魔法少女リリカルなのはStrikerS~竜巻は翼を強くする~ 作:超淑女
リニアレールを真下に、ヘリが上空を飛んでいた。
その周辺ではガジェットを次々と落としていくミナト。
一機たりともヘリへと飛ぶことは無く、ガジェットは爆散していく。
だが彼女の戦闘スタイル上“守る戦い”というのは効率の良いものではない。
「ヴァイス、さっさとしろ!」
通信にて叫ぶミナト。
それに急かされ、ヴァイスがハッチの方へと振り向く。
下に降りる必要があるのは残り二人だ。
「さっさとしろトルネードの二人!」
ハッチにいるのはクリスとミコトとアサギとリインフォースの計四名。
様子がおかしい。クリスがハッチの外を見て座り込んでいる。
「無理ですってばぁっ! 死んじゃいますよぉぉぉっ!!」
瞳いっぱいに涙を溜めて叫ぶクリス。
困ったような顔をしているも、どこか楽しそうなアサギ。
ミコトは相変わらず無表情でその姿を見ているのみだ。
「高所恐怖症。書類に書いてあったけど…」
リインフォースも困ったような顔をしている。
「あぁ、先に行っていいよ」
気を使ったアサギの言葉に、リインフォースは一礼して去っていく。
それを見届けたアサギがクリスを見たが、座り込んだままイヤイヤと駄々をこねている。
相当な高所恐怖症、正直局員には向いていないだろう。
「クリス。見たでしょ今の、大丈夫だから……行ってごらん?」
極めて優しく言うアサギだが、クリスは涙目でアサギを見るのみだ。
睨んでいるというより乞うている。
まぁ、その顔が思ったより———。
「(そそる……首輪型にしといて正解だったなぁ)」
ついている首輪故、犯罪臭がする。こういう時のために首輪型にしたのだと、アサギは深くうなずく。
まだ座り込んでいるクリスの前で、しゃがむミコト。
クリスは不思議そうな顔をしてミコトを見ていた。
「……一緒に行こ」
クリスに、ミコトが手を差し出す。
先ほど降りたエリオの真似事だが、一杯一杯のクリスには十分の薬だった。
おずおずと、ミコトの手の上に自分の手を重ねる。
立ち上がるミコトについていくように立ち上がるクリス。
ハッチのギリギリの場所に立つと、大きく息を吸って―――吐く。
「ミコトさん、ありがとうございます」
首を横に振るミコト。
クリスの瞳をまっすぐ見つめる。
手を離すミコト。クリスもあっさりと離した。
決心がついたのだろう。
「少し、待ってください……」
そう言うクリスは、しっかりとした表情をした。
今度は飛ぶ。そういう気持ちが伝わってくる表情だ。
ミコトはいつも通りの無表情で頷く、その時———
「早く行け!」
クリスが、背後から押される。
押したのはアサギ。
いい加減にしろ、ということだろう。
「イヤアァァッァァッァァッ!!!!」
そんな叫び声を残して落ちていくクリス。
哀れ、とつぶやくミコト。
「トルネード04ミコト・ブラックフォード……行きます」
つぶやいて走ると、飛び降りた。
空中で叫ぶクリスに追いつくミコト。
ミコトが手を握ると、クリスは少し落ち着く。
涙目のままのクリスを見て、なにかがゾクゾクっとしたのを感じるミコト。
その感情を抑えて、ミコトは頷いた。
「……はい!」
二人が体を伸ばして真下を見る。
クリスが首輪に手を伸ばす。
「トルネード03クリスティアーネ・シュテルンベルグ……エリス、セットアップ!」
その言葉と同時に、クリスの体が白い光に包まれた。
次はミコトが指輪を突き出す。
「ローザ、セットアップ」
同じように黒い光に包まれるミコト。
そして二つの光はゆっくりと指定されたリニアレールの天井に降りる。
光が拡散すると、そこに立つのはクリスとミコト。
クリスは白銀。
ピッチリとした白いタイツは首から腰まで伸びていて、ノースリーブだ。
首元と腰横に金色の装飾がほどこされ、首元から腰までのチャック部分に黒いラインが入っている。
下は白いミニスカートで、足には黒いストッキング。
そして大きな白銀の鎌が両手で持たれている。
一方のミコトは漆黒。
上はティアナのインナーに似ている。
二の腕の途中から黒いグローブで指先までを覆っている。
グローブは人差し指と中指だけ出ているタイプ。
下はやけに裾が短いショートパンツで、黒いニーソックスで足は覆われている。
そして背中にはスナイパーライフルで、腰部分にホルダーがついていて、そこにハンドガンが入っていた。
「アサギさんっ、帰ったらはやて部隊長にチクっちゃいますからねっ!」
そうぼやいて、大鎌を構える。
「憶えてなさそう」
その呟きにつぶやくミコトがスナイパーライフルを構えた。
リニアレールの天井、二人の前方が大きく膨らみ、そこからガジェットⅠ型が飛び出す。
