異種族ハーレムを作るぞ?   作:Amber bird

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第36話

「一応助けたつもりなので睨まないでほしいんだけど……」

 

 名指しでコッヘル様に言われたのだが、一応助けたことに変わりはないはずだよね?それを親の仇を見るような目で睨まれるのは辛い。

 リアルツンデレって、こんな感じなのかな?本やテレビで見るのと大違いで面倒臭いです……

 

「別に助けてくれと頼んでないわ!」

 

 リアルツン、美人からキツい言葉を言われるのは辛い、元は平凡な小市民ですから余計に。

 周りに視線を送れば、皆さんニヤニヤしてやがる。オッサン六人組も睨んでるので睨み返した……視線を逸らされたぞ。

 

「金髪の姉ちゃんよ。

実際、兄ちゃんが加勢しなきゃ負けてたぞ。ソイツらより倍強くても六人じゃ押し負ける。

楽しい余興だったが、今後諍いを起こしたら有無を言わさずに厳罰だ。兄ちゃん悪かったな、美人に嫌われたみたいぜ」

 

 うーん、流石と言うべきなのかな?一回問題を起こさせて解決し、次に同じようなことをしたら厳罰。

 分かりやすい懲罰に皆さん納得した顔だし……

 

「いえ、問題ありません。味方同士で傷付け合うのは馬鹿げてますから」

 

 コッヘル様と、討伐部隊の責任者との馴れ合いはできない、姿勢を正して頭を下げる。

 

「大剣背負ってるのにメイスを使うとは、随分と手加減したんだな。

別に殺しても構わなかったんだぜ、軍隊で規律を乱す奴は極刑が基本だ。お前らも兄ちゃんに手加減されて命を救われたんだ、感謝しとけよ」

 

 最後に脅し文句と共に殺気をバラ撒かれたし、後ろに控える兵士達も睨んでいる……

 僕は訓練で散々浴びせられて慣れたが、初めての連中には辛かったみたいだ。

 

 若いグループなんて涙目だぞ、コッヘル様。

 

 ミーアちゃんに向ける優しさの1%でも彼らに分けてあげなよ。立ち去るコッヘル様に再度一礼して元の場所に戻る。

 もう一時間くらいは休めるだろう。荷物を枕にゴロリと横になり外套を被る。

 

 うん、暖かいな……

 

 前の世界より格段に体力は向上したが、半日も休みなく歩けば疲れるんだよね。

 暫く微睡(まどろ)んでいると誰かが隣に座った気配がした。薄目を開ければ、例の金髪美人さんだ。

 チラチラとこちらを窺ってるけど、話しかけてくる感じはしない。僕から話しかけないと駄目なのか?

 

「えっと、何かな?」

 

 相変わらず睨んでます、しかも今は見下ろす感じです、上から目線?ちょっとだけゾクゾクしたのは僕だけの秘密だ。

 

「一応、お礼を言っておくわ。あ、ありがとう……でっ、でも私だけでも倒せたのよ、余計なお世話だったのよ」

 

 巨大なツンツンの後に微弱なデレ来ました。何と言うか、赤くなって目を逸らしながら言われたらデレだけと……

 睨むのを止めて無表情で言われても萌えない、逆に萎える。勿論、僕にはアリスとデルフィナさんが居るから浮気は絶対しないけど。

 

「気にしないで良いよ。僕はコッヘル様から名指しで言われたんだ。

加勢しないわけにはいかなかった。あの場で加勢しなければ、僕が大変だったろ?

コッヘル様、実は怒ってたみたいだし、あの場で加勢しなければ、僕も大変な目にあったかも?」

 

 現実は傍観していただけで助けるつもりがあったかは微妙なんだ。

 体育座りをして膝に頭を付けている彼女の表情は見えないが、隣には荷物も有るからお礼を言って移動はしなさそうだ。

 

「少し休んだ方が良いよ。

荷物を持った移動は思いの外に体力を消耗する。出発したら夜営地まで休みなしだと思うよ」

 

「そうね、貴方の隣ならチョッカイかける奴も居ないわね」

 

 虫除けのために近付いたんかい?思わず彼女を見れば体育座りのまま休むみたいだ。

 仄かに香る彼女の甘い匂いを嗅ぎながら暫しの休憩を楽しんだ。少しキツい欧米人っぽい体臭だな。

 

 アリスの甘いミルクの匂いに似ているが、彼女は控え目な匂いだから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「コッヘル様、彼ですか?お気に入りの若者は」

 

