河童が実力至上主義の学校で色々やらかす話 作:河童はきゅうり好き
7月1日
須藤暴力事件が起こったことが説明される日。生徒たちが目撃したのは二日酔いで大分辛そうにしている坂上の姿だった。Bクラス担任の星之宮はよく二日酔いの状態で朝のホームルームを行っているというが、まさか自分たちの担任がそうなるとはCクラス全員が思っていなかっただろう。
「……朝のホームルームを始めたいと思う。……体調が悪いため説明は手短に行わせてもらう。……Cクラスの生徒とDクラスの生徒の間でトラブルがあったため、ポイントの支払いが遅れている。事件の解決に繋がる証言を学校側は求めている。あるものは手を挙げたまえ」
坂上は辛そうにしながらもそう言うが、手を挙げる者は誰一人としていない。それはそうだろう。この事件は龍園翔が仕組んだ物だ。よって、Cクラスから証言が出ることなどありえないのだ。……強いて言うなら我らが河童は何かやらかせたのかもしれないが……彼女はこの事件に微塵も興味を抱いていなかった。むしろ、彼女にとって大切なことは来月に予定されているバカンスのことであった。
〈にとり、どうかな? 昨日夜な夜なアレを作っていたみたいだけど……バカンスまでに完成しそう?〉
(う~ん。流石に変形が多すぎるよ、盟友。せめて、4つぐらいにしないとメカの変形に限界があるからね……。にしても盟友が人助けのための道具を作ってみないかと言った時は心底驚いたよ。自分のことしか考えない盟友にそんなことを言われるとは思ってもみなかったからさ)
〈何言ってるの、にとり? 確かにコンセプトは人助けのためのメカだよ。でも、結局はロマンを求めているからだよ。私自身がそれを動かしてみたいと感じたから作ってってお願いしたんだから。まあ、ただロマンの為だけに作ってもらっている訳じゃないから安心して。ちゃんと金とか権力を手に入れる為でもあるし。〉
(て言っても、これはそれなりにでかいし、整備も多少必要だよ? こんな物をこの学校の生徒の誰が欲しがるのさ?)
〈にとり、確かにこの学校の生徒は欲しがらないと私も思うよ。だって、こんな物持っていても普段の学校生活では役に立たないんだから。でもさあ、この学校の偉い人ならどうかな? もしも、災害がこの学校で起きたとしても迅速に収束できるとなれば、学校を預かっている責任者からすれば大分欲しい代物だとは思わないかな?〉
(まあ、火事とかは大事になるからね。一回私たちの発明が原因で妖怪の山で山火事を起こしてしまった時は焦ったもんだよ。しばらく天狗からも酷い扱いを受けて大変だったな~。まあ、だからこそこの発明品にはかなり自信があるよ。でも流石にあれの完全再現は難しいかな)
〈まあ、あれは完全再現出来る方がおかしいからね……。でも、何個かは再現できたんでしょ? どれまでは再現できたのか教えてよ。〉
(えっと……ノーマルモード・ホイールモード・ジェットモードは標準装備で、あとは各自別途別の能力ということにするしかないかな。どうしても4変形が限界だよ。それに、炎と氷の両立なんて科学では出来ないしね……。魔法ならそういうのも可能なのかもしれないけど……魔法とかの類は苦手なんだよね)
〈……じゃあ、データも欲しいし、何台か作っちゃわない? それに自分としても、やっぱりいっぱい見てみたいし。〉
(今から1ヶ月後だと考えると作れるのは4台までかな。取り合えずチェーンソーモードの機体は完成させるから、盟友はどの能力にするかを考えておいて。今作っているの自体はあと2日ぐらいで完成すると思うから)
〈了解。バカンス時の持参の仕方は*1ポイポイカプセルでいいよね?〉
(うん、それで構わないよ。本当に自分で作っておいて正解だと思った発明だったよ。ただ、強いていうなら盟友がもうちょっと早く思いついてくれれば、機械の開発の効率も上がったんだと思うんだけどな……)
〈仕方ないでしょ。むしろ、自分でもよく思いだしたなと感心したレベルだよ。でも、これでかなりやりやすくなったとは思わない? カプセル自体は小さいから持ち運びは楽だし、重量制限も100トンまでで実質無いに等しいし。……これ、引っ越し屋が要らなくなるね。まあ、私たちだけが使えばいいし大丈夫でしょ〉
現在にとりが開発した機械が量産されるようなことがあれば、介護士と引っ越し業者の仕事は完全に消え去るだろう。AIによって今の仕事は無くなっていくとはよく言われているが、たった1人の人間……いや、一匹の妖怪の発明だけで日本の高齢者社会の弊害である介護を完全になくすことが出来るのだ。
