店員のお薦め武器を試しに振り回していたら注目を集めてしまった。
聞けば重量級の武器は取り扱いが難しく使い手も多くない。
確かにベルレの街にたくさん居る衛兵を標準とすればレベルは15、筋力は20ぐらいだろうか?
怪力モンスターのマウントコングですら筋力40を超えてない。
僕はレベル15で筋力は52だから、実はパワーファイターだったのか?
おかしい。魔法剣士として頑張るつもりが、重剣士に方向転換か?
性格的には中遠距離戦を主に接近戦は控えたいんだけど……
確かに軟弱ボーイだった頃から比べて倍以上の数値アップたが、元の基本数値と上昇率が他の連中より高い気がする。
アリスやデルフィナさんのステータスを考えれば、その辺のモブ的な衛兵と比べて喜んでちゃ駄目なんだが……
チートなのか違うのか微妙なんだよね、相変わらず運低いし。
「両手剣のお薦めはツーハンデッドソードとツヴァイへンダー。
どちらも甲乙付け難いが、ツーハンデッドソードは突きに特化しツヴァイへンダーはロングソードと同じ使い方ができる……デルフィナさん」
うちの交渉担当に話し掛ける。
「なんでしょう?主様」
シュルシュルと近付いてくれるが、彼女の目は真剣だ。
「リーチのある武器として欲しいのは、この二本なんだけど……デルフィナさんから見て質はどうかな?どちらが良いかな?」
目利きスキルは全く無いので武器の良し悪しが分からないんだよね。精々が見た目の良さだが、実はナマクラだと大損だ。
1200Gと1000Gとか今着てる鎧が300Gなのに比べても相当高い。それだけ金属加工が大変だって事か?
「ふふふ、分かりましたわ。主様の信頼に応えましょう。
普通は自分の武器選定を他人に委ねたりはしないのですよ。まずは……」
あれか?武器には魂が宿る的な?
うーん、江戸時代は武士の魂的存在の日本刀も少し遡れば道具の扱いだったそうだ。だけど命に関わる武器を委ねるのは信頼の証なのかな?
手に持ってバランスを確認したり歪みや欠けを調べたりと真剣に目利きをするデルフィナさんをアリスを膝の上に乗せながら見つめる。
どうやらアリスは飽きたみたいだ……
「二本で2000Gでどうでしょう?」
「いやいや、いきなり下げ過ぎですよ!おまけして2100Gです」
「いえ、長く飾られてのでしょう。使用前に研がなければ……」
長い交渉になりそうだな。膝の上のアリスが退屈そうに欠伸をし始めたぞ。
「アリス、せっかくデルフィナさんが頑張ってるんだから起きてなさい」
両手で目を擦るアリスの頭を撫でる。うん、癒されるな……
「分かりました!合わせて2025Gでどうですか?これ以上はまけられません!」
「良いですわ。鞘はおまけしてくださいね」
これ以上無理と言わせた後に無料で鞘を要求するデルフィナさん、流石です素敵過ぎます。
「分かりました……毎度ありがとうございます、ゲフッ」
ガックリとうなだれる店員と満面の笑みのデルフィナさん。周りの野次馬も結果を確認して満足したのか、散り散りに離れていく。
ベルレの街に来るなり最初から注目を集めてしまったな、反省。受け取りと支払いは帰りになるだろう。
僕の武器だけの高い買い物になってしまった。
◇◇◇◇◇◇
「フェルデン様、面白い者たちを見ましたぞ。前にフェルデン様が調べさせた連中を私も見ました。今、ベルレの街に来ております」
巌ついオッサンが笑みを浮かべて執務室に入ってくるな、キモいわ!
「何だコッヘル。あの若者たちがまた来たのか?一月ぶりくらいか……」
ラミア族の戦士デルフィナと幼女を伴い我が街に来た不自然な若者。
「ええ、報告ではショートスピアを使うソコソコの使い手とありましたが……両手剣を買い求めていました。
中々どうして軽々と振り回してましたぞ。荒削りで技量は低そうですが、鍛えれば強くなりますな」
楽しい玩具を見付けた顔だな。コッヘルも大剣の使い手として名を馳せた強者。
それが興味を持つとは素質はあるというわけか……
「ふむ、両手剣を使えるのか。危険な連中とも思えんし、無理な干渉は控えろよ。
他にも色々と忙しいし、お前にはカインとアベルの鍛練も任せたはずだ。暇なら仕事を増やすぞ」
血の繋がった我が子たちだが、自分で鍛えるのは色々と問題があった。俺の落胆した顔をアイツらに見せるわけにもいかないからだ。
どうしても失望が先に来てしまう、俺の息子たちは凡庸だ……
「ははははは、フェルデン様の御子息様たちは失礼ながら武の才能は無いですぞ。自衛くらいはできるようにはしますが、一角の武芸者にはなれますまい」
時間の無駄か、才能の無い者の指導は面倒臭いのだろう。俺も我が子のことは悩んでいるから分かる、見切りを付けた奴の面倒は大変だ。
親としては失格だが、領主として有能な後継者を育てることは義務だ。
「はっきり言うな、分かってる。後妻と側室を早く孕ませる。
有能な男、駄目でも女を生ませれば……カインとアベルには悪いが仕方ない」
後継者争いをするならば、俺の手で我が子を殺さねばならないか……
「分かりました。フェルデン様か、そこまで覚悟しているのならば従いましょう」
お互い苦々しい顔のままコッヘルは部屋を出ていった。だが、あの若者が両手剣をだと?
ラミア族の戦士デルフィナが主と認めた男だけのことはあるか、前はそこまでの強者とは感じなかったが……
考えても仕方ないな、有能ならコッヘルが対処するだろう、勧誘するなり排除するなり。
まずは机の上の仕事を終わらせないと、妻と側室の寝所に行けないか……山積みの書簡を見てため息をつく。
領主って奴は武芸よりも内政の適性の方が重要じゃないのか?物理的外敵に直接当たる必要は領主には無い。
確かに戦意高揚で前線に出るのは効果的だが、頭が潰されれば大軍とて瓦解する。
最適な人員と補給を用意するのが領主の仕事の一端だろうに。
◇◇◇◇◇◇
宝石類は思った以上に高値で売れた。単品では前回の大玉ルビーには敵わないが、数が多かったので合計16200Gと笑いが止まらない。
「主様、ニヤニヤを止めてください。そんなにも混浴が楽しみなのでしょうか?少し恥ずかしいですわ」
「お兄ちゃん、自重だよ!がっつく男は余裕が無いと思われちゃうよ?」
両手の花から酷い言葉を貰いました!
「ちっ、違うぞ!確かにお風呂は楽しみだけど宝石類が高く売れたことがだね……」
「はいはい、分かりましたがまずは食事をしましょう。前回は市場の露店で串焼きを食べましたが、今回は食堂に行きましょう」
「そうだね、先ずは腹拵えだよ!精力を蓄えないと、干からびるまで絞り取るゾ!」
アリスの語尾が変だった!デルフィナさんの目も捕食者のソレになっちゃってます。
「はははは……お手柔らかにお願いしますね」
たくさん食べないと彼女達に絞り取られて死んでしまう。
流石に死ぬまでは精気を吸わないと思うが、発情して理性を無くしたら分からないからな。
両手を繋がれて某宇宙人ばりに食堂へ連行されました……
初めて入る食堂、イメージは開拓時代のアメリカだろうか?木造の建物、木製丸テーブルに椅子。
四人掛けのテーブルが10組ほど配され既に半分ぐらいが埋まっている。
皮鎧を着込んだ一団や家族連れ、爺さん一人だけと多種多様な客だ。だが、全員が僕らのことを気にしてチラチラ見ている。
大抵は酔客に絡まれたりするんだよな、お約束で……
怪しいのは皮鎧の一団だが、さほどの脅威も感じない。咬ませ犬なら丁度良い相手だが、テンプレな展開は流石に無いかな?
正面にはカウンターがありガッチリした親父が座っている。うん、睨みを利かせてるようで怖そうだな。
「料理の種類はありません。定食と飲み物だけです。私は麦酒ですが主様とアリスは蜂蜜水でよいですか?」
頷くとデルフィナさんが親父のもとへ行き何か話してお金を渡している。当たり前だが先払いなんだな。
しかし室内では彼女の尻尾は面積を取るな。
混んでる場所だと尻尾を踏まれそうだよ、知らない人に尻尾を触られるのを嫌う彼女だから配慮しないと駄目だな。
因みにデルフィナさんは椅子を使わない。
器用にトグロを巻いている姿はソフトクリームみたいです。デルフィナさんは麦酒の瓶だけ受け取りテーブルへ戻ってきた。
尻尾の先が揺れているのは嬉しい証拠だ。言葉遣いも丁寧で所作も上品なのに、何故か麦酒は瓶から直接飲むんだよね。
豪快に飲む姿は男らしいです。
「ふぅ、美味しいですわ」
ニッコリと微笑むデルフィナさん。口の端から少し麦酒が零れてますよ。皮鎧集団もチラチラと彼女を盗み見ている、やはり咬ませ犬か?
「はいよ、これが今日の定食だ。川魚の香草焼きに野菜スープ、それにパンだ。蜂蜜水は瓶ごとだな」
オッサンが葉っぱに包まれた魚三匹とラーメン丼みたいな具だくさんスープ、それに拳大の丸いパン六個。
麦酒よりも二回り小さい瓶と素焼きの椀をテーブルに置いた。ボリューム満点だな。
「ああ、ありがとう。頂くよ」
瓶から椀に蜂蜜水を注いでアリスに渡す。アリスは食事をほとんど必要としないが甘い蜂蜜水は好きだ。
飲み物が全員に渡ったことを確認して「乾杯!」と軽く椀を持ち上げる。
まずは具だくさんスープだが、何と薩摩芋っぽい甘い根菜がゴロゴロ入っている。
「うん、美味い美味い」
酸っぱいスープに甘い薩摩芋が合うね。丸いパンは手に取り半分に割ってみると柔らかい。固いパンがデフォだったので感動モノだよね!
スープに浸して食べれば格別だ。香草焼きは鯰擬きに似ていたが、臭みが消えて食べやすくなっている。
「たくさん食べてくださいね。追加でお代わりもできますわ」
「本当にお兄ちゃんは美味しそうに食べるね。アリスのも食べて良いよ」
ほとんど手を付けていない(食べられない)スープ皿を僕の方へ押しやるアリス。
美女と美幼女に見守られて食事を終えた。お腹いっぱいで余裕ができたので周りを確認するが、あの皮鎧の一団は既に居なかった。
どうやら咬ませ犬じゃなかったんだな。
「おぅ、若い男が蜂蜜水ってなんだよ?ああ、酒を飲めよ、奢るからさ。
そっちのラミアのネーチャンも良いだろ?オヤジ、酒だ!瓶ごと三つ持ってこいや」
巌ついオッサンが太い腕で馴れ馴れしく僕の肩を抱いてきた。
「ちょ、何ですか?いきなり酒を飲もうとか……」
片に回した腕で器用に背中を叩く、力いっぱいだ!
「美女と美少女を侍らせて蜂蜜水じゃ格好つかないだろ?食事代も奢ってやるから付き合えよ。なぁアンタらも良いだろ?」
ニヤリと邪気の無い笑顔を浮かべるが、これは何てイベントだ?ただ巌ついオッサンと仲良くなるイベントなんて知らないぞ。
「そうですわね……確かに主様にもお酒の楽しさを分かってほしいですから。良いでしょう」
「まぁ後はお風呂に入るだけだし良いのかな?」
二人が仕方ないわね的にOKを出したならば、悪い奴じゃないのかな?ならば断ることもないか、黙って頷く。
「よっしゃ!オヤジ、麦酒の瓶三つと適当に摘み頼むわ」
黙って巌ついオッサンが頷くのを見て、違和感を覚える。メニューに無い物を頼んでOK貰えるってことは、馴染みの客かお得意様だ。
少なくとも普通の対応じゃない。改めてオッサンを観察すれば、鍛え上げられた筋肉を纏ってるな。
これは日常的に鍛練を積まないと駄目な肉体だ……
「オッサン、まさか偉い人じゃないよね?」
恐る恐る聞くとニヤリと笑われた。
「兄ちゃん、何でそう思ったんだ?」
無言でテーブルに麦酒の瓶が並べられる。そして山盛りの串焼き肉。串焼き肉を一つ摘んで齧る。
「メニューの無い店で無理を言えるのは常連客かお得意様だけでしょ。奢りってことは金回りも良い。
オッサンの鍛えられた肉体は継続的に鍛練してるものだ。デルフィナさんもアリスも奢りを認めたなら少なくとも悪人じゃない。
金持ちで鍛えられた肉体の持ち主が普通とは思えない」
「クックック……気に入ったよ、兄ちゃん。じゃ乾杯すっか」
瓶ごと酒を持ち上げるオッサンに対して、同じように瓶を持つ。
「じゃ乾杯!」