「ああ、スゲーだろ。

てっきり覚えたてで新品の大剣を使うかと思えば、安物のメイスだぜ。しかも武器破壊とかよ、楽しめただろ?」

 

 力を誇示したがる風潮の中で、敢えて自分の得意な力を隠せる奴は少ない。

 まさか連中も刃物を棒っきれで壊されるとか信じられないだろう。

 

「確かに、リーチの短いメイスでやられたら力の差を余計に感じますな、しかも礼儀正しいし女の扱いも上手い。

もう二人きりで何やら話しているし。どこぞの貴族の三男坊ですか?」

 

 確かに並んで座ってるけどよ……兄ちゃん、美人が隣に座ってるのに嬉しそうじゃねぇな。家に残してきてる彼女たちが心配か?

 

「いや商人の次男らしいぜ。

親父が死んで店を長男が継いだのを機に家を飛び出したんだと。女の扱いについては単に距離を置いてるんだな。

極上の美女と美幼女を囲ってるから余裕があるんだろ。ガツガツしなくても良いなんて羨ましいじゃねぇか」

 

 俺だってミーアが居るから変な女なんて要らねぇ。寄ってくるだけで不快だぜ、仕事柄誘惑が多いが本気で迷惑でしかない。

 

 ミーアは側室の一人も囲えと言うが要らん!

 

「コッヘル様が羨ましいとか言われますか?ミーア様がいらっしゃるのに?一途ですよね……」

 

「ばっ、馬鹿野郎!そんなんじゃねぇよ」

 

 確かにミーアは俺には勿体ないけどよ。まぁ余裕のある男って奴がモテるんだろうな。

 兄ちゃんが金髪女に手を出したら、ちゃんと報告はするぜ?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「そろそろ時間かな?兵士達が撤収の準備を始めたよ」

 

 辺りが五月蝿くなり始めたな、出発時間が近いんだろう。起き上がり外套に付いた埃を払い丁寧に畳む。

 大剣と荷物を背負い周りを確認すれば、皆さん準備が終わりそうだ。

 

「よーし、出発するぞ!」

 

 コッヘル様の掛け声と共に歩きだす、あと四時間くらい歩くだろう。

 しばらくは無言で歩く、草原地帯を越えて剥き出しの地面にゴロゴロ転がる石が目立ってきた。足元に注意して歩かないと転びそうだ。

 

「ねぇ、何でメイスなんて武器を使うのよ。そんなの剣士の武器じゃないわ」

 

 何故か歩調を合わせて隣を歩く金髪美人。一緒に歩いて一時間以上経ってからようやく話しかけてきたよ。

 

「ゾンビ程度に大剣を使ってたら刀身の傷みも早いだろ?頭を破壊すれば倒せるなら刃物よりは打撃武器だ。予備の武器だよ」

 

 本当は所持金不足で買えなかったんです、気に入ったナタがね。

 

「首チョンパすれば良いじゃない。剣士の武器が棒なんて格好悪いわよ」

 

 首チョンパって、美人の台詞じゃないぞ。

 

「武器は消耗品だよね、幾ら丁寧に使ってもいつかは壊れる。戦いの最中で壊れたら最悪死ぬかもしれないし、用心する事は大切だろ」

 

 彼女の双剣を見れば握りや鞘にも結構な意匠が施されている。かなり高価で大切な武器じゃないのか?

 

「男なら見栄を張りなさいよ。貴方って貴族なの?」

 

「貴族?まさか……僕は商人の次男坊さ。店を継げないから飛び出したんだよ」

 

 なによ、言葉遣いが丁寧だったり高い武器持ってるからてっきり、それに商人でも次男坊じゃ……とか、小声でボソボソ言われた台詞は聞こえてますよ。

 彼女は没落貴族らしいから、御家再興とか考えてるのかな?有力貴族の血縁者とか金持ちの商人とかと知り合いになりたいとか……

 

「君はどうなんだい?その双剣、見事な装飾だし業物っぽいよ。普通の人が中々持てる武器じゃないよね?」

 

「私?私はムール家の一族よ」

 

 ムール?貝か?いや家名しか名乗らないぞ、この女。

 

「へー、そうなんですか……」

 

 田舎者だからよく分かりません的な態度を取る。彼女が没落貴族だって知ってるのは秘密だし、街の外の連中なら貴族名など知らなくても普通だ。

 彼女も反応の薄さにヤレヤレ的な顔してたし……悪い娘じゃなさそうだが、関わり合いになるのは遠慮した方が良いと思う。

 それでも30分に一回くらいの割合で話しかけてきたが、それなりな対応をした。

 遠慮はしたいが、美人に話しかけられて無視はできない、協調を重んじる日本人ですから。

 

