サンズによって連れられたのはボクも暮らしている地上のドリーマー家。
その内側にボクは入り込んでいた。ボクの目の前にはモンスターの夫婦が椅子に座っている。
その表情は暗く、まるで何かを迷っているかのような表情だ。
「……どうか、腰を落ち着けて聞いて欲しい」
「正直、あなたにはあまり関係ないと思うわ。でも……私たちの為に、聞いて欲しいの」
「自分勝手だとはわかっているのだが……」
そんな言葉を聞きながら、ボクは椅子に座る。
隣ではサンズまでもが椅子に座っていた。何も言われていないところを考えれば、彼にも話すべきこと、という事なのだろうか。
「昔、私たちにはニンゲンの子供が居たんだ――」
「アズリエルと仲良く遊んでいたニンゲンの子供がいたのよ」
知っている。それなら隠されていなかったビデオで見た方だ。
キャラ・ドリーマー。地下世界に落ちてきた一人目のニンゲンで、モンスター開放の為に自分の命を使い潰した……優しすぎるニンゲン。
「けど、なんだかおかしいんだ」
「我が子は、キャラは病気で死んでいるはずなの」
それは、きっと偶然だったんだろう。
ボクがあのビデオを見たタイミングでたまたまあの優しい嘘が綻び始めていると言うだけ。
「それなのに、なぜだかその後回復して寿命で一生を終えたあの子がいるんだ」
「ありえないはずなのに、我が子はあの後も生きていたことになっているの」
「そいつは……どういう状況なんだ?」
サンズが真面目に呟く。あるいは勝手に声が漏れ出たのかもしれない。
サンズは顎に手を当てて本気で考え込んでいる。
「アズリエル王子と一緒に遊んでたニンゲンならよく知ってるさ。けど、あのニンゲンは確かに病気で死んでるんだ。回復したなんて聞いていない」
「――もう一人、居たんだよ」
誰も本当の事に気付かなくて、ボクはついに抑えが聞かなかった。
だからそうはっきりと口にしてしまったし、自分から答えを差し出してしまった。こういうのは自分で気づかなければ意味はないのに。
「もう、一人? オマエさん、どこでそれを――」
「覚えて……いいえ、思い出したわ。そうね、もう一人いたのよ。アズリエルともキャラとも遊ばなかったもう一人が」
「ああ、思い出せる。もう一人いたんだ。もう一人が……」
ボクの言葉を受けてあのニンゲンを知っている彼らは思い出し始めたようだ。
そのきっかけがあって、これまで忘れていた。あるいは思い出さないように蓋をしていたものがあふれてきたのか、彼らは目の前で頭の中を駆け巡る言葉の一部を口にしながら目をせわしなく動かしている。
そんな時間が数分はたって、彼らはようやく整理が終わったみたいだった。
「ああ、思い出したよ。あの子が、守っていてくれたんだね……」
「それなのに私たちは、そのことにも気づかないでなんてひどいことを……」
彼らはどうやら思い出したようだ。
夢から覚ますことができた。これできっと、ようやく本当の意味で前に進める。
「ああ、けれどボクは、あの子の名前も、顔も思い出すことができない……」
「あれだけ非道なことを強いておきながら、あの優しい我が子の顔と名前を忘れてしまうなんて……」
その言葉はとても暗いものだった。
ボクの思っていたモノじゃなく、もっとずっと暗く、深いところからの言葉だった。
未来へと向かう希望の言葉じゃない、過去と悔恨に溺れている言葉だ。
「そういう……ことなの…………!?」
「お、オイ、どうしたんだ……?」
サンズの声がとても遠ざかっていく。心配してのぞき込んでくる彼の瞳の闇に吸い込まれていく。
ボクは結局のところ、少しの間しか彼らと過ごしてはいない。
けれど、あのニンゲンはボクよりもずっと長い時間を、ずっと濃い時間を過ごしてきたんだ。
だからこそわかっていたんだろう。彼らがこうなってしまうという事が。
だからこそ、あれほどまでに優しい嘘をついていたんだ。
それをボクはどうした?
未来へ進みたいから、先へと進みたいからって自分から無理やりその嘘を剥がしにかかった。
あのニンゲンがその心をかけてまで行った行動を、ボクの我儘で無駄にした。
ボクが、あのニンゲンの想いを壊したんだ。
すでに一度死んでいるあのニンゲンを、ボクが今、改めて殺してしまった。
こんなつもりじゃなかったとか、そんなことはいくらでも言える。
けれど、ダメだ。そんなこと言ったところで何にもなりはしない。
あるのはただ、ボクがあのニンゲンを殺してしまったという事実だけなんだ。