河童が実力至上主義の学校で色々やらかす話   作:河童はきゅうり好き

11 / 13
職員室~会議2~

 坂上は事後処理に追われていた。それもこれも全てことねとにとりが関わっているものである。

 

「えっと……生徒会副会長南雲から傷害罪での訴えに……剣道部での騒動……何故彼女はこうも私にダメージを与えるのが上手いんでしょうねぇ! 畜生! やってられるか!」

 

 坂上は5月1日からことねとにとりのことで対応に追われており、とても荒れていた。ある時は生徒に担任としてきちんと管理しろと言われたり、またある時は生徒会長に文句を言われ、またある時は顧問の先生に監督不足ではという指摘を毎日のようにされていた。

 

 坂上がその状況にも関わらず、肝心の川城ことねは数々の監視の目を潜り抜けて発明品を生徒と取引しているらしい。無論、監視カメラを設置していない場所もあるにはあるのだ。しかし、そういう所は警備員にも協力してもらい、監視している。だが、確かに発明品は出回っているのだ。教師たちにはその理由がまるで理解出来なかった。

 

 当然、ことねにもまずまずクレームが来てはいるのだが、ことねはクレームは処理するだけで改善は見られない。生活指導室に呼び出して注意しても反省する気は0。それどころか、ことねのサービスは大きく勢力を伸ばしているため、ことねとしては辞める理由がないのだろう。これが1人……いや、発言からして2人だけで成り立っているというのだから、ある意味驚くべき事実である。

 

「坂上先生、静かにしてください。今は会議中ですよ」

 

「ああ……すみません。つい気持ちが高ぶってしまいまして……」

 

 今は川城ことね対策会議という名目で行われている会議中であった。もはや、ことねの影響力は懸念していた通り絶大なものとなった結果、教師たちも本格的にこの件を重く見たようでこのようなことねのためだけに行われる会議が開かれた。このことが決定した時も坂上は胃を痛めた。

 

「では、坂上先生が正気を取り戻したところで会議を続けましょう。まず、川城ことねによって引き起こされた被害を確認しましょう。現在、被害に遭ったのは吹奏楽部、剣道部、ボードゲーム系の部活ということでいいのでしょうか。他にも現生徒会副会長南雲雅から傷害罪での訴えなど様々な被害が出ています」

 

「逆に彼女が何か役に立つ発明をしたことがあるのかね? 確かに世の中に出れば素晴らしい発明品だろう。そこは私も認めよう。だが、この学校にとってはいい迷惑の物ばかりです。やはり、彼女の行動を制限するべきでは? 彼女に機械を一切触らせないというのは」

 

「ですが、流石に生徒の行動の阻害は……問題になるのでは?」

 

「だったら、誰が彼女を止められるんですか!? こちらは剣道部員数名を除いた全員に怪我を負わされたんですよ! 彼女が作ったというあのポンコツロボットで! 彼らが大会に出れないという被害はどうやって取り戻す気ですか?」

 

「いえ……それはその……お気の毒ですね……」

 

 川城ことねへの対策を考える会議だったはずが、川城ことねに対する文句しか出てこない。意義が全く無いただのレベルの低い言い合いが勃発していた。このままただ時間を無駄にするのだろうか。早い所、平穏を取り戻したい坂上がそんなことを思っていると、今までの会議で一切発言してこなかった理事長が口を開いた。

 

「一回落ち着きなさい。彼女……川城ことねに対する対応策を考えるための時間ではなかったのですか? 今のままではただ時間を無駄にしているだけですよ?」

 

 理事長はただ冷静に物事を見ていた。教員たちが考え、解決できるならば自分はその意見をある程度大丈夫かを考えた後に肯定する。そういうつもりであった理事長もしょうもない言い合いにはただ呆れるしかなかったらしい。遂に自分から動き始めたのだった。

 

「ですが、理事長。彼女がこの学校に与えた被害は大きすぎます。彼女が開発したとされている物には使い方次第では殺傷性を持っているんですよ? そんな物を作る彼女を放置しておけと?」

 

「人の話はよく聞きなさい。むしろ、彼女の言い分も間違っていないと私は思いますよ。まず、殺傷能力を持っていることについてですが、それはその使用者が気を付けるべき問題ですよ? 例えるならフォークあたりでしょうか。食事に使うというのが主な用途ではありますが、人の目を刺したりすれば十分危険な物です。彼女がクレームに対してよく言っているという”どんな道具でも使い方次第”というのは何も間違っていないとは思いませんか?」

 

「そ……それでも、彼女の発明品が部活動生のモチベーションを下げているという話は理事長も知っているはずでしょう。ここ最近では吹奏楽部が被害に遭ったそうではないですか! そのあたりはどうお考えなんですか?」

 

「彼女のサービスの概要を見れば分かる話です。吹奏楽部にその機械があったということは、吹奏楽部の部員の誰かが川城ことねに開発を頼んだのではないですか? 彼女はただその客に対して実力を示しただけだということです。そして、その発明品で楽をしようとしたのは吹奏楽部の部員。ただの自業自得でしょう」

 

 その発言を見逃せなかった吹奏楽部の顧問は理事長の情に訴えるようにこう言った。

 