 太陽が地平線に差し掛かる前に、本日の野営地に到着した。

 

「ここは、廃村かな?簡素ながらも屋根の残ってる家も井戸もあるね。

外周の柵はほとんど意味をなさないか……だけど全員は家に入れないから野宿かな」

 

 現存する建物は八棟、僕等は80人近く居る。多分だが領主軍で一杯だろう。

 元々野宿の予定だし枝振りの良い樹木も豊富だ、寝る場所には困らないか……コッヘル様が馬から降りて近付いてきたから指示があるだろう。

 

 話を聞きに行きますか。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「よーし、今夜はここに泊まるぞ。見張りは二時間交替だ、お前らは西側を担当しろ。人選は任せた。じゃ解散!」

 

 アバウト過ぎる指示だが西側が今まで歩いてきた方向で見通しが良い。

 北側と南側は雑木林となっていて東側は西側と同じように見通しが良い。

 一番信用度の低い連中に簡単な方向を任したんだね。

 建物は諦めて廃村の中心に近い場所て大きな木の下に陣取る、この枝振りなら雨が降っても少し濡れるくらいだろう。

 なにより敵襲があっても東西南北どの方向にも逃げられる。

 序でに領主軍の野営地にも近いから、つまらないイザコザにも巻き込まれないと思う。

 

 コッヘル様も気を使ってくれるはずだしね……何故か当然のように金髪美人も隣に座る。

 

「ねぇ、見張り番どうするのよ?私は見張り番なんて嫌よ」

 

 このツンツン美人は、本当に見張り番が嫌みたいだが交代制だから無理だろ。誰かが代わりにやれば文句は言われないが、誰がやるんだ?

 

「見張り番は義務だから嫌でもやるしかない。明け方は冷えるし中途半端な時間帯も睡眠時間が細切れになるから嫌だ。

ならば一番最初が楽かもね……ほら、一般参加の連中が集まってるから行こう」

 

 装備の良い連中を中心にオッサン六人と若手グループが集まってる。彼らは建物の中に入ろうとして兵士に追い出されたみたいだな。

 最初から諦めれば良いのに……近付くと見張り番の件で揉めている。

 装備の良い奴の取り巻き連中が仕切ってるみたいだが、それに残りの連中が反発してる?

 

「何でお前の指示に従わなきゃいけないんだよ!」

 

「そうです!僕らはアンタの家来じゃない、偉そうにするな」

 

「大体グループ毎に見張り番を行うって単独参加はどうすんだよ?」

 

 大体の話は分かった……他の連中とは一緒に行動したくないってわけか。だが、二時間交替て見張りしろってコッヘル様に言われたんだよ。

 装備の良いグループと若手とオッサンのグループ。人数の多いのは3グループしかない。個人参戦は僕と金髪美人さんと、他には四人。

 

 4グループで二時間交替なら最大でも六時間寝られるけど効率悪いな……

 

 それは人数の多いグループが有利だ、自分たちの中でローテーションできるからね。

 個人参加の僕らは一人1グループとか言われたら最悪だ。

 

「早く見張りに立たないと怒られますよ。グループ参加は三組、他は個人参加。

ならば個人参加全員で見張り時だけグループを組みましょう。ならば四組になります。

悪いけど二人、僕と一緒に最初の見張りをしましょう。歩き詰めで疲れているところに悪いですけどね」

 

 最初は疲れてるから悪いねって強調しながら個人参加組の四人に話しかける。若者から中年まで幅広いが全員男だ。

 彼らは一人ゆえにグループ間の言い争いには参加し辛いだろうし。

 

「何故、私と一緒の見張りじゃないんだ?」

 

 金髪美人が文句を言ってるが、君と一緒に見張りしたらサボるのが目に見えているからだ!

 

「誰が荷物番をするんですか?あの場所も譲る気が無いので番をしてください」

 

「勝手に話を進めるな。何故我々がお前の言うことを聞かないとならないんだ?」

 

 装備の良い皆さんから反発が来たが、自分たちが中心じゃないと嫌なのかな?

 

「じゃ貴方達が我々に納得できる指示を出してください。兵士さんたちは配置に着いてますよ。我々が最後ですよ」

 

 こちらを睨む兵士達が増えてきてるから早く見張りを立てないと駄目じゃん。

 見張り番を決めるだけで揉めるなんて、この先が思いやられるよ。

 


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