政府がことねを攫おうという判断を下したのはある意味間違ってはいなかったのかもしれない。だが、河童の技術に人間が追い付くまでにはあと数十年はかかるだろう。そこで日本政府はまた別に誘拐作戦を仕組んでいた。だが、ことねとにとりは束縛を嫌うため、政府の願望が叶えられることは長い間ないのであった。……むしろ、その焦りがことねとにとりの逆鱗に触れてしまうことを日本政府はまだ知らない。
「いないのか……。ならそれでもいい。どちらにしろ、判決は来週に決まるからね。では、先生は気分が悪いから……質問は明日受け付けます。気になることがあるならば明日に纏めて聞きに来てください……」
坂上はそう言うと教室から出ていった。生徒たちは坂上が何故そんなことになっているか疑問に思った。だが、彼女と龍園にとってはどうでもいいようで、朝のホームルーム終了後龍園は坂上の所に行き、ことねは自分の机の上に機械を乗せて弄り始めた。結局どちらも方向性が違うだけで問題児である。
〈今回の騒動は別にどうでもいいよね。何か龍園が仕掛けたっぽいけど別に私には関係がない話だし。〉
(うん。自分に利益がない面倒事には首を突っ込まないのが吉さ。特に今回の件は一応仲間である人間がやったことだしね)
〈じゃあ、邪魔はしない方向で。〉
ことねとにとりは今回の事件に介入しても利益を得ることはないだろうと考え、龍園の邪魔をする気は無いようだ。一応彼女にもクラス内でのメンツという物は存在する。問答無用で退学させられる試験などで自分がその被害に遭わないようにするべきだと考えて最低限の迷惑はかけないようにしているからだ。
よって、彼女がこの事件に介入することは無い……はずだった。だが、彼女はちょっとだけこの事件に介入することになる。
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「先生……あの少女に復讐したくはありませんか?」
「確かにあの少女には何か罰が必要だとは考えてはいますが……理事長がああ言った以上どうしようもないでしょう……」
とある場所にて……剣道部の顧問と吹奏楽部の顧問は密会をしていた。2人にはある共通点があった。それはにとりが作った発明品によって自分が担当している部活を滅茶苦茶にされたことと、川城ことねに罰を与えてくれと理事長に頼んだという点である。2人は理事長が下した判断に納得がいっていなかった。そのため、自分たちの手で復讐するために計画を企てていた。
「私は男ですから不可能ですが、先生は女ですよね? なら、あの川城ことねの部屋に入ることも可能なのではないですか? 彼女のサービスを鑑みるに機械を奪われればかなりの損害を彼女に与えることが出来るはずです。ですが、先生がその機械まで処理していれば疑われるのは間違いありません。ですから、作戦としては先生が川城ことねの機械を家から盗み出す。この時盗み出すのは完成している物がいいと思います。それも小型な物を。売り物の機械が無くなったとすれば彼女としても、困るでしょうから」
「ですが……先生。これは立派な犯罪ですよ? 復讐はしたいですが……流石にそれは」
「安心してください。この件は政府が認めてくれています。ですから、この行為はバレても政府の手によって揉み消されるので、川城ことねが学校側に訴えた所で問題にはなりませんから。それに……その成果次第ではお金も貰えますよ? 復讐は出来てついでにお金も貰える。……いいこと尽くしではないですか!」
そう、この銭ゲバ教師……実はすでに政府から買収されていた。川城ことねがこの学校に入学したという情報が入った時、政府は川城ことねの技術力を盗む……または、川城ことねの身柄を確保する。このどちらかの目標を達成するために準備を進めていた。
その準備の一環がこの教師買収である。当然、この学校は政府が運営しているだけあってその教師がどのような人物かを政府側は理解していた。よって、この銭ゲバ教師が一番買収しやすいということでスパイとして採用されるのは確定されていた。
「……背に腹は代えられません。あの少女には報復を味わってもらわなければ……いつまで経っても他人の気持ちという物を理解出来ない不良品として社会に出ていってしまうことになります。そう……これは私から彼女に与える教育……。犯罪行為なんかでは……ない!」
「覚悟は決まったようですね。なら、手筈通りにお願いしますよ?」
「そちらも、きちんと話はつけておいてくださいね?」
ただ、彼らはことねとにとりのことを見くびり過ぎていた。はっきりと言ってしまおう。彼らの計画はこの時点で失敗している。ことねとにとりとしても偶々ではあったが、だがその偶々こそが運命の分かれ目であった。政府はこの2人が立てた計画が原因で自滅することになる。ことねという極度のエゴイストに脅しのきっかけを与えてしまったのだから。