異種族ハーレムを作るぞ?   作:Amber bird

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第5話

 ツンデ霊ことアリスちゃんの昔話を聞いた。

 

 迫害されてこんな廃墟に封印されるなんて、RPGでも王道なヒロイン級の不幸だ。

 ただし、ヒロイン級とは言え僕は幼女は攻略対象外だし、そもそも彼女には肉体が無いじゃんか!

 仮に生き返っても結ばれるまでに4~5年は待たないと成長しないだろうし、どんな焦らしプレイだよ?

 

 しかし……しかし、訳ワカメな状況の唯一の情報提供者だから無下に扱うことはできない。

 

 それに数値的には僕より何倍も強い子だ。そもそも実体の無い幼女に負ける筋力とか何だよ!

 チラリと浮かぶ彼女を見るが、あの透けている二の腕が僕より力強いのが信じられないんだけど……

 確実なのは、この世界では僕の持っている常識は使えない。何が常識で何が非常識だかは全く分からないんだ。

 食事一つ取っても現状は彼女に頼らないと駄目だし。

 

 うーん、どうしたら良いんだろう?

 

「ねぇ?これからどうしたら良いと思う?」

 

 器用に浮きながら女の子座りで此方を見つめている彼女に話し掛ける。

 外人の幼女と話したことなんて無かったから緊張する。しかも見た目の幼さと違い彼女の目は知性がある。

 子供じゃない大人の知性を秘めた目だが、ギャップに萌えるロリ属性は僕には無いんだ!

 

「ソレを私に聞くかな?お兄ちゃんは主体性が無いのかな?甲斐性無しのヒモなの?」

 

 目の前でフヨフヨ浮いてる非常識な存在に指を差されながら叱られました!

 しかも驚いたのが、こっちの世界でも甲斐性とかヒモって言葉があるんだ。

 

 弱くなった焚き火に薪を放り込む。パチパチと燃え上がる炎を見ていると、少しだけ冷静になれた。

 

「普通なら一番近くの街へ行くための準備とレベルアップに勤しむことだよね?でも僕は、この辺の地理なんて知らないし地図も無い。

君には30年も昔の記憶しかないから、ソレを頼るのは危険だと言った。そうすると当分の間だけど、此処を拠点に生活するしかないだろ?」

 

 普通のRPGなら体力を回復できる安い宿屋を拠点にレベルアップに励むんだけど……この世界では食事がHPの回復方法みたいだ。

 つまり寝るだけじゃHPは回復しない。

 僕が潜り込んだ部屋は物置だったらしく、明るくなってから色々と調べたらそれなりの物資が保管されていた。

 何故建物を放棄した連中が持ち出されなかったかと言えば、封印されているとはいえ世間を騒がしたアリスが居る部屋には入りたがらなかったのか?

 

 そんな余裕も無かったのか?物が貴重な世界観だと思うのだが、残していく意味は何だったのか?

 

 まぁ僕的には助かってるから良いけどね。床に並べた戦利品を見る。古びてはいるが衣服も武器の類もあった。

 服は粗い生地だがシャツとズボンが数組。武器は鉈やナイフ、それに所謂ショートソードと呼ばれる短めの剣だ。

 因みに剣の類は、その辺の瓦礫のレンガで研いで錆びをある程度落とした。表面が錆だらけだったが地金の輝きが甦って中々の物だ。

 

 逆に食料品の方は殆ど全滅だ。

 

 人除けの結界の所為か動物に荒らされることは無かったみたいだ……ただし、食料品は朽ちていた。塩はガチガチに固まり穀物は風化している。

 野菜らしき干からびた何かも山積みだが、フリーズドライじゃないんだし、水に浸しても元には戻らないだろう。

 つまり塩があり魚は確保する術はあるが、野菜類は全滅。ビタミンとかの補給はどうすればよいんだ?

 

「暫くはお兄ちゃんのレベルアップに励まないと駄目でしょ!

そんなレベルじゃ野垂れ死にだよ。低レベルで出歩くなんて死にたいの?自殺志願者なの?」

 

 更にキツいお言葉を貰った。平和ボケした日本人の危機管理能力の低さは世界でもトップクラスだ!

 

「じゃレベルアップするの手伝ってくれる?」

 

 懇願するように両手を胸の前で握り締め、彼女の目を見て頼む。僕は他人に依存するのもトップクラスだ!

