異種族ハーレムを作るぞ?   作:Amber bird

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第33話

 変なフラグが立っていたのか?脇差を持ち主に返さなかったことへの罰なのか?いや罰って誰が誰にだよ?

 ベルレの街の領主軍大隊長コッヘル様だけでなく、領主フェルデン様と二人の息子たちとまで知り合ってしまった。

 どう見てもフラグだ。そして息子たちには確実に嫌われたと思う。

 

 コッチは死亡フラグだ。

 

 領主直々に勧誘されたが、秘密を多く抱える僕たちはベルレの街に留まりここで働くのはリスキーだ。

 沢山の人間たちと生活を共にすれば、秘密がバレる危険が高い。

 もしアリスが人間でなくレイスだとバレたら……人間に害する妖魔として知られてしまう。

 そして廃墟に封印されていた妖魔が解き放されたと噂が広まれば、関連があるかもと考える奴が出てくるかもしれない。

 たとえ中隊長という好待遇とはいえ断るしかない。そもそも軍隊の戦闘指揮官とか無理過ぎる。

 

「おぃおぃ、即断たぁ畏れ入ったな。中隊長と言えば100人からの部下を扱えるんだぞ。

このベルレの街にだって13人しか居ないんだ。もっとよく考えろよ」

 

 物凄く呆れたような感じで言われてしまった。確かに好待遇を即断するとは思ってなかったのだろう。

 世間知らずと呆れたのかもしれないな。何故ならベルレの街の実状を事細かく教えてくれた。

 

 聞けばベルレの街は全軍合わせて約1300人。大隊長は3人、中隊長は13人、小隊長は130人。

 小隊長は最大10人の部下を持ち中隊長は小隊長10人を配下とする、つまり中隊長は100人前後の部下が居る。

 大隊長は兵種により配下の人数が違うらしいが、コッヘル様は歩兵を率いるために6人の中隊長が居る。

 

 後は騎兵と弓兵と守衛兵、それと補給部隊だ。

 守衛兵は街の治安維持のために、その他は周辺のモンスター討伐を主な仕事としている。警察と自衛隊みたいな区切りかな?

 

 因みに歩兵は槍も扱う戦闘の主力部隊だ。

 騎兵や弓兵は戦場を選ぶが、歩兵はどんな条件でもある程度対応できる。

 

 僕はコッヘル様の配下の兵が増えたために小隊長を増やすつもりだったので誘われたわけだ。

 もっとも小隊長を断ったので、今度は待遇を中隊長に変えて誘われたのだが、勝手に中隊長が増えたら軍は混乱しないのかな?

 

「惚れた女のためならば、それくらいは蹴る覚悟があります。もっとも僕では100人も人を使えるとも思えませんから、断る理由は半々です」

 

 先方のプライドもあるから、女性の……しかも異種族のラミア族のために勧誘を断られたでは不味いと思いフォローする。

 この世界が男尊女卑や人種差別が普通だった場合、僕は異質に思われるからね。

 

 勿論、半分以上は本音だ!部下100人を扱うなんて無理。

 

「ちっ、しゃーねーな。なら、俺の側近でどうだ?

お前、神聖魔法が使えるし文字も読めて暗算とかもできるんだろ。色々と役に立ちそうだ。待遇は中隊長と同じにしてやるぞ」

 

 何故、そこまで僕に拘るんだろう?別に僕じゃなくても同等以上の能力を持ってる連中なら他にもたくさん居るはずだ。

 嬉しいが素直に受け取るのは危険、何か裏があるかもしれない。

 

「ありがとうございます。僕なんかに領主様が直々に声を掛けて勧誘してくださるなんて本当に感激です。

ですが、僕の意見は同じです。デルフィナさんは、この街に馴染めないので申し訳ありません」

 

 深々と頭を下げる、土下座は微妙な対応をされたからな。

 

「見た目によらず頑固だなぁ……分かった、無理強いはしない。

だが、今後もし俺に雇われたいと思っても次は一兵卒からだ。好待遇はもう無いぜ」

 

 そう言って帰ってしまったが、特に気を悪くした感じはなかったのが救いだ。最後は豪快に笑ってたから、変な奴だなって。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お前、勿体無いぜ。俺だって中隊長になるには10年近く掛かったんだぞ!それを女のために蹴るなんてよ、普通じゃないぜ」

 

 コッヘル様に強く背中を叩かれ、よろめいてしまう。上司の誘いを無下に断ったからだが、無理なものは無理だ。

 

