最初に違和感を覚えたのは彼らの両親に名前を呼ばれた時だった。
彼らの両親はボクを住まわせていてくれたとはいえ、彼らの方が距離が近かった。
だから間違えたのだろうと思っていた。
けれど、二度三度ならまだしも、十や二十にそれが連なればさすがのボクでもその違和感を確信に変えた。
彼らは確かに元通りの生活を営んでいた。
ただし、それは『乗り越えたうえでの元通り』ではなかった。
彼らの中では少し、時間が『無かったこと』になっていたのだ。
キャラドリーマーというニンゲンは死なず、ボクという存在は落ちていない。
少なくとも彼らの両親はそこまで時間を戻していた。
「ごきげんよう、キャラ。お茶でも一杯、いかがかな」
「あら、今日は早いのねキャラ。さぁ、顔を洗っていらっしゃい」
現実を受け止められないからと言って、過去に遡っていいとは思えなかった。
それはあの時を生きていた彼らへの冒涜だと、そう感じた。
だからこそ真実を口に出そうとした。最初の一言を口にしようとして、急に口が止まった。
いや、そう思い込んでいるだけで実際にはただ言いたくなかったんだと思う。
彼らはすでに一度親しい人間の死を経験している。それだというのに同じことを言ってしまえば、きっとそれは同じだけの悲しみをもう一度味あわせるという事だ。
それはなぜだか、酷く良くない行動な気がした。
だから、仕方がなかったんだ。
「……ごきげんよう」
ボクにできたのは、曖昧な笑顔でそう口にすることだけだった。
それからというもの、ボクはずっとずっと『キャラドリーマー』となっていた。
朝起きて、笑って挨拶をして、外へ遊びに行って、そして帰ってきて。チョコレートがもらえた日には大げさに喜んで。
ずっとずっと、笑い続けた。
自分は幸せだってそう言うように、笑い続けた。
ボクの覚えている限りの『キャラドリーマー』として生活を続けた。
ボクがボクでいられるのは眠る前のわずかな時間だけ。たったそれだけの時間しかボクでしかいられなくて、それがどうしても悲しかった。
彼らが見ているのはボクではない。その事実がどうしようもなく悲しかった。
――――ピシリ。
その時から、何かにひびが入るような音が聞こえるようになった。
彼らの両親がその名前を呼ぶたびに、ボクは『キャラドリーマー』となる。
心ある彼らの両親は、きっといつかの時には彼らの死を受け入れて、またボクを見てくれるようになると信じて。
今日もボクはあのニンゲンになり続ける。