 

「はぁ……お兄ちゃんって……」

 

 両手を広げて呆れた表情をするツンデ霊幼女。ふよふよ浮いていたが、今は実体化して地上に降りて地面に座っている。

 まぁレイスって表示されてるからモンスターだと思うが、こちらの世界では認知されてるかもしれない。

 絶賛混乱中の僕は、この世界の唯一の協力者がモンスターでも幽霊でも構わないと思っている。

 

 そんな彼女に、本当にヤレヤレな感じで溜め息をつかれた……小枝を持ち地面をツンツンしている。

 

「全く甲斐性無しの計画性無し。力は並み以下だけど、私を助けてくれたのは確かなんだよね。

私の全裸の救世主(ヌーディストメサイヤ)は全くの役立たず……はぁ、私がしっかりしないと野垂れ死に確実だし。

だけど精気はとってもとっても美味しいし。

もう!

全く仕方の無いお兄ちゃんだよね。良いわ、私が面倒をみてあげる。だっ、だけど勘違いしないでよね。

お兄ちゃんを放っておくと野垂れ死に確実だから、仕方無くなんだからね?」

 

 目を逸らし少し頬を赤く染めながら、しかしツンツンな態度で頼まれてくれました。

 

「うん、これから末永くよろしく!」

 

 ニパっと笑う彼女の表情に、少しだけドキドキしたのは僕だけの秘密だ。

 薄い胸を仰け反らせる幼女幽霊に一抹の不安を感じるが……この摩訶不思議な状況だが、何としても彼女に縋り付いて生き延びてやる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ほら、お兄ちゃん!頑張って戦わないと死んじゃうよ。ほらほら、頑張れ頑張れ」

 

「少しは手伝ってー!」

 

 現在絶賛追いかけっこを実施中です。それも捕まったら死ぬ系の……

 僕の後ろにはアリスがふよふよ浮いていて、その後ろには犬擬(いぬもど)きが一匹追い掛けてきてます。

 犬と言ってもペット感覚でなく、ドーベルマン張りの凶暴な奴だ。

 

「普通はスライムとか最弱系モンスターから地道に倒すだろー!何で最初からあんなヤバい奴を相手にするんだよー!」

 

 土佐犬みたいな外見に短い足のためか、今は追い付かれてはいない。

 しかし犬擬(いぬもど)きに追い付かれるのは時間の問題だ。

 自慢じゃないが子犬にだって追い付かれるのが僕なんだー!

 

「お兄ちゃん、スライムを捕食するモンスターだって居るんだよ。

スライムばかり群れているわけじゃないのよ。ちゃんと食物連鎖があるんだって」

 

 だが、ハァハァと言う自分の息遣いを聞いて体力の限界が近いのが分かる。

 

「そんなリアル設定なんてイヤー!」

 

 100mくらい走ったが、もう無理だ、息が続かない。周りを見渡しても隠れそうな場所も登れそうな木も無い平原だ。

 逃げ切れなければ戦うしか無いが、棍棒で勝てるのか?思い切って振り向くと、牙を剥いた奴が飛びかかってくるのが見えた。

 

 ああ、死んだな……そう思ってギュッと目を瞑り体を固くする。

 

 走馬灯のように今までの平凡な人生が……あれ?幾ら待っても痛みがこないので、不思議に思い恐る恐る瞼を開くと……

 

「もう、お兄ちゃん?戦いの最中に目を閉じちゃ駄目だって。本当に死んじゃうよ」

 

 プスプスと黒焦げの犬擬(いぬもど)きの上に、アリスが誇らし気に浮いている。流石は高レベルのレイスってことか……

 

「うん……ごめん。でも最初はスライムを探してよ。じゃないと暁を見る前に屍を晒します」

 

 パンパンと服に付いた汚れを払い立ち上がる。スライムなら三匹相手でも勝てたんだ。

 

「お兄ちゃんってさ。難しい言い回しをするよね。もしかして吟遊詩人?」

 

「まさか!そんなわけ無いじゃんって、アリスちゃん?何処?」

 

 カラオケは得意だが、作詞作曲なんてできるわけが無い。

 

「おー、丁度スライムが三匹居るよー!お兄ちゃん、右側30mぐらい先にスライム発見。今度は情けない格好をみせないでよね?」

 

 声のする上を見ると、アリスが5mくらい浮かんで周りを見回していた。うん、見張り番には打って付けだよね、飛べるし。

 

 でも……

 

「コラ!はしたないぞ、パンツ見えてるって。僕の真上に浮かぶ必要は無いだろ?」

 

 その、短めのスカートのためか女性の神秘が丸見えなんです。

 何故、実体が無いのに服を着れるのか?何故、言葉が通じて数の単位が同じなのか?