「本当にすみません。でも、軍隊生活は無理なんです」

 

「まぁ俺も無理強いしない約束だったからな。さて訓練を始めるぞ。構えろ!」

 

 細かいことは気にしない性格だからか、豪快に笑うと木剣を構えた。

 

「お願いします」

 

 5mほどの距離で向かい合う。コッヘル様は右手に木剣を持ち、ダランとして自然体に構えている。隙だらけなのか隙が無いのか分からない。

 だが注意してよく見れば剣筋は見えるので、上手く体を動かせれば攻撃が躱せるはずだ。

 

「行くぜ、上手く避けろよ」

 

 無造作とも思える足取りで接近し、木剣を振り上げる。前と同じ連続攻撃!

 

 突き、払い、払い、突き……

 

 変幻自在にランダムに攻撃を加えられ、防御するので精一杯だ。相手の木剣を払い躱すが、必ず次の攻撃は受け辛い方から来る。

 

 少しも気を抜けない……

 

「ホラホラホラ、どうした、しっかりしろや?」

 

 力は互角かもしれないが、体が泳いで踏張れないから押し負ける。

 

「腕の力だけじゃ押し負けるぞ。下半身の動きを考えろ!上半身だけの動きで躱せると思うな」

 

 剣筋を目で追うと、どうしても足元まで神経が回らない。その場で動かずに腕だけで対処してしまう。

 

「足を止めるな。

馬鹿野郎、ただ動くだけじゃ上半身の動きとチグハグになるだろ。自分の足を見るな、俺から目を離すな!」

 

 駄目な点を言われるが、正直頭が回らない。コッヘル様の攻撃を躱すことで一杯一杯だ。極度の緊張と精神集中で頭が痛くなってきた。

 

「ほら、足が隙だらけだぞ」

 

 右太股を叩かれて動きが悪くなるのと踏張りが利かなくなる。次の一撃を受け切れずに、よろけてしまう。

 そして木剣を跳ね飛ばされて僕の負けが確定する、その場でしゃがみ込み荒い息を整える。

 

 酸素が酸素が足りない……

 

「ハァハァハァ……もう一回お願いします」

 

 五分も保たずに息は上がるし身体中が痛い。だが、何と無くだが剣を扱うということが分かりかけてきた。

 

「ふん、今度は俺に攻撃してこい。防御だけじゃ勝てないぜ」

 

 挑発に近いニヒルな笑みを浮かべるコッヘル様に、せめて一太刀当てたい。

 

 この幼妻を孕ませたダンディーな羨ましいオッサンに、せめて一太刀!

 

 木剣を両手で握り締めて、彼に向かって走りだす。

 

「気合い十分だな!揉んでやるぜ、かかってこいやー!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 彼らから少し離れた場所で訓練の様子を窺う女性陣。庭先での訓練だから縁側に座って見ることができる。

 

「旦那様の連続攻撃を五回以上躱せる人は少ないのです。あの方、中々の素質があるのですね。神官と伺っていたので驚きです」

 

「お兄ちゃんは回復魔法も使えるけど神官じゃないよ。多分だけど先祖の誰かが使えたみたい。その血を強く受け継いだんだって」

 

「魔法は血筋が全てですから、その通りなんでしょう……ですが珍しいですわね」

 

 本当はお兄ちゃんに神官の血筋など無い、前に聞いたときに教えてくれたから。

 だが、教会の縁者と思われるのは、この場合は良くないと思う。このミーアって娘、年相応の笑みを浮かべてるけど私は騙されない。

 私を封印した、いけすかない男と雰囲気が似ている。

 

 人畜無害なふりをして相手に油断させる、そんな嫌な手口に……

 

 お兄ちゃんと離(はな)れ離(ばな)れにならないためにも、私の秘密がバレないようにしなきゃ駄目。

 まぁ大隊長の本妻ならば、油断ならない人物なのは当たり前。私達の素性や危険の有無を調べたいのね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 目の前で繰り広げられている訓練に目を奪われる。最初はぎこちない動きだった主様が、段々とスムーズに動けるようになっている。

 

「主様……

僅かな訓練でメキメキと力を付けますわ。凄い、あの連続攻撃が全て見えている。

目で捉えてはいるけど、体の動きが追い付いてないだけだわ。体捌きを鍛えれば、もっと強くなる」

 

 妙な気迫と共に攻撃を躱し、10回に1回くらいで攻撃を加えている。

 

 手数は相手が圧倒的だが、時間を掛ければ反撃の……嗚呼、良いのを貰ってしまったわ。

 

 何とか起き上がったけど、そろそろ限界かしら?でもあの大隊長さんが、段々と余裕が無くなってきたわね。手加減が力具合だけになってる。

 

「結構粘るな!