ミコトが素早く片膝を折り腰を落とすとスナイパーライフルを構えた。
スコープを覗き、その先にⅠ型を捕らえると―――トリガーを引く。
放たれる漆黒のレーザーが、一筋の光が……Ⅰ型を貫く。
レーザーを放つライフルを横に向ければ横にいるガジェットがレーザーに貫かれる。否、切り裂かれる。
「あまり使える技でもない」
止めて、スコープから目を離す。
ガジェット二機が一瞬で倒され爆発した。
「いきます!」
爆煙へと突っ込むのはクリス。
車両の中へと侵入すると、周囲を見まわした。
クリスを囲むガジェットⅠ型。
「あっ…」
しまった。と汗を流す。
数機いるⅠ型のうち一機がレンズを輝かせると共に放ったビーム。
クリスがⅠ型の方向に転がって避けた。至近距離まで寄ると、大鎌(エリス)を下から上に振る。
真っ二つに切り裂かれるガジェット、クリスの紅い瞳が輝く。
クリスが鎌を投げる。
鎌の柄から魔力でできた鎖が伸びて、クリスの腕を繋ぐ。
「伊達に機動六課に入ったわけではありませんよ!」
その鎖を引き、振り回す。
辺りを回転する大鎌。
次々と切り裂かれるガジェット。
「これでっ! 終わりぃっ!」
鎖が短くなっていき、クリスの手に大鎌(エリス)が再び舞い戻る。
残った一機のガジェットに向かって走るクリス。
放たれるビーム、クリスは右手で鎌を持ち、左手に魔力を集める。
「これが私の隠し技!」
その魔力の塊を掴むと、魔力は加工されダガーのような形に変わる。
「スティンガー……GO!!」
そのダガーを投げると、それはまるで閃光のような速度でガジェットに突き刺さった。
バチバチと音を立てながら爆発するガジェット。
隣の車両からさらにガジェットが溢れる。
「まだ、終われませんか」
クリスの紅の眼が輝く。
ガジェットのレンズが、音を立てた。
その車両の真上で、戦うのはミコト。
先の車両からもあふれるガジェットを、彼女は作業のように撃ち続けている。
長時間神経を研ぎ澄ませ現れるガジェットをひたすら撃つ作業に、だんだんと指が震え始めていた。
「っ…キリがない」
つぶやいて、再びトリガーを引く。
Ⅰ型だけならかなりの数になる。
上空のヘリ内部。
コックピットに座るヴァイスがミコトを見ていた。
そわそわしているのがわかる。
「ヴぁ〜いすっ!」
後ろから顔を出すアサギに、うぉっ! と声を出して驚く。
困ったような表情を浮かべたヴァイス。
その反応がおもしろいのか、アサギはおかしそうに笑う。
「操縦中におどかすのは無しっすよ」
「操縦中に上の空ってのもまずいけどねぇ」
なんの遠慮もなく、アサギがヴァイスの膝上に乗る。
「ちょっと操縦が!」
「ストームレイダー、オートパイロットぉ!」
『OK』
アサギがそう言うと、ヴァイスはため息をついてから、ミコトを見る。
スナイパーライフルを持って敵を撃ち続けていた。
膝の上のアサギも一緒に見ている。
「気になる?」
「そりゃぁ、まぁ」
「スナイパーとして?」
アサギが含み笑いでヴァイスを見上げる。
後頭部を掻いて、当然です。と答えた。
ヴァイスの眼はなんだかいつもと違う雰囲気だ。
「最近ラグナちゃんとはどう?」
「おかげさまで、今度休暇をもらえたら二人でデートでも」
「そっか、良かった〜♪」
えへへ、と笑っている姿を見て溜息をはくヴァイス。
アノ事件での兄妹。
正直ヴァイスと妹のラグナの間は険悪だった。
「アサギさんも今度会ってやってくださいよ、会いたがってますし」
アサギは何かを考えるような表情をする。
結構長い付き合いだからか、わかった。
ろくなことを考えていない。
「ミコトの訓練見てあげてよ」
「俺は人に物を教えるって柄じゃ」
「ラグナちゃんと私と一緒にデートだよ?」
「それはもう男共の嫉妬の視線がたまらなく優越感をって……マジですか?」
うん、と頷くアサギ。
片手で頭を押さえた後、溜息をつく。
膝の上のアサギは楽しそうに笑っている。
「了解しました。三佐殿」
その返事に嬉しそうに頷くアサギ。
アサギが男だと知っているヴァイスだが、可愛ければいいという思考で脳内会議の結果は“有り”だった。
ヴァイスは再び、ミコトの方に目を移つす。
ミコトがガジェットに囲まれていた。
「チーム戦ができてないや、これは後でお説教してもらわないとな」
アサギの眼が鋭く光る。
それを見て苦笑するヴァイス。
「なのはさんにですか?」
「うん、私が言っても説得力が無いでしょ?」
否定できずに、ヴァイスは笑った。
それも確かにそうだ。
女装で人をからかうような人間に説教されても反省しようという気にはならない。
「いや、案外そうでもないかも」
