河童が実力至上主義の学校で色々やらかす話 作:河童はきゅうり好き
その日の夜、にとりとことねは綾小路が何を考えていたのかを確認することにしたようだ。
〈じゃあ、あいつが何を考えていたのかそろそろ知りたいな! 〉
(そうだね。盟友にこれを見せておけば、また何かいい案を生んでくれそうだしね)
そう言うとにとりは綾小路に取り付けた機械にあるボタンでとあるコマンドを入力した。すると、文字が画面に自然と現れた。そこにはこう書かれていた。
≪何だ? こいつは。いきなり機械を取り付けてきたが……これが普通の学校生活……なのか? 教えてもらった限りではそんなはずはないと思うんだが……。それとも、親父にはもう情報が伝わっていてこいつは親父の刺客だというところか? 負ける気は無いが……もし、俺の平穏を破壊するようならば、排除するだけだ。どんな奴であっても……二度とあそこには……ホワイトルームには戻らない≫
〈……うわぁ、もしかしてやっちゃったかな、私? まさか、私を誘拐しようとしていた所に何かしら関係がある人間だったとは……流石に予想外だよ……。取り合えず、彼に関わると面倒事が舞い込んできそうだし、近づかないでおこう……〉
(盟友! それで……どう? 何かいい案は思い付いたかな!? ここ最近は忙しくて機械を弄ってないから退屈なんだよ~)
〈……ハァ。きゅうり食べさせてあげるから少しの間考えさせて……〉
(わーい! きゅうり──!)
河城にとりの好物は河童らしくきゅうりである。特に河童巻きが好きらしく、尻子玉を抜かれそうになった人間はきゅうりを献上することで見逃してもらえたのだとか。現在河城にとりの姿に変わっていることねにとっても味覚はにとりの物を参照しているため、きゅうりがとても美味に感じられるのだ。それ故ある意味彼女にとってもストレス解消ができて丁度いいのだ。
数十分後……暇つぶしに携帯でネットサーフィンをしていた彼女に電流走る!
ポイント稼ぎとにとりの機械弄りを両立させるにはこれが一番簡単だと思ったからこそ、ことねはにとりに提案してみることにした。
〈にとりー機械を弄りたいのは分かるけど、もう少し耐えてくれない? ちょっと明日先生に質問しておきたいことが出来たから。もし、実現出来たら機械弄り放題だよ~〉
(分かったよ。じゃあ、それでよろしく~。今はきゅうりを食べるので忙しいんだ)
〈我が半身ながら自由だなぁ~本当に……〉
今日何かが出来る訳でもないため、彼女たちは就寝した。
Cクラスでの授業風景だったが、比較的平和なものであった。まず、やらかしそうなのは龍園翔だが、意外にも真面目に授業を受けていた。それはそうだろう。彼が王になるには不利になるような点を残しておくわけにはいかないからだ。
にとりは今のうちに学べることは学んでおこうと思っているので、ことねがキープしているのもあって、昨日のように暴走することは特に何もなかった。
むしろ、入学式に異常な雰囲気を醸し出していた二名が授業に集中しているという異常な光景に周りの方が集中出来ていなかった。勿論、この時の授業態度は坂上にカウントされているため、龍園に指摘されることになるのは間違いないだろう。
(盟友! 早くしてよ。早く機械弄りを始めたいんだから!)