 なぜ中世っぽい時代背景なのに色っぽい現代風なショーツを履いているのか?

 

 この類似性の多さには疑問ありまくりだ。

 

「やだ、見ないでよ。お兄ちゃんのエッチ、変態、異常性欲犯罪者!

初めてのときも幼女の私に〇〇〇を見せ付けたのって、故意犯なんだね」

 

 自分両手で体を抱き締めてイヤイヤしながら遠ざかっていく。

 

「ちっ違うって!アレは偶然だって。ほら、僕はアリスが居るの知らなかったんだよ。だから……」

 

「寄らないでスケベ変態!妊娠しちゃうよー」

 

 スカートの前を押さえてイヤイヤする幼女に土下座して謝罪する。

 今思えば、アレは凄い変態行為でしかない。誰かに話されたら、僕は社会的に抹殺されてしまう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何とか彼女を宥(なだ)め賺(すか)すことに成功。此方に近付いてくるスライムの迎撃の準備をする。

 

 準備と言っても棍棒を構えるだけだ。

 

 ショートソードを腰に差してはいるが、スライム程度に損傷する武器を使うわけにはいかない。

 ショートソードは二本しか無いが、棍棒なら鉈でその辺の木を切れば代用できる。

 初めて遭遇したときと同様に、バインバインと跳ねながら近付いてくるスライムは三匹だ。

 

 ヨシ、今度は負けないぞ。

 

 棍棒を振りかぶり射程に入るのを待つ。

 

3m……2m……1m……

 

「今だ!これが俺の全力全開!」

 

 ゴム鞠みたいなスライムの脳天に必殺の一撃を……

 

『痛恨のミス!』

 

「またかよ!」

 

 前回同様、頭の中に流れる文字に突っ込みを入れる。

 

「あたっ、痛いって……」

 

 これも前回同様に反撃を食らう。だが最初の一匹の攻撃は受けたが、 次の奴らの体当たりは体を捩って避けることができた。

 スライムから距離を取り、体制を整える。その場でバインバインと跳ねているスライム。

 前回はターン制かとも思ったが、犬擬(いぬもど)きのことも考えれば違う。

 一番手前のスライムが飛び上がった瞬間、バッティングセンターよろしく棍棒をバットに見立ててフルスィング!

 水風船を殴った感触を残してスライムは弾けた。

 

「あと二匹って、おわっ?」

 

 体当たりしてくるスライムを転がって避ける。素早く体勢を立て直し、攻撃直後でその場で跳ねているスライムにフルスィング!

 見事に僕は顔面にスライムの体液を浴びた。

 

 生臭い粘液を左手で拭い、最後の一匹を探せば『スライムは逃げ出した』中々慣れない頭の中に流れる文字。

 

 勝ったのか……

 

『ピロリロリロリーン!』

 

 突然、頭の中でファンファーレが鳴り響く。ああ、レベル上がったのか……

 某竜のクエストでお馴染みのメロディー、それと脳内で文字が流れる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

HP+5

MP+1

筋力+3

体力+1

知力+3

素早さ+2

運+1

 

 

 レベルが2に上がった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 運の上昇が1って何だかなー……リアルに現状を表していて辛い。レベルが上がりステータスが、どう変わったか確認する。

 ステータスと思うと、頭の中でパネルが開く。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

職業 : 見習い戦士

称号 : 薄幸の異邦人

 

レベル : 2

 

経験値 5 必要経験値 10

 

HP : (22/25)

MP : 3

筋力 : 11

体力 : 6

知力 : 7

素早さ : 8

運 : 2

 

装備 : 棍棒 布の服

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あとスライム五匹でレベルアップか。しっかし低い数値だな……

 アリスだって筋力35もあるんだぜ、実体の無いレイスなのに。

 僕の数値だと村人Aではないけど、筋力・体力・知力が均等に伸びて運が極端に低い職業ってなんだろ?

 

 一応だがMPも有るから魔法戦士か?ウンウンと悩んでいるとアリスが後ろから頭を抱きかかえられた。

 

「お兄ちゃん、やればできる子だね。えらいえらい」

 

 完全に子供扱い年下扱いだけど、実体化してフワフワした感触は暖かくて気持ち良い。ボーっとしてしまう……

 

「ごっ御免なさい、つい精気を吸っちゃった。テヘッ、許してね、お兄ちゃん」

 

 遠くなる意識の中、また無断で精気を吸いやがったなと照れるレイスを見て思う。

 

 腎虚で死ぬ前に強くならないと駄目だ……

 


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