物思いにふけった顔でそうつぶやいた。
膝の上の上司にお世話になった時を少し思い出してみる。
リニアレールの上、ミコトがガジェットに囲まれている。
Ⅰ型なのだろうけれど少し違う。
カスタムされているようで、両横にレドームが付いていた。
「(AMFの範囲が広い、魔力結合すらできない)」
ミコトが舌打ちをした瞬間、Ⅰ型からコードが伸ばされる。
まず両足が絡め取られ、次に首と左腕がコードに絡め取られた。
スナイパーライフルを落としてしまう。
車両の上で仰向けに倒れて、首にまきつけられたコードを右手で外そうとするが、左手と両足がコードに絡め取られた状態ではもがいても無駄だ。
今のミコトに言わせてみれば、Ⅲ型を相手にするよりⅠ型が大量にいるほうがよほど厄介。
「ぐっ……」
絞められていく首。
もがいても何もできない。
「かはっ…」
じわじわと意識が遠のいていく。
このままではまずいと思う瞬間、いくつかの魔力弾が飛んでくる。
それは的確にガジェットのコードを破壊した。
「っけほ!」
咳き込むミコトが、魔力弾の飛んできた方向を見る。
そこには黒いバリアジャケットに身を包むミナト。
<さっさと撃て!>
念話が飛んでくる。
ミコトが即座にスナイパーライフルを持って、リニアレールから飛び出す。
機動六課。
グリフィスやルキノ、アルトやシャーリーたちが驚愕したような顔をしている。
先にキャロがやった行為と似ているが、彼女には飛ぶ術などない。
だがその部屋で一人、口元に笑みを浮かべている少女がいた。
「そうや、そこでやってこそ———」
八神はやての瞳が鋭く輝く。
「———アサギの部下や」
それと同時に大きなモニターに映ったミコトが動き出した。
飛び出したミコトが空いた左手でホルダーに入っている拳銃を掴み、抜いた。
その拳銃を、上空に向ける。
「アンカー!」
トリガーが引かれて、それと同時にアンカーが伸びた。
ワイヤーが伸びて、先についている固定具が上空のヘリに固定される。
ワイヤーが巻き取られてヘリの真下にまで近づくミコト。
上空からリニアレールの上にいるガジェットを視覚でとらえる。
「私の真髄……」
左手の拳銃を腰後ろの専用パーツに差し込むと、アンカーガンを離してもミコトはつながれたままだ。
身体をそのまま横回転させて、ヘリの装甲に逆さ向きになる。
しっかりと固定される身体。
ミコトはスコープからガジェットたちを捕らえる。
「スパイラルショット!」
トリガーが引かれ、魔力弾が放たれた。
鋭い魔力弾は、まっすぐにⅠ型を貫く。
「まだ」
続けて引かれるトリガー。
敵は穴をあけて爆散していく。
すべての機体を倒したことを確認すると、ミコトがワイヤーを伸ばしてリニアレールの上に立った。
「任務完了」
「ミコトさ〜ん!」
先の車両から走ってくるクリス。
スナイパーライフルを肩にかついで、そこに座り込むミコトが上空を見る。
上空にはヘリ。
アサギはこのことに気づいていて、真上にヘリを待機させていたのだろうか?
だとしたら少し不愉快だ。と思うミコト。
「……疲れた」
「はい、帰りましょう」
手を差し伸べてくるクリス。
その手を取って起き上がると、自分たちの真横に巨大な竜が浮遊する。
その上に乗るキャロとエリオ。
「キャロちゃん!エリオくーん!」
手を振るクリス。
向こう側も手を振ってくる。
振り返るクリスは笑顔だ。
まったく、相方を放っておいてなにを笑顔で———。
「フッ」
なんてことを思ったが、自分もだと気づいて笑った。
「あれ、今初めて笑いました?」
「気のせい」
そう言って、歩き出す。
前の方の車両にスバルとティアナがいる。
クリスが後を追ってくるが、クリスは同じことばかりを聞くのみだ。
「笑いましたよねっ!絶対笑った!笑いました!!」
「そう」
いつも通りの無愛想で、そう答えた。
クリスは嬉しそうに笑っている。
ようやく初ミッションクリアだが、怒られるのだろう。
なのはの説教は怖いが、ミナトの方が怖い。
もっというならばアサギの説教の方が怖い。まったく反省できる気がしない。
ただ———。
「ふふふ~たくさん褒められますかねぇ~♪」
このクリスティアーネ・シュテルンベルグという少女が起こられた半泣きの顔をさらすと思う。
そう思うと、わずかに背筋がゾクゾクと振るえた。
思いのほかそそる。なんて、そんなくだらない妄想をしながらミコトは歩いていた。
———アニメ・第五話「星と雷」———
あとがき
こうして初戦闘は終わりました!
さて、フォワードの戦闘が終わりました。次回は『進展』になっています!
アサギの戦闘は当分先なのであまり期待しないでくださいね。
次回もお楽しみに!