「で……ですが……彼女の発明品のせいで関係のない人まで被害を受けたんですよ! 真面目に練習していた人物が悲しそうな顔で私に訴えてきたんですよ! みんながやる気を無くしてしまったせいで、吹奏楽部は実質廃部。”あの大変ではあったけど、充実した生活はもう送れないんですか? ”って言ってきた生徒がいたんです。私にはそんな生徒の気持ちを踏みにじるあの彼女を到底許すことは出来ません! 理事長! 何か決定的な罰を与えるべきです!」

 

「……何故、彼女に罰を与える必要があるのですか? 確かに彼女は開発責任者として少し責任感は足りないかもしれない。ただ、彼女のその発明品は彼女の実力そのものです。彼女はその発明品という自らの実力で作り上げた物を商品として売っているに過ぎないのです。しかも、彼女曰く購入前にはきちんと購入者は説明を受けているそうではないですか。川城ことねに行っているクレームも本来ならば使用者に行くべきものなのです。この学校では実力が全てですよね? ならば、自らの実力を広めて商売を展開している彼女の方こそ褒めるべきではないでしょうか?」

 

 理事長のその言葉に周りは黙った。理事長が言っていることは全員分かってはいるのだ。だが、ことねとにとりが及ぼした被害はかなりのものだった。5月1日から1カ月半しか経っていない今ですらこの現状なのだ。教師たちにはこの状況が続けば彼女が卒業するまでにどれほどの被害が出るのか全く予想がつかなかった。つまり、彼女が作る発明品に……彼女に恐怖を感じていたのだ。

 

 人間という生き物は恐怖した時、圧倒的な力を持つまで安心できないような奴が多い種族なのだ。そのため、教員たちが望むのは川城ことねが二度と発明品を作れないようにすること。圧倒的な実力を封じ込めることであった。

 

「そ……それでもです! 彼女の技術は危険すぎる! このまま3年間野放しにしておけばこの学校が残っているかも怪しいですよ、理事長! どうか考え直してください。ここで彼女に言い聞かせなければ大変なことになります」

 

 剣道部の顧問は必死に理事長を説得する。だが、理事長はこの顧問の下心を見破っていた。この学校で最も重要な要素であるSシステム。これはクラス担当教師だけではなく、部活動の顧問にも適用される。大会の成績によって教員にもボーナスが入るのだ。

 

 この剣道部の顧問は生徒のことなど全く思っていない。自分の利益を奪われたことに腹を立てているだけに過ぎないのだと。簡単に見破っていた理事長は当然断った。

 

「教員からの過度な接触は駄目ですよ。この学校は生徒の実力を高めるために設立されました。生徒が自分で考え、自分から動き、自分から学ぶ。彼女はこれらのことが全て出来ています。無論、この学校内だけではなく、外部に影響を及ぼすような物を作った場合は私とて許すわけにはいきません。その場合は処罰することは約束しましょう。ですが、これまでの件は全て彼女以外にも問題があります。よって、川城ことねだけが悪いという決めつけは止めましょう。そうしなければ、いつまで会議した所で無駄ですから。認識を改めてください。私からは以上です」

 

 理事長はある程度言いたいことを言い終えたためか、コーヒーを口に含んでいた。剣道部の顧問と吹奏楽部の顧問は悔しそうな顔で理事長を見ていた。

 

 その様子を見ていた坂上はとても申し訳ない気持ちになった。剣道部の顧問は教師の間でも銭ゲバとして有名ではあるが、吹奏楽部の顧問は普段は優しい人なのだ。そんな人が本当に恨めしく思っている生徒が自分のクラスの人間だということに罪悪感が湧いてくる。坂上はさらに胃を痛めた。

 

 

 

 その後の会議で出た対策方法はかなりの良案であった。川城ことねが開発して生徒に売り出した機械をまずは学校側が全部回収する。そして、川城ことねには危険な発明品はこの学校では二度と作らせないように坂上が川城ことねと契約を結ぶ。学校側はその契約を結ぶメリットとして、学校の設備強化をすればポイントを支払うという契約を結ぶ。彼女が発明品を売っているのはポイントを稼ぐためだという。ならば、アルバイトのようにこちらがポイントを保証して、作る物も管理すればいいのではないかという考えだ。

 

 この学校にはアルバイトはなく、前代未聞の事例であるが川城ことねにこれ以上学校に被害を及ぼされるよりかは遥かにマシだろうと考えた結果である。理事長もこの案には許可を出したことで7月からこの作戦は実行されるはずであった。だが、その思惑は思わぬ方向から先延ばしにされることとなった。

 

 

そう! 須藤暴力事件が起こったのだった。

 

 いきなり出鼻を挫かれた教員たちは坂上を睨んでいた。彼が担当しているCクラスとDクラスで問題が起こったのだ。川城ことねの件で今まで散々迷惑をかけてきた坂上が睨まれるのも仕方ないともいえる。坂上にとって唯一救いであったのはまだ話が通じる方の問題児である龍園が引き起こした事件だったというところだろうか。だが、坂上にとっては所詮気休め程度の情報であった。職員室での立場が無くなってきた坂上が酒に溺れるのはそう遠くない未来である。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。