異種族ハーレムを作るぞ?   作:Amber bird

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第39話

 ヤラない善よりヤル偽善?

 

 このままでは全員死ぬかもしれない農民チームに救いの手を差し伸べた。反応は薄かったが、亡くなったリーダーの妹さんが応えてくれた。

 やはり切羽詰まったときは女性の方が強いんだろうな。彼女を中心に残りのメンバーも立ち上がる。

 だが彼らの瞳には絶望の色が濃い、当たり前だな。

 最初の戦いで最も信頼しているリーダーが死ぬなんて、集団が自滅するパターンだ。

 

「先ずは道具集めだよ。2mくらいの真っ直ぐな棒を6本、同じく2mくらいで先が二股に分かれている棒を二本。

後は鈍器として殴る棒を四本探してきてね。はい、始めて……」

 

 棒なんてどこで?とか、そんな物で何が?とか言っていたが妹さんが彼らを励ましながら林へと向かっていった。

 ノロノロと歩く彼らを見て本当に大丈夫なのか不安になる。

 だが、これから教える方法は現代でも保母さんとかが不審者を取り押さえるのに行うから大丈夫だと思う、いや思いたい。

 彼らが向かった林を眺めているとムールさんが近付いてきた、凄く呆れた顔だなぁ……

 

「昨夜の話、聞いていたでしょ?何故、救いの手を差し伸べたの?

頼まれてもないのに、押し付けの善意は良くないわ。それとも強い貴方は弱い者に情けを掛けたのかしら?」

 

 腕を組んで責めるように言われたが、この世界では彼女の言い分が常識だ。金髪美人の怒った顔は何故か綺麗に見えた。

 

「僕の国にはね……

ヤラない善よりヤル偽善。情けは人の為ならず。って二つの言葉があるんだよ。

それと何故言葉遣いが女性っぽくなったの?」

 

 ちょっとだけ頬が赤くなり目を逸らされたが、これこそが照れか?前の謝罪のときよりも万倍良い!

 

「最初の言葉の意味は何となく分かるわ。聖職者が言いそうな綺麗事よね。

でも二つ目の言葉が分からないわよ。情けは人の為ならず……だから他人に情けを掛けるなって意味でしょ?」

 

 僕も大人になってから本当の意味を知ったんだよね、トリビアでさ。

 

「最初のはその通りだよ。

僕たちよりも若い連中を無駄に死なせるのはさ、僕が嫌な気持ちになるじゃん。だから情けを掛けるんだ。

二つ目のはね、他人に情けを掛けるのは自分のためって考え方だよ。

いつか巡り巡って何かが自分のためになってくれるって意味。まぁ後で恩返しをしてくれるってことで良いよ」

 

 両手を広げて呆れてくれても良いよアピールをする。

 

「全く変な人ね、貴方って。そんな考え方をする人は初めてよ。

その……言葉遣いはね、こういうの初めてだから他人に舐められないように虚勢を張ったのよ。

でも貴方を見てたら馬鹿らしくなって……

だって腰の低い話し方をする情けない人かと思ったら、実力で相手を黙らせるんだもん!

虚勢を張る私が馬鹿みたいに思えて恥ずかしかったから、だから普段の言葉遣いに直したのよ。

ほら、彼らが棒を持ってきたわよ。で、どうするの?」

 

 ムールさんと大分話し込んでしまったのか、頼んだ棒を探してきたぞ。でも未だノロノロ行動だ、先が思いやられる。

 僕の前に棒を並べるが、ムールさんを見て何故か萎縮してる、まぁ良いか。少し怒った風な年上の金髪美人は誰だって怖い。

 

「簡単に説明するよ。

先ずは真っ直ぐな棒の先端に鎌を取り付けるんだ。そう、そうしたら二股の棒は二人で持つんだ。

残り二人は鎌を持つ、四人でチームを組むんだよ。

先ずはゾンビを仰向けに倒すことが大切だ。俯(うつぶ)せ駄目だよ、起き上がるのに力が入れやすい。

二人で二股の棒をゾンビの首に向けて力強く押して後ろに仰け反らせるんだ。

そのときに鎌はゾンビの足に引っ掛けて手前に引く。バランスを崩して倒れるだろ。

ゾンビが倒れたら二股の棒を二人で押さえて起き上がらないようにしっかりと押さえる。

鎌を持ってた二人は鈍器か鍬で頭を潰す。

これならゾンビに攻撃されずに一方的に倒せる。

注意点は常に周りに気を配る、ゾンビが密集してたら誘き出して孤立させてから襲う。

倒せなかったら一旦距離を取って再度行う。後は自分たちで戦い方を工夫するんだよ」

 