〈分かってる分かってる。私としても早めに自衛手段は持っておきたいからね。早めに話をつけに行くよ〉
昼休み、クラスの皆が浮かれている時間……ことねは動き出した。主に自分のために。職員室に向かった。
「坂上先生、今時間大丈夫ですか? 少し聞きたいことがあるのですが……」
「川城さん。監視カメラの件ならまだ決まっていませんよ。そのことを聞きに来たのなら今すぐ教室に戻りなさい」
「いえ、それは私ではない私が言ったことなのであまり気にしないでください。別に聞きたいことが出来たから皆に迷惑をかけないように今来たんですよ? そんなに邪険にしないでください」
「じゃあ、何を聞きに来たというのかね?」
「いえ、生徒同士で合意さえとれればポイントの取引だとか、賭けだとかそういうのは認められているのかということについてと、どこか壊れた機械を不燃ごみとして置いている所がないかについて聞きたいんですよ」
空気が凍った。入学してからたった一日で機械を弄るための環境を整えようとしていることが簡単に分かったのだろう。彼女に機械を弄らせるということは何かまたヤバい物を開発する可能性がある。その考えに至った坂上は他のクラスの担任にも相談することにした。
「ちょっと……ちょっと待っていたまえ! すぐに戻ってきますから!」
「早くしてくださいね? 時間が勿体ないですから」
「本当に彼女はどうすればいいんだ!? たった2日目でそんなアウトロー側に足を突っ込もうとしている生徒は初めてですよ!? こっちにも心の準備ってものがあるというのに……それすらも踏みつぶしていくんですが!? あの少女!」
「落ち着いてください、坂上先生。確かにたった2日でそこまでたどり着く生徒は今までいませんでしたが、そこまで彼女のことを警戒しなくてもいいのではないですか?」
「そうよ~考え過ぎよ。彼女だって可愛らしい少女じゃな~い。そんなに敵視しちゃうと彼女が傷ついちゃうわよ? 女は案外か弱い生き物なんだから~」
「そうですよ、坂上先生。生徒からの質問には答えるのが教師というものです。そんなに嫌ならばある程度のポイントを請求すればいいのではないですか?」
「そ……そうですよね……。彼女もポイントを払ってまで知ろうとは思わないでしょう。特に今は4月……しかも入学してきて1日しか経っていない。どれだけ生活費に使うことになるか分からない以上、彼女も流石に払わないでしょう。それでいきましょう! ありがとうございます、茶柱先生」
「まだですか? 時間というものは戻ってこない物なんですよ? 私たちは時をかけることなんて出来ないんですから。早くしてください、お願いします」
「そう急かさないでくれたまえ。私たち教師にも都合というものがあるんだ。……さてと、川城さん。その情報にはポイントを払ってもらわなければ答えることが出来ない」
「へぇ~何でも買えるとは言っていましたが、教師の買収なんてことも出来るんですか? 随分と人権を軽視した学校ですね。国が経営している学校が、人権を軽視ですか。なるほど……気に入りました!」
「……話を続けますよ。それで、その情報の購入には1万プライベートポイントの支払いが必要ですが、どうします? 教師からの勧告としては一カ月後にポイントが貰えるとはいえ、節約しておくべきだと思いますよ?」
坂上は確信していた。この情報を1万円で買う。そんな贅沢をこの天才は犯すだろうかと。現金はポイントに変換することは出来ないし、その逆も然りだ。手持ちのお金が使えないこの状況で彼女ほどの天才が無駄にポイントを使うことはない……そう思っていた。
しかし、この少女は見破っていた。坂上が明らかにこの情報を買われるのを嫌がっていることに。彼女には間違いなくそれが、自分にとって利益を生み出すものか、取り返しのつかない要素を含んだものだと理解した。だから、彼女の次の行動は決まっていた。
「はい、じゃあ一万払うので教えてください! その私に教えたくなかったであろう情報を! 別に節約すれば一カ月は10万もあれば余裕で持ちますから。むしろ、この情報を今のうちに買っておかないともう1人の私がうるさくなるので」
坂上は恐怖した。彼女の一言一言に。調査書には二重人格の可能性があると書いていたが、それは正しいだろう。だが、真に恐ろしいのは彼女が自分自身の中に別の人格があるのを知っていて、尚且つ受け入れているのだ。そして、その人格が行ったであろうことも認めているのだ。
坂上は確信した。彼女は天才なんかではない。この世に波乱をもたらす天災だと……。
「どうかしましたか、先生? 私は払うと言いましたが? 早く準備をしてください。私はまだ昼ご飯を食べていないのですよ。時間を無駄にすることが私にとって一番嫌いなんですよ。盟友のためにも早くしてくれませんか?」
(盟友! 早くきゅうり食べたいからそろそろ終わらせてよ!)
〈待っててね。今畳みかけるから〉
「分かった。分かったから落ち着きたまえ。勿論ポイントを払うならば情報は教えよう。ただ、徐々に敬語ではなくなってきているから、言葉使いには気を付けたまえ」
「……ああ、そうですね。つい熱くなってしまったようで、その件については申し訳ありません」
坂上は形式上仕方なくことねに要求された情報に対して解答した。だが、坂上は失敗した。彼女を止めたければ確固たる意志が必要なのだ。この情報を渡したツケは坂上の胃に深い傷を負わせることに繋がったのだ。