備OKレッツゴー!
どこまで行こうかな。う~ん。河川敷通って展望台に上って星空見て帰ろう。
あ、そうだ週間少年誌も買って帰らなきゃ。
河川敷までやって来ると、まだシュートの練習している人影を見つけた。
影がはっきり見えるような距離まで近づくとその人は染岡君のようだった。
彼やサッカーゴール周辺に沢山のボールが散らばっている。今の時間までどれだけ一生懸命に練習していたかが伺えた。
だけどあの様子だと録に休憩をしていないのだろう。疲れすぎは返って練習にならない。それとなく休憩に誘うことにしよう。
『やっほー染岡君。頑張ってるね、』
「ハァハァ…あぁ?…なんだ清里か…」
『一度も家に帰ってないの?』
「んな暇があるなら練習してるっつーの!」
『…そっか。そうだね』
俺と喋っている間も、彼は休まることなく蹴り続けている。
「…悪ぃけど邪魔するならどっか行ってくれ」
多少は気が収まったのだろう。昼間よりも態度は柔かかった。
『ねぇ、ちょっと休憩しない?』
「あ゛ぁん?だからそんな暇ねぇ『これ以上続けても逆効果だよ。』…じゃあどうしろってんだよ!!」
食い気味に言うと、案の定逆上した彼に胸倉を掴まれた。ちょっと苦しい。
下手に刺激しないよう襟を掴む彼の手にそっと自分の手を乗せ、やわらかい口調を意識して声を出す。
『適度に運動したら適度に休む。常識だろう?』
はっとした様子の彼に、やっと伝わったか。と安堵のため息をついた。
芝生に寝転がっている彼に未開封のスポドリを渡す。予備でもう1本持ってきておいて良かった。
「さっきはごめんな。いきなり掴みかかって」
普段の強気の態度で勘違いされているけど、彼は自分に非があるときは素直に謝ることが出来るいい子だ。
二人だけの空間が良いのだろう。ぽつぽつと自分の心境を話してくれた。
「豪炎寺が羨ましかったんだ。何かオーラが違ったって言うか。あいつがシュート決めたときあれが俺だったら、必殺技を持っていたらなって思ってさ」
『…そっか』
「ありがとな。ちょっとは楽になったよ」
凄い、とっても青春してるな。前世ではとても考えられない事だ。
一応年長者からのアドバイスとしては、豪炎寺君には豪炎寺君の良さがあるし、染岡君には染岡君の良さがある。一人ひとり別の人間だから出来ることが違うのは当たり前だ。そのことにどうやって気づくか、どう乗り越えていくかが彼の成長に繋がるだろう。
練習に戻ろうとする彼を呼び止める。
『彼には彼の良さがあるし、君には君の良さがある。焦らなくていい。自分のペースで良いんだよ』
悩め若人よ。君たちの未来は輝いている。
…ちょっとは良いこと言ったんじゃない?
これまで彼の瞳に有った焦りの色が消え、やる気と決意に満ちたものになった。
そうこうしている内に辺りは真っ暗だ。
『それはそれとして、もう真っ暗だよ。今日は帰ろう?』
「いや、俺はもうっちょっと……グウ」
『はははっ!ほら君のお腹の虫も鳴いているし、早く帰ろう。
時間はまだあと一週間もある。君のペースで良い。きっと皆も喜んで練習に付き合ってくれる筈さ』
勿論俺もね。と付け加えると恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。可愛いね。
下らない話をしながら話をしながら暗い夜道を通る。途中本屋に寄って週刊少年誌を買ったら、意外にも漫画の話で盛り上がってしまった。
次の練習の時にはお勧めの漫画を持ってくると約束してそれぞれの帰路に着いた。
次の日、完全に吹っ切れた様子の染岡君は遂に必殺技を完成させ、何故か新たに豪炎寺君も入部し戦力アップに成功したのだった。
めでたしめでたし。
完!!!!!!