 そう言って二回程実演させてから彼らと別れた。何だかんだ言ってムールさんも最後まで付き合って、アレコレ指導してくれた。

 30分ほどの訓練だったが、少しでも彼らの生存率が高まれば良いかな。妹さんが率先して練習させてるから、大丈夫だろう。

 後は本当に自己責任だから頑張ってくださいね。太陽が完全に大地から顔を出した、もう朝だ。

 

 あと一時間と少しで出発なので早目に朝食を食べて準備をしなければ……

 

 荷物を放置しちゃったから心配だったけど、何も盗まれてなかった。それをムールさんに言ったら笑われた。

 

「貴方の不興を買うようなことをする連中は居ないわよ。それより私との約束の料理の仕方を教えてよね」

 

 完全に忘れていたが、勿論真実は言わずに喜んで一緒に料理を作って食べました!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「やはり温かい料理は美味しいわね。貴方の一食毎に袋に小分けするアイディアは頂くわ。変に几帳面なのね」

 

 ムールさんとはだいぶ打ち解けたが、この討伐遠征が終われば次に会うことがあるかは分からない。

 一期一会を大切にってことかな?

 食後の白湯を飲みながら余韻に浸ってると、コッヘル様が二人の兵士を伴い近付いてくるのが見えた。

 真っ直ぐ僕の方を見て向かってるよね?立ち上がり目の前に来たときに頭を下げる。

 

「コッヘル様、何か僕に用事ですか?」

 

 真剣な顔なので、問題が起こったのかと考える……僕は悪さはしてないですよね?

 

「先程避難民を保護して聞き取りをしたんだ。

この先の集落が昨夜襲われて命からがら逃げてきたんだが……彼らの目撃情報だと、敵の中にオークゾンビが混じってる。

少なくとも八体は居るんだとよ」

 

 オークゾンビ?デルフィナ先生のモンスター講座を思い出す。

 中級アンデッドモンスターで強い力と生命力を持つ大型のモンスターだ。

 強さはゾンビの比じゃない相手だったかな?だが物理攻撃の効く相手だったな。

 

「それは強敵ですね……」

 

「あんまり心配じゃなさそうだな。

オークゾンビとマトモに戦えるのは俺と兄ちゃんくらいだ。兵士は10人の小隊規模で当たらねばヤバい。

兄ちゃんには悪いが、オークゾンビが出たら率先して倒してほしい。

本来は戦う相手を決め付けるのは契約違反なんだが、五組しか小隊編成はできないし他のゾンビ対策もあるから実際は無理だ。

受けちゃくれないか?」

 

 今回は兵士は50人くらいだから一斉に攻められたら80人は居ないと駄目だよね。

 確か小隊長は10人の部下が居るって、このことだったのか。強敵には連携の取りやすい小隊規模で当たる。

 

「分かりました、良いですよ。

でも傭兵ごときが良いんですか?そんな目立つ行動はコッヘル様が不利になりませんか?」

 

 軍隊が同行してるのに、それを差し置いて活躍って不味くないのかな、主にコッヘル様の立場が?

 

「兄ちゃんは妙な所に気を回すな、大丈夫だ。

ベルレには伝令を走らせたから増援が来るが、それを待ってるのは駄目だ。少しでも敵を倒し原因を掴まなくちゃな。

悪いな、兄ちゃん。

報酬には色を付けるぜ。今回は報酬は80Gだが、兄ちゃんには500G払うぜ。

それとオークゾンビ一体につき100G上乗せする。準備ができたら先頭に来てくれ。頼む、期待してるぜ!」

 

 バシッと肩を叩かれて豪快に笑われたが、流石に軍隊って逃げ出す選択肢は最後の最後なんだろうな。

 オークゾンビか、メイスで倒すとかは言ってられない相手だ。

 

 ツヴァイヘンダーを使う時が来たか……

 

「凄いわね、コッヘル様から直々に頼まれるなんて……貴方、本当に何者なの?

本職の兵士が50人以上居るのに、コッヘル様と同等って評価されたのよ、凄いことなのよ。実質彼がベルレの街では最強なんだから!」

 

 目をキラキラさせて嬉しそうなんだが、本来なら討伐対象にヤバい奴がたくさん居るって驚く場面でしょ?