大剣使いはな、長さと重さを生かした攻撃が肝なんだ。しっかり見ろよ、これが俺の決め技だ!」

 

 そう言うと大隊長さんは体を回転させながら主様に近付き、遠心力を利用した薙払いで木剣を弾き飛ばしたわ。

 ただグルグル回っただけみたいだけど絶妙の距離を保っていた。

 近付き過ぎず自分の大剣の先端20㎝くらいでピンポイントに狙った場所を薙払う。

 初撃は主様が後ろに下がって空振りだったのに、二撃目はちゃんと体捌きと腕の伸縮で調整して……水平だけじゃなく角度を変えての連続の回転攻撃。

 常に一定のリーチを保たれての一方的な連続攻撃を受けてしまう。

 

 でも相手から一瞬とはいえ目を離すのに、何故あんなに何度も正確に距離を計れるのかしら?

 

 普通なら戦う相手から目を離すのは自殺行為なのに……流石は領主軍の大隊長ということなのね、今の主様より二枚も三枚も上手だわ。

 木剣を弾き飛ばされて止めの一撃を受け、地面に大の字に倒れている主様に駆け寄る。

 あの連続回転攻撃を三回まで耐えたのは凄いわ、流石は私が見込んだ(特別の精気の持ち主)男ね!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「幸せそうな顔して気を失いやがって。初見で俺の取っておきを三回転までさせるとは、将来が楽しみだな」

 

 回転剣舞は四回転が限度、五回目以降は敵を知覚できない。勿論、技術的には八回転までできるが命中精度は格段に落ちる。

 呑気にデルフィナの尻尾に乗せられ揺られている男に軽く嫉妬するぜ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お前らは三日間は家(うち)に滞在しろ。気絶してる兄ちゃんを動かすのも悪いしな。ミーア、部屋と布団を客間に頼むぜ」

 

「はい、あなた。さぁこちらへ、布団の準備と冷やす水を用意しますわ」

 

 下半身蛇ってスゲェな、人を乗せても落とさずにクネクネと動けるのか……ミーアに任せておけば大丈夫だろう。

 幼妻と散々からかわれたが、前妻と変わらぬ手際の良さで家を仕切っている。

 

 俺だって頭が上がらないんだ、良い嫁を貰ったもんだ。

 

「コッヘル様」

 

「む、なんだ?」

 

 庭で黄昏ていたら部下が来るのが分からなかった。少し鍛え直さないと駄目だな。

 

「巡回の兵士より報告。

ナドレの丘周辺でアンデッドモンスターの目撃者が増えています。目撃されたアンデッドモンスターは下級ですが、彼の地は……」

 

 膝を突き報告する兵士の顔は不安でいっぱいだな。下級とはいえアンデッドモンスターは強力だ、動きは鈍いが牙や爪に毒を持つ厄介な奴だ。

 稀に麻痺や呪いを受けることもあるし、討伐するなら準備が必要だな。しかもナドレの丘の近くには不死の王が眠るという噂の廃墟がある。

 

「討伐隊を編成しろ。

俺の部隊から50人選抜し準備を進めるんだ。出発は三日後、1週間分の物資を用意しろよ。

教会にも協力を要請、下級神官を最低でも二人は回してもらえ。

あとは傭兵の募集をするか……30人程度は集めてくれ。物資は余裕を見て100人分だ。

最悪の場合、一時的に住民を保護する可能性もある。逃げるときに食料を持ち出す余裕があれば良いがな……

フェルデン様には俺から報告する」

 

 今は目撃報告だけだが、頻繁に目撃されてるなら直ぐに被害が出るだろう。

 直ぐにても行きたいが、軍って奴は準備が掛かるから面倒だ。だが、人数を集めなければ返り討ちに遭うかもしれん。

 できれば領主軍だけで編成したいが、ベルレの街の守りを薄くするわけにはいかないからな。

 統制の取れない烏合の衆だが囮か壁ぐらいにはなる。兄ちゃんの訓練が終わったら討伐か、忙しくなるぜ。

 

 今夜はミーアを可愛がっておかないと拗ねるかもしれないぞ。

 


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