 ムールさんだって危険度が跳ね上がったんだよ?すっかり冷えた白湯を飲み干し準備をする。

 コッヘル様から手解きを受けた大剣をようやく使う時が来たのだが、何気に報酬とか条件とかって全く聞いてなかったことに呆れた。

 

 本当にしっかりしないと駄目なのに、うっかりが酷いよね最近は……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「まさかオークゾンビが八体以上居ると聞いて、単独で相手をしろって話を受けるとは思いませんでしたぞ。無知ゆえにでは?」

 

 側近からの疑問も当然だろう。大隊長クラスが対応できるモンスターの相手をしろっと話だ。普通の奴なら断るな。

 

「いや、モンスターについてはラミアの姉ちゃんに色々叩き込まれてたぞ。ちゃんと戦う相手のことを理解して大丈夫と受けたんだ。

俺でさえ防御に専念しなきゃヤバい必殺技を持ってるし、手解きの時に奴の強さは確認済みだ。問題無いだろう」

 

 俺が苦戦する奴が、俺が倒せる奴に負けるわけが無いだろ。オークゾンビは力強くタフだが動きは鈍い。

 兄ちゃんはスピードと一撃の破壊力があるから相性が良いはずだ。俺だけだったら増援を待ったかもしれないが、運が良かったぜ。

 

「それは凄いですね。遠征が終わったらスカウトしますか?」

 

 有能な奴なら軍に引き込むべきだろう。

 兄ちゃんは協調性もあるし物腰も丁寧だからな、大抵の強い奴はアクも強いから、団体行動が原則の軍隊じゃ扱い辛い。

 

「いや、既に振られてんだ。

何でもラミアが恋人だから人間の街には住めないってよ。即答だったぜ、出世より女を優先するたぁな」

 

 俺だってミーアが大切だが、同じ条件なら即断はできねぇぞ。何がそこまで欲を抑えられるのかが知りたいぜ。

 だがミーアの命が掛かってるなら、俺も即断できる。

 

 アレを失うことは自分が死ぬのと同じだ……

 

「コッヘル様?独り言が駄々盛れです、ミーア様への偏愛……いえ、溺愛……いえ、愛情が溢れてますよ」

 

 睨み付けると段々言葉を変えたが、偏愛とか溺愛って何だ?

 

 40過ぎのオッサンが15の嫁を大切にしちゃ駄目だってか、ああん?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 カッポカッポ歩く馬の脇を歩く。

 

 勿論、馬にはコッヘル様が乗ってるわけだが僕の歩く速度に合わせてくれてるので大丈夫だ。

 荷物も馬車に積んでくれたので、僕は今スタイリッシュな戦士の出で立ちだ。

 大剣を背負い皮鎧を着込み、左手にスモールシールドを装着して外套を羽織る。一応腰にはメイスを差している。

 完璧な出で立ちだが、現代日本なら重度のコスプレイヤーだよね。

 

「なぁ兄ちゃん、朝っぱらから若い奴らに何を教えてたんだ。面白い戦法じゃねぇか?

倒して押さえてタコ殴りたぁ地味に有効だな。ロープや網で敵の動きを封じるのは聞くが、あんな棒でもできるんだな」

 

 サスマタの歴史って新しかったかな?投網はローマのコロッセオだかで奴隷剣士が使ってたし、ロープはカウボーイのイメージが強い。

 

「ああ、サスマタのことですね?

今回はゾンビだから首狙いですが脇の下とかも有効ですよね。要は起き上がり難くすれば良いだけです。

彼らは農民ですから集団で戦わないと死ぬ危険性が高いですから……」

 

 暫くは無言で歩くが、前方にユラユラと蠢く集団を発見した。ゾンビだけでも100体以上いるが、その中に小山のようにデカい何かが居る。

 

 アレがオークゾンビか……

 

「コッヘル様、不味いですよ。オークゾンビの周囲にもゾンビが群れてます。大物と戦ってるときにゾンビまで対応は……」

 

「分かってる!

第三隊と第四隊は兄ちゃんに付いて露払いをしろ!第一隊は俺に付け。

傭兵部隊は第五隊と一緒に動け。第二隊は予備だ、後方で待機しろ。さぁ狩るぜ!」

 

 コッヘル様は右側に、僕は左側に離れて敵に近付いていく。先ずは一番近いオークゾンビに狙いを付ける。

 

「すみません、オークゾンビの前の連中を倒してください」

 

 兵士さんたちにお願いすれば、駆け出してゾンビに襲い掛かってくれた。みるみる倒されるゾンビ!

 

 流石に本職